チートワイ、原作を守る   作:kinokop

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無職です。

ランキング3位、ありがとうございます。
皆様の応援と感想のおかげです。

感想も大きな励みになっていますので、よければ皆様のお声を聞かせていただけると嬉しいです。
最近は少し忙しくなってきたため、すべてにお返事できない場合もあると思いますが、どうかご容赦ください。

今回は独自解釈が多めになっていますので、もし「ここはおかしいんじゃないか?」という部分がありましたら、遠慮なくご指摘いただけると助かります。


きゅうけいへん ?
日常ト日常 


 

ありがとうございました。

お世話になりました。

はい、はい。

 

月に一回、定期健診ですね?

了解しました。

 

ありがとうございました。

 

 

病院を出てマスクを外す。

 

 

ふぅ、マスクあちー。

あれから一か月かぁ。

五年寝たきりでも何の健康被害もないって

神様凄いな。

 

お医者さんもびっくりだよ。

リハビリ問題なし

消化器官問題なし

五感問題なし

 

おかげで一か月で退院だ。

 

その間も酒寄家の方が

お見舞いに来てくれてうれしかったなぁ。

いろはちゃんと朝久さんが泣くのは

なんとなくわかってたけど

紅葉さんと朝日君が泣いてたのは意外だったなぁ。

 

ありがたい。

朝久さんを助けた甲斐が

あるってものだ。

 

しかも入院費とか治療費とか、

えらい額になるんだろうなぁ……。

なんて思ってたら、

yachi8000って人が払ってくれてた。

 

 

神様の別名義かな?

憎いことをしてくれる

しばらく邪神呼びはやめてやろう。

 

しかも余った分は

俺の口座に振り込まれるらしい。

 

あいつ、いつ邪神から本物の神に

ジョブチェンジしたんだよ。

世の中、何があるかわからんなぁ。

 

まったくいいことづくめだ。

人は助けるに限るね。

 

 

さて、そろそろ迎えが来るはずなんだけど。

 

 

あ、朝久さん。

今日はよろしくお願いします。

ご迷惑おかけします。

 

 

そうですねぇ。

五年ぶりなんで色々見てみたいんですけど

今日は家に帰ってゆっくりしたいですね。

先のことは、それから考えます。

 

 

でも正直、家の場所が曖昧なんすよね。

住所だけ覚えてるんで

道案内お願いしてもいいですかね?

 

ありがとうございます!

あ、これが住所です。

 

 

いやー、良かった朝久さんがいて

僕だけだったら絶対迷子になってましたよ。

 

それにしても最近は

顔色いいですね?

あ、ちゃんと寝てるんですね。

 

いいと思います。

また、飯でも行きましょう。

 

 

 

 

 

お、つきました?

おお、確かにこんな場所だった気がする。

じゃあ、良ければ上がっていきますか?

お茶でも出しますよ。

 

 

 

ん?あれ?

鍵が開かない…。

あっれー、おかしいな。

 

ちょっと確認してみますね?

 

 

 

 

 

え?

解約済み?

もう別の人が住む予定?

え?

俺家なき子?

 

 

 

 

 

あの邪神がァァァ!!

神様なんだから賃貸の契約更新くらいしとけや!

はぁ、改宗しよ。

先輩教に入ろ。

 

 

 

 

…そういや先輩元気かなぁ。

あの時の約束守ってくれるかなぁ。

まぁ、大丈夫か。

先輩だし。

 

 

…………。

 

あー、どうしよ。

 

 

 

 

すいません朝久さん。

俺、ホームレスみたいです。

はは、どうしましょ。

 

 

 

…………。

 

え?まじすか?

 

 

 

 

■

 

 

お兄さんが目を覚ました日から、一か月が経った。

 

あの日、病院で別れたあと、

「行けそうだから来た」とか言って

本当に家まで来たときは、全員で怒った。

 

それでも、みんな泣いていたのは

今でも覚えている。

 

あれから代わる代わるお兄さんのお見舞いをして

色んなことを話した。

 

自分を大切にとか、説教もあった気がするけど

お父さんを助けたお礼もいったし

遊びやマッサージの約束もしてた。

 

みんな楽しそうだった。

怒ったり、泣いたり

色んな顔があったけど

最後はみんな笑ってた。

 

今日もお父さんがお迎えに行ってる。

羨ましい…。

 

でもよかったかもしれない。

お兄さんに泣いてるところ見られたり

ハグしたことを思い出して

最近は会うのが、なんかいや。

 

どうせ会うなら

もっと可愛くして会いたい。

あの時は制服だったし

鼻水も出てたし…。

 

そうだ。

今度の日曜日、遊びに誘ってみよう。

 

お母さんにも相談して

おしゃれにしてもらお。

 

また、「まぁ、頑張り」

みたいなこと言われるのは

意味わからんけど

 

お兄さんと遊びに行けるなら関係ないや。

家に帰ったら早速お願いしてみよ。

 

 

「ただいまー!お母さん、お願いがあるんやけどー」

「あ、いろはちゃん。おかえりなさい」

 

え?

 

「お、お兄さん…?」

「お兄さんだよー。あ、手洗ってきてね。ご飯できてるよ」

 

えぁ?

 

「あ、いや、な、なんでいるの…?」

 

な、なんで…?

 

「なんでって、あれだね?」

「俺も今日から酒寄的な?」

 

お兄さんは何でもない様子で答えた。

 

その時彩葉は頭を必死に働かせる。

いくら11歳といえど

彩葉は母の超人遺伝子を受け継ぐ

超人候補生。

その彼女が全力で可能性を模索する。

退院、父との待ち合わせ、

先日見た昼ドラ

そのすべてが彩葉に答えをもたらした。

 

 

「お、お父さんと結婚するの…!?」

 

 

彩葉は混乱していた。

その結果

 

 

「なにいっとんねん!」

 

お母さんから初めてツッコミをされた。

 

 

 

 

 

◇

 

お兄さんが居候として暮らすことになった。

最初はいろいろぐちゃぐちゃで

全然落ち着かなかったけど

しばらくしたら落ち着いた。

 

むしろ五年も一緒にいられなかったので

この暮らしは当たり前といえば

当たり前なのだ。

 

誰が何と言おうと当たり前なのだ。

 

そこからの毎日は

今まで以上に楽しかった。

 

お兄さんが家にいて

 

 

「あ、ただいま。お兄さん」

「お、いろはちゃん。今日は早かったね?」

「うん、今日はお昼まで」

「じゃあ一緒におやつ食べる?アイスあるよ?」

「食べる!」

 

 

ご飯を作ってくれて

 

 

「今日のご飯は特製カレーです!」

「お兄さん、意外と料理上手だよね?」

「褒めても温玉しかでてこないよ?」

「俺の分は?」

「あーくんは褒めてないじゃん」

「あーくん、やめろ。あー、優しい、とか?」

「お兄ちゃんって呼んでもいいよ?」

「絶対呼ばねぇ」

 

 

いつでも相手をしてくれて

 

 

「どしたの?もう寝る時間だよ?」

「眠れないから、少しお話しよ…?」

「…しょうがないなぁ。カップ麺とホットミルクどっちがいい?」

「…!ホットミルク!」

「映画でも見るかねぇ、秘密だよ?」

「うん!わかった!」

 

 

マッサージもしてて

 

 

「朝久さんどうすか?」

「もうすこし、上のほう…」

「ん~、ここすか?」

「あー、そこそこ」

「そんな気持ちいいの?」

「いろはも大人になったら分かるよ」

 

 

 

落ち込んでたら手品を見せてくれる

 

 

 

「怒られちゃったねぇ…」

「…………」

「…手品見る?」

「………見る」

「まかせなー」

 

 

 

標準語をお兄ちゃんと教わったこともあった

 

 

 

「うちじゃなく、私」

「わ、わたし」

「彩葉イントネーションおかしくない?」

「うるさい、お兄ちゃん!」

「はいはい、喧嘩しないの。あーくんもちょっかいださない」

「あーくん、やめろ」

「ぷふ、あーくん」

「おい」

 

 

 

私たちはお兄さんと過ごせなかった時間を

取り戻していった。

 

 

 

そんな日々を過ごしているうちに、

お兄さんがこの家にいることも

すっかり当たり前になっていた。

 

今日はお兄さんに私の推しについて語っている。

 

「でね、お兄さん。これが月見(るなみ)ヤチヨで…って、どうしたの?帽子じっと見て」

 

お兄さんが帽子をくるくると弄っている。

 

「いや、なんでもないよ」

「ふーん、そういえば、起きてから帽子被りだしたよね?」

「そうだっけ…?」

「そうだよ?色んな帽子被るけど、決まって色は白だし…白好きなの?」

 

お兄さんは見たことのない表情になった。

少しびっくりした。

初めて見る表情だったからか、

それとも、あまりにも大人っぽかったからか、

自分でもよくわからない。

 

「好き、なんかねぇ…」

「ただ、酷いことしたかもしれないからさ」

「そのお詫びかなぁ」

 

「ふーん…?」

 

よくわからない。

いつものお兄さんの適当なのかな。

それとも、私の知らないなにかなのかな。

少し、寂しい。

 

「あーごめん、話遮って」

「で、なんだっけ?いろはちゃんの好きな子の話だっけ?」

 

「好きな子って…推しね!」

「そうだったね」

 

お兄さんが小さく笑う。

いつものお兄さんだ。

 

「もう…。推しはこの子!月見ヤチヨ!5年前から私が推してるライバー!」

「歌って踊れて、8000歳って設定で、ライブもすごいの!」

「いつも観客を驚かせる仕掛けがあってね?」

 

「へー、それもヤチヨが考えてるの?」

 

「ううん、それがね違うの!考えてるのはね、この人!」

 

そう言って画面を指さす。

黒い長い髪に、黒い瞳、それでいて肌だけは雪のように白い、中性的なアバター。

黒と白のドレスを身にまとい、大きな黒い魔女帽をつけているのが特徴的だ。

 

「めったにログインしなくて、もう完全に裏方!ってかんじな人なんだけど」

「コアなファンがたくさんいるの!私も好き!」

 

お兄さんが少し、変な顔をした。

 

「へぇ、何て名前なの?」

 

「この人はね、マーリン!」

 

 

「えぇ、誰ぇ…?」

 

もっと変な顔になった。

なんだったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

■

 

 

バグがいなくなって、しばらくたった。

あれだけ、騒がしかった仕事部屋も今は前よりは静かになっている。

 

「…よし。先輩、今日はもう帰ろ―」

「ハイ」

 

各々の部屋に帰っていく。

ベッドに寝っ転がって、眠ろうとする。

 

「…ちっとも気持ちよくないや」

 

前は心地よかった、でも今はそうじゃない。

原因を考えるといつも、机の上の白い帽子に目がいく。

 

「…今日もいこっかな」

 

帽子を胸に抱えて

自分の部屋を出て、廊下を歩く。

少し歩くと、他の襖と違い

ひときわ自己主張の強い襖があった。

 

バグの部屋だ。

確か、「同じような部屋ばっかでわかんね」

とか言って、勝手に改造していた。

 

「あのとき、バグ怒られてたなー」

 

部屋に入り、あたりを見る。

三味線や小物、ベッドの配置。

自分が知ってる部屋と同じだった。

バグがいないこと以外は。

 

床に座って、ただぼーっとする。

 

あの喋り方、雰囲気を思い出す。

適当で、サボり魔で

鈍感な人。

 

実は気遣い屋さんな人。

たまに勘が鋭い人。

一緒にいて楽しかった人

生きるってこと教えてくれた人。

 

「もっと、いろんなこと聞けばよかった」

 

バグが普通のリョウサン型と

違うことは気付いてた。

 

最初はただの変わった

リョウサン型だと思ってた。

 

でも途中から、リョウサン型をベースに

人の人格をコピペしたようなものだと気付いた。

 

 

ボサツに聞けば、人が死んだときに

人格だけが、データとして漂着し

月人として、動くことは

まれにあることらしい。

 

きっとバグもそうだったんだろう。

地球で死に、たまたま月に流れ着いてくれた。

でも、もちろん欠点もある。

 

それは耐用年数が短いこと。

解決策はない。

それを聞いたとき、絶望した。

 

終わってしまう日常が嫌で

なら最初から知りたくなかった、と

考えることもあった。

 

でも、バグと会って

話していると

会ってよかったって

100倍思う。

 

また会いたいなぁ。

無理なのかな。

 

視界がぼやけてくる。

 

誤魔化すように白い帽子に話しかける。

 

「バグがいなくなってから、仕事も集中できないし」

「結構溜まり気味なんだぞー」

「先輩も元気ないし、あのボサツも元気ないんだよ?」

「トランプも三人いないと、つまんないよ」

「散歩だって、二人でしてみたかった」

「下手だからとか言って、一緒に歌ってくれなかったし」

「手品だって、一回しか見てない」

「先輩も見たがってたよ」

 

それに

 

「…ずっと一緒って、言ったくせに」

「……多分会えるって、言ったくせに」

 

「うそつき」

 

「うそつき魔法使い」

 

「また、幸せにしてよ」

 

「もう一回、あいたいよ」

 

ベッドに横になる。

シーツを被る。

帽子を抱える。

 

シミも何もない

綺麗なベッドだ。

匂いも無い。

 

バグがいた証は何もない。

でも、それでも

 

 

「おやすみ、バグ」

 

 

 

よく眠れた。

 

 

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