チートワイ、原作を守る   作:kinokop

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無職です。
転職活動しています

投稿遅めです。

あとやっぱり、文章書くの難しいです。
少し長めになってますがお付き合いください。

感想、評価楽しく拝見させていただいております。

芦花ちゃんは強い女の子。



約束を破るやつは最低

 

 

うわぁ、今日雨かぁ。

折角マーリン君来てくれるのに

申し訳ないなぁ。

 

 

窓の外を見ると雨が降っていた。

朝の天気予報では晴れとなっていたはずだが

秋の天気は変わりやすいらしい。

 

 

一応、メッセージ送っておくか。

雨だから別日でも大丈夫だよっと。

 

うお、返信はや。

 

 

来れるならいいか。

無理しないでねっと。

 

 

もうちょいかかるみたいだし

それまで何するかなぁ。

 

 

店内を見回すと

洗い物一つないシンク

客のいた痕跡一つないテーブル

 

 

……やることねぇ。

客はいないし、くる気配もないし。

 

 

窓の外をただ眺める。

 

 

 

 

みんな今頃何してんのかねぇ。

 

彩葉ちゃんは、なんか東京にこようと

頑張ってるって朝日君が言ってたなぁ。

 

東京来てくれないと

原作始まらないから

来てくれるのはありがたいけど

なんでなんだろうなぁ。

 

やっぱ一人暮らしはしたいもんなのかなぁ。

 

 

 

 

姫様はどうだろ。

まだ向こうで社畜してんのかなぁ。

あの死んだ目に戻ってないといいけど。

 

…最後泣いてたし

申し訳ないことしたなぁ。

約束も破ったし、どうしたもんかなぁ。

 

まぁ、こっち来れば

彩葉ちゃんといちゃいちゃして

多分何とかなるはず。

 

最悪先輩に押し付けよう。

それでどうにかなる。

 

 

先輩も俺のお願い上手くやってくれるかなぁ。

やってくれないと、原作始まらなさそうなんだよなぁ。

任せた、先輩。

ちゃんと、いい感じにしておいてくれ。

 

 

 

 

ヤチヨもなぁ

なんか俺のこと知ってるっぽいけど

記憶にマジでない。

どこかであったかなぁ。

 

あれはライバーの姿だから

現実は違うのかもしれないけど

どんな見た目なんだろ。

 

声はボイチェンの感じしないから

女性ではあるみたいだけど

意外に年上とかか?

 

大道芸の時のお客さんとか?

それともマジで、電子の歌姫だったりしてなぁ。

 

 

……なわけないか。

あれがAIなら、あまりにも人間すぎるし。

 

あー、でもたまに姫様にダブって見えるんだよなぁ。

月人って情報生命体だし、ワンチャンあるのか?

 

 

……考えても仕方ないか。

俺はただ、原作通りの流れを守るだけだしな。

いろかぐを俺は守る。

 

 

もう一度窓の外を見る。

外ではまだ雨が降っていた。

 

 

そういえば、芦花ちゃんと会ったのも

こんな雨の日だったなぁ。

 

そこからお店に来てくれるようになって

嬉しかったなぁ。

誰も客が来ないと悲しいし。

 

でも、ストーカーの話はびっくりしたなぁ。

つきまとわれて、盗撮もされてって

可哀そうだよなぁ。

 

まだ中学生だってのに。

それでも乗り越えて、

普通に過ごしてるの、

超すごいよな。

 

あと、やっぱどっかで見覚えあるんだよなぁ。

どこでだっけ。

 

 

 

カランコロン

 

 

 

あ、客だ。

マーリンじゃ、ないな。

 

いらっしゃいませー。

何名様ですか?

 

一名ですね?

はい、こちらの席にどうぞ。

 

はい、なんですか?

店内での撮影ですか?

いいですよ。

 

へぇ、ライバーさん。

何て名前なんです?

 

まみまみ?

 

おぉ、なんか聞いたこと…あ!

彩葉の友達の!

二人いたうちの一人だ!

 

ほへぇ、原作キャラだ。

こんなとこで出会う、なんて……。

 

 

 

二人いたうちの一人が、まみまみ。

じゃあ、もう一人は……。

 

確か、ろかって名前だったような。

…………あれ?

ろか……芦花?

 

あ、芦花ちゃんって原作キャラだったのか!

どこかで見たことあると思った。

 

 

いやぁ、意外なところで繋がってるもんだなぁ。

 

 

 

 

あぁ、すいません。

ご注文は何にします?

 

えー、パンケーキとカフェオレですね。

 

 

すぐお待ちしますね。

 

 

 

 

メッセージか。

マーリンかな。

お、芦花ちゃんじゃん。

 

 

 

スマホを確認する。

 

 

……え?

 

 

 

 

すいませーんお客様!

本日少し急用でお店を閉めることになりまして!

 

えぇ、はいすいません!

申し訳ないです。

 

代わりにこちらのクーポン差し上げますので!

次回またいらっしゃってください!

 

 

 

えぇ、すいません。

またのお越しをお待ちしております!

 

 

 

 

 

えーと、マーリン君にも

ごめん、今日は無理になったっと。

 

彼には申し訳ないことしたなぁ。

俺って、約束破ってばっかじゃない?

 

約束は守りたいんだけどなぁ。

破るのは最低だし、後悔するし。

いいことないのに。

 

でもしょうがないよなぁ。

芦花ちゃんに何かあったら、もっと後悔しそうだしなぁ。

……今回も、もう少し最低になるか。

 

 

次から安易に約束しないようにしよ。

そろそろいろんな人から嫌われそうだ。

 

 

あの神様め。

こういうトラブルなら

先に言っとけよ。

 

芦花ちゃんに申し訳ないわ。

次会ったら、まじで殴ろう。

 

 

 

 

 

芦花ちゃんからのメッセージを再確認する。

本文には、たった一文。

『すとかーたすて』

 

 

勘違いならそれでいいや。

 

 

チートワイいっきまーす。

 

 

 

ルーラ

 

 

 

 

■

 

 

「うわぁ、今日の課題やば…」

 

塾から出て、今日出された課題のことを考える。

 

「一日でできる量じゃないって…」

 

 

しょうがない。

今日は家に家族もいないし

月の帽子いくかぁ。

 

 

あそこなら課題もできるし、

店長もいるし。

 

……まあ、店長がいるからって

何かあるわけじゃないけど。

 

 

あの日から何度も通った道を進む。

 

最初は、逃げるつもりで入っただけだったんだけどなぁ。

気づけば、結構な頻度で通うようになっていた。

 

店長はちょっと変な人だけど、

話していて飽きないし。

店長って呼ぶと「マスターな」って

毎回返してくるし。

 

それに、あのお店ってなんだか落ち着くんだよね。

お客さんが少ないからかな?

店長には悪いけど。

 

……でも、あんまりお客さんが増えたら、

ちょっと居づらくなるかも。

でも、あの様子だといつか潰れそうだよなぁ。

 

…私がもっと有名になったら

宣伝してあげようかな?

 

それでお礼にデザートの無料券もらったりして…。

…ありかも。

 

そんなことを考えながら、歩いていると、

見慣れた看板が遠くに見えてきた。

 

「よし、今日も頑張るかぁ」

 

課題を終わらせたら、店長と少しお話ししよう。

 

そんなことを楽しみにしながら、

私は月の帽子への道を歩いていた。

 

 

黒いバンの横を通る。

 

その瞬間。

 

視界が真っ黒になった。

 

「え、なに!?」

 

頭に何かを被せられた。

腕をつかまれる。

体が浮いた。

 

「いやっ! 離して!」

 

抵抗する間もなく、体をどこかへ押し込まれる。

 

 

ドン、と鈍い音。

 

 

車が揺れた。

 

 

地面の感触。

ガソリンの匂い。

体を押さえつける、誰かの重み。

荒い鼻息。

 

何が起きているのか、わからない。

 

 

「いや!いやぁ!おろして!」

 

 

口を布で塞がれる。

 

 

必死に身をよじる。

逃げなきゃ。

ここから、逃げなきゃ。

でも、体が動かない。

 

 

誰か、誰か、誰か。

 

首元に、何かが押し当てられた。

「っ――!」

次の瞬間、全身が跳ねるように震えた。

 

 

何が起きたのかもわからない。

意識が、遠のいていく。

たすけて。

 

だれ、か…。

 

 

 

 

 

 

◇

 

「……ん。んん……」

 

頭が痛い。

目を開けると、薄暗い天井が見えた。

 

「……ここ、どこ?」

 

ぼんやりする頭で、周囲を見回す。

 

錆びた鉄骨。

汚れた床に敷かれたブルーシート。

割れた窓から差し込む、薄暗い光。

 

……廃工場?

 

「え、なんで……」

 

そうだ。私、月の帽子に向かっていて……。

 

黒い車。

何かを被せられて。

それから……。

 

「っ!」

 

慌てて起き上がろうとした。

 

けれど、身体が動かない。

 

「……え?」

 

手を動かそうとする。

手首に、何かが食い込んでいた。

両手は、身体の前で縛られていた。

足も、自由に動かせない。

 

そこでようやく、自分が縛られていることに気づいた。

 

 

「あ、おっはよー!よく眠れた?ROKAちゃん!」

「……え?」

 

目の前には、見知らぬおじさんが立っていた。

少し薄くなった髪に、たるんだ頬。

くたびれた服を着た、どこにでもいそうな中年の男だった。

 

けれど、その顔には妙に馴れ馴れしい笑みが浮かんでいた。

 

 

「いやぁ、びっくりした?」

「ごめんね。でも、こうでもしないと二人っきりになれないからさぁ」

 

 

男は悪びれる様子もなく笑った。

 

 

「いつも逃げちゃうんだもん。俺、結構寂しかったんだよ?」

「……な、何言って……」

 

「えー? だって俺たち、付き合ってるようなもんじゃん?」

「……は?」

 

思わず声が漏れた。

 

何を言っているのか、わからない。

 

この人と付き合った覚えなんてない。

そもそも、こんな人と話したことすら

 

「もう、照れなくていいって!」

 

男は嬉しそうに笑う。

 

「気付いてたよ?ROKAちゃんが俺のこと好きなの」

「…え?」

 

「すぐフォロー返してくれたし、すれ違った時も俺のこと見てたよね?」

「いつも可愛い格好してたし、俺へのアピールだったんでしょ?」

「ごめんねぇ、俺って恥ずかしがり屋だからさ。二人っきりじゃないと、上手く話せなくて」

 

 

男は照れくさそうに笑った。

喉が詰まる。

言葉が出ない。

 

 

「でも、もう大丈夫」

 

そして、まるで明日の予定でも話すような口調で言った。

 

「今日からここが僕たちのお家だよ!ROKAちゃん!」

「…………え?」

 

 

何を言ってるのか理解できない。

 

 

「あ、ごめんごめん。彼氏ならちゃんと名前で呼んであげないとね?」

「綾紬芦花ちゃん」

 

背筋が、ぞわりとした。

 

「な、なんで…名前…」

「えー、もちろん知ってるよ?家の住所や好きな食べ物、誕生日とか」

 

声が震えた。

 

「あ、あなたがずっと……私のことを……?」

「え? うん! もちろん!」

 

男は、まるで褒められたかのように笑った。

 

「写真も送ってあげたでしょ?可愛く撮れたんだぁ」

 

……写真?

 

あの、知らないアカウントから送られてきた写真。

まさか、あれを撮ったのが……。

 

「……っ」

 

 

忘れていた嫌な記憶が溢れてくる。

 

 

「ほら、他にもいっぱいあるよぉ」

「私服のやつとかぁ、下からのやつも」

「あ、このスク水とかすごくかわいく撮れたんだぁ」

 

男は楽しそうに写真を見せてくる。

まるで、自分の撮った写真を自慢するように。

 

 

「……やめて」

 

 

声が震えた。

 

「ん? どうしたの?」

「やめて……」

 

見たくない。

聞きたくない。

 

気持ちが悪い。

思い出したくない。

 

 

「なんで?」

「この写真は、何度も使ったよ?」

「嬉しくないの?」

 

男は、嬉しそうな顔で近づいてくる。

 

「……こないで」

「え……?」

「こないで!」

 

男の笑顔が、ぴたりと止まった。

 

「…………は?」

「いやっ、来ないで! お願いだから!」

「……なんで?」

 

男の声から、先ほどまでの明るさが消えた。

 

「なんでだよ……」

「ひっ……」

「なんでそんなこと言うんだよ!」

 

 

突然、男が怒鳴った。

 

 

「俺、こんなに芦花ちゃんのことが好きなのに!」

 

 

身体がびくりと震えた。

この人おかしい。

 

 

「ずっと君のことを考えてたんだよ?」

「何が好きなのか、どこに行くのか、誰と仲がいいのか」

「全部、君のために知っておいたんだ!」

 

早く助けを呼ばないと。

 

「や、やめて……」

 

「なのに、なんで逃げるんだよ!」

 

 

男は頭を抱えた。

 

 

「俺、何か悪いことした? してないよね?」

「ずっと我慢してたんだよ!」

 

「……っ」

 

「それなのに君は、いつも俺から逃げる!」

 

 

男が、こちらを睨みつけた。

 

 

「そのくせ、あの喫茶店の男とは楽しそうに話してさぁ!」

 

「……え?」

 

「知ってるよぉ。月の帽子って店でしょ?」

 

 

心臓が跳ねた。

 

 

「俺が話しかけても逃げるくせに、あいつとは何時間でも一緒にいられるんだ?」

 

「……え?」

 

「この前も楽しそうに話してたよねぇ。あの喫茶店でさぁ!」

 

 

なんで?

この人が、どうして店長とのことを知っているの?

 

 

「……なんで、知ってるの?」

「え? ああ、盗聴器だよぉ」

 

男は、さも当たり前のことのように答えた。

 

「芦花ちゃんのお財布拾ったときに仕掛けておいたんだ。あれ、結構便利なんだよねぇ」

「……っ!」

「まぁ、電池が長持ちしないから、もう聞けないんだけどさぁ」

 

 

「だから、君のこと、ちゃーんと知ってるんだよ?」

 

 

男の目が血走っている。

正気には見えない。

 

 

「どこに行くのかとか、誰と話してるのかとかさぁ」

「そういえば、芦花ちゃんって今、スマホ持ってないんでしょ?」

「……え?」

 

「少し前にあのマスターと話してたじゃん。スマホがないって」

「なら、誰にも助けを呼べないよねぇ?」

 

 

男は得意げに笑った。

私は、答えなかった。

 

怖い。

まだ、身体が震えている。

 

でも……そっか。

少しだけ、希望が見えた。

 

 

「ね、俺と結婚しよ?」

 

 

この人は、知らないんだ。

私が、もうスマホを持てるようになったこと。

なら、まだ助けを呼べるかもしれない。

 

でも、電話はだめ。

音でバレるかも。

じゃあメッセージ…。

 

 

制服のポケットに、そっと意識を向ける。

そこにある。

店長に相談したあと

少しずつ持ち歩けるようになったスマホ。

 

怖くなくなったわけじゃない。

 

 

あの人が話を聞いてくれたから。

怖かったことも、誰にも言えなかったことも、

ちゃんと受け止めてくれたから。

 

 

「頭撫でてあげるよ」

 

 

……店長。

 

あの人のことを思い浮かべると、胸の奥が少しだけ暖かくなった。

怖くて、苦しくて、今にも泣き出しそうなのに。

 

 

『魔法使いだからね。大抵のことは何とかしてあげるよ』

 

 

あんな言葉、いつもの適当な冗談かもしれないのに。

それでも、なぜか信じてみたくなっちゃう。

あの人なら、本当に何とかしてくれるかもしれない。

……そんなふうに、思えてしまう。

 

 

「頭撫でられるの好きなんだよね?」

男がゆっくりと近づいてくる。

 

 

縛られた両手を、制服のポケットへ近づける。

 

画面を見ることはできない。

それでも、指先の感覚を頼りにメッセージアプリを開く。

震える指で、なんとか文字を打ち込んだ。

 

落ち着いて、送信ボタンのあるはずの場所を押す。

 

 

 

目の前の男を見る。

 

 

もう、やれるだけのことはやった。

 

ちゃんと送れているかは、わからない。

それでも、今の私にできることはした。

 

少しでも時間を稼ぐ。

 

 

 

こんな人の思い通りにはならない。

だって、まだしたいことがたくさんある。

 

 

「さぁ、こっちに頭向けて?撫でてあげる」

 

 

男の手が、私の頭に伸びてくる。

 

「……嫌」

 

小さく呟いた。

 

「ん? 何?」

「嫌だって言ってるでしょ!」

 

 

私は、両足で思いっきり男を蹴り飛ばした。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

男がよろめき、数歩後ずさる。

その隙に、私は身体を引きずるようにして距離を取った。

 

 

「な、何するんだよ!」

 

 

男が怒鳴る。

怖い。

怒鳴り声を聞いただけで、身体が震えそうになる。

でも、ここで怯えていたらダメだ。

 

 

「……来ないで」

 

 

声はどうしても震えていた。

それでも、私は男を睨みつけた。

 

 

「私、あなたのことなんて好きじゃない」

「…………は?」

 

 

男の顔から、笑みが消えた。

 

 

「な、何言ってんだよ……。俺たち、付き合ってるようなもんだろ?」

「付き合ってない!」

 

 

声を張り上げる。

自分の意思を伝える。

 

 

「私は、あなたのことなんて知らない!」

「勝手に写真を撮って、勝手に私のことを調べて……!」

「気持ち悪い…!」

 

 

言葉にするたび、胸の奥から怒りが込み上げてきた。

怖かった。

ずっと怖かった。

誰かに見られている気がして、外を歩くのも、スマホを見るのも怖かった。

 

 

 

「……私のこと、何も知らないくせに!」

「っ、この……!」

 

 

男が顔を歪める。

血走った眼でこちらを睨みつけ

拳を振り上げた。

 

 

大丈夫。

絶対、助けは来る。

後は耐えるだけだ。

 

 

「なんで、お前も俺をバカにするんだぁ!」

 

目を固く閉じ、体を丸める。

 

「…っ!」

 

ぎゅっと目を閉じたまま、

来るはずの痛みに備えた。

 

でも、いくら待っても痛みは来ない。

 

 

その代わり、瞼の向こうで

何かが一瞬光った気がした。

 

「は?なんで、なんで!お、おまえぇぇぇ!」

「よかった」

 

コーヒー豆の匂いと

あの声がした。

 

 

「間に合った」

 

 

そんなはずない。

 

 

目を開くと、店長がいた。

 

私に振り下ろされるはずだった拳は、

店長の手によって止められていた。

 

「てん、ちょう……」

 

「マスターだっての」

「それと遅れてごめん、芦花ちゃん」

「よく頑張ったね、もう大丈夫」

 

 

 

適当で、いつも通りな

安心する声が響いた。

 

 

「せいっ!」

 

 

店長が男を投げ飛ばす。

 

 

 

「な、んで……ここに……?」

 

震える声で、ようやくそれだけを口にした。

聞きたいことはたくさんあるのに

うまく言葉にならない。

 

 

「言ったじゃん、大抵のことは何とかしてあげるって」

「魔法使いだからね」

 

 

店長はいつもみたいに笑って言った。

 

「に、似合わないですよ…」

「ひどいな、本物なのに」

 

あぁ、安心する。

 

 

「おい!離れろよ!芦花は俺のだ!俺が芦花の彼氏なんだ!」

 

「黙れ中年ロリコン犯罪者。あと黙れ」

「ぐっ……お、お前……!」

「ほら、そこ動くなよ。もう警察呼ぶから」

 

店長がスマホを取り出し、通報しようとする。

 

「ばっ…やめろお前!」

「やめませーん、捕まれ犯罪者」

「…っ!そ、そうだ!これを見ろ!」

 

 

男は立ち上がって、自分のスマホを突き出した。

 

 

「もし、お前が通報してみろ」

「こういう写真を名前と一緒にネットにばらまくからな!」

 

そこにあったのは先ほど見せてきた

私の盗撮写真だった。

 

「お前、ゴミだなぁ」

「う、うるさい!いいから、スマホを離せ!」

「て、店長…」

「大丈夫、任せて任せて」

 

そう言った店長の目は薄く光ってるように見えた。

あれは、スマコン?

 

「えー、はいはい」

「おい!何してる!早くしろ!」

 

「んー、これがこうで…うし」

「本当にやるぞ!いいのか!」

 

 

「消したぞ」

「は?」

「いや、だから消したぞ。芦花ちゃんの写真も集めてた個人情報も全部」

「何言って…」

「ちなみに紐づけてあったパソコンからも全部消しといた」

「あと、通報もしといた」

 

男が慌てて、スマホを確認する。

青ざめた顔になっていく。

 

「お、俺が集めた芦花が…」

「だからお前のじゃないって」

「お、俺の。俺の芦花なんだ」

「こわぁ……」

 

男はスマホを握りしめたまま、呆然と立ち尽くしていた。

 

「はい、大人しく縛られてね」

「俺の芦花で、俺が彼氏で…」

 

そのまま男の腕を柱に縛っていく。

 

「うし、完了。おまたせ」

 

店長が振り返り、私の前まで来てくれる。

 

「よかったぁ、社畜しといて。姫様と先輩に感謝だな」

「あ、あの店長……」

「マスターね。芦花ちゃん遅くなってごめん」

「あっ…」

「本当によく頑張りました」

 

頭を撫でられる。

さっきまで、あんなに怖かったのに。

今は、その手がひどくあたたかかった。

 

「て、てんちょう。わ、私こわくて……」

「うん」

 

「もう、家族にも会えないんじゃないかって……」

「遅くてごめん」

「ここから出られないんじゃないかって……」

 

声が震える。

言葉にするたび、あの時の恐怖が蘇ってくる。

 

「私、どうしたらいいか、わかんなくて……っ」

 

「うん」

 

「助け、来てくれるって……信じてたけど……っ」

「ほんとは、ずっと、怖くて……!」

 

声が震えた。

もう、うまく喋れなかった。

 

怖かった。

本当に、怖かった。

 

助けが来なかったら。

あのまま、帰れなかったら。

 

考えたくもないのに、頭から離れなかった。

 

「遅くなって、ごめんね」

 

頭を撫でる手が、優しく動いた。

 

「っ……う、うぅ……!」

 

堪えていたものが、溢れた。

 

「こわかった……っ。私、ほんとに……っ」

 

もう、言葉にならなかった。

 

 

店長はなにも言わず

頭を撫で続けてくれた。

 

 

しばらくするとサイレンの音が聞こえてきた。

 

 

「はやいな。流石日本の警察、やるー」

「あの、店長…これ…」

 

そう言って縛られた手を見せる。

 

「ほんとごめん! すぐ解くから!」

 

店長は何度も謝りながら、

私の手足を縛っていた紐をほどき始めた。

 

四苦八苦しながら解く店長の顔を見る。

 

糸目で、優しくて、適当な人。

……ほんと、変な人。

 

あ、意外とまつ毛長い。

それに肌も綺麗。

まるで年なんて取ってないみたい。

 

そんなことを考えていると、

店長の顔に影が落ちた。

背後に誰かが立っていた。

 

 

 

男がいた。

虚ろな目で、どこかを見つめている。

 

縛られていた手首は、

赤黒い液体が滴っていた。

 

そして、その手には

なにかが握られていた。

 

「芦花ろかろかrか…」

 

男が振り下ろす。

 

「店長っ!」

 

私の声で、店長も遅れて気がついた。

そして、私に覆いかぶさる。

 

「しねしねしねしね」

「おまえおまぇおまえのせいだ」

「おれはあいしあってたのにぃ」

 

なにも見えない。

ただ、何かが振り下ろされる音と、

聞いたことのない、鈍い音が響いた。

 

何度も。

何度も。

 

そのたびに、店長の身体が揺れる。

それでも、私を覆う身体が離れることはなかった。

 

「大、丈夫……だから」

「めとじ、てて」

 

抱えられた頭の上から

なにか生暖かいものが垂れてきた。

 

身体が動かない。

音は、まだやまない。

 

先ほどまで漂っていたコーヒーの匂いが、

いつの間にか鉄の匂いに変わっていた。

 

地面からも生暖かいものが伝わってくる。

 

…考えたくなかった。

わかりたくなかった。

 

「……てん、ちょう?」

 

それでも、私を覆う腕は、

私を離そうとしなかった。

 

大勢の足音が聞こえてくる。

嫌な音がやんだ。

 

 

なにか言い争ってる声が遠くで聞こえた。

 

 

 

「店長」

「てんちょう」

「てんちょ」

 

 

 

 

何度呼んでも声は返ってこなかった。




ストーカーはやめましょう。

歪みは他者には関係ない。

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「超かぐや姫!」の世界に転生したから適当にミムミム言ってエンジョイしてたら月見ヤチヨにエグい湿度を向けられてるミムよぉ~~!!▼え、俺これからどうなるんですか?(震え声) おい!! スレ民!! はやく俺を助けやがれェーーッ!!▼※注意※タイトル一発ネタです。好評なら続きます。▼主人公は百合に挟まることはありません


総合評価:5346/評価:8.46/連載:21話/更新日時:2026年10月10日(土) 15:48 小説情報


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