艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第十話

 天龍と龍田が加わってから数日。

 

 五人になった鎮守府は、三人だった頃とはまた少し違う賑やかさになっていた。

 

 まず。

 

 朝がうるさい。

 

「天龍ちゃん、起きて~」

 

「起きてる!」

 

「まだお布団の中だけど?」

 

「意識は起きてんだよ!」

 

「それは起きてるって言わないのです」

 

「電まで言うな!」

 

 廊下の向こうから聞こえてくる声を聞きながら、私は食堂で朝食の準備をしていた。

 

「多摩さん、お味噌汁これで大丈夫ですか?」

 

「うん。味見した?」

 

「あっ」

 

「してない?」

 

「……してきます!」

 

 五月雨が慌てて鍋の方へ戻っていく。

 

 その姿を見送り。

 

「……平和だなぁ」

 

 思わず呟いた。

 

「そうねぇ」

 

「うわっ」

 

 いつの間にか隣に龍田が立っていた。

 

「びっくりした……」

 

「そんなに?」

 

「気配なく来ないでよ」

 

「普通に歩いてきたわよ?」

 

「嘘だ」

 

 絶対嘘だ。

 

 この人。

 

 いや。

 

 艦娘。

 

 気付くと後ろにいる。

 

「多摩ちゃんは朝早いのね」

 

「まあね。やることあるし」

 

「提督さんだものねぇ」

 

「艦娘でもあるけど」

 

「大変ね」

 

「今更かな」

 

 そんな話をしているうちに、ようやく天龍も食堂へやってきた。

 

「眠そう」

 

「うるせえ」

 

「おはようなのです!」

 

「おはようございます!」

 

「おう……」

 

「天龍ちゃん、髪すごいわよ?」

 

「あとで直す」

 

 五人分の朝食が並ぶ。

 

 最初は広すぎると思っていた食堂も、五人いると少しだけ様になってきた。

 

 まだ空席の方が圧倒的に多いけれど。

 

「いただきます」

 

「いただきますなのです!」

 

「いただきます!」

 

「いただくぜ」

 

「いただきます~」

 

 声まで増えた。

 

 それだけで、少し楽しい。

 

 食事が終われば、今度はその日の仕事だ。

 

 人数が増えたおかげで、出来ることはかなり増えた。

 

「今日はどうする?」

 

 天龍に聞かれ、私は頭の中で予定を確認する。

 

「電と五月雨で近場の哨戒。天龍と龍田は資材回収」

 

「多摩は?」

 

「私は町の方に行ってくる。昨日、漁港の人が手伝ってほしいことがあるって言ってたから」

 

「提督が漁港の手伝いかよ」

 

「非公認鎮守府だからね」

 

「便利な言葉だな、それ」

 

「便利でしょ」

 

 龍田が横から覗き込んでくる。

 

「私は天龍ちゃんと一緒でいいの?」

 

「うん。場所は妖精さんが案内してくれるから」

 

 机の上を見る。

 

 小さな妖精さんが一人、何故か既に準備万端という顔で立っていた。

 

「……ほんと便利だね、君たち」

 

 敬礼された。

 

「返事はそれなんだ」

 

「可愛いじゃない」

 

「うん。可愛いけど」

 

 何を考えているのかは分からない。

 

 皆が出る前に、一度だけ資材置き場を確認する。

 

 燃料。

 

 弾薬。

 

 鋼材。

 

 食料。

 

 昨日よりどれだけ減ったか。

 

 今日どれくらい必要になりそうか。

 

 軍へ提出するような報告書なんてものはないけれど、これくらいは確認しておかないと、いざという時に足りませんでは困る。

 

「……燃料はまだ大丈夫」

 

「弾薬は?」

 

 天龍が横から覗き込む。

 

「もう少し欲しいかな」

 

「じゃあ今日はそっち優先で探してくる」

 

「お願い」

 

「鋼材は?」

 

「今のところ余裕ある」

 

「了解」

 

 こういうところだけ見ると。

 

 ちょっと鎮守府らしい。

 

「多摩さん」

 

「ん?」

 

「なんか嬉しそうです」

 

「そう?」

 

「はい」

 

 五月雨に言われて、少し考える。

 

「……まあ、こういうのは嫌いじゃないかも」

 

 ゲームの数字を見るのとは違う。

 

 けれど。

 

 皆が使うものを確認して、その日の動きを決める。

 

 それはそれで。

 

 提督らしい仕事なのかもしれない。

 

 予定を決め、それぞれ外へ出る。

 

 私が向かったのは漁港だった。

 

「お、多摩ちゃん来たか!」

 

「おはようございます。何すればいいです?」

 

「今日は網の整理手伝ってくれ!」

 

「了解」

 

 軍所属の提督が見たら、何と思うだろう。

 

 軽巡洋艦が。

 

 提督が。

 

 漁港で網を運んでいる。

 

「……まあいいか」

 

「何か言ったか?」

 

「なんでもないです」

 

 この町に食べ物を貰っているのだから。

 

 出来ることくらいは返したい。

 

 それだけだ。

 

 昼を少し過ぎた頃。

 

 電と五月雨が先に戻ってきた。

 

「ただいまなのです!」

 

「ただいま戻りました!」

 

「おかえり。異常あった?」

 

「ありませんでした!」

 

「海も静かだったのです」

 

「そっか。ならよかった」

 

 五月雨が手に持っていた袋を机へ置く。

 

「それは?」

 

「町の人からです」

 

「また?」

 

「はい」

 

 中を見る。

 

 野菜。

 

 干物。

 

 何故か菓子。

 

「……完全に差し入れ所になってるね」

 

「ありがたいのです」

 

「それはそうなんだけど」

 

 食料については本当に困らなくなった。

 

 というか。

 

 こちらが断っても持ってくる。

 

「今度何か返した方がいいかな」

 

「今日は多摩さんが手伝いに行ってたのです」

 

「まあ、それだけだけどね」

 

「十分じゃないですか?」

 

 五月雨はそう言うけれど。

 

 私は少し落ち着かない。

 

「また何かあったら手伝いに行こうかな」

 

「私も行きます!」

 

「電も行くのです!」

 

「じゃあ今度ね」

 

 こういう仕事なら。

 

 増えても悪くない。

 

 夕方前。

 

 天龍と龍田も戻ってきた。

 

「疲れた!」

 

 戻ってくるなり天龍が椅子に座り込む。

 

「お疲れ」

 

「聞いてねえぞ」

 

「何が?」

 

「妖精さん、無茶苦茶働かせるじゃねえか」

 

「そう?」

 

「資材見つけるたびに指差してくんだぞ。次、次って」

 

「働き者だからね」

 

「お前、完全に他人事だな」

 

 龍田は笑いながら、その横へ座った。

 

「でもいっぱい取れたわよ?」

 

「ほんと?」

 

「ああ。それなりにな」

 

「ならよかった」

 

「よくねえよ。俺は疲れた」

 

「入渠する?」

 

「そういう疲れじゃねえ!」

 

 それもそうか。

 

「じゃあご飯多めにする?」

 

「それでいい」

 

「天龍ちゃん単純ねぇ」

 

「うるせえ」

 

 本当に。

 

 この二人はよくやっている。

 

 持ち帰った資材を妖精さんたちに運んでもらい、今日の分を軽く確認する。

 

「弾薬、結構増えたね」

 

「だろ?」

 

「助かった」

 

「なら働いた甲斐あったな」

 

「燃料も昨日より余裕が出来たのです」

 

 電が横から覗き込む。

 

「これならしばらく大丈夫そう」

 

「明日は資材集め休めそうですか?」

 

「うん。無理に毎日行かなくてもいいと思う」

 

「やった!」

 

 五月雨が嬉しそうに言う。

 

「そんなに嫌だった?」

 

「ち、違います! 明日は別のことも出来るかなって!」

 

「五月雨らしいのです」

 

「電ちゃん!?」

 

 そんなやり取りをしながら。

 

 今日使った分。

 

 増えた分。

 

 明日必要そうな分。

 

 それだけを簡単に残しておく。

 

 正式な書類ではない。

 

 ただの記録。

 

 でも。

 

 これがないと、昨日何がどれだけあったのかをすぐ忘れそうだった。

 

「よし。終わり」

 

「それだけか?」

 

「それだけ」

 

「もっと提督って面倒な書類とかあるんじゃねえの?」

 

「軍に所属してないから、提出する相手いないし」

 

「ああ……」

 

「便利でしょ、非公認」

 

「そこだけはな」

 

 何故か少し虚しい。

 

 その日の夜。

 

 食後。

 

 珍しく全員が食堂に残っていた。

 

「そういえば」

 

 五月雨が口を開く。

 

「部屋って、このままでいいんですか?」

 

「部屋?」

 

「寮の」

 

「ああ」

 

 そういえば、かなり適当に使っていた。

 

 電は元々使っていた部屋。

 

 五月雨は空いている部屋。

 

 天龍と龍田もそれぞれ空き部屋。

 

「一人一部屋でいいんじゃない?」

 

「私は別にいいですけど」

 

「電も問題ないのです」

 

「俺も」

 

「私は天龍ちゃんと同じでもいいわよ?」

 

「俺がよくねえ」

 

「あら残念」

 

「何が残念なんだよ」

 

「冗談よ~」

 

 本当に冗談かは分からない。

 

「でも部屋、かなり余ってるよね」

 

「余ってるのです」

 

「数えた?」

 

「途中でやめました」

 

「そんなにあるんだ」

 

 五月雨が少し困った顔をする。

 

「使わない部屋、どうするんですか?」

 

「……どうしようね」

 

 考えていなかった。

 

「倉庫にでもするか?」

 

「それはありかも」

 

「客室とかもいるんじゃない?」

 

 龍田が言う。

 

「客なんて来る?」

 

「私たち来たじゃない」

 

「確かに」

 

 そう言われればそうだ。

 

「じゃあ何部屋か空けとこうか」

 

「賛成なのです!」

 

「いつか誰か来るかもしれないですもんね」

 

 五月雨がそう言う。

 

「……また増えるかな」

 

「増えるんじゃねえか?」

 

 天龍が当然のように言った。

 

「そう?」

 

「知らねえけど」

 

「適当だなぁ」

 

「でもよ」

 

 天龍は周囲を見る。

 

「こういう場所があるって分かりゃ、来る奴はいるんじゃねえの?」

 

「……」

 

 少し考える。

 

 電。

 

 五月雨。

 

 天龍。

 

 龍田。

 

 みんな、それぞれ違う理由でここへ来た。

 

「まあ」

 

 私は椅子の背にもたれる。

 

「来たら、その時考えようか」

 

「それでいいのです!」

 

「多摩さんらしいですね」

 

「そう?」

 

「多分!」

 

「五月雨まで適当になってきた」

 

「えっ!?」

 

 食堂に笑い声が広がった。

 

 その後。

 

 皆が部屋へ戻ってから。

 

 私は最後に食堂の灯りを消す。

 

 五人分の食器。

 

 五人分の椅子。

 

 まだ、空席は多い。

 

 けれど。

 

 前ほど広くは感じない。

 

「……五人、か」

 

 二人だった頃には想像もしていなかった。

 

「悪くないね」

 

 誰に言うでもなく呟いて。

 

 私も自分の部屋へ戻った。

 

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