チートワイ、原作を守る   作:kinokop

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無職です。

私は大罪人です。
百合の間に差しました。

そり。

長めです

感想、評価いつもありがとうございます。





練習と本番と罠

 

おっす、神様。

久々っすね。

 

あれからいろいろありましたよ。

 

姫様、歌もあげて

配信も頑張ってました。

 

あ、見てたんですか?

オタクきめ。

 

はい、すいません。

何でもないです。

 

あとは

ブラックオニキスとの

竹取合戦もして

優勝したっすよ。

 

これで原作通りですよね?

 

俺?俺は何もしてません。

いつも通り仕事して

適当に誰かと話してました。

 

 

彩葉ちゃんと姫様が

週5で泊まりに来るんで

ご飯作ってたくらいです。

 

あと、かぐやちゃんに

配信部屋貸してます。

荷物置きとしても。

 

 

どうすか、いろかぐてぇてぇ

いい感じですか?

 

…よかったっす。

で、何の用ですか。

 

…まぁ、仕事っすよね。

で、どんな仕事何すか?

 

…俺の自由にやれ?

なにそのベンチャー企業みたいな

指示の出し方。

 

 

…俺自身で選ぶ必要がある?

ルート分岐があるタイプのRPG?

 

えぇ、俺原作知識ないんですけど。

…それでもいいんすね?

 

 

…じゃあいいすけど。

 

まぁ、じゃあ任せてください。

 

うす、じゃあそんな感じで

おなしゃーす。

 

 

 

 

◇

 

ベッドの上で目が覚める。

 

 

久々に来たな。

まぁ、神様も忙しいんだろう。

にしてもなんだ自由にって。

 

 

…まぁ、適度に頑張るか。

 

 

とりあえず、起きたし

YouTubeショートでも…ぐへっ。

 

 

うつ伏せだった背中が重くなる。

首を後ろに向けると姫様がいた。

 

 

…おはよう、かぐやちゃん。

どいてもらえます?

 

無理?

無理じゃないでしょ。

 

 

彩葉ちゃんは?

一緒に来てるんだ。

 

 

で、どうしたの?

歌がむずかしい?

…いや、知らんよ。

 

俺関係ないし。

…あの髪の毛千切らないで。

やめて!ハゲちゃう!

 

分かったから!

お話聞くから

一旦やめよう!

 

 

…とりあえず朝ごはん食べる?

もう昼?

…じゃあ昼ご飯食べるか。

 

 

 

 

◇

 

でさ、どう難しいのよ。

 

 

手癖で作った昼ご飯を食べながら

姫様に話しかける。

 

彩葉ちゃんは黙々と食べながら

顔だけ姫様の方に向いている。

 

 

歌が純粋にむずいのね。

それは…練習するしかないんじゃない?

頑張れ。

 

…練習の質を上げたいって。

彩葉ちゃんの伴奏だけじゃダメなの?

…もっと、音が欲しいんだ。

 

じゃあ、ギターでも弾こうか?

え、言ってなかったっけ?

少しだけ弾けるんだよ。

 

昔、似たような楽器

練習したおかげで

弾けるんだよね。少しなら

 

 

じゃあ、ご飯食べたら

ツクヨミで

練習するかぁ。

 

 

 

 

◇

 

えっと、この2つね。

…え、むっず。

 

あ、でもこっちならいけそう。

前にやったことあるし。

 

この曲の時だけ弾くわ。

もう一つは、無理そう。

 

上手?

ありがと。

 

どしたかぐやちゃん?

へへ、俺のギター格好良すぎちゃた?

 

…あ、ちがうんだ。

……そっか。

 

 

まぁ、じゃあ早速やるか。

 

 

 

転生者演奏中

 

 

 

 

…みんなうまぁ。

俺、本当にいる?

 

 

いるんだ。

明日も?

いや、明日は仕事…。

 

 

……はい、仕事終わったら来ます。

 

 

 

 

 

 

 

◇

 

 

……やっと、ライブ当日になった。

まさか、ライブ当日まで練習に付きあうとは。

…あの曲むずかった。

 

 

で、俺は本当にここにいてもいいの?

ここって、舞台裏みたいなとこなんじゃないの?

 

 

隣に座る彩葉ちゃんに聞いてみる。

 

 

…ヤチヨが許可出した?

いいなら、いいか。

 

 

姫様が練習スペースから

小走りでこちらに寄ってきた。

 

 

どしたの、かぐやちゃん。

 

かに?

うさぎ?

 

 

はは、おもしろー。

 

 

…ぐへっ。

 

 

いま、なんで殴られ…はい、すいません。

 

こわぁ。

 

 

でも、良かった。

なんか、前から少し

調子悪そうだったから

緊張してたのかなって。

 

違う?

なら、いいけど。

 

 

彩葉ちゃんは緊張してるんだ。

大丈夫だよ。

彩葉ちゃんなら大丈夫。

 

だって、あんなに上手だったし。

うまくいくって。

あと、俺期待してるから。

 

余計、緊張しちゃう?

へへ、ごめん。

 

でも、俺こういう本格的なライブ初めてだからさ

最高のライブを期待してる。

そして一番、彩葉ちゃんに期待してる。

 

頑張って。

 

 

はいはい、かぐやちゃんにも期待してる。

 

 

 

あ、ヤチヨ。

どじょう?

 

 

 

はは、おもしろー。

 

 

…ぐへっ。

 

 

 

これさっきも……はい、可愛いっす。

 

 

はいはい、ヤチヨにも期待してる。

まぁ、なんだかんだ

ライブの時のヤチヨって綺麗だしね。

 

 

じゃあ、俺観客席に行くから。

 

 

 

 

終わったら、打ち上げ?

いいよー。

なんでも作っちゃうよー。

 

ヤチヨは……食べられないんだったな。

じゃあ、また一緒に遊ぼ。

そのとき、なんでもお願い聞いてあげるよ。

 

 

…無茶なもの以外ね?

まぁ、お手柔らかに頼むよ。

 

 

 

そんじゃ、頑張って。

 

 

 

 

 

 

…ツクヨミ内でご飯食べられたらなぁ。

 

 

 

 

 

◇

 

ライブはめっちゃ良かった。

良かったんだけどさ…。

 

…なんか、ライブ終わったら

月人いっぱい来たわ。

 

というか、ツクヨミ内に潜り込んでたみたい。

あんなにいたんだな。

 

 

姫様が目的っぽいけど

やっぱり連れ戻しに来たのかなぁ。

 

しかも掴まれてたし。

倒れてたけど大丈夫かな。

 

…まぁ、大丈夫か。

あのあと、目合ったし。

笑顔だったし。

 

なんか、社畜の頃の姫様と

ダブって見えたけど…。

 

大丈夫っしょ!

 

 

 

 

 

にしても、作りすぎたかな。

ちょっと張り切りすぎたかも。

 

 

テーブルの上には、

三人じゃ食べきれないくらいの

料理が並んでいる。

 

 

まだかな、二人とも。

 

 

 

カランコロン

 

 

お、来たね?

彩葉ちゃん、かぐやちゃん。

おつかれさまー!

 

ライブよかったよ!

 

 

彩葉ちゃん

かっこよかったよ!

いや、可愛くもあった!

天才、無敵、最強!

 

頭を撫でながら

とにかく褒める。

 

よーしよしよし。

彩葉ちゃんが好きな料理も

沢山作ったから

いっぱい食べちゃって!

 

 

ささ、座って座って!

ほら、かぐやちゃんも…。

 

って、なに?

どうした?

 

 

姫様は扉の前から動かず

ずっとこちらを見ていた。

 

 

え、こわ。

 

 

と、思っていたら

何事もなかったみたいに

こちらに向かってきた。

 

本当に大丈夫?

もし、無理そうならタッパーに…。

 

……問題ない?

超元気?

 

ならいいか。

 

じゃあ、早速食べよ!

かぐやちゃんが好きな

パンケーキもオムライスもあるよ!

 

 

姫様と彩葉ちゃんが席に着く。

 

 

うし、そんじゃ

二人のライブ成功を祝って!

いただきます!

 

 

 

 

 

◇

 

いやぁ、食べた。

久々に酒もたくさん飲んで

気分がいいわ。

 

昔は焼酎やビールのおいしさが

何もわからなかったが

最近ようやくわかってきた。

 

朝久さんや朝日くんが

あんまり飲むなって言うから

最近飲めてなかったから

気分としてはマジでアゲ。

 

 

それに不老不死だから

変な飲み方しても

酔いはするけど、死なないし。

 

おいおい、邪神。

あんた最高だよ。

 

 

用意した料理も二人とも美味しそうに

食べてくれたしうれしかった。

 

ライブも最高だったし

今日はいい日だ。

草葉の陰から

邪神も喜んでるに違いない。

 

 

よし、洗い物も終わり。

さて、風呂にでも…。

 

 

姫様が俺のエプロンを

指で引っ張る。

 

 

ん、どした?かぐやちゃん。

 

 

視線を向けると姫様が指をさしていた。

その方向を視線で追うと

彩葉ちゃんがソファで寝ていた。

 

 

あー、彩葉ちゃん寝ちゃったかぁ。

練習頑張ってたもんなぁ。

 

おけおけ、俺が運んどくね。

かぐやちゃんも寝る準備しちゃいな。

 

 

よいっしょっと。

まだまだ、軽いなぁ。

 

彩葉ちゃんを抱っこして、階段を上がる。

すると、後ろから姫様が付いてくる。

 

 

どうしたんだろ。

彩葉ちゃんが心配なのかな。

流石に落としたりはしないけどなぁ。

 

 

はい、彩葉ちゃん。

ベッド着いたよー。

お布団かけるからね。

 

 

部屋に入り

ベッドに寝かせる。

 

 

…今日はお疲れ様。

本当にライブ最高だった。

ありがとね。

……おやすみ。

 

 

 

よし、そんじゃ俺達も寝るか。

かぐやちゃん。

 

 

部屋から出て、自分の部屋に向かう。

すると、まだ姫様がついて来た。

 

 

かぐやちゃんの部屋はあっちだよ?

…知ってる?

 

あ、勝手に入るのね。

いいけどさ、どした?

 

 

ガチャ

 

ん、今の何の音?

なんでもない?

気のせいか……。

 

それでどうしたの?

 

……あぁ!

確かに、まだかぐやちゃんのこと

褒めてなかったね。

 

 

なんだ、褒めてほしかっただけか。

しょうがないな。

 

 

いいよ、いいよ。

褒めたげるよ!

 

とりあえず座る?

今椅子を…。

…ベッドに座んのね。

 

まぁ、いいか。

俺も?

いや、俺は床でいいよ。

 

 

無言で隣に催促される。

 

 

あ、はい。

隣、失礼しまーす。

 

 

じゃあまずはねぇ…。

かぐやちゃん、歌うますぎ!

ダンスも上手いし、可愛いし

なんか、いつもとは全然違って見えた!

 

いやぁ、いつもはわがまま小娘って感じだけど

あの時はなんか、ライバーのかぐやって感じがした!

とにかく、すごかった!

 

全部すごかったけど、やっぱり歌かなぁ。

心に来たよ。

マジでマジで。

 

 

いやぁ、確かに!

前に月で聞いた時よりも

上手かった気がするわ。

 

流石姫様!

すごい!

 

 

わかるのかって?

分かりますよ!

ほら、前に先輩と初めて演奏した時も

歌ってましたけど、あの頃よりも

高音のノビがぐいーんって感じが…。

 

 

 

どした姫様。

そんな見つめて、照れちゃうぜ。

ん?なに?

 

 

……………ん?

 

……あ。

やべ。

 

 

ちょっ、まっt

 

 

 

■

 

最初は私も彩葉も練習に行き詰って

息抜き兼昼食をたかりにきただけだった。

 

そしたら話の流れで店長が手伝ってくれることになり

興味本位でお願いしてみた。

 

ライブでやる二曲は難しいモノだったので

なんなら少しできない店長を

笑ってやるつもりでいた。

 

「こんな感じ?」

 

 

実際、演奏自体はそこまで

上手なものではなかった。

恐らく、初心者から少し上くらいだ。

 

もっとうまい人の演奏なんて

どこでも聞けると思ったし

事実そうだろう。

 

 

「どしたかぐやちゃん。俺のギターかっこよすぎた?」

 

 

でも、その弾いてる姿が好きだった。

弾いてるときの雰囲気や自由な感じ。

 

初めて聞いたはずなのに、

どこか懐かしくて。

もっと聞いていたかった。

 

だからだろうか

その後も私は店長に参加を求めた。

というか、参加させた。

 

 

 

 

そして迎えたライブ当日。

控室には彩葉と店長がいた。

 

私は練習スペースで少し練習していた。

理由はもちろん歌の練習もあったが

すこし店長と離れたかったからだ。

 

あのギターを聞いた日以来、

なんだか店長との距離感がおかしい。

 

以前はからかうために

自分から近づいていたはずなのに、

最近は気づけば隣にいたり、

必要もないのに話しかけていたりする。

 

別に嫌なわけではない。

むしろ、自然なことだと思っていた。

それが問題だった。

 

だからこそ、少し距離をとってみることにした。

ライブ前だし、なにより彩葉に誤解されたくない。

 

ん、誤解?

誤解ってなんだ…?

別に、店長のことは

特になんとも思ってないし。

ただの近所のお兄ちゃん的な存在だし?

 

なにかよくわからない

恥ずかしさが全身を覆った。

 

それを発散するために

練習スペースから飛び出し

二人のもとに向かう。

 

「あ、かぐや」

「かぐやちゃん、どしたの?」

 

「ダラララ…かに!」

「ダラララ…ウサギ!」

 

「はいはい可愛い可愛い」

 

やった、彩葉に可愛いって

言われた!

 

「はは、おもしろー」

 

……ムカついたので

とりあえず殴っといた。

 

「……今なんで、殴られ「ん?」はい、すいません」

 

分かればいい。

今後は、ただかわいいと言うように。

 

「でも、良かった」

「ん?」

「なんか、前から少し調子悪そうだったから緊張してたのかなって」 

「違ーう、色んなこと考えてただけー」

「なら、いいか」

 

うん、気の所為みたいだ。

もう、普通に話せるし

おかしな感じもしない。

 

たまたま、店長の弾いたギターが

好きだったんだろう。

それ以外にない。

 

だから、目の前で彩葉と店長が

話していても何も思わない。

 

「いいなぁ、私は緊張しっぱなしだよ」

「彩葉ちゃんでも緊張してるんだ」

「いや、するでしょ。こんな大舞台なんて、初めてだし」

 

なんとも…。

 

「でも、彩葉ちゃんなら大丈夫でしょ」

「…根拠は?」

「俺が期待してるから」

「ここでなぜプレッシャーを!?」

 

なん、とも…。

 

「俺本格的なライブは初めてだからさ、その初めてが彩葉ちゃんで良かったって思わせて欲しいな」

「それは、根拠じゃないのでは…?」

「ふむ、確かに」

 

……。

 

「でも、彩葉ちゃんなら答えてくれるでしょ?」

「しょうがないなぁ。最高の初めてにできるよう頑張る…」

 

…なんか、ムカつくなぁ。

 

「私には期待してくれないのー!」

「声でっか…はいはい、かぐやちゃんにも期待してるよ」

 

なら、よし。

 

「デレレレ、どっじょう!」

 

どこからかヤチヨも出てきた。

 

「はは、おもしろー」

 

……殴られてる。

いいぞ、もっとやったれヤチヨ!

 

 

「これさっきも…「かわいい?」はい、可愛いっす」

「なら、よし」

 

デジャヴかな?

 

「というか、私には期待してくれないのかにゃー?」

「してるしてる、ライブの時のヤチヨは綺麗だから」

「ならば、よろしい」

 

この二人も仲いいよなぁ。

何繋がりなんだろう。

 

 

「…それじゃあ、俺は観客席のほう行くね」

 

店長が客席の方に向かう。

隣で彩葉が何か言いたそうにしていた。

 

軽く肘で突いて、促してあげる。

すると、意を決したように顔を上げた。

 

「あの、お兄さん。終わったら、打ち上げしたいな…」

「いいよー、彩葉ちゃん。かぐやちゃんもくる?」

「もっちろん!ヤチヨも来る?」

「よよよ、ヤチヨは電子の世界の歌姫だからいけないのです」

「そっか…残念」

 

ヤチヨに会ってみたかったな。

 

「そうだったな…。じゃあヤチヨとはまた今度こっちで遊ぼう」

「みんなで?」

「そう。あと、その時にお願い聞くよ」

 

「…それは、なんでも?」

「無茶なやつ以外ね」

「…………おっけー、おりがと!」

 

なんだ、今の間は。

 

「ほいじゃ、頑張って」

 

そう言って店長は

客席の方に移動した。

 

彩葉とヤチヨと私だけになる。

舞台の上に上がり、ヤチヨが始まりの合図を出す。

 

「さて、それじゃあ」

 

「いざ行こうか」

 

 

 

舞台が上昇し始める。

ライブが始まった。

 

 

 

 

◇

 

辺りから歓声が聞こえる。

見渡すみんなが私たちを見てくれている。

 

「フフッ、め~ちゃ楽しかった!」

「彩葉好き」

 

「わ、私?」

「あ~もう、彩葉と結婚しよっかなぁ」

「はぁ?」

 

 

嬉しい。

楽しい。

 

隣にいる彩葉を見る。

目が合った。

 

それだけで、もっと楽しくなった。

 

あ、芦花と真実だ。

あそこには見たことあるライバーもいる。

 

ぷ、店長めっちゃペンライト振ってる。

しかもちょっと泣いてるし。

 

 

「まぁ生活費、折半してくれるなら、一緒にいるのはいいけどさ」

「えっ、ほんとっ?」

 

うれしい。

 

 

じゃあ、と

言葉にしようとしたとき

浮かんでいるディスプレイがおかしくなった。

 

そして周囲から歓声とは違う

ざわめきが伝わってきた。

 

「ん?なんだろ?」

 

彩葉のその言葉に続けようとしたとき

誰かに腕を掴まれた。

 

腕を振り払おうとする前に

今まで欠けていた記憶が一気によみがえる。

 

急な情報量に立っていられなくなる。

欠けていたものが補完されていく。

 

そして、思い出した。 

月のこと、仕事のこと

そしてもう一つ。

 

 

『じゃあ散歩しません?宇宙見ながらとか楽しそうだし』

楽しいってことを教えてくれた人。

 

 

『バグ?俺の名前っすか?』

『そう。どう、かな…?』

『いっすね、かっけー』

『思ってる?』

名前をつけた人。

 

 

『さ、サプライズしたくて』

不器用で、空回りしちゃう人。

 

『えーと、ここをこうして…?

あれがこうで、それがソーラン節で…』

仕事ができなかった人。

 

『俺は…あれ。魔法使いっすね』

『姫様が幸せになるのを手伝うやつ』

自称魔法使いの人。

 

 

『どうです?似合います?』

白い帽子が似合った人。

 

 

『話聞きまっせ姫様』

隣にいてくれた人。

 

 

『またね、姫様』

もう一度会いたかった人。

 

 

大事な人。

生きるってことを教えてくれた人。

 

 

 

そうだ。

バグを探さないと

いけないんだ。

 

もう一度会いたくて

来たんだ。

 

 

考えることはたくさんある。

 

迎えの日まで何をしようか。

彩葉たちとお別れしたくないな。

まだ、いろんなことがしたい。

 

 

だけど、記憶が補完されて

地球に来てから感じた既視感。

 

それが結びついていく。

 

沢山の観客がいるなかで

私は白い帽子をかぶった兎にしか

目がいかなかった。

 

 

 

 

◇

 

ライブが終わって

二人で店長の家に急ぐ。

 

あの喫茶店の扉を開ける。

開けると暖かい空気と美味しい匂いが

溢れてくる。

 

そして、店長がいた。

いつもの笑顔で迎えてくれた。

 

彩葉の頭を撫でながら

たくさん褒めている。

 

…似ている。

月人の彼しか知らないが

雰囲気や言動が似ている。

 

というか九割九分

バグだと思うけど

なんで言ってくれなかったんだろう。

 

「ささ、座って!ほらかぐやちゃんも…って、どうした?」

 

 

ばれたくなかった……?

なんで……?

ずっと一緒って言ったのに……。

 

……っと、だめだ。

ここで問い詰めても、どうせ逃げられるだけだろうし。

 

それに、今まで秘密にしていたってことは、

彩葉やほかの人には知られたくないんだろう。

 

なら、今はまだ聞かないでおこう。

二人きりになったときに、ゆっくり聞けばいい。

 

「本当に大丈夫?」

「…大丈夫大丈夫!超元気!」

「ならいいけど…」

「あー、お腹減ったぁ」

 

彩葉と席に着く。

 

「うし、そんじゃ二人のライブ成功を祝って!いただきます!」

「「いただきます!」」

 

 

 

あとでじっくりお話しなきゃ。

 

 

 

◇

 

 

ご飯を食べ終える頃には、彩葉はすっかり寝てしまっていた。

 

たくさん食べてほしくて、ご飯も多めによそってあげたのだけれど……。

まあ、食べたら眠くなることもあるよね。

 

うん。きっとそういうことだ。

 

さて、このクソボケをどうにかしないと。

まずは彩葉を寝室に入れて。

 

 

「ん?どしたかぐやちゃん」

 

無言で彩葉を指さし、店長の視線を誘導する。

その隙に、キッチンの戸棚から部屋の合鍵を拝借。

 

「寝ちゃったかぁ。練習頑張ってたもんなぁ」

 

よし、作戦通り。

店長が彩葉を運ぶのを見届けて、私も後を追った。

 

「…今日はお疲れ様。本当にライブ最高だった。おやすみ、彩葉ちゃん」

 

一緒に部屋を出る。

 

「さて、それじゃあ俺たちも寝るか」

「だね」

 

店長が部屋に向かう。

それを後ろからついていく。

 

「かぐやちゃんの部屋はあっちだよ?」

「知ってる」

 

知ってるよ、店長。

 

店長を中に押し込んで

無理矢理入る。

 

手を後ろに回して鍵を閉める。

 

ガチャ

 

「ん?今の何の音?」

「なんのこと?」

「気のせいか…?」

 

よし。

これで逃げられない。

 

「それでどうしたの?」

「んー、そういえば私だけまだ褒めてもらってないなぁって」

「…あぁ!確かに、まだ褒めてなかったね!」

「だから、たくさん褒めて?」

「いいよいいよ、褒めたげるよ!」

 

「じゃあとりあえず椅子を……」

 

店長がいい終わる前にベッドに座る。

 

「まぁ、いいか」

 

店長が床に座ろうとしたので

隣を叩いて促す。

 

「あ、はい。失礼しまーす」

 

前はみんなでベッドに座って話してたから

これが普通なのだ。

それに近い方が、都合がいい。

 

「ほら、褒めて?」

 

「じゃあまずはねぇ…。かぐやちゃん、歌うますぎ!ダンスも上手いし、可愛いしなんか、いつもとは全然違って見えた!」

「えー、そうかなぁ」

「いやぁ、いつもはわがまま小娘って感じだけど、あの時はなんか、ライバーのかぐやって感じがした!とにかく、すごかった!」

 

「そっか、すごかったか。どれがすごかった?」

「全部すごかったけど、やっぱり歌かなぁ。心に来たよ」

「ほんとにぃ?」

「マジでマジで」

 

「まぁ、確かに月で歌った時と比べたら上手になったけど」

「いやぁ、確かに!前に月で聞いた時よりも上手かった気がするわ」

 

…。

 

 

「流石姫様!すごい!」

「ちょっと、本当に何がよくなったかわかってる?」

 

……。

 

「分かりますよ!ほら、前に先輩と初めて演奏した時も歌ってましたけど、あの頃よりも高音のノビがぐいーんって感じが…」

 

……………。

 

 

「どした姫様。そんな見つめて、照れちゃうぜ」

「……ねぇ、バグ?」

「ん?なに?」

 

……………………。

 

「……あ。やべ」

 

ようやく気付いたか。

これで言い逃れはできないよ?

ずっと会いたかったんだから、バグ。

 

「ちょっ、まっt」

 

バグをベッドに押し倒す。

体を力いっぱい抱きしめる。

 

「あの、謝るんで許してもらったり…」

「無理」

「ですよね……」

 

胸の奥にしまっていた言葉を、ひとつずつ吐き出す。

 

 

「…どうして、すぐに言ってくれなかったの?」

「……それが姫様の幸せにつながると思って…?」

「私、バグのことを忘れたまま幸せにはなれないよ」

「…すません」

 

「私のこと、置いていくし」

「…はい」

「もしかして、記憶もいじった?」

「…先輩にお願いしました。その方が姫様が色んなものに興味が湧くと思って」

 

ふんっ!

 

「ぐへっ」

「二度としないで」

「…はい、もう二度としません」

「ねぇ、バグ」

「うす」

 

「…バグは私に会いたかった?」

「あー………」

「私は会いたかったよ」

 

「会って、また話したかった」

「散歩したかった」

「手品見たかった」

「一緒にご飯食べたかった」

「ゲームをしたかった」

「また一緒に寝たかった」

「みんなで一緒に生きたかった」

 

「…………」

「それなのに、どうして勝手に決めちゃうの?」

「……ごめんなさい」

「謝ってほしいんじゃない」

「……」

「私は、バグと一緒にいたかったんだよ」

 

バグの身体が起き上がる。

 

「姫様、あの「かぐや」はい」

 

「かぐやちゃ「かぐや」…かぐや」

 

 

「俺がバカでした」

「うん」

「これからはちゃんと話します」

「…本当?」

「約束する」

「でも、一度破られてるしなぁ」

 

困ったような顔をすると、

バグの両腕が、私の身体を包み込む。

いわゆるハグだ。

 

「ごめん」

 

あ…………。

『じゃあねぇ、ハグすること!そしてごめんって言って』

 

 

忘れてなかったんだ…。

 

 

「……もう一回、名前付きで」

「ごめん、かぐや」

「気持ちを込めて」

「かぐや、ごめん」

「もっとハグして」

「はい」

「私のこと好き…?」

「大好きです」

「一緒にいたい?」

「いたいです」

 

…………。

 

「……じゃあ、許してあげる」

「ありがと姫s「ん?」かぐや」

 

 

我ながら少しちょろいかな…。

まぁ、でも……。

 

バグも反省してるみたいだし。

会えたんだし、許してあげてもいいよね。

それに好きだって、一緒にいたいって……。

 

やっぱ、バグって私のこと好きすぎるよね~。

まぁ、可愛いし、歌も上手いし、面白いかぐやちゃんのことを好きにならない人なんていないんだけど!

 

そうしてしばらくの間

適当な話をした。

 

バグがいなくなった後の月のこと

先輩にちゃんと謝ること

お迎えがきてしまうこと

それまでにやりたいこと

 

いろんなことを話した。

もちろんハグをしながら。

 

 

 

 

「あの、じゃあそろそろ離れてもらえません?」

 

ん?え、何言ってるの?

 

「私のこと大好きって、一緒にいたいって、愛してる結婚してくださいって言ったよね?それなのにどうして離れたいとか言うの?意味わかんない。なに?離れなきゃいけないことでもあるの?」

 

「結婚してまでは言って「なに?」言いました」

「それで、なに?」

「いや、そろそろ寝るので風呂に入りたくて」

「一緒に入ればよくない?」

「何言ってんだ?」

 

バグは私のことが大好き。

私もバグのことが好き。

バグは私といたい。

私もバグといたい。

何もおかしなことはないな。

 

「いや、俺一応男で…」

「かぐやは女の子だね」

「…じゃあまずくない?」

「好きな人同士では大丈夫なんでしょ?ドラマとかアニメでよくやってるよ?」

 

バグがため息をついて、こちらを見ている。

久々だね、それ。

 

「…かぐや」

「なに…?」

 

バグが真剣な表情で見つめてきた。

少し顔が赤い。

 

「男の子は基本的に性欲で動いてるです」

「知ってるよ?私のあれなイラスト、pi〇ivにたくさんあるし」

「……じゃあ、ダメなことわかりません?」

「別にバグなら裸見られるくらい平気だよ?」

 

またため息をついて、私を膝の上から降ろす。

かと思えば、今度は私の身体を自分の足の間に収めるように座らせた。

背中に、バグの胸板が触れる。

そのまま後ろから両腕を回され、すっぽりと包み込まれた。

 

なんか、あれだな…。

少し、恥ずかしいな……。

 

「かぐや」

「…っひゃい」

 

耳元でバグの声がする。

なんだかいつもより声が…甘め?な感じだ。

 

少し逃げたくなって、立とうとするが

手を掴まれて、バグから逃げられない。

立ち上がろうとした反動から、さらに深く座ってしまう。

 

もう一度逃げようとしたところを

後ろからハグされて完全に動けない。

 

「どう?」

「…どうって?」

「恥ずかしい?」

「……全然、平気だけど?」

「へぇ」

 

バグの体温が、背中越しに伝わってくる。

息をするたび、耳元に吐息がかかる。

少し身じろぎしてみるけれど、回された腕はびくともしない。

 

………これは、そういうことなのか?

いや、確かに知識として知ってはいるけど!?

バグってそういう感じだっけ!?

 

…そういえば最初パソコン借りたときに

あれなサイト、保存されてたな…………。

 

「んー、じゃあこれは?」

 

バグが後ろに身体を倒す。

それに引っ張られるように、私も一緒に倒れ込んだ。

気づけば、バグの上に寝転がるような体勢になっていた。

 

さらに、背中に回された腕に力がこもる。

 

「……っ」

 

近い。

さっきよりも、ずっと近い。

 

いつもなら何とも思わない距離なのに。

今は、なんだか落ち着かない。

 

少しだけ顔を横に向ける。

すぐそこに、バグの顔があった。

 

いつもは眠たそうに細められている瞳が、今は少しだけ開いている。

その目が、じっと私を見つめていた。

恥ずかしくなって、顔をそむける。

 

「これでわかった?」

「…な、なにが?」

「大事な距離感」

「……わかんない」

 

「そっか、じゃあ…」

 

そのまま、ゆっくりと顔を近づけられる。

 

え、待って。

もしかして、これって……。

 

そう言って、バグの手が私の頭に添えられた。

気づけば、私はぎゅっと目を瞑っていた。

 

ごめん、彩葉、芦花。

でも、向こうから来たし…?

それにみんなのことも好きだから。

それも本当だから。

 

 

……あ。

なんだか思っていたより、柔らかくて、あたたかい。

こんな感じなんだ…。

 

そう思って、ゆっくりと目を開けた。

目の前にあったのは、バグの胸元だった。

触れていたのはバグの服だ。

 

「…………あれ?」

 

そのとき、耳元で小さな寝息が聞こえた。

 

すぅ……すぅ……。

 

「…………寝てる?」

 

耳元に近い寝息。

それに混じって、微かにお酒の香りがした。

 

そういえば、沢山飲んでたような……。

 

「…………もう」

 

私は小さく息を吐いた。

こっちは、どれだけ緊張したと思っているんだ。

なのに当の本人は、気持ちよさそうに眠っている。

 

「……ばか」

 

 

でも、まぁいいか。

バグとも会えたし

謝ってもらったし

それに、ハグもしてもらったしね。

 

これからのこと考えないとなぁ。

迎えの日まであんまりないし。

バグのことは…秘密にした方がいいかな。

そのあたりもまた、話そう。

 

あとは彩葉や芦花になんて言おうか……。

…まぁ、その時に考えよう。

 

さて、私も自分の部屋で寝よう。

ここにいたら心臓が何個あっても足りないや。

 

身体を動かすが、びくともしない。

 

「…ん?まずくない?」

「んー、あつ」

「あ、ちょ、服脱ぐな」

「もち、食べる…」

「どこ触って……んっ、ばか!くすぐったいって!」

 

 

え、ちょ待っt

 

 

 

 

◇

 

「んんー、あーよく寝た。頭いて」

「…」

「あ、かぐや」

「……」

「どうしました?なんか疲れてますけど…。あと自分、謝った後から記憶があんまり………それになんか濡れてません?ここ」

「バグ………」

「え、なんすか」

「…変態」

「え、本当に何が?」

 

 

…へんたい。

 

 

■

 

あるときかぐやに聞いたことがある。

 

「かぐやってさ、お兄さんのこと好きなの?」

「んー、それはどっち?」

「恋愛的な方」

 

かぐやは笑って答えた。

 

「ないよ」

「え、そうなの?」

「うん、なんかただの友達って感じ」

 

その言葉に嘘はないように聞こえた。

 

「なんか、距離近いから、あれかと思ってた」

「ないない、それは彩葉や芦花でしょ」

「んぇっ!?…気づいてたの?」

「いや、気づくよ」

 

「そ、そうなんだ……」

「むしろ、なんで気づかれてないと思ったの?」

「だって、普通に接してたし……」

「普通ねぇ」

 

かぐやがニヤニヤとこちらを見てくる。

 

「な、なに?」

「別にー?」

 

……こいつ。

今度はかぐやが楽しそうに笑う。

 

「私は彩葉とハッピーエンドに行きたいだけだから」

「そっか…」

 

「だから、彩葉が望むなら店長も一緒でいいよ?」

 

「そうね、そういうのも楽しいのかも」

「お、意外と肯定派?」

「……やっぱ、今のなしで」

「えぇー!そんなぁ」

 

お兄さんもいて、芦花や真実

そしてかぐやもいて

こんな風にみんないたら

それが一番なのかも。

 

 

本当にそう思えた。

 

◇

 

「ん、んんー」

 

いつもの薄い布団とは違う、

低反発のベッドで目を覚ます。

 

そっか。

ライブが終わって、そのままお兄さんのお店で寝ちゃったんだ。

 

かぐやが料理を大量によそってくるから、

無理して全部食べたんだっけ。

おかげで血糖値スパイクが……。

 

そんなことを思い出しながらベッドから起き上がり、

朝の身支度を整える。

 

その間も、昨日のライブで起きたことが

頭から離れなかった。

 

掴まれたときの、かぐやの様子。

見たことのないアバター。

ニュースで流れていた通信障害。

 

どれも、普通じゃない。

 

もしかして……。

 

………かぐや、帰っちゃうのかな。

 

……いや、大丈夫。

まだ何も決まったわけじゃないし。

あのかぐやがおとなしく帰るとも思えない。

 

だから、大丈夫。

 

また、いつも通りみんなで過ごせる。

きっと、そうなる。

 

そう思っても、不安は消えなかった。

 

かぐやに会いたくなって、

部屋の扉を開け、廊下に出る。

 

「あ、お兄さんおはよ」

「…おはよ、彩葉ちゃん」

「かぐや知らない?って、どしたのそのほっぺ」

「…俺もわかんない」

 

そう言ったお兄さんの頬には

真っ赤な紅葉が咲いていた。

 

「あ、彩葉おはよう」

「おはよ、お風呂入ってたんだ」

 

 

声のした方を振り返ると、

湯上がりで頬をほんのり赤くしたかぐやが立っていた。

 

まだ少し濡れた髪から、

お風呂上がりの湯気がふわりと立ち上っている。

 

 

「うん、ちょっと汚されちゃってねー」

「汚されちゃって?何かこぼしたの?」

「…うん、まぁそんなとこ」

 

「それでどうしたの?」

「いや、昨日様子おかしかったから…大丈夫かなって」

 

「…んー、大丈夫だよ」

「……なら、いいんだけど」

「心配してくれたの?」

「…まぁ、少しはね」

「えへへ、そっかぁ」

 

かぐやは楽しそうに笑った。

その顔を見ていると、さっきまでの不安が少しだけ薄れていく気がした。

 

「あ、かぐや着てた服は洗濯してよかった?」

「うん、ありがと。ご飯はー?」

「できてるから、先に二人で食べてて」

 

ん?

かぐや?

…え、お兄さんが呼び捨て?

 

「……お兄さん」

「ん?」

「今、かぐやって呼んだ?」

「え? ああ、そうだけど」

「前からだっけ?」

「……どうだったかな」

 

お兄さんは少し困ったように目をそらした。

隣を見ると、かぐやが妙に楽しそうに笑っていた。

 

「彩葉、まずはご飯食べよ」

「あ、うん」

 

かぐやに連れられて下に降りていく。

 

「ねぇ、彩葉」

「な、なに?」

「前さ、店長も一緒でも、みたいなこと言ったじゃん?」

「うん」

 

「あれ、ほんとにしちゃお?」

「…はぇ?」

 

そのときのかぐやは、いつもの可愛い笑顔とは違って、

どこか大人っぽく見えた。





朝久さん、朝日君→酒飲んだらあかん。

8000歳AIさん→攻められるのも趣深い

かぐや→くすぐられただけです。濡れてたのは涙。


クソボケさん→あとから酔いが回るタイプです。
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