艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第十四話

 目が覚めた時。

 

「……明るい」

 

 最初に思ったのは、それだった。

 

 窓から差し込んでいる光が、明らかにいつもの朝より強い。

 

「……?」

 

 ぼんやりと天井を見る。

 

 何かがおかしい。

 

 何だっけ。

 

 昨日。

 

 天龍に怒られて。

 

 夜中の三時で。

 

 それから――

 

「今何時!?」

 

 飛び起きた。

 

 時計を見る。

 

「……九時?」

 

 もう一度見る。

 

 九時。

 

「嘘でしょ!?」

 

 慌てて部屋を飛び出した。

 

 食堂へ行くと。

 

「あ、司令官さん。おはようございますなのです」

 

「おはようございます、多摩さん!」

 

 電と五月雨が普通に朝食を食べていた。

 

「お、おはよう……じゃなくて!」

 

「どうしたのです?」

 

「九時だよ!?」

 

「九時なのです」

 

「何で起こしてくれなかったの!?」

 

 二人が顔を見合わせる。

 

「天龍さんが起こすなって」

 

「天龍が?」

 

「お前、何時に寝たと思ってんだ」

 

 奥から声がした。

 

 天龍がやってくる。

 

 眠そうだ。

 

「……天龍も眠そうじゃん」

 

「誰のせいだと思ってんだ!」

 

「私?」

 

「お前以外に誰がいる!」

 

 そういえば。

 

 昨日、六時に起きると言っていた。

 

「本当に起きたんだ」

 

「約束したからな」

 

「天龍ちゃん、目覚まし三回止めてたけどねぇ」

 

 龍田が後ろから顔を出す。

 

「余計なこと言うな!」

 

「でも起きたでしょう?」

 

「起きた!」

 

「えらいえらい」

 

「子供扱いすんな!」

 

 いつもの二人だ。

 

 いや。

 

「そうじゃなくて、朝の確認は?」

 

「やった」

 

 天龍が答えた。

 

「資材は?」

 

「見た」

 

「食料は?」

 

「電が見たのです」

 

「装備は?」

 

「妖精さんに聞いた。急ぎはねえってよ」

 

「今日の哨戒は?」

 

「それは決めてねえ」

 

「……え?」

 

 天龍が呆れたように私を見る。

 

「そこは提督の仕事だろ」

 

「……」

 

「何でもかんでも勝手に決めるって話じゃねえぞ」

 

「ああ……」

 

 そういうことか。

 

「朝飯残してあるぞ」

 

「……ありがとう」

 

「礼はいいから食え」

 

「はい」

 

 何だろう。

 

 昨日までなら、九時まで寝た時点で一日を無駄にした気がしていたと思う。

 

 でも。

 

 資材も。

 

 食料も。

 

 装備も。

 

 別に何も困っていない。

 

「……回ってる」

 

「何が?」

 

「いや、なんでもない」

 

 席に座る。

 

 私が寝ていても。

 

 朝は来るらしい。

 

 遅い朝食を終えてから、全員で今日の予定を決めることにした。

 

「じゃあ今日は……」

 

 いつものように口を開いて。

 

 少し止まる。

 

 四人がこちらを見ていた。

 

「何だよ」

 

「いや」

 

 昨日のことを思い出す。

 

 一回くらい、人に任せろ。

 

「……天龍」

 

「おう」

 

「昨日確認した資材、どうだった?」

 

「燃料は余裕あり。弾薬も今すぐ取りに行くほどじゃねえ。鋼材は結構ある」

 

「食料は?」

 

「二、三日は大丈夫なのです」

 

 電が答える。

 

「装備は急ぎなしだったよね」

 

「ああ」

 

「じゃあ今日は資材回収なしでいいか」

 

「そういうことだな」

 

 決めるのは私。

 

 でも。

 

 全部を自分で見たわけじゃない。

 

 少し変な感じがする。

 

「哨戒は昨日と範囲を変えたいんだけど……電」

 

「はいなのです」

 

「昨日の海の様子、もう一回教えて」

 

「分かったのです!」

 

 電から話を聞いて。

 

 五月雨からも補足をもらう。

 

 それを元に今日の範囲を決める。

 

「じゃあ、天龍と龍田がこっち。電と五月雨は近場をお願い」

 

「多摩は?」

 

 天龍に聞かれる。

 

「私は――」

 

 資材でも探しに行こうか。

 

 そう言いかけて。

 

 止まった。

 

 足りている。

 

 今。

 

 自分で確認したわけではないけれど。

 

 皆がそう言っている。

 

「……今日は鎮守府にいる」

 

「そうしろ」

 

「何その言い方」

 

「また一人でどっか行くって言ったら縛っとこうと思ってた」

 

「怖いよ」

 

「天龍ちゃんじゃ無理でしょう?」

 

「何でだよ」

 

「私なら出来るわよ~」

 

「龍田も怖いよ」

 

 どうしてこの姉妹はすぐ物騒な方向へ行くんだろう。

 

 皆が出たあと。

 

 鎮守府に残った私は。

 

「……暇だ」

 

 思わず呟いた。

 

 やることはある。

 

 もちろんある。

 

 でも。

 

 今までみたいに、目についたものを全部自分で処理しようとしなければ。

 

 思っていたより少ない。

 

「こんなもんなの?」

 

 妖精さんが首を傾げる。

 

「聞いても分からないよね」

 

 とりあえず、昨日途中だった哨戒範囲の整理だけ終わらせる。

 

 それから。

 

 資材の記録へ手を伸ばしかけた。

 

「……」

 

 止まる。

 

 昨日、天龍が確認した。

 

 なら。

 

 今もう一度見る必要はない。

 

「……気になる」

 

 ものすごく気になる。

 

 本当に合っているのか。

 

 見落としはないか。

 

「一回くらい、人に任せろ……か」

 

 自分で呟く。

 

 手を引っ込めた。

 

「……落ち着かないなぁ」

 

 昼前。

 

 近場を回っていた電と五月雨が戻ってきた。

 

「ただいまなのです!」

 

「ただいま戻りました!」

 

「おかえり。何かあった?」

 

「異常なしなのです」

 

「海も静かでした!」

 

「了解」

 

 いつものように記録へ手を伸ばす。

 

「あ」

 

 五月雨が声を上げた。

 

「何?」

 

「それ、私が書いてもいいですか?」

 

「これ?」

 

「はい!」

 

 哨戒の記録。

 

 どこを回ったか。

 

 何か異常があったか。

 

 大した内容ではない。

 

「でも五月雨――」

 

「間違えるかもしれません!」

 

「自分で言うんだ」

 

「でも!」

 

 五月雨は少し力を入れて続ける。

 

「間違えたら、直せばいいんですよね?」

 

「……」

 

 どこかで聞いたような。

 

「多摩さんが言ってくれたじゃないですか」

 

 嫌な予感がする。

 

「失敗したからって、全部自分で背負わなくていいって」

 

「……それ、私にも使うの?」

 

「はい!」

 

 即答だった。

 

 電が横で頷いている。

 

「司令官さんにも同じなのです」

 

「……」

 

 言った。

 

 確かに言った。

 

 五月雨に。

 

 失敗してもいい。

 

 一緒にどうにかしよう。

 

「自分で言ったことだろ?」

 

「うわっ」

 

 いつの間にか天龍たちも戻っていた。

 

「聞いてたの?」

 

「最後だけな」

 

「多摩ちゃん、自分だけ例外はずるいわよ~」

 

 龍田まで。

 

「……分かったよ」

 

 私は記録を五月雨へ渡す。

 

「やってみて」

 

「はい!」

 

「分からなかったら聞いて。勝手に想像で埋めないこと」

 

「はい!」

 

「書いたら一回見せて」

 

「はい!」

 

 元気がいい。

 

 少し不安だ。

 

「顔に出てるぞ」

 

 天龍が笑う。

 

「だって五月雨だよ?」

 

「多摩さん!?」

 

「冗談」

 

「絶対本気でした!」

 

 否定はしない。

 

 その日の午後。

 

 五人で一度、鎮守府の中の仕事を整理することになった。

 

 きっかけは天龍だった。

 

「今のままだと、またこいつ全部やり始めるだろ」

 

「こいつ言うな」

 

「違うのか?」

 

「……」

 

 否定しきれない。

 

「だから最初から分けときゃいいんだよ」

 

「分けるって?」

 

「誰が何見るか」

 

 なるほど。

 

 龍田が楽しそうに笑う。

 

「じゃあ私は天龍ちゃんを見る係ね~」

 

「いらねえ!」

 

「残念」

 

「真面目にやって!」

 

「は~い」

 

 話し合った結果。

 

 食料や町から受け取ったものは、電が中心になって確認する。

 

 哨戒の記録は五月雨。

 

 資材と装備については天龍と龍田が妖精さんたちと確認する。

 

 もちろん、それぞれ一人だけで全部やるわけではない。

 

 手が空いている人が手伝う。

 

 ただ。

 

 誰が最初に見るかだけを決めた。

 

「で、お前は最後に聞け」

 

 天龍が言う。

 

「最後に?」

 

「何か足りねえとか、壊れてるとか、そういうのがあったら俺らが言う」

 

「でも全部見ないと――」

 

「また始まったぞ」

 

「……」

 

「必要なとこだけ見りゃいいだろ。何も問題ねえのに毎回最初から全部確認する必要あるか?」

 

「……ない、かも」

 

「だろ?」

 

 龍田が続ける。

 

「多摩ちゃんが決めないといけないことは、多摩ちゃんが決めればいいのよ。でも、そのための材料まで全部一人で集めなくてもいいでしょう?」

 

「材料……」

 

「私たちが持ってくるのです」

 

 電が言う。

 

「それで司令官さんが決めるのです」

 

「……」

 

 それなら。

 

 出来る気がする。

 

 全部渡してしまうわけじゃない。

 

 提督じゃなくなるわけでもない。

 

 ただ。

 

 一人で全部見なくていい。

 

「じゃあ……やってみようか」

 

「最初からそう言え」

 

「天龍が偉そう」

 

「誰のせいでこんな話してんだよ!」

 

「私です」

 

「素直に認めんな!」

 

 怒られた。

 

 夜。

 

 夕食を終えて。

 

 私はいつもの癖で資材置き場へ向かおうとした。

 

「多摩」

 

「……何」

 

「どこ行く」

 

「ちょっと確認を」

 

「俺がやった」

 

「でも」

 

「燃料、弾薬、鋼材、全部問題なし。装備も急ぎなし」

 

「……本当に?」

 

「疑ってんのか?」

 

「そういうわけじゃ」

 

「なら終わり」

 

「……」

 

 行く理由がなくなった。

 

「食料も大丈夫なのです」

 

 電が言う。

 

「今日の哨戒記録も書きました!」

 

 五月雨が紙を持ち上げる。

 

「見せて」

 

「はい!」

 

 受け取って確認する。

 

 文字が少し曲がっている。

 

 でも。

 

 内容は合っている。

 

「……ちゃんと出来てる」

 

「本当ですか!?」

 

「うん」

 

「やった!」

 

「そんなに驚くなよ」

 

「天龍さん!」

 

 笑い声が広がる。

 

「じゃあ」

 

 天龍が私を見る。

 

「今日のお前の仕事、終わりな」

 

「……まだ十時だよ?」

 

「十時だから何だよ」

 

「寝るには早くない?」

 

「昨日四時まで起きてた奴が言うな」

 

「一昨日ね」

 

「どっちでもいい!」

 

 龍田が笑う。

 

「今日はゆっくりしたら?」

 

「ゆっくりって……」

 

 何をすればいいんだろう。

 

「お風呂入るとか」

 

「本読むとか」

 

「電たちとお話するのです!」

 

「寝る」

 

 天龍だけ選択肢がおかしい。

 

「天龍ちゃんも昨日あまり寝てないでしょう?」

 

「誰のせいだ」

 

「……ごめん」

 

「そこで素直になるな。調子狂う」

 

 少し考えて。

 

 椅子に座り直す。

 

「じゃあ、少しここにいる」

 

「何すんだ?」

 

「何もしない」

 

「出来んのか?」

 

「失礼だな」

 

 そう言ったものの。

 

 最初の十分くらいは、かなり落ち着かなかった。

 

 資材は大丈夫だろうか。

 

 装備は。

 

 明日の哨戒は。

 

 でも。

 

 全部、明日でも間に合う。

 

 必要なことがあれば。

 

 誰かが言ってくれる。

 

「……天龍」

 

「あ?」

 

「明日の朝、資材の方お願いしていい?」

 

 一瞬。

 

 天龍が目を丸くした。

 

 それから。

 

「おう」

 

 笑った。

 

「任せろ」

 

 その言葉を聞いて。

 

 まだ少しだけ落ち着かないまま。

 

「うん。任せる」

 

 今度は。

 

 ちゃんと言えた。

 

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