MCU世界で『ただいま』を言えない怪物 作:お砂糖さらさら
総裁は腕を振り払い、私をゴミのように投げ捨てた。
銀色のフォトンブラッドをゆっくりと鎮め、銀色のファイズからエリン・マクカシーの姿へと戻る。
水没していく倉庫の中で、彼は少しだけ満足げに息をついた。
「……もう十分だ。君の役目は終わったよ」
私の顔をじっと見下ろしながら、静かに続ける。
「エリン・マクカシーとして、ちゃんと家に帰ってあげる。
母親に『おかえり』って言わせてあげる。
それを、死にゆく君への手向けにしよう。
……そして、俺の伝説の始まりにする」
何のためらいもなく、総裁は倉庫を出ていった。ぼろ雑巾と化した私は、冷たい水の中に沈みかけながら、意識が遠のいていく。
「……主よ」
デアデビルは雨に濡れたまま、胸元に手を当てて呟いた。
レーダーセンスが捉えたあの光の権化の戦闘力は、命知らずの彼をして走馬灯を見せかけるほどだった。
身勝手を承知で、あのエリンの顔をした怪物が相討ちででも消えてくれないかと、一瞬願ってしまったほどだ。
悠々と夜の街を歩くエリンの顔をしたもう一匹の怪物。
進路からして、母親の元へ向かうつもりなのだろう。
歩くごとに、より完璧なエリン・マクカシーになっていく。
ありえないと理性が主張するのに、感覚は「本物だ」と錯覚してしまう。
長年ともにあったレーダーセンスと理性の乖離が、身体をどうしようもなく硬直させていた。
その時、地下の遥か深層から、マットの鼓膜を直接震わせるような、おぞましくも「少女の泣き声」に似た光子の咆哮が響き渡った。
◆ ◆ ◆
細胞が悲鳴を上げ、内臓が破裂する感覚。
圧倒的な敗北。
生体再現の限界が、容赦なく突きつけられていた。
(……そこにいるのか、デアデビル)
死の泥沼にズブズブと沈んでいく中で、生き残った部分が生存のためにありったけの感覚の網を広げる。
不思議な感覚だった。超感覚で見られていることを、私も同じく超感覚で察していた。
彼は動けないでいる。
総裁の擬態したエリンが、私よりも精度が高いために「あれは本物のエリンだ」と「ありえない、エリンは死んだ」の二つの認識の板挟みになっているのだろう。
「……ぁ、あ……」
総裁の足音が遠のいていく。このままでは、奴は母親のところに行ってしまう。
私でもない、本物のエリンでもないあの存在が、家に帰れない私たちを差し置いて「ただいま」と言ってしまう。
1位のヒーローだのレジェンドだの、どうでもいい。
でも、それだけは許せない。
「エリン・マクカシー」の外見がドロドロと溶け出す。
指や髪の毛の色が変わり、スライム状の細胞となって四方八方に伸びていく。ファイズのベルト、ファイズショット、ファイズポインター、ファイズアクセル、ファイズエッジ、ファイズブラスター、ファイズフォン。
破損していても関係ない。
ただひたすらに伸ばした細胞を絡みつかせ、取り込んでいく。
幸運にも、高カロリー食品が収まった棚も無事だった。
ちょっとだけ、エリンであることをやめる。
融合、捕食、自己強化、擬態をフル活用して、すべてを取り込んでいく。
その過程で熱が生まれ、部屋全体がゆっくりと温められていく。
水没していく部屋の中を、まるで母親の子宮のようだと感じたのも一瞬だった。
『生き延びろ』
脳殻の最深部で、原初の命令が爆発した。
私は流れてくる栄養と、そこら中にある水分を使って爆発的に細胞を増加させ、粘液状の球体になる。
そこから数えきれないほどの触手が水音を立てて伸び、先ほど絡みつかせたガジェットを引き寄せる。
機械を、ベルトを、各種ガジェットを、棚の残骸を、強化ガラスを、私の細胞が「捕食」し、体内で直接再編成を開始する。
今までの擬態や、手続きとしての変身ではない。
機械を細胞レベルで融解させ、私の肉体そのものを「そういった生物」であると定義し、生物としての基盤へと組み替えていく強制再構築。
声は出なかった。
ただ、暴風のような奔流に包まれていた。泥のような痛みが、骨の髄から沈殿していく。
エリンを喰ったあの夜の、ケチャップのように重く、高電圧のプラズマのような血の味が、人間でいう頭の部分に垂れ流される。
脳裏に、あの冷え切ったアパートの、蛍光灯の下でフライパンを洗う母親の背中がフラッシュバックする。
『嫌だ、お母さんのいる家に帰りたい』
消えない呪いが、再構築される神経ネットワークに楔として深く、深く打ち込まれていく。
繭が縮小し、「エリンの姿をした私」の残骸が人の形を取り戻していく。
肥大した人型を包むように、ライダースーツと表現するには遥かに有機的で禍々しい漆黒のスーツが覆う。
両肩をサンドするように、巨大なファイズフォンが内側から「生えて」くる。
次に鋭利な灰色の骨殻(アーマー)が内側から滲み出し、胸部に装甲を形成する。
黒い装甲が両足の関節部を邪魔しないように湧き出し、整える。
最後に、装甲の下のスーツがフォトンブラッドの赤いラインに染まり、生き物の血管のようにドクドクと、鮮血の輝きを放って脈打ち始めた。
顔はもはや人間のそれではない。
黒い生体装甲が皮膚を突き破るように生え、顔全体を覆い尽くしている。
その中心で、黄金に輝く複眼が、無数の小さな瞳孔のように細かく分割されて輝いていた。
翼を広げたような鋭い形状をしたその複眼。
額を走る赤いフォトンブラッドのラインが、生き物の血管のように脈打ち、マスク全体に不気味な生命感を与えている。
「オオオオオオォォォォォオオ!!」
完成した最終形態の咆哮が、地下倉庫の闇を、赤く激烈に染め上げていった。
◆ ◆ ◆
最終形態の咆哮が地下倉庫の闇を赤く染め上げた直後、私は水と瓦礫を蹴って天井をぶち抜き地上へ飛び出した。
体はまだ安定していない。
泥のような痛みが骨の髄に沈殿し、熱が全身を駆け巡る。
それでも足は止まらなかった。強化された生体センサーが、夜の街を歩く「エリン・マクカシー」の気配を正確に捉えている。
総裁は悠々と歩いていた。
擬態精度は私を遥かに上回る。一般人の目には、ただの黒髪の少女にしか見えないだろう。
実家のアパートまで、あと数ブロック。
私は壁を蹴り、屋上を飛び、廃工場の並ぶ工業地帯へと駆け抜けた。
錆びた鉄骨と崩れた屋根が連なる一角で、私は彼の前に降り立つ。
総裁が足を止める。
エリンの顔のまま、少しだけ驚いたように眉を寄せた。
「……まだ動けるのか。これからヒーローとして活動する上で見習いたいほどの執念だな」
私は答えない。ただ、禍々しい漆黒の装甲を纏ったまま、静かに視線を向ける。
「あの家はあなたが帰る場所じゃない」
「そうだとしても君よりは資格があるだろう?」
総裁は小さく笑った。瞬時に銀色のフォトンブラッドが再び体表を覆い、アクセルフォームに近い高出力形態へと移行する。
「ヒーローにふさわしい私と化物のような君、最後のショーを始めようか」
廃工場が戦場になった。
即座に右拳にファイズショットをモーフィングにより生成し、フォトンブラッドを収束する。
そのまま直進し総裁の白いライダースーツに包まれたボディにグランインパクトを叩き込んでやる。
総裁の身体がくの字に折れ曲がり、たたらを踏む。
即座に右脛にポインターを生成、赤い円錐状のロックオンマーカーで拘束し右足にクリムゾンスマッシュ以上のエネルギーを収束。
顔面に叩き込んでやると紙のように吹き飛んでいく。
その飛び方に違和感を覚える。
わざと後ろに飛んでダメージを減らしたという奴だろうか。
ゴシャアアン!!
鉄骨がへし折られ、天井の一部が落ち、錆びた機械がガラクタになる。
こちらの出力は圧倒的だった。
力押しで総裁を押し込む。
精密さなど放棄し、ただひたすらに攻撃を加えて灰にしてやる。
「再生怪人は弱いってのがヒーローものの王道なんだけどなぁ!!!」
吹きあがる煙の中から銀色の閃光が直進し、それを回避。
背後で水を蒸発させたような音がするがそれを無視して即座に左足のクリムゾンスマッシュで攻勢をかける。
手ごたえあり!いやない!
それは空洞だった、白い総裁の外見だけを模したダミー。
私が正規のガジェットを持たないときに偽装するためにファイズのガジェットのガワを再現したように総裁は全身を瞬時に作ったのだ。
総裁の観察眼はそこを容赦なく突いてきた。銀色の光と化した飛び蹴りが連続で直撃する。
バギンッ!
足先が掠めた左肩の――莫大なフォトンブラッド・エネルギーを操作するための――巨大なファイズフォンが砕けた。
「一つ壊れたくらいでそれがどうした!」
蹴りぬける前のいまだ色をも纏った足を捕まえ、焦げる手を無視してチャージしたファイズショットによるグランインパクトを腹に叩き込んで押し付ける。
右手から煙が噴き出るが総裁のスーツも深紅に染まって溶けていく。
たまらず総裁は銀色の輝きに満ちた脚で拘束していた左手を砕き、地面に上半身が叩きつけられるが跳ね起きのように蹴り上げてくる。
ボッと空気を切る音とともに顔面を蹴り飛ばされ、金色の複眼のいくらかが吹き飛んで宙を舞う。
「いい勝負ができていると思っているか?いいや違うなあ!?」
銀色の拳が胸部に叩き込まれ、腕部装甲が大きくひび割れる、漆黒の有機スーツがいくらか露出する。
「が……っ」
体勢を崩したところに追撃のチャージされたハイキックが迫る、頭を低くして回避。
反撃に即座にチャージした右拳のファイズショットを振りかぶる、顔面に直撃し更に押しつけフォトンブラッドを流し込んでやる!!
エリンの顔がすさまじい勢いで炭化して零れ落ちていく。
「このクソガキがあああ!!!!」
叫ぶ総裁に頭突きをして吹き飛ばしてやった。
すかさず右足のポインターにチャージ!
体に染みついた回し蹴りの要領で円錐状のロックオンマーカーを直撃させる!
「ハアアアアアアアア!!」
私の思考が音声となって空気を震わせる、全力で走りだし距離を縮める。
総裁が拘束を自力で打ち破り、足を輝かせ私の飛び蹴りを迎撃。
ゴオンッ!!
赤と銀色の閃光が激突する。残った肩の大型ファイズフォン型制御装置が煙とともに爆散する。
だが制御を失い暴走する光の輝きは鎮まるどころか嵐に変わっていく。
総裁がその顔を歪ませて喚きだした。
「どうして邪魔をする!俺には夢がある!夢をかなえてきた人間は俺のような人間を大勢踏みにじったからこそ夢を現実にしたんだ!!
それに比べて俺はどうだ!?このプロジェクトで死んだ人間はせいぜい二桁どまり!!夢をかなえる過程で顔も知らない誰かを自殺に追い込み精神病院送りにしていた奴らより立派だろうがぁ!!」
「あなたの言っていることは全く分からないわけじゃない!
夢を叶える過程で知らない誰かを不幸にしてしまうことはある!
でもそんな勝利者たちの犠牲者を気取るならどうして犠牲を前提にする!!」
私の装甲がひび割れ崩れていく中で深紅の輝きが増していく、足を頂点として赤い閃光のヴォルテックスが形成され周囲を灰にしながら押しつぶしていく。
周囲の機械や廃工場すら赤い渦に巻き込まれて灰になっていくが構わない!
このままこいつの夢を終わらせる!!
ドンッ!
唐突に頭部を焼き焦がすような熱と衝撃を受け意識が数瞬とぶ
再生する時間が足りず強化されたクリムゾンスマッシュのコントロールに失敗、エネルギーが爆散しその勢いのまま地面に転がる。
「総裁、お疲れ様です。……捕食を、どうぞ……」
倒れ込んだ私の視界の端に、今までの戦闘の余波で半ば身体を焦がしたFの姿が映った。
玩具にしか見えない銃を構えている。
「保険だよ保険、Fくんがずっと待機して狙撃のチャンスを待っていてくれたんだよ、強力な攻撃を中断されたらバックファイアは大きいからね。
その為に待機してもらっていたんだ」
強制再構築の限界が来た。殻が崩壊する。
アンダースーツにいくらか装甲が残っただけの姿になり凄まじい勢いで力が抜けていく。
「ありがとうF、おかげで勝てたよ。相手が勝ったと思ったときすでに負けている。これは名言だね」
いまだに頭部の3分の1を炭化させ、腹部から灰を垂れ流し、赤いフォトンブラッドの渦に全身を焼かれた影響かあちらこちらから灰を零しながらも総裁が勝ち誇った声を上げる。
「――総裁、最後に一ついいですか?」
「いい気分に水を差してほしくないんだけど、長い付き合いだから言うだけ言ってみてよ」
「総裁は最高のヒーローになるんですよね?
被害者遺族のみんなが望むヘルズ・キッチンを犯罪者から守るヒーローになって、S.H.I.E.L.D.のアベンジャーズ計画に密航して最高のヒーローにもなるって」
ゴホッとせき込みながらFは言葉を紡ぐ。
「いまさらの話だけど、それが?」
「最高のヒーローとやらになったらでかい事件ばっかり解決するでしょ、権力の後ろ盾がつけばそれだけ身軽にだって動けない、それでどうやってヘルズキッチンを守るんですか?」
「なんとかなるでしょ。最高のヒーローなんだから」
「そうですか、そうですよね。あと本当に最後の質問なんですが」
「まだ続くのこれ?」
「いや…アベンジャーズ計画って本物のヒーローが集まるんでしょ?そのなかに偽物が混じったところで何日持つのかなって」
そんな会話をしながら銃を向けてくる。
パンと乾いた音が響き、頭部に冷たい異物が撃ち込まれた。
それを疲れ切った生態が反射で取り込もうと捕食を開始する。
そのわずか数瞬後、意識が暗転することとなった。
◆ ◆ ◆
ここは実家の自室だ、見覚えのある家具、見覚えのあるデスク、薄いカーテンに古い蛍光灯、エリンの記憶にある場所だった。
「やあ、私」
そこにいたのは見覚えがある少女だった。
黒いボブカットを首元で短く切り揃えられた、艶のある黒髪のボブカット。
前髪は目元にかかる長さで、 鋭く切れ上がった涼しげな目元。
どこか儚く淡い静かな微笑みを浮かべている。
ああ、そうだ、彼女を知っている。
「エリン・マクカシー」
「正確には違うけどね」
彼女はテレビの電源をつける。
そこには面談を受ける姿、ファイズのベルトとガジェットが入ったケースと現金を渡される姿が映っていた、不器用にそれを装着し実験体と戦う姿、廃ビルで不獣だった私が現れた姿も。
「私達が使っているファイズは多くの人が持ち寄った技術でできている、継ぎはぎだから使い勝手は最悪だけどね。
で、その中には変身している時の記憶やバイオリズムの情報、フォトンブラッドを生み出す生体機能のログのバックアップ機能もあった。
もし私が死んだときに、いや実際死んでいるんだけど
あなたのような生命体にそのデータが入った媒体を食べさせて私を再現したかったのかもしれないね。
そのチップがあなたの頭に撃ち込まれたから、今こうして話している」
「いや、待て、話は分かった。わかったがそれはエリンのデータであって記憶ではないはず…なぜこうやって会話している?」
「どこまでが情報でどこまでが記憶なんてナンセンスじゃない?
もし仮に私が都合のいい夢でもあなたが好きに解釈すればいいんだよ」
「いいって言われても…」
「あなたは私のデータを取得し、より高度に私に擬態できるようになる。それでお母さんに会いに行けばいい」
「私はオリジナルのエリンの残滓であり、データであり、あなた自身であり
あなたの擬態能力そのものでもある。でも難しいことは置いといてさ
現実に帰って総裁を終わらせてやろうよ」
テレビのチャンネルが切り替わり華やかな衣装の少女が空を舞って戦っているのが映る。
「私はさ、昔バレリーナに憧れてた。
でも大変そうだから何もせずに諦めた。
次にアニメに出てくる魔法少女の姿に憧れた。
黒い姿だったけれど半分はかなったって言えるのかな?
いやないか」
エリンはテレビを消してこちらに向き直る。
「エリン・マクカシーの夢で終わらせてよ。そして家に帰るの。それが一番いい」
夢の中なのに猛烈な眠気を覚えて、そして私の意識は途切れる。
◆ ◆ ◆
黒い人型がゆっくりと立ち上がった。
もはや意味をなさないアンダーウエアが剥がれ落ち光が溢れる。
柔らかい、白い光。ピンクの粒子が舞い、夜の廃工場を照らす。
アンダースーツが粒子となって消滅し、そこに立っていたのは、明るい金髪のボブを揺らす少女だった。
大きなピンクのリボンが頭に付き、白を基調にしたフリルたっぷりのワンピースが光を纏っている。
腕には白いロンググローブ。全体がキラキラした光の筋に包まれ、まるで子供の頃に見たアニメの主人公そのものだった。
ただし、瞳だけは深く冷たい赤のまま。
凄惨たる戦場に場違いすぎる、しかし何者も否定できぬ輝きがそこにあった。
総裁が足を止めた。初めて、明確な動揺が表情に出る。
「……何だ、それは」
「夢だよ、エリン・マクカシーの描いた夢を現実にした」
記憶の底から浮かび上がったポーズに体を預ける。
両手を胸の前で交差させ、掲げるように天に伸ばす。
赤を超え銀色の光が収束する。
エリンが幼い頃、暗い部屋で一人見ていた画面の中の少女が、確かに現実となって顕現していた。
視線をずらすとFの死体があった。
「Fを殺したの?」
「いいや、言いたい事だけ言って勝手に死んださ。寿命みたいなものだろ」
「そっか」
絶対的な光。
被害者遺族たちが求めていた、歪んだ希望の形。
天になき星がエリンの頭上に輝いていた。
「おやすみなさい」
声はあまりにも小さく、掠れていた。
その瞬間、ピンクと白の光が奔流となって放たれる。
圧倒的な光の輝きを前に、総裁は避ける素振りすら見せず、ただ美しいものを見るように、呆然と棒立ちのままその輝きに包み込まれていった。
総裁の身体が、足元から静かに白い粒子へと分解されていく。
崩れ落ちる最期、彼は自嘲気味に、小さく笑った。
最後に、彼は小さく笑っていた。
「……最低だな。子供の見ていた夢で、俺が全力で追いかけた夢を断ち切るとは」
「あなたの一番のヒーローになる夢も子供がよく見る夢だ
それを大勢巻き込み悪夢に変えたから、ここで終わるんだ」
「俺の人生は子どものころから悪夢そのものだったよ。
でもまぁ…最後はちょっと楽しかった、それで良しとする。
帳尻があった人生だったとしよう」
そういって総裁は消えた。
私の生み出した輝きと総裁の声は夜風に溶け、そこにはもう、誰もいなくなった。
「そういえば総裁の名前…知らなかったな」
廃工場に、静寂が戻る。
私はその場に立ち尽くしていた。
明るい衣装が急速に色を失い、光が収束していく。
ここにあるのは、年甲斐もなく子供向けアニメのコスプレをしたエリンの姿だけだった。
体の内側で、泥のような痛みが沈殿し、生存本能がそれを無理やり処理しようとする。
遠くの影から、黒い姿が現れた。
デアデビルだ。
彼はしばらく黙ってこちらを見ていた。
レーダーセンスが、先ほどまでの禍々しい生命反応と、今の静かな鼓動の落差に戸惑っているのが伝わってくる。
「……終わったのか」
「まだだ。組織の残りがある」
短い沈黙。
「母親のことは俺も見る。今はとにかく早く人目のない場所に移動したほうがいい」
私は頷くことしかできなかった。
今の私の中身は限りなくエリンに近いはずだ。
擬態の精度が上がったせいで、彼の感覚がわずかに揺らぐのがわかった。
デアデビルはそれ以上何も言わず、影に溶けるように去っていった。
廃工場の夜風が、冷たく肌を撫でる。お母さんのいる家に、まだ帰れない。
でも、少なくとも——あの「ただいま」は、言わせずに済んだ。
今はそれだけでよかった
ゲイツファイズアーマーだったり、リフレクターだったり