艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第十二話

 朝。

 

「……焦げてる」

 

「焦げてません!」

 

「いや、焦げてるだろ」

 

「ちょっとだけです!」

 

「それを焦げてるって言うのです」

 

「電ちゃんまで!?」

 

 食堂に、少し焦げた匂いが漂っていた。

 

 五月雨が持っているフライパンの中では、卵だったものがなんとも言えない色になっている。

 

「食べられないほどじゃないよ」

 

「多摩さん……!」

 

「優しいな、お前」

 

「捨てるのもったいないし」

 

「そっちかよ」

 

 天龍が呆れた顔をする。

 

「大丈夫よ~。天龍ちゃんが食べるから」

 

「何で俺なんだよ!」

 

「いっぱい食べるでしょう?」

 

「焦げたもん押し付ける理由になってねえ!」

 

 結局、焦げた卵は皆で分けて食べた。

 

 味は。

 

「……苦い」

 

「すみません……」

 

「次は火、弱めようね」

 

「はい……」

 

 五月雨がしょんぼりする。

 

 その隣で龍田が綺麗に焼けた卵を皿へ乗せていた。

 

「龍田さん、上手ですね」

 

「これくらいならねぇ」

 

「最初から龍田にやらせりゃよかったんじゃねえか?」

 

「天龍ちゃん」

 

「ん?」

 

「明日は天龍ちゃんが作る?」

 

「五月雨、頑張れ」

 

「逃げたのです」

 

「逃げましたね」

 

「うるせえ!」

 

 そんな朝食を終えて。

 

 今日の予定を決める。

 

「近場の哨戒は?」

 

「昨日何もなかったし、今日は一回でいいと思う」

 

「じゃあ俺行くぜ」

 

「私も一緒に行こうかしら」

 

「天龍と龍田ね。お願い」

 

「電たちは何をするのです?」

 

「食料はまだあるし……資材も昨日確認した分なら余裕あるね」

 

 私は置いてあった記録をぱらぱらとめくる。

 

 燃料。

 

 弾薬。

 

 鋼材。

 

 どれも急いで取りに行くほどではない。

 

「じゃあ今日は暇ですか?」

 

 五月雨が聞く。

 

「暇……」

 

 その言葉に、少し考える。

 

 最近は何かしらやることがあった。

 

 哨戒。

 

 資材集め。

 

 町の手伝い。

 

 食料の受け取り。

 

 装備の手入れ。

 

 暇と言われると。

 

「……そうかも」

 

「やったのです!」

 

 電が嬉しそうに言った。

 

「何する?」

 

「お掃除とか?」

 

「暇になって最初に出てくるのが掃除なの?」

 

「だ、だって何かしないと落ち着かなくて……」

 

「五月雨ちゃんらしいわねぇ」

 

「でも掃除はした方がいいんじゃねえか?」

 

 天龍が食堂を見回す。

 

「ここ広いしな」

 

「妖精さんが結構やってくれてるよ」

 

 見ると。

 

 ちょうど一人の妖精さんが、小さな箒を持って隅を掃いていた。

 

「……いつからいた?」

 

「さあ?」

 

「本当に気付いたらいるな、こいつら」

 

 妖精さんがこちらを見て胸を張る。

 

「褒めてるよ」

 

 敬礼された。

 

 天龍と龍田が哨戒へ出たあと。

 

 私たちは結局、寮の使っていない部屋を見て回ることになった。

 

「ここも空いてます」

 

「ここもなのです」

 

「……多いなぁ」

 

 扉を開けても。

 

 また空室。

 

 次も空室。

 

 その次も空室。

 

「妖精さん、何人来る想定で作ったんだろ」

 

 返事はない。

 

 ついてきた妖精さんは、何故か満足そうに頷いている。

 

「答える気ないね」

 

「でも、せっかくあるなら使えそうですよね」

 

 五月雨が部屋の中を覗く。

 

「倉庫にするって話してましたよね?」

 

「全部倉庫にするほど物ないけどね」

 

「悲しいのです」

 

「言わないで」

 

 食料も資材も。

 

 貯め込めるほど余裕はない。

 

 必要な分を集めて、使って。

 

 また減ったら取りに行く。

 

 そんな生活だ。

 

「一部屋は予備の装備置き場にしようか」

 

「はい!」

 

「こっちは?」

 

「空けとこう」

 

「誰か来た時のためですか?」

 

「まあ、来るか分からないけど」

 

 電と五月雨が顔を見合わせる。

 

「また来るかもしれないのです」

 

「ですね」

 

「何で二人とも嬉しそうなの」

 

「賑やかな方が楽しいのです!」

 

「私もそう思います」

 

「そっか」

 

 私も。

 

 たぶん同じだ。

 

 使う部屋を決めたところで、今度は装備置き場を少し整理する。

 

「これはこっち」

 

「はい!」

 

「それ重いから気を付けて」

 

「大丈夫です!」

 

「その台詞、信用していい?」

 

「今度は大丈夫です!」

 

 五月雨が箱を持ち上げる。

 

 一歩。

 

 二歩。

 

 ぐらり。

 

「五月雨」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「置こう」

 

「はい……」

 

 電が横から半分を持つ。

 

「二人で運ぶのです」

 

「ありがとう、電ちゃん」

 

「最初からそうしようよ」

 

 そう言いながら、私も別の箱へ手を伸ばす。

 

「あ、司令官さん」

 

「ん?」

 

「それは電が運ぶのです」

 

「これくらい平気だよ」

 

「でも――」

 

「すぐそこだし」

 

 持ち上げて、そのまま棚へ運ぶ。

 

 軽い。

 

 問題ない。

 

「ほら、終わり」

 

「……はいなのです」

 

 電が何か言いたそうな顔をしていたけれど。

 

 次の箱へ目を向けたところで、外から声がした。

 

「戻ったぞー!」

 

 天龍だ。

 

「おかえり。どうだった?」

 

「何もなし」

 

「静かだったわよ~」

 

「そっか」

 

「そっちは何してたんだ?」

 

「部屋の整理」

 

「暇って言ってなかったか?」

 

「暇だったから」

 

「暇な奴がやることか、それ?」

 

「他にすることなかったし」

 

 天龍は私の後ろに積まれた箱を見る。

 

 それから。

 

 私を見る。

 

「……まあいいけどよ」

 

「何?」

 

「なんでもねえ」

 

 変なの。

 

 昼食の後は、本当にすることがなくなった。

 

 珍しい。

 

 五月雨と電は外で妖精さんたちと何かしている。

 

 何をしているのかと思って見に行ったら、小さな石を並べて遊んでいた。

 

「何してるの?」

 

「分かりません!」

 

「分からないの?」

 

「妖精さんが始めたのです」

 

 見る限り。

 

 石を積んでいる。

 

 ただそれだけ。

 

 でも本人たちは楽しそうだ。

 

「平和だね」

 

「平和なのです」

 

「多摩さんもやります?」

 

「私は――」

 

 一度、執務室の方を見る。

 

 特に確認することはない。

 

「……やろうかな」

 

「はい!」

 

 久しぶりに。

 

 何の役にも立たないことをした。

 

 石を積んで。

 

 崩して。

 

 五月雨が妙に本気になって。

 

 電が笑って。

 

 いつの間にか天龍まで混ざって。

 

「何で俺がこんなこと……」

 

 と言いながら、一番高く積もうとしていた。

 

「天龍ちゃん、楽しそうねぇ」

 

「うるせえ」

 

「手、震えてるよ」

 

「黙れ! 今大事なところなんだよ!」

 

 最後の一個を乗せる。

 

 少し傾く。

 

「あ」

 

「おい待て」

 

 ぐらり。

 

 全部崩れた。

 

「あああああ!」

 

 天龍の声が響く。

 

「天龍さん!」

 

「笑うな五月雨!」

 

「笑ってません!」

 

「顔が笑ってんだよ!」

 

「ふふっ」

 

「電も!」

 

「笑ってないのです!」

 

「お前らなぁ!」

 

 龍田は少し離れたところでずっと笑っていた。

 

 たぶん。

 

 今日一番平和な時間だったと思う。

 

 夕方。

 

 夕食の準備を始めようとしていた時だった。

 

 玄関の方から、聞き慣れた声がした。

 

「たまちゃーん!」

 

「楓?」

 

 外へ出る。

 

 楓が立っていた。

 

 珍しく。

 

 少し困ったような顔をしている。

 

「どうしたの?」

 

「父さんからなんだけど」

 

「桂梧さん?」

 

「うん」

 

 楓は一度、鎮守府の方を見る。

 

「今日、漁港の方に電話があったんだって」

 

「電話?」

 

「軍から」

 

 少しだけ。

 

 空気が変わった。

 

「……軍?」

 

「うん」

 

 後ろから天龍たちも出てくる。

 

「何の用だったんだ?」

 

「詳しくは分かんない。ただ」

 

 楓は言った。

 

「この辺りで、何人かの艦娘が活動してるって話を聞いたけど、本当かって」

 

「……」

 

 誰も。

 

 すぐには何も言わなかった。

 

「父さんは?」

 

「いるって答えたって。嘘つくようなことでもないし」

 

「そっか」

 

 それだけ。

 

 それだけの話だ。

 

 何か命令が来たわけでもない。

 

 誰かが来たわけでもない。

 

 ただ。

 

 聞かれただけ。

 

「それで?」

 

「それで終わり。確認しましたって切れたって」

 

「……そう」

 

「何かまずかった?」

 

「分からない」

 

 本当に。

 

 分からない。

 

 軍が何を考えているのか。

 

 今の私たちをどう見るのか。

 

 電。

 

 五月雨。

 

 天龍。

 

 龍田。

 

 そして。

 

 所属のない私。

 

「まあ」

 

 天龍が腕を組む。

 

「そのうち気付かれるとは思ってたけどな」

 

「だよね」

 

 五人もいる。

 

 海にも出る。

 

 町の人たちも私たちを知っている。

 

 ずっと隠れていられるはずもない。

 

「今すぐ何かあるわけじゃないんでしょ?」

 

 五月雨が少し不安そうに聞く。

 

「うん。今のところは」

 

「なら」

 

 電が言う。

 

「今日はご飯にするのです」

 

「……そうだね」

 

 その通りだ。

 

 まだ何も起きていない。

 

 だから。

 

 今日は。

 

 いつも通りでいい。

 

 その日の夕食も。

 

 五人で食べた。

 

 天龍が文句を言って。

 

 龍田が笑って。

 

 五月雨が少しこぼして。

 

 電がそれを拭いて。

 

 私はそれを見ていた。

 

 いつも通りの夜。

 

 ただ一つ。

 

 今までこちらを見ていなかった誰かが。

 

 少しだけ。

 

 この鎮守府へ顔を向けた。

 

 そんな気がした。

 

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