艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第九話

 五月雨が加わってから、しばらく。

 

 三人での生活にも少しずつ慣れてきた。

 

 五月雨は相変わらず時々何かを落としたり、慌てて転びそうになったりしているけれど、その度に世界が終わったような顔をすることは減っている。

 

 電とも仲がいい。

 

 私としても、二人でやっていた頃と比べれば随分と楽になった。

 

「多摩さん、今日の見回りは私が電ちゃんと行ってきますね」

 

「うん。お願い」

 

「任せるのです!」

 

「何か見つけても、二人だけで無理しないこと」

 

「はい!」

 

「分かっているのです」

 

 二人を送り出し、私は執務室へ戻る。

 

 最近になって、ようやくこういう形も増えてきた。

 

 私が鎮守府に残って、二人に見回りを任せる。

 

 最初は自分も行こうとしたけれど、誰か一人くらいここに残っていた方がいい。

 

 町の人が来ることもあるし、妖精さんが何か持ってくることもある。

 

 それに。

 

「……書類、増えたなぁ」

 

 人数が一人増えただけなのに、何故かやることまで増えた。

 

 食料の確認。

 

 資材の確認。

 

 装備の確認。

 

 哨戒の記録。

 

 入渠。

 

 その他色々。

 

 ゲームなら数字を見るだけだったものが、一つ一つ現実として存在している。

 

「提督って大変だね」

 

 誰に言うでもなく呟きながら、紙へ目を戻した。

 

 それから少しして。

 

 外が騒がしくなった。

 

「司令官さーん!」

 

「また何かあった?」

 

 最近、この呼ばれ方を聞くと少し身構えるようになった。

 

 執務室を出ると、廊下の向こうから五月雨が走ってくる。

 

「お、お客さんです!」

 

「また?」

 

「はい!」

 

「艦娘?」

 

「はい!」

 

「……また?」

 

 ついこの前も同じようなことがあった気がする。

 

「今度は二人です!」

 

「二人?」

 

「電ちゃんが一緒にいます!」

 

 とりあえず外へ向かう。

 

 何だろう。

 

 この鎮守府。

 

 本当に人が増え始めてない?

 

 外へ出ると、すぐに電の姿が見えた。

 

「司令官さん!」

 

「電」

 

 その瞬間。

 

「……あ?」

 

 電の隣に立っていた少女の一人が、こちらを見た。

 

「今、司令官っつったか?」

 

「はいなのです」

 

「誰を?」

 

 電が何の迷いもなく、私を指差す。

 

「多摩さんを、なのです」

 

「……は?」

 

 少女の視線が私に移る。

 

 隣にいたもう一人の少女も、少し意外そうな顔をしてこちらを見ていた。

 

「お前、軽巡の多摩だよな?」

 

「うん」

 

「司令官?」

 

「うん」

 

「どういうことだよ」

 

「それは私も聞きたい」

 

「いや、お前が説明する側だろ」

 

「そうなんだけど」

 

 早速ややこしい。

 

 目の前の二人が誰なのか、私には分かっている。

 

 分かっているけれど。

 

 五月雨の時みたいな失敗はしない。

 

 今度こそ。

 

「とりあえず、私は多摩。軽巡洋艦、多摩」

 

「ああ、見りゃ分かる」

 

「そう言われると困るんだけど」

 

「俺は天龍。んで、こっちが龍田」

 

「龍田よ~。よろしくね、多摩ちゃん」

 

「うん。よろしく」

 

 よし。

 

 今度はちゃんと名乗られてから名前を聞けた。

 

「それで」

 

 天龍が改めてこちらを見る。

 

「さっきの話だ。なんで多摩が司令官なんだよ」

 

「あー……」

 

 これ、毎回説明することになるのだろうか。

 

「色々あって」

 

「色々で済ますな」

 

「私だって詳しくは分からないんだよ」

 

「分からないまま提督やってんのか?」

 

「そうなるね」

 

「大丈夫なのか、この鎮守府」

 

「今のところは」

 

「今のところって言ったぞ、お前」

 

 その隣で、龍田が楽しそうに笑っている。

 

「あらあら、面白そうなところねぇ」

 

「龍田、お前なぁ……」

 

「でも電ちゃんも五月雨ちゃんも元気そうじゃない」

 

「それはそうだけどよ」

 

 何となく。

 

 二人がここまで来た理由が、少し見えた気がした。

 

 ひとまず、立ち話も何なので中へ入ってもらうことにした。

 

「……何だここ」

 

「鎮守府」

 

「いや、それは見れば分かる」

 

「私もそれ以上は説明出来ない」

 

 廊下を歩きながら、天龍が周囲を見回している。

 

「電、お前ずっとこんなとこにいたのか?」

 

「出来たのは最近なのです」

 

「出来た?」

 

「妖精さんが作ったのです」

 

「……は?」

 

「朝起きたら出来てた」

 

「お前ら説明する気ある?」

 

「事実しか言ってないよ」

 

 後ろを見ると、龍田は壁や扉を興味深そうに眺め、五月雨は何故かその横で施設の説明をしていた。

 

「こっちに食堂があって、向こうに寮があります」

 

「あら、本当にちゃんとした鎮守府なのね」

 

「はい!」

 

 五月雨。

 

 いつの間に案内役になったのだろう。

 

 食堂へ移動し、五人で座る。

 

 こうして見ると、広いと思っていた食堂が少しだけそれらしくなってきた気がする。

 

「それで」

 

 私は天龍と龍田を見る。

 

「二人はどうしてここに?」

 

 その言葉で、空気が少しだけ変わった。

 

「電と五月雨がいるって聞いたからだよ」

 

 答えたのは天龍だった。

 

「二人が?」

 

「ああ」

 

 天龍は腕を組む。

 

「電が軍を離れたのは前から知ってた」

 

「……はいなのです」

 

「そんで、五月雨まで苫小牧に送られたって聞いてな」

 

 五月雨の表情が少し曇る。

 

「それで二人とも心配になったの?」

 

「まあな」

 

「わざわざここまで?」

 

「わざわざだ」

 

「艤装で?」

 

「ああ」

 

「……遠かったでしょ」

 

「めちゃくちゃ遠かった」

 

「でしょうね」

 

 北海道である。

 

 軽巡洋艦だから海の上を移動出来るとはいえ、ちょっと様子を見に来る距離ではない。

 

「でも」

 

 龍田が口を開いた。

 

「私たちも、もう軍には所属していないから」

 

「二人も?」

 

「ええ」

 

 龍田はいつもの柔らかな笑顔のまま頷いた。

 

「二人一緒に外されちゃったの」

 

「そっか……」

 

 詳しい事情までは聞かなかった。

 

 聞けば話してくれるかもしれない。

 

 でも、今はいい。

 

「それで、二人がどうしてるかだけでも見ておこうってな」

 

 天龍が電と五月雨を見る。

 

「電は何か訳分かんねえ鎮守府にいるし」

 

「訳分かんねえは余計」

 

「五月雨までいるし」

 

「私は後から来ました」

 

「知ってるよ」

 

「二人とも元気そうなのです!」

 

「それは見りゃ分かる」

 

 そう言った天龍の表情は、少しだけ安心しているように見えた。

 

「それで」

 

「ん?」

 

「二人はこれからどうするの?」

 

 聞いてから、天龍と龍田が顔を見合わせた。

 

「特に決めてねえ」

 

「決めてないの?」

 

「二人の様子見ることしか考えてなかったからな」

 

「あら、天龍ちゃんらしい」

 

「龍田だって何も考えてなかっただろ!」

 

「私は天龍ちゃんについてきただけだもの」

 

「お前なぁ……」

 

 本当に、この二人は変わらないらしい。

 

「だったら」

 

 言う。

 

「しばらくここにいる?」

 

「いいのか?」

 

「部屋なら余ってるよ」

 

「食料も?」

 

「町の人がくれる」

 

「資材は?」

 

「自分たちで取りに行く」

 

「金は?」

 

「ない」

 

「……」

 

 天龍が黙った。

 

「世知辛い鎮守府だな」

 

「私もそう思う」

 

「でも、お金がなくても暮らせてるのです!」

 

「それはそれですげえな……」

 

 龍田はくすくす笑っている。

 

「私はいいと思うわよ?」

 

「龍田?」

 

「電ちゃんも五月雨ちゃんもいるし。それに」

 

 龍田がこちらを見る。

 

「多摩ちゃんも、面白そうだし」

 

「面白そうって理由なの?」

 

「大事よ?」

 

「そうかなぁ」

 

 天龍は少し考えていた。

 

 それから。

 

「まあ、今更二人置いてどっか行く気にもならねえしな」

 

「天龍ちゃん」

 

「なんだよ」

 

「素直じゃないわねぇ」

 

「うるせえ!」

 

 電が笑う。

 

 五月雨も笑った。

 

 私もつられて笑った。

 

「じゃあ、よろしくでいいのかな」

 

「ああ」

 

「よろしくね~」

 

 そうして、三人だった鎮守府に二人が増えた。

 

 その日の夕食。

 

 食卓には五人分の食器が並んでいた。

 

「増えたね」

 

「増えたのです」

 

「増えましたね!」

 

「何が?」

 

 天龍が聞いてくる。

 

「こっちの話」

 

「またそれかよ」

 

 龍田は何となく察したのか、食堂を見回して笑った。

 

「でも、まだ広いわね」

 

「……うん」

 

 最初は二人。

 

 それから三人。

 

 今は五人。

 

「そのうち本当に埋まったりして」

 

「何がです?」

 

「この食堂」

 

 五月雨が周囲を見る。

 

「こんなにですか?」

 

「いや、さすがにそれはないと思うけど」

 

「分からないのです!」

 

「電は何でそんなに楽しそうなの」

 

「賑やかな方が楽しいのです!」

 

 それは、そうかもしれない。

 

「おい多摩」

 

「ん?」

 

「明日の予定どうなってる?」

 

「明日?」

 

「ああ。俺たちもここにいるなら、見回りでも何でもやるぞ」

 

「天龍ちゃん、来たばっかりなんだから少し休んでもいいのよ?」

 

「お前も来ただろ」

 

「私は休むわ~」

 

「おい」

 

「冗談よ」

 

 二人のやり取りを見ながら、頭の中で明日の予定を組み直していく。

 

 見回りを二班に出来る。

 

 資材集めにも人を回せる。

 

 誰かを鎮守府に残すことも出来る。

 

 今までより、出来ることが一気に増える。

 

「じゃあ、明日は――」

 

 そう口にして。

 

 五人での最初の予定を決めていった。

 

 この時の私は。

 

 単純に。

 

 人が増えれば、その分楽になるものだと思っていた。

 

 少なくとも。

 

 しばらくの間は。

 

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