艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第十一話

 五人になってから、鎮守府の中だけでなく、町の方にも少し変化が出てきた。

 

 原因は、たぶん天龍と龍田だ。

 

「見られてるな」

 

「見られてるね」

 

 町を歩きながら、天龍が少し居心地悪そうに呟く。

 

「珍しいんじゃない? 新しい艦娘」

 

「お前らは平気なのかよ」

 

「私はもう慣れた」

 

「電もなのです」

 

「私はまだちょっと緊張しますけど……」

 

 五月雨だけは周囲を気にしながら小さく笑う。

 

 今日は五人揃って町へ来ていた。

 

 特に大きな用事があるわけではない。

 

 食料を受け取るついでに、天龍と龍田へ町のことを教えておこうというだけだった。

 

「ここがいつも魚を分けてくれるところ」

 

「おう」

 

「こっちは野菜。あとは向こうにお米を持ってきてくれる家がある」

 

「完全に養われてんじゃねえか」

 

「言い方」

 

「間違ってないでしょ?」

 

「否定はしない」

 

 実際、その通りではある。

 

 食料に関しては町の人たちに頼りきりだ。

 

 その代わりと言っていいのかは分からないけれど、海に何かあれば私たちが出る。

 

 漁に出る人たちも、それを分かった上で食べ物を持ってきてくれている。

 

「持ちつ持たれつ、なのです」

 

「そういうこと」

 

「ならまあ、いいんじゃねえの?」

 

 天龍はそう言いながら、店先に並んでいる魚を見る。

 

「うまそうだな」

 

「食べたい?」

 

「……いや別に」

 

「天龍ちゃん、分かりやすいわねぇ」

 

「うるせえ!」

 

 龍田に笑われ、天龍が顔を逸らした。

 

「あ、たまちゃん!」

 

 少し先から声が飛んできた。

 

「楓」

 

 手を振りながら近付いてきたのは楓だった。

 

「今日はみんな一緒なんだ」

 

「ちょうど町を案内してて」

 

「へえ」

 

 楓は天龍と龍田を見る。

 

「新しく来た二人?」

 

「天龍だ」

 

「龍田です~」

 

「私は楠木楓。たまちゃんがお世話になってます」

 

「何その保護者みたいな挨拶」

 

「だって最初に拾ったの私だし」

 

「拾った言うな」

 

「事実でしょ?」

 

「事実だけど」

 

 天龍が私と楓を交互に見る。

 

「知り合いなのか?」

 

「最初に助けてもらった人」

 

「へえ」

 

「たまちゃん、結構世話かけたんだよ」

 

「余計なこと言わなくていいから」

 

「お風呂で――」

 

「それ以上言ったら怒るよ」

 

「分かった分かった」

 

 楓は笑っている。

 

 何を言おうとした。

 

 いや。

 

 分かっているけれど。

 

 やめてほしい。

 

「仲いいんですね」

 

 五月雨が微笑む。

 

「まあね」

 

「腐れ縁みたいなものかな」

 

「まだそんなに長くないだろ」

 

「濃いからいいの」

 

 よく分からない理屈だった。

 

「せっかくだし、少し手伝っていかない?」

 

「何を?」

 

「父さんが荷物運んでるんだけど、人手足りないって」

 

 私は皆を見る。

 

「どうする?」

 

「俺は別にいいぜ」

 

「電も手伝うのです!」

 

「私も!」

 

「じゃあ龍田も~」

 

「決まりだね」

 

 こうして、予定になかった仕事が増えた。

 

 楓に連れていかれた先では、漁具や箱がいくつも積まれていた。

 

「これ運べばいいの?」

 

「そうそう。あっちの倉庫まで」

 

「軽いな」

 

 天龍が箱を持ち上げる。

 

「いや、普通はそれ結構重いんだけど」

 

「そうなのか?」

 

「艦娘基準で考えないでよ」

 

 私も一つ持つ。

 

 確かに軽い。

 

「たまちゃんまで」

 

「仕方ないじゃん」

 

「便利だねぇ、艦娘って」

 

「そういう使い方されるとは思わなかったけど」

 

 横を見ると五月雨が箱を二つ持とうとしていた。

 

「五月雨、一つでいいよ」

 

「大丈夫です!」

 

「落とす前に一つにして」

 

「……はい」

 

 素直に一つ戻した。

 

「学習したな」

 

 天龍が笑う。

 

「してますよ!」

 

「前だったらそのまま持って転んでたのです」

 

「電ちゃん!?」

 

「事実なのです」

 

 五月雨が少し膨れる。

 

 でも以前なら無理をしてでもやろうとしていただろう。

 

 そう考えると、ちゃんと変わってきている。

 

「ほら、行くよ」

 

「はい!」

 

 皆で荷物を運ぶ。

 

 こうしていると、鎮守府というより普通の手伝い集団に見える。

 

 提督がいて。

 

 艦娘が四人いて。

 

 やっているのは箱運び。

 

「……なんだかなぁ」

 

「どうした、多摩」

 

「いや、平和だなって」

 

「いいことじゃねえか」

 

「そうだね」

 

 本当に。

 

 いいことだと思う。

 

 作業が終わる頃には、昼をかなり過ぎていた。

 

「助かったよ」

 

 楓の父、桂梧さんがそう言って頭を下げる。

 

「これくらいならいつでも」

 

「そうそう毎回頼むわけにもいかんけどな」

 

「食べ物もらってますし」

 

「それとこれは別だ」

 

「そうですか?」

 

「海を守ってもらってる。それだけで十分だ」

 

 何度聞いても。

 

 まだ少し落ち着かない。

 

 でも。

 

 前みたいに強く否定する気もなくなっていた。

 

「じゃあ、手が足りない時だけ呼んでください」

 

「ああ」

 

「たまちゃん、丸くなったね」

 

 楓が横から言う。

 

「何が」

 

「前ならもっと遠慮してた」

 

「そうだった?」

 

「そうだった」

 

 自覚はない。

 

 けれど。

 

 少しくらいは、この町に甘えてもいいのかもしれない。

 

 帰り道。

 

 天龍が急に足を止めた。

 

「なあ」

 

「ん?」

 

「さっきの店、寄っていいか?」

 

「魚のところ?」

 

「……悪いか」

 

「食べたいんじゃん」

 

「うるせえ!」

 

 結局。

 

 五人で魚を見に行った。

 

 店の人は天龍を見て笑いながら、一匹余分に包んでくれた。

 

「これも持ってけ」

 

「いや、金ねえぞ」

 

「知ってるよ」

 

「知ってんのかよ」

 

「鎮守府の連中に金なんか期待してねえ」

 

「言い方!」

 

 私が思わず突っ込む。

 

「代わりに海よろしくな」

 

「……おう」

 

 天龍は少しだけ照れくさそうに答えた。

 

 龍田がそれを見て笑っている。

 

「何だよ」

 

「別に~」

 

「その顔やめろ」

 

 鎮守府へ戻る頃には、皆かなり荷物を持っていた。

 

「多くない?」

 

「多いのです」

 

「途中から皆さん色々くれましたね」

 

「断っても押し付けてくるからね」

 

「人気者だな」

 

 天龍が言う。

 

「電がね」

 

「司令官さんもなのです!」

 

「私は違うでしょ」

 

「多摩さんも結構声かけられてましたよ?」

 

「そう?」

 

「気付いてないのかよ」

 

「……気付いてなかった」

 

 龍田がくすくす笑う。

 

「多摩ちゃん、意外と鈍いのねぇ」

 

「何が」

 

「色々?」

 

「怖い言い方しないで」

 

 その日の夕食は、町でもらった魚だった。

 

「うまい」

 

 天龍が一口食べてすぐ言った。

 

「よかったね」

 

「何だその言い方」

 

「食べたそうにしてたから」

 

「してねえ」

 

「してたわよ~」

 

「してました」

 

「してたのです」

 

「全員で言うな!」

 

 食堂に笑い声が広がる。

 

 五人になってから。

 

 こういう時間が増えた。

 

 誰かが話して。

 

 誰かが突っ込んで。

 

 誰かが笑う。

 

 まだ大きすぎる食堂も。

 

 前ほど寂しくはない。

 

「明日はどうする?」

 

 五月雨が聞く。

 

「近場の哨戒と、資材の確認かな。今日は結構動いたし、あとはゆっくりでいいと思う」

 

「賛成だ」

 

「天龍ちゃん、疲れたの?」

 

「お前と一緒にすんな」

 

「あら~?」

 

「喧嘩するなら食べ終わってからにしてね」

 

「してねえよ!」

 

 そんな声を聞きながら。

 

 私は魚を一口食べる。

 

 美味しい。

 

 それだけで。

 

 今日は十分だった。

 

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