五人になってから、鎮守府の中だけでなく、町の方にも少し変化が出てきた。
原因は、たぶん天龍と龍田だ。
「見られてるな」
「見られてるね」
町を歩きながら、天龍が少し居心地悪そうに呟く。
「珍しいんじゃない? 新しい艦娘」
「お前らは平気なのかよ」
「私はもう慣れた」
「電もなのです」
「私はまだちょっと緊張しますけど……」
五月雨だけは周囲を気にしながら小さく笑う。
今日は五人揃って町へ来ていた。
特に大きな用事があるわけではない。
食料を受け取るついでに、天龍と龍田へ町のことを教えておこうというだけだった。
「ここがいつも魚を分けてくれるところ」
「おう」
「こっちは野菜。あとは向こうにお米を持ってきてくれる家がある」
「完全に養われてんじゃねえか」
「言い方」
「間違ってないでしょ?」
「否定はしない」
実際、その通りではある。
食料に関しては町の人たちに頼りきりだ。
その代わりと言っていいのかは分からないけれど、海に何かあれば私たちが出る。
漁に出る人たちも、それを分かった上で食べ物を持ってきてくれている。
「持ちつ持たれつ、なのです」
「そういうこと」
「ならまあ、いいんじゃねえの?」
天龍はそう言いながら、店先に並んでいる魚を見る。
「うまそうだな」
「食べたい?」
「……いや別に」
「天龍ちゃん、分かりやすいわねぇ」
「うるせえ!」
龍田に笑われ、天龍が顔を逸らした。
「あ、たまちゃん!」
少し先から声が飛んできた。
「楓」
手を振りながら近付いてきたのは楓だった。
「今日はみんな一緒なんだ」
「ちょうど町を案内してて」
「へえ」
楓は天龍と龍田を見る。
「新しく来た二人?」
「天龍だ」
「龍田です~」
「私は楠木楓。たまちゃんがお世話になってます」
「何その保護者みたいな挨拶」
「だって最初に拾ったの私だし」
「拾った言うな」
「事実でしょ?」
「事実だけど」
天龍が私と楓を交互に見る。
「知り合いなのか?」
「最初に助けてもらった人」
「へえ」
「たまちゃん、結構世話かけたんだよ」
「余計なこと言わなくていいから」
「お風呂で――」
「それ以上言ったら怒るよ」
「分かった分かった」
楓は笑っている。
何を言おうとした。
いや。
分かっているけれど。
やめてほしい。
「仲いいんですね」
五月雨が微笑む。
「まあね」
「腐れ縁みたいなものかな」
「まだそんなに長くないだろ」
「濃いからいいの」
よく分からない理屈だった。
「せっかくだし、少し手伝っていかない?」
「何を?」
「父さんが荷物運んでるんだけど、人手足りないって」
私は皆を見る。
「どうする?」
「俺は別にいいぜ」
「電も手伝うのです!」
「私も!」
「じゃあ龍田も~」
「決まりだね」
こうして、予定になかった仕事が増えた。
楓に連れていかれた先では、漁具や箱がいくつも積まれていた。
「これ運べばいいの?」
「そうそう。あっちの倉庫まで」
「軽いな」
天龍が箱を持ち上げる。
「いや、普通はそれ結構重いんだけど」
「そうなのか?」
「艦娘基準で考えないでよ」
私も一つ持つ。
確かに軽い。
「たまちゃんまで」
「仕方ないじゃん」
「便利だねぇ、艦娘って」
「そういう使い方されるとは思わなかったけど」
横を見ると五月雨が箱を二つ持とうとしていた。
「五月雨、一つでいいよ」
「大丈夫です!」
「落とす前に一つにして」
「……はい」
素直に一つ戻した。
「学習したな」
天龍が笑う。
「してますよ!」
「前だったらそのまま持って転んでたのです」
「電ちゃん!?」
「事実なのです」
五月雨が少し膨れる。
でも以前なら無理をしてでもやろうとしていただろう。
そう考えると、ちゃんと変わってきている。
「ほら、行くよ」
「はい!」
皆で荷物を運ぶ。
こうしていると、鎮守府というより普通の手伝い集団に見える。
提督がいて。
艦娘が四人いて。
やっているのは箱運び。
「……なんだかなぁ」
「どうした、多摩」
「いや、平和だなって」
「いいことじゃねえか」
「そうだね」
本当に。
いいことだと思う。
作業が終わる頃には、昼をかなり過ぎていた。
「助かったよ」
楓の父、桂梧さんがそう言って頭を下げる。
「これくらいならいつでも」
「そうそう毎回頼むわけにもいかんけどな」
「食べ物もらってますし」
「それとこれは別だ」
「そうですか?」
「海を守ってもらってる。それだけで十分だ」
何度聞いても。
まだ少し落ち着かない。
でも。
前みたいに強く否定する気もなくなっていた。
「じゃあ、手が足りない時だけ呼んでください」
「ああ」
「たまちゃん、丸くなったね」
楓が横から言う。
「何が」
「前ならもっと遠慮してた」
「そうだった?」
「そうだった」
自覚はない。
けれど。
少しくらいは、この町に甘えてもいいのかもしれない。
帰り道。
天龍が急に足を止めた。
「なあ」
「ん?」
「さっきの店、寄っていいか?」
「魚のところ?」
「……悪いか」
「食べたいんじゃん」
「うるせえ!」
結局。
五人で魚を見に行った。
店の人は天龍を見て笑いながら、一匹余分に包んでくれた。
「これも持ってけ」
「いや、金ねえぞ」
「知ってるよ」
「知ってんのかよ」
「鎮守府の連中に金なんか期待してねえ」
「言い方!」
私が思わず突っ込む。
「代わりに海よろしくな」
「……おう」
天龍は少しだけ照れくさそうに答えた。
龍田がそれを見て笑っている。
「何だよ」
「別に~」
「その顔やめろ」
鎮守府へ戻る頃には、皆かなり荷物を持っていた。
「多くない?」
「多いのです」
「途中から皆さん色々くれましたね」
「断っても押し付けてくるからね」
「人気者だな」
天龍が言う。
「電がね」
「司令官さんもなのです!」
「私は違うでしょ」
「多摩さんも結構声かけられてましたよ?」
「そう?」
「気付いてないのかよ」
「……気付いてなかった」
龍田がくすくす笑う。
「多摩ちゃん、意外と鈍いのねぇ」
「何が」
「色々?」
「怖い言い方しないで」
その日の夕食は、町でもらった魚だった。
「うまい」
天龍が一口食べてすぐ言った。
「よかったね」
「何だその言い方」
「食べたそうにしてたから」
「してねえ」
「してたわよ~」
「してました」
「してたのです」
「全員で言うな!」
食堂に笑い声が広がる。
五人になってから。
こういう時間が増えた。
誰かが話して。
誰かが突っ込んで。
誰かが笑う。
まだ大きすぎる食堂も。
前ほど寂しくはない。
「明日はどうする?」
五月雨が聞く。
「近場の哨戒と、資材の確認かな。今日は結構動いたし、あとはゆっくりでいいと思う」
「賛成だ」
「天龍ちゃん、疲れたの?」
「お前と一緒にすんな」
「あら~?」
「喧嘩するなら食べ終わってからにしてね」
「してねえよ!」
そんな声を聞きながら。
私は魚を一口食べる。
美味しい。
それだけで。
今日は十分だった。