MCU世界で『ただいま』を言えない怪物   作:お砂糖さらさら

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第7話 灰の怪獣、大火災のランウェイ、深紅の終幕

 

――それズルじゃんって。

 

総裁の言葉が脳裏によぎった。

 

ブラスターフォームへの変身は無事完了、追撃の拳も反射神経と動体視力を総動員して回避した。視界の隅で実験体の拳に触れた木片が一瞬赤く染まり灰になっていく。

 

 

感覚は引き伸ばされゾーンのような状態に突入し、走馬灯のようにファイズブラスターの説明書「ファイズブラスター運用マニュアル」の情報が脳内に踊っていた。

 

 

ブラスターフォームのスペックは以下の通り

パンチ力 4t(グランインパクト時8tだがファイズショットがない今は意味はない)

キック力 8t(超強化クリムゾンスマッシュ時30t だがポインターがない今は意味がない)

ジャンプ力 ひと跳び55m

走力 100mを5秒

 

これはまあいい、明らかに通常攻撃でエクシードチャージ相当の攻撃してくきそうな相手と戦うには相応のスペックがある。

 

問題はファイズブラスターを銃型、剣型に変形させて戦う前提の兵装システムのほうだ。

私は奇襲からの徒手空拳スタイルで銃も剣も使わないで通してきた。

不慣れな武器で戦える相手か?

 

それもやりよう次第でどうにかなるかもしれないが最大の問題はここが砂漠のようなロケーションではなくヘルズキッチンであること。

 

ヘルズ・キッチンの地理と構造は大昔に古いレンガ造りのアパートが密集しどこまでも並んでいる。

相手も全身からフォトンブラッドのエネルギーを垂れ流しているが、ブラスターフォームも垂れ流しほどでなくとも全身に纏うように同レベルのエネルギーを纏っている。

つまり私たちが戦闘を行えば間違いなく歴史上類を見ない大火災がヘルズキッチンを襲うことになる。

これはヒーローになると言っていた男のやる事か!

 

脳内で叫ぶ間も指先を操作し、ファイズブラスター本体にキーを打ち込む。

1.0.3、そしてENTER! 

 

『Blaster Mode』

 

音声が鳴るのを確認し、ファイズブラスターを大型銃のフォトンバスターモードに変形、さらにENTER! 

 

『EXCEED CHARGE』

 

音声に合わせフォトンブラッドが超大出力で逆流・収束を開始。

ポンプアクションの要領でスライドさせ装填。

必殺の手順が完成しスローだった視界が現実に戻ってくる。

 

パチッ!ゴオオオオッ!!

 

火花のような音と共に振りぬかれた濁流を感じさせる拳をスライディングの要領でかわし股下から天に向かって撃ち抜く!

光の奔流が走り夜空に光の柱を作った

 

 

「キッギイイイイイインン!!!」

 

外された!

 

3メートル級の実験体の右腕を吹き飛ばすに終わり、即座に私は消し飛ばした右側から抜けて距離を取ろうとするが横合いから生身にトラックがぶつかる、あるいはそれ以上の衝撃が貫いた。

 

 

 

「ガ、はっ……あぁあああっ!!」

 

 

 

全身に残る暴力の感触が冷たい雨のように身体の内側に浸透し命そのものを消し去ろうとしてくる。

 

直撃を受けて吹き飛ばされた私の身体は、古い赤レンガ作るのアパートの壁をプラスチックのようにあっさりと貫通し複数貫いてようやく停止した。

背中で何枚もの安っぽいパーティションや家具を破壊した感触がある、一般人に直撃しなかったのは運が良かっただけだ。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

周囲を焦がしながら立ち上がろうとする住人が私にかけよろうとするのを声を上げて制止する。

 

「離れて!!」

 

周囲を焦がしながら立ち上がると、身体をセルフチェックする。

大きな破損は抱えていない。

 

「強い言い方になってごめん、でも大事なことだからよく聞いて。

いま戦ってるやつは今まで見たいにはいかない怪獣みたいなやつなの。

ハドソン川に追い込んで決着をつけるつもりでいるけれど

アイアンマンみたいに格好よくはできないし、お金もないから補償もできない。

だから一人でも多く避難できるように行動してほしい

重い言葉だけどあなたの行動で死ぬ人間の数が変わる」

 

言うだけ言って、アパートの窓からはい出し、屋上に登る。

先ほどの場所から60メートル前後ほど吹き飛ばされたらしい。

 

天になき星のようにその体を輝かせて周囲を燃やしながら適合体が居場所を知らせてくる。

適合体に向けて走り出すが逃げ惑う一般人の姿が全く見てこない。

悪い意味で自分の命も顧みずに野次馬をしに行きたくなるのが人間だろう。

 

Fによる大規模な無関心の結界が張られているのだろうか。

だとしたら先ほど頼んだのは逆効果だったか?

 

 

 

全力で走り抜け赤い軌跡を夜に描く。

 

奴を追撃しなければならないが、ボケッとしていられない理由はほかにもある

このブラスターフォームだが常に垂れ流しているフォトンブラッドの影響を受けて次第に周囲が赤熱し、木材が炭化し煙が登り始めるのだ。

この姿を使う限り移動し続けなければならない、一般人に触れようものなら即死だ。

 

 

 

最悪だ。

 

 

おおよそ50メートル近く逆走し吹き飛ばした腕を半ばまで再生させた姿を視認する。

本体に「1・4・3」と入力し「ENTER」と入力

『Blaster Mode』

の音声を確認し、鮮血を思わせる深紅の流体光子刃が伸長し、超巨大な光の剣(フォトンブレイカー)へと変形させる。

 

「頼むから死んでくれ!」

 

フォトンブラッドの暴力を体現する大剣で半ばまで再生した腕を切り落とし返す刀で足の切断に向かうが途中で光の刃が止まる。

 

ガキンッ

 

 

嫌な予感がした。

回し蹴りの要領で放たれた光の網が私の身体を拘束する。

そのまま腰を下ろし、右足に莫大な光が集まる。

 

やめろ!!

反射的に脳内で叫ぶが

次の瞬間、全ての感覚を置き去りにして視界が闇に染まった。

 

 

 

 

 

高火力武器の打ち合いはありないが、移動させるだけでも大火災が起きる。

脳内でヘルズキッチンの地図を広げ、敵を西のハドソン川沿いの倉庫街へと力ずくで押し戻し川の水辺で決着するルートを立てる。

 

 

そんなことを考えている自分がいる。

しかし、なぜこれほど、暗いんだ、大停電でも起きたのか?

 

 

頭のどこかで、何かが喚く音が聞こえる。

何か心地よい、冷たいシャワーを浴びた後にプールに入った時のあの感覚に身を任せたい衝動に駆られる。

 

 

いや、これは死の感覚だ!

 

 

エリンと共有した記憶の中にあるあの感覚を私も味わっていた。

生存本能を最大稼働させて身を任せたい何かを振り払って目を開ける。

 

体中に繋がった線を引き抜くように意識を起こすと夜空が広がっていた。

グルグルと回る視界の中でミッドタウンの高層ビル群が見える、西側に吹き飛ばされたのか?

 

 

あいつ飛べるのか!?

 

 

 

視界に映る明らかにこちらへの距離を縮めている適合体の姿がある。

夜空を不気味な赤い光で奇跡を描き、追撃を試みている。

だが同時に少しずつ体が剥離して質量が減っているのが目に見えてわかる。

3メートル級から2メートル級の人型にまで縮小したそれからの殺意はより高まっているのを感じる。

 

「アァァ、ァ、ガッ、アァァァァァァッ!!!!!」

 

 

制空権を取られるくらいならこちらも飛ぶしかない。

5246と本体に入力し、続けてENTER!!

 

『Faiz Blaster Take Off』

 

 

 

流れる音声とともに背中からが何かが放射され高度を上げる、目指すはハドソン川だ

 

 

5214と本体に入力し、ENTERを押し込み肩に赤い光の球体が生成される。

そこから適合体に光の雨を降らせて挑発、広い幹線道路、古い自動車修理工場、ガソリンスタンド、空き倉庫が並ぶ方面に向かって空を舞う。

 

 

 

夜空に赤い二本の軌跡が描かれた。

 

 

 

 

ハドソン川に誘導する間に感じたことは「こちらができることは向こうもできる」点に尽きた。

こちらが肩からビームの乱射すれば、相手は伸ばした手から同じように拡散したフォトンブラッド・エネルギーを乱射してくるし、大型銃のフォトンバスターモードで狙撃すれば腕を伸ばして同じように狙撃してくる。

 

違いは射程距離と収束率だろうか。

武器として外部化しているこちらと違い、生身でやっている向こうは収束率が甘いのか拡散するのが速い。

しかも片腕でのみ遠距離射をしてくる、近接戦闘よりはよほど余裕があった。

 

 

だからこそ時折被弾覚悟で突っ込んでくるときは肝が冷える。

振りかぶる拳を避け本体に143、続けてENTERを押し込む

 

 

『Blade Mode』

 

馴染みの音声を無視し剣型に変形、即座にENTER!

 

「ギ、ギギィィ――ッ、ゴボッ、オ、ガ、ァァァァッ!!」」

 

お互いが垂れ流すフォトンブラッドが重なり悲鳴を上げる大気ごと腕を切り落とす。

これで少しは攻勢が和らぐか。

 

 

視界から古いレンガの密集地帯が消え、徐々に増えてきた開けた工業地帯すら減り、最終決戦上の水辺の上空にようやくたどり着けた。

 

 

私も相応に被弾し、スーツの各所から火花が散って変身していられる猶予に限りを感じる。

だがそれは相手も同じだ。

 

身体はかつての時限爆弾型ほどに発光し、長時間フォトンブラッドによる溶解と再生を繰り返したせいか、灰が地上に向かって流れていく一方で肉が盛り上がる気配がない。

その姿にどこか哀愁を感じていると実験体の右足に暴力的なエネルギーが収束し始める。

 

「西部劇のアレをやりたいの?」

 

私も生体端末で無理やり右脛にファイズポインターを生成する。フォトンブラッドの熱で焼かれる端から再生させ、本体に5532と打ち込みエンターを押す。

ひび割れた電子音声が流れ

システムの通り、私の右足にフォトンブラッドが収束し必殺の超強化クリムゾンスマッシュの待機状態になる。

 

 

右足のポインターが吹き飛んだのが合図だった。

 

 

私はハドソン川方面に突っ込みなるべく陸地からはなす、それを追いかける気配を背に本体に143を入力、続けてENTER!光の刃を伸ばして振り向きざまに切りかかる。

 

適合体の太陽のような輝きが宿る踵落としをフォトンブレイカー

で受けて立つ

 

ボォンッ!!

 

ここまでの酷使と相手のキックのエネルギーを相殺しきれず本体が破損。

だが変身機能はまだ生きている!

 

 

瞬時に再びポインターを足に生成し赤い円錐状のロックオンマーカーを叩き込む。

拘束を振り切ろうとする姿がやけにゆっくり見える。

だが容赦はしない。

 

 

「おやすみなさい」

 

 

 

私は残されたすべての力を振り絞って超強化クリムゾンスマッシュを叩き込む。

数瞬、あたりを昼間のように照らすほどの閃光が周囲を照らす。

その輝きの中で適合体の身体のすべてを灰にしたのを確認し、次の瞬間に訪れた水蒸気爆発に飲み込まれた。

 

 

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