艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第十三話

 軍がこちらの存在を確認したらしい。

 

 けれど、それから何日か経っても特に何かが起きることはなかった。連絡もないし、誰かが来るわけでもない。

 

 結局、私たちは今までと変わらない生活を続けていた。

 

「今日は電と五月雨が近場。天龍と龍田は昨日見つけたところをもう一度お願い」

 

「了解なのです!」

 

「はい!」

 

「おう」

 

「分かったわ~」

 

 朝食のあと、いつものようにその日の予定を決める。

 

「深海棲艦を見つけても、数が多かったら無理しないで戻ってきてね」

 

「分かってます!」

 

「五月雨は特にね」

 

「私ですか!?」

 

「お前以外に誰がいるんだよ」

 

「天龍さん!」

 

 朝から賑やかだ。

 

「で」

 

 天龍が私を見る。

 

「多摩は?」

 

「私?」

 

「今日は何すんだ?」

 

「ああ。ちょっと別のところ見てくる」

 

「別のところ?」

 

「妖精さんが、もう一ヶ所資材を取れそうな場所を見つけたみたいだから」

 

 机の上にいた妖精さんが頷く。

 

「一人でか?」

 

「うん」

 

「俺らと一緒に行けばいいだろ」

 

「方向違うし、分かれて行った方が早いよ」

 

「……まあ、そうだけどよ」

 

「何かあったら戻るから大丈夫」

 

 そう言って立ち上がる。

 

「じゃあ、今日もよろしくね」

 

 それぞれが鎮守府を出た。

 

 妖精さんに案内された場所は、以前資材を回収した施設より少し遠かった。

 

 海沿いを進み、途中から陸へ上がる。

 

「ここ?」

 

 妖精さんが大きく頷いた。

 

 目の前にあるのは、半分崩れた倉庫のような建物だった。

 

「……使えるものあるのかな」

 

 中へ入ると、古い機械や錆びた金属、空になった容器があちこちに転がっている。

 

 けれど妖精さんたちは迷うことなく、その中から使えそうなものを選び始めた。

 

「ほんと見分けるの早いね」

 

 一人が得意そうに胸を張る。

 

「褒めてる褒めてる」

 

 私も持てるものを運んでいく。

 

 大きな金属片。

 

 まだ使えそうな部品。

 

 量は少ないけれど、燃料も残っていた。

 

「これなら来た意味あったかな」

 

 妖精さんたちが一斉に頷く。

 

 それから、さらに奥を指差した。

 

「まだあるの?」

 

 また頷く。

 

「……元気だねぇ」

 

 結局、予定していたより長く資材を集めることになった。

 

 鎮守府へ戻った時には、もう夕方だった。

 

「ただいま」

 

「司令官さん!」

 

 電が駆け寄ってくる。

 

「おかえりなさいなのです!」

 

「ただいま。そっちはどうだった?」

 

「異常なしなのです」

 

「こっちも大丈夫でした!」

 

 五月雨も後ろからやってくる。

 

「多摩さんの方は?」

 

「結構あったよ。鋼材になりそうなのと、燃料も少し」

 

「一人で全部?」

 

「妖精さんもいたよ」

 

「そういう意味じゃねえよ」

 

 横から天龍の声がした。

 

「おかえり」

 

「おう」

 

「そっちは?」

 

「何もなし。資材も少し拾ってきた」

 

「そっか。じゃあ今日は結構増えたね」

 

 持ち帰ったものを見ながら、残量をざっと頭の中で計算する。

 

 これなら、しばらくは大丈夫そうだ。

 

「多摩ちゃん」

 

 今度は龍田に呼ばれた。

 

「ん?」

 

「疲れてない?」

 

「ちょっとは」

 

「ちょっと?」

 

「歩いたし」

 

「そういうことにしておくわ~」

 

「?」

 

 何だろう。

 

「とりあえずご飯にしよう」

 

「お前が作る気か?」

 

 天龍が言う。

 

「今日は簡単なのにするよ」

 

「……」

 

「何?」

 

「いや」

 

「変なの」

 

 結局、夕食を作って五人で食べた。

 

 その間に今日の哨戒で何があったかを聞いて、食後には持ち帰った資材も簡単に確認する。

 

 いつも通り。

 

 特に変わったことはない。

 

 皆が部屋へ戻ってから、私はもう一度資材置き場へ向かった。

 

 今日増えた分と、使った分。

 

 明日どれくらい必要になりそうか。

 

 燃料、弾薬、鋼材。それから食料。

 

 昼間に確認してもいいことではある。

 

 でも、昼は動ける。

 

 海にも出られるし、町にも行ける。資材を探しにも行ける。

 

 だったら、こういう確認は夜に回した方がいい。

 

「燃料は……まだ大丈夫」

 

 簡単に記録して、次は装備を見る。

 

 一つずつ細かく確認するほどではないけれど、妖精さんたちから整備が必要なものを聞いておく。

 

「これは明日?」

 

 妖精さんが頷く。

 

「分かった」

 

 書いておく。

 

 そこまで終われば、次は明日の哨戒だ。

 

 今日何もなかったから、明日は少し範囲を変えてもいいかもしれない。

 

「電と五月雨は……」

 

「何やってんだ、お前」

 

「うわっ!」

 

 突然声がして振り返る。

 

 天龍が立っていた。

 

「びっくりした……」

 

「こっちの台詞だ」

 

「何が?」

 

「何してんだって聞いてんだよ」

 

「明日の確認」

 

 天龍がしばらく黙る。

 

「……今、何時だと思ってんだ?」

 

「分かんない」

 

「三時だぞ」

 

「……もうそんな時間?」

 

「もう、じゃねえよ」

 

「もうちょっとで終わるよ」

 

「待て」

 

 天龍が眉を寄せた。

 

「お前、いつもこんな時間までやってんのか?」

 

「いつもじゃないよ」

 

「昨日も一昨日も夜にここにいたよな」

 

「起きてたの?」

 

「水飲みに来た時に見た」

 

「そうなんだ」

 

「そうなんだじゃねえよ。俺はてっきり、そのあとすぐ寝てんのかと思ってたんだ」

 

 声が少し低い。

 

「何怒ってるの?」

 

「怒るだろ」

 

「何で?」

 

「朝、何時に起きてる?」

 

「六時くらい」

 

 天龍が黙った。

 

「何?」

 

「三時間じゃねえか」

 

「毎日三時まで起きてるわけじゃないよ」

 

「昨日は?」

 

「……二時くらい」

 

「一昨日」

 

「……四時」

 

「は?」

 

「その日はちょっと長引いて」

 

「朝は?」

 

「六時」

 

「二時間じゃねえか!」

 

「でも寝てるじゃん」

 

「寝てるうちに入るか!」

 

 天龍の声が響く。

 

「声大きい。みんな起きるよ」

 

「今そこ気にするとこか!?」

 

 天龍が額を押さえた。

 

「こういうの、昼間やりゃいいだろ」

 

「昼は動けるから」

 

「は?」

 

「確認だけなら夜でも出来るでしょ? 昼間は資材取りに行ったり、町に行ったり出来るし」

 

「だから寝る時間削ってんのか?」

 

「削ってるってほどじゃないよ」

 

「二時間とか三時間しか寝てねえ奴が言うな!」

 

「今日はたまたまだって」

 

「今日だけってお前……いや、待てよ」

 

 天龍が一度言葉を止める。

 

「これだけ時間かかることやってんのに、昼は普通に出てんのかよ、お前」

 

「普通にって……」

 

「今日だって、朝から一人で資材取りに行っただろ」

 

「妖精さんもいたよ」

 

「そこじゃねえ!」

 

「じゃあ何?」

 

「俺たちに仕事振って、自分も別の場所に出て、戻ってきたら報告聞いて、飯作って。その上で夜中の三時までこれやってんだろ!」

 

「でも必要なことだから」

 

「俺らにやらせりゃいいだろ!」

 

「皆もやってるじゃん」

 

「違う!」

 

 天龍が私を見る。

 

「俺たちがやってる間に、お前は別の仕事増やしてんだろ!」

 

「増やしてるわけじゃないよ。必要だからやってるだけ」

 

「それを増やしてるって言ってんだよ!」

 

「私は提督なんだから、全体を見ないと駄目でしょ」

 

「それは分かる」

 

「なら――」

 

「一人で全部確認しろって意味じゃねえだろ」

 

「でも最終的に決めるのは私だし」

 

「だったら確認するところから全部自分でやんのか?」

 

「その方が間違いないじゃん」

 

 言った瞬間。

 

 天龍の表情が変わった。

 

「……それだよ」

 

「何が?」

 

「お前、俺たちのこと信用してねえのか?」

 

「は?」

 

「違うなら、何で全部自分で確認しないと気が済まねえんだ」

 

「そんなこと言ってない!」

 

「言ってるのと同じだろ!」

 

「違う!」

 

 思わず立ち上がる。

 

「皆のことは信用してるよ!」

 

「じゃあ任せろよ!」

 

「任せてる!」

 

「任せてねえよ!」

 

 即座に返された。

 

「哨戒だって行ってもらってるし、資材集めだって――」

 

「それは仕事を振ってるだけだ!」

 

「……」

 

 天龍が真っ直ぐ私を見る。

 

「お前がやること決めて、俺らに行かせて、その間に自分は別のことやってる。帰ってきたら全部自分で確認して、寝る時間まで削ってる」

 

「でも」

 

「それのどこが任せてんだよ」

 

 言葉が出ない。

 

「俺らを仲間にしたくせに、何で全部自分でやろうとしてんだ」

 

「全部じゃない」

 

「じゃあ何を任せてんだ?」

 

「だから、哨戒とか――」

 

「それ以外だよ」

 

「……」

 

 何を言われているのかは分かる。

 

 でも、どうしてそこまで言われるのかが、まだよく分からない。

 

「私が出来ることをやってるだけだよ」

 

「それで倒れたらどうすんだ」

 

「倒れないよ」

 

「何で分かる」

 

「今まで大丈夫だったから」

 

「今まで大丈夫だった奴は、これからも絶対大丈夫なのか?」

 

「それは……」

 

 違う。

 

 そんなことは分かっている。

 

「でも、誰かがやらないと」

 

「俺たちがいるだろ」

 

「……」

 

「電も、五月雨も、俺も、龍田も。五人いるんだぞ」

 

「分かってる」

 

「分かってねえよ」

 

「天龍ちゃん」

 

 後ろから声がした。

 

 振り返ると、龍田が立っていた。その後ろには電と五月雨もいる。

 

「……起こした?」

 

「これだけ騒いだら起きるわよ~」

 

「ごめん」

 

「謝るところそこじゃねえだろ」

 

「天龍ちゃんは黙って」

 

「何でだよ!」

 

 龍田がこちらへ来る。

 

「多摩ちゃん」

 

「何?」

 

「私たち、そんなに頼りない?」

 

「違うって!」

 

「じゃあ、少しくらい頼ってもいいんじゃない?」

 

「頼ってるよ」

 

「本当に?」

 

「……」

 

 言葉に詰まる。

 

 電が私を見る。

 

「司令官さん」

 

「うん」

 

「電たちは、司令官さんのお仕事を取ろうとしているわけじゃないのです」

 

「分かってる」

 

「でも、司令官さんのお仕事を少し手伝うことは出来るのです」

 

「……」

 

「資材の確認くらいなら、私も出来ます!」

 

 五月雨が続ける。

 

「記録も教えてもらえればやります!」

 

「五月雨は一回間違えそうだけど」

 

「天龍さん!」

 

「でも覚えりゃ出来るだろ」

 

「……はい!」

 

 天龍が私を見る。

 

「ほら」

 

「何が」

 

「任せろよ」

 

「……」

 

「全部じゃなくていい」

 

 少し間を置いて。

 

「一回くらい、人に任せろ」

 

 私は答えられなかった。

 

 出来ないと思っているわけじゃない。

 

 信用していないわけでもない。

 

 なのに。

 

「……今日はもう寝ろ」

 

「でも、明日の――」

 

「俺がやる」

 

「分かるの?」

 

「教えろ」

 

「今から?」

 

「必要なところだけな。あとは明日やる」

 

「でも朝――」

 

「俺が起きる」

 

「六時だよ?」

 

「起きる」

 

「天龍ちゃんが?」

 

「龍田、お前は黙ってろ」

 

「あら~?」

 

 いつものやり取り。

 

 なのに、私は少しだけ居心地が悪かった。

 

 自分がやるはずだったことを、誰かに渡す。

 

 それだけなのに。

 

 思っていたよりずっと、落ち着かなかった。

 

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