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あ、どうも転生者兼月人です。
いやぁ、休みが認められて職場が少しだけ楽になりました。
六重苦から四重苦くらいにはなったかな。
具体的に言うと、
姫様の死んだ目が少しだけ綺麗になり、
ちょっと笑うようになりました。
え?仕事?
相変わらず難しいです…。
いつもありがと先輩、姫様。
最近は仕事中の雑談にも返してくれるし、
向こうから話を振ってくることもある。
いやぁ、人間関係の改善って大事ですねぇ。
え、先輩?
そりゃいつも通りのイケメンよ。
あ、俺自身も少しは成長したよ?
前は何でもかんでも先輩や姫様に聞いてたけど、
今じゃ一人でできる仕事も増えた。
まぁ、まだミスはするけどね。
あと、姫様にバグって呼ばれるようになった。
ネームドモンスターになったみたいでちょっとうれしい。
そんなわけで、最近は仕事中もそこまで辛くない。
だから最近の悩みはもっぱら
休日のことである。
月にはほとんど娯楽が無い。
ゲームもなければ、アニメもない
食もないし、イベントもない。
地獄かよ。
なので休日はほとんど三人で行動して
散歩か、スポーツかおにごっこ
かくれんぼくらいしかやることがない。
なんかねぇかなぁ。
出来れば俺も楽しくて
先輩や姫様も楽しめるやつ。
んー……あっ。
せや、音楽やろ。
確か原作でも姫様
歌好きだったし
喜んでくれるやろ。
せっかくだし
いつものお礼もかねて
サプライズしたるか。
おーい、せんぱーい。
一緒に楽器やりません?
あざっす。
先輩やりたい楽器あります?
太鼓?渋いっすねぇ。
じゃあ俺三味線やりますよ。
姫様には秘密で練習して
サプライズしてやりましょ!
え?やめた方がいい?
何言ってんすか!
大丈夫っすよ、姫様このくらいじゃ怒んないって!
じゃ、今度の休日から練習しましょうね!
姫様!
今度の休日から、俺と先輩だけで
やることあるんで、しばらく別行動でおなしゃす!
そうっすね。
姫様がいると、あの…その…あー、できないことなんで。
うす、あざーす。
これで姫様の許可ももらったし
練習やるぞー。
なんか姫様のハイライトがまた消えてた気がしたけど
気のせいっしょ!
先輩、なに頭抱えて
カロンコロンしてるんですか?
さっさと仕事終わらして練習しましょ!
◇
おし!
結構時間かかりましたけど
なんとか音楽にはなりましたね!
なんか最近姫様元気なかったし
これで元気になってくれると嬉しいっすね。
先輩また、あたまカロンコロンして…。
もしかして疲れて、壊れました?
大丈夫ですか?
大丈夫ならいいすけど…。
ならさっそく、お披露目に行きますか!
おーい、姫様ー!
見せたいものあるんで
見てくれません?
え?邪魔じゃないですって!
何言ってんですか?
まぁまぁ、とりあえず見てくださいよ!
こっちこっち。
それじゃあ先輩行きますよ?
わん、つー、さん、し!
♪♪♪♪♪♪♪♪♪
■
最近は前よりも生きてるって実感がする。
景色や会話、仕事でさえも前よりも
輝いて見えた。
真面目なあの子がいて、おかしなあの子がいる。
「先輩ー、この資料どこだっけ?」
「ハイ、ココニ」
私の左側には真面目なあの子がいる。
最近は私も先輩って呼んでる。
「おーい、バグも手伝って」
「いや、自分で手一杯なんで無理っす」
「えぇ……」
私の右側にはおかしなあの子が座ってる。
この子は何かとおかしなことをするからバグって呼んでる。
バグは最初はきちんと仕事をするけど
気付いたら外を見たり、抜け出したり
サボる適当な子だ。
それでも最近は仕事も覚えてきた。
初めて一人で仕事を終わらせた時は、
先輩と一緒に少し嬉しくなった。
そして何より先輩やバグと過ごす
休日が楽しみになっていた。
バグが提案する遊びやおはなし
なにより三人で歩いて、適当なことを話すあの時間が何よりも大事に思えた。
明日の休みは何をしようか。
また鬼ごっこ?やかくれんぼ?でもいいな。
お昼寝でもいいな。
みんなで横になって、眠るまで
バグの話を聞くのもよさそう。
こんなこと前までの私なら考えもしなかった。
仕事しかなくて、楽しいことなんてなにもなかったから
こんな風に明日何をしようか、考えるなんて想像もしてなかった。
…はやく明日にならないかなぁ。
あ、もうこんな時間だ。
「よし、今日のお仕事は終わり」
「ハイ」
「うーす」
「ねぇ、みんな明日はなにする?」
「あ、それなんですけど」
「お、何かあるの?」
なんだろう。また新しい遊びかなぁ。
しょうがないから
バグに付き合ってやるかぁ。
「今度の休日から、俺と先輩だけでやることあるんで、しばらく別行動でおなしゃす!」
「え…?」
え?は?ん?
「えと、それは、私も一緒じゃだめ、なの…?」
「そうっすね」
え、なんで…?
「私がいると、だめなの…?」
「はい、姫様がいると、あの…その…あー、できないことなんで」
「そ、そっかぁ…。じゃあ、仕方ないね…。うん、わかったぁ…」
「うす、あざーす」
目の前から全部の光がなくなった気がした。
あんなに楽しみだった休日が途端に
どうでもよくなっていく。
…邪魔になってたの、かなぁ。
楽しいと思ってたのは私だけ、だったのかなぁ…?
そこからの休日はみんなといたときの真似をしてみた。
みんなでいたときみたいに散歩をしてみたり
寝てみたけど、なんにも感じなかった気がする。
そうして二人と過ごさない休日が
二週間を過ぎようとしていた時に
バグが話しかけてきた。
「おーい、姫様ー!」
それだけなのになぜか、胸があったかくなった。
「な、なに…?」
「いやー、実は姫様に見せたいものがあって…」
さっきまで暗かった世界が、少しだけ明るくなった気がした。
「え、いいの…?邪魔じゃない…?」
「え?邪魔ってなんのことですか?何言ってんですか?」
「ジャマジャナイ」
「ほら、先輩もそういってますし。早くこっち来てください!」
先輩とバグが私の手を引いて
どこかに連れて行く
久しぶりに触った二人の手は暖かい気がした。
着いたのは三人で最初に寝た場所だった。
先輩は太鼓
バグは三味線を取り出した。
「いくぜ先輩!わん、つーさん、し!」
「ハイ!」
♪♪♪♪♪♪♪♪♪
そこからは夢みたいな時間だった。
感じたことない音、不規則なリズム
月の建物で流れてる音とも違う
生きてる音楽を初めて感じた。
気が付いたら、目から水が…えっと確か…そう
涙が出ていた。
「これは、ふたりとも、私のために…?」
「ハイ」
「当り前じゃないですか。姫様に喜んでもらいたくて練習してたんですよ」
「ソウデス」
「……そっか」
じゃ、じゃあ
「もしかして私、二人に嫌われてない…?邪魔になってない…?」
「え、なんの話ですか?俺達二人とも姫様のこと大好きですよ?」
「ダイスキ」
私の気のせいだったんだ…。
私は二人から嫌われてなかったんだ。
「…私も二人のこと大好き」
「うす」
「ハイ」
な、なんか恥ずかしいな。
あ、でもそうだ。
これだけは聞いとかなくちゃ。
「なんで、私のことのけ者にしたの?」
「ねぇ、なんで…?」
「…なんか怒ってます?」
「怒ってないよ、ただ聞いてるだけ」
怒ってはいない。
二人のことは大好きだ。
大好きな二人のことを怒るわけない。
また、バグはおかしなことを言って。
これだからバグは。
「さ、サプライズしたくて」
「ふーん」
サプライズ…言葉の意味は知ってるよ。
ビックりさせて喜ばせるやつだよね?
でも私悲しかったなぁ。
「え、こわ」
「何か言った?」
「なんも言ってないっす。サプライズは先輩がやろうって言ってました!俺じゃないっす」
「チ、チガウチガウ」
先輩がバグを指す。
「おっけー、バグね」
「ソウ!」
「信用がないっ!?」
バグに飛びついて、頭を揺らす。
「これからは何が何でも私をのけ者にするの禁止!」
「うす!」
「返事は、はい!」
「はい!」
「先輩も!」
「ハイ!」
よし。
「じゃあ、次は私が歌ってみていい?」
「もちろん」
「ハイ!」
気が付けば
世界はまた光って見えていた。
■
今日もお兄さんの病室を開ける。
病室に備え付けられてる椅子に座って
お兄さんの顔を見る。
ただ寝ているだけにも見える
綺麗な顔をしていた。
なんとなく、ほっぺたをつついてみる。
「早く起きてよー、お兄さん。寝坊してるよー」
ドアが開く音がした。
慌てて、手を引っ込める。
「…いろはもいたんやね」
「あ、お父さん。うん、きてた」
「お父さんもお見舞い?」
「そうやね。命の恩人やからね…」
「お兄さん、いつ目覚めるかな」
「そうやなぁ、彼ならそのうちひょっこり戻ってきそうちゃう?」
「ふふ、たしかに」
「お父さんはさ、まだ辛い…?」
「そうやなぁ…」
お父さんは少しだけ目を伏せた。
「まだ辛いけど、それを彼は喜ばん気がしてなぁ…」
「喜ばない…?」
「そう。辛い状況でありがとう言われてもうれしくないやろ?」
「…うん」
「だから、当たり前のことをちゃんとやる」
「当り前に生活して、勉強して、ご飯食べて、しっかり寝て、幸せになる」
「僕はこの状態で、彼にありがとうを言いたいんだと思う」
「それが助けてもらった側の責任だと思うから」
………。
「お父さんさ、やっぱりお父さんだね…」
「え、なになに。どういうこと?」
「ううん、その通りだなぁって思って」
「うち、勉強も遊ぶことも、全部やるよ」
「…そっか、えらいな彩葉は」
「あーあ、はよ彼返ってこないかなぁ。もう最近座りっぱなしで身体が痛くて」
「お兄さんマッサージ上手かったもんね」
「せやねぇ、もし起きたら酒寄家専用のマッサージ師になってもらうのもええかもね」
お兄さんがマッサージしているところを想像する。
きっと騒がしくなるんだろうな。
でも、少し楽しそうだと思った。
「楽しそう」
「せやろ?」
「じゃあ、今日は私がしてあげるよ。上手じゃないかもだけど」
「え、ホンマに?それは…嬉しいなぁ」
お父さんと一緒に病室を出る。
「じゃあね、お兄さん。うち頑張るから」
だから起きたときは…たくさん褒めてね?
あぁ、早く会いたい。
言葉を返してきてほしい。
あの人にわがままが言いたい。