国連災害対策本部EXCEEDZ極東支部は、世界が少しだけでも平和な状態であれるよう、毎日朝から実に精力的に活動している。
駆除隊員は銃撃や、中・小隊の連携の。防除隊員は薬剤散布の訓練に暇がなく。
広報部は、それらの精力的光景を、写真やインタビューを交えた動画に収め、公式SNSにまで投稿。直近の駆除実績や安全区域拡大を喧伝し、市民の理解や社会の活性化に努める。
また索敵隊は、廃墟や準汚染地域、郊外の山岳地帯や森林地帯を危険を省みらずに調査して、侵略種の痕跡やコロニーを探し出し。
情報部は、原種を全て駆除した後に新たに向き合わねばならないだろう、裏社会に着実に蔓延している魔人や魔人化薬の情報。そしてそれらと癒着している疑いのある、一部政治家や警察幹部らを一人残さず排除すべく、決して動きを悟られる事のないように水面下の更に底から証拠固めに邁進している。
そして、そんな彼らの働きを支えるべく、食堂勤務の調理師達は今日も朝一番に出勤し、包丁を目にも留まらぬ速さで振るい大鍋を豪快にかき回していた──のであるが。
その支部の女子寮の、清掃員らに綺麗に磨いてもらってる、共用食堂まで続く廊下の途中、
「あーっ! そうですそうですようやく思い出しましたあーっ!」
という、高町なのは調査員の、可愛らしくも急な奇声が高らかに響き渡った。
支部外周を走っていた隊員が、驚きのあまりずっこけた。搬入業者のおじさんも台車の荷物を転がした。朝はギリギリまで眠る派の寮生が、哀れにもベッドからずでんと音を立てて転げ落ちた。
起床してきた女子隊員。モップ片手の清掃員のおばちゃんらが、何事なのかとなのはの方へ目を向ける。
彼女の手を引いて歩いてた久瀬シイナ隊員も、奇声と共に手を振りほどかれて、
「うわっ!? びっくりしたー! いきなりどうしたのなのちゃん!?」と、目を見開いて素っ頓狂な声を上げた。
もういいや、どーにでもなれと、八割くらいヤケになってたフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官も、親友の突如の大声に驚愕し幸い正気を取り戻した。
しかしなのははどういう訳か、奇声だけでは止まらない。普段はおっとりのほほんとした童顔が、大型侵略種の侵攻を目前にした如くきりりと真剣味を乗せて釣り上がる。
そのままシイナの方へ顔を向け、ズズイと大きく踏み出して一気に距離を詰めてくる。
「わわわ!? ホントにどうしたのなのちゃん!?」
シイナは動揺したままに、思わずフェイトから手を放し進んだ道を後ずさる。なのははそれでも止まらない。フェイトも正気は取り戻したが、親友の突然の凶行を前にして動揺したまま手が出せない。後退していくシイナへ向けてズイズイズイズイ怒涛の如くに歩を詰めて、ついになのはは彼女を窓際へまで追い込んだ。
四つ年上な事に加え、元々高身長な久瀬シイナ。四つ年下な事に加え、元々小柄な高町なのは。
両者の背丈は頭一つ分ほど離れているが、なのはは思いっきり背伸びをしてその差をほぼほぼゼロにした。同時に両腕まで伸ばし、十三歳の少女らしい小さく愛らしい手で以ってシイナの両肩を押さえ込む。
「ちょ、なのは!? シイナさんに突然何を──!?」
ようやく動揺から立ち直ったフェイト。彼女は二人に駆け寄ろうとしたけれど、対処するにはあまりに復活が遅かった。
窓に背中を押し付けられているが故、シイナは動けず逃げられない。無理矢理彼女を引き剥がしてしまうには、シイナは優しく面倒見が良く、年下の子が好きすぎる。なのはは真剣な面持ちをずっと崩さないままに、呆然としたシイナの眼前にまで己が顔を近付けて──
「思い出しましたよシイナさん! セツナさんとのお約束を破っちゃったら『めっ!』なんですからねっ!」
─────なんですって?
どうしてそこで、シイナさんの妹さん──セツナさんのお名前が出てくるの??
駆け出そうとした、フェイトの足がピタリと止まった。シイナの顔もぽかんとなった。両者ともに、事態の展開に付いていけず思考がガチリと止まってた。けれどもなのはは止まらない。真剣な面持ちのまま、怒ったような口ぶりのまま、セツナの事を語る口を全く止めようとはしない。
「シイナさん、少し前にわたしに話してくれたじゃないですか! セツナさんとの思い出話! セツナさんがお料理中に配達の人が来て、シイナさんが受け取りに出た話──!」