艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

17 / 17
第十六話

 天龍と二人で哨戒に出た次の日。

 

 朝食を終えて、今日の予定を決めていた時だった。

 

「司令官さん!」

 

 外にいた電が、珍しく慌てた様子で食堂へ飛び込んできた。

 

「どうしたの?」

 

「お、お客さんなのです!」

 

「お客さん?」

 

 最近は町の人が来ることもある。

 

 食料を持ってきてくれたり、何か手伝ってほしいと言われたり。

 

 だから最初は、またその辺りだと思った。

 

「誰?」

 

「軍の人なのです」

 

「……え?」

 

 食堂が静かになった。

 

 天龍が椅子から立ち上がる。

 

「軍?」

 

「はいなのです」

 

「何人?」

 

「二人です」

 

 龍田もいつもの笑顔のまま、少しだけ目を細めた。

 

「とうとう来たのねぇ」

 

「みたいだね」

 

 数日前。

 

 町へ軍から確認の電話があった。

 

 何人かの艦娘がこの辺りで活動しているらしい。

 

 それは本当か。

 

 聞かれたのは、それだけだった。

 

 だから。

 

 いつか来るだろうとは思っていた。

 

「どうします?」

 

 五月雨が不安そうに私を見る。

 

「どうするって……」

 

 逃げるわけにもいかない。

 

 ここにいることは、もう知られている。

 

「会うよ」

 

「大丈夫なのです?」

 

「分からない」

 

 正直に答える。

 

「でも、話もしないで軍から逃げ回るわけにもいかないでしょ」

 

「そうだな」

 

 天龍が頷く。

 

「俺も行く」

 

「私も~」

 

「全員で行ったら威圧してるみたいにならない?」

 

「向こうも軍人二人で来てるんだろ?」

 

「それはそうだけど」

 

「だったらいいじゃねえか」

 

「どういう理屈」

 

 結局。

 

 全員で迎えることになった。

 

 玄関へ向かう。

 

 そこには二人の男性が立っていた。

 

 一人は四十代くらい。

 

 もう一人はそれより若い。

 

 二人とも軍服を着ている。

 

 武器を構えているわけではない。

 

 けれど。

 

 軍服を見るだけで、自然と身体に力が入った。

 

「お待たせしました」

 

 私が前へ出る。

 

 年上の男性がこちらを見る。

 

 一度。

 

 私を上から下まで確認するように見て。

 

「軽巡洋艦、多摩で間違いないか」

 

「……はい」

 

「そして、ここで提督を名乗っている」

 

「名乗っているというか……そうなっているというか」

 

「そうなっている?」

 

「説明すると長いです」

 

「そうか」

 

 困ったような顔をされると思ったけれど。

 

 男性はそれ以上追及しなかった。

 

 代わりに。

 

 私の後ろへ目を向ける。

 

「電」

 

「……はいなのです」

 

 電の身体が少し強張った。

 

 私は無意識に半歩前へ出る。

 

 けれど。

 

 男性の口から出た言葉は。

 

「無事だったか」

 

「……え?」

 

 電が目を丸くする。

 

 私も。

 

 たぶん他の皆も。

 

 想像していなかった。

 

「……はいなのです」

 

「そうか」

 

 それだけ言って、男性は小さく頷いた。

 

「五月雨もいるな」

 

「は、はい!」

 

「天龍、龍田」

 

「おう」

 

「はい~」

 

 全員知っている。

 

 当たり前といえば当たり前か。

 

 軍にいた艦娘なのだから。

 

「今日は何の用ですか?」

 

 私が聞く。

 

「まずは事実確認だ」

 

「事実確認?」

 

「ああ。ここに軍の管理下にない艦娘が複数集まり、周辺海域で活動しているという報告がある」

 

「……はい」

 

「そして」

 

 男性が鎮守府を見る。

 

「軍が設置した覚えのない施設が存在している」

 

「それは……」

 

 説明が難しい。

 

「昨日まで何もなかった場所に突然出来た、という話まで聞いている」

 

「だいたい合ってます」

 

 若い方の軍人が、初めて表情を崩した。

 

「合っているのか……」

 

「なんででしょうね」

 

「あなたが言うのか」

 

「だって本当にそうなんで」

 

 妖精さんが作った。

 

 それ以上。

 

 私にも説明出来ない。

 

「中を確認しても?」

 

 年上の男性が聞く。

 

「……何をするんです?」

 

「施設の確認だ。武器を取り上げるつもりも、今すぐ誰かを連れていくつもりもない」

 

「今すぐ?」

 

 天龍が反応した。

 

「その言い方、後なら連れてくってことか?」

 

「決まっていない」

 

「なら何で――」

 

「天龍」

 

 止める。

 

「でもよ」

 

「まだ話してる途中」

 

「……分かったよ」

 

 天龍が一歩下がる。

 

 男性はそれを見てから、もう一度私へ視線を戻した。

 

「こちらも、状況を把握していない」

 

「軍なのに?」

 

「軍だから何でも知っていると思わないでもらいたい」

 

「……それはそうですね」

 

 妙に納得してしまった。

 

 鎮守府の中を案内する。

 

 食堂。

 

 寮。

 

 工廠。

 

 入渠施設。

 

 資材置き場。

 

 男性二人は、場所を見るたびに何かを記録していた。

 

「工廠まであるのか」

 

「装備は作れます」

 

「艦娘は?」

 

「作れません」

 

「……そうか」

 

「そこ、聞くんですね」

 

「重要だからな」

 

「私も最初に確認しました」

 

 若い軍人がこちらを見る。

 

「確認したのか?」

 

「ゲームでは出来たので」

 

「ゲーム?」

 

「忘れてください」

 

「……そうする」

 

 危ない。

 

 説明するとさらに長くなる。

 

 入渠施設では、二人とも少し長く足を止めた。

 

「ここは実際に使えるのか?」

 

「使えます」

 

「電も?」

 

「使ったのです」

 

「……そうか」

 

 まただ。

 

 電に対して。

 

 妙に。

 

 反応が違う。

 

「何ですか?」

 

 思わず聞いてしまった。

 

「何がだ」

 

「さっきから電のこと気にしてません?」

 

 男性がこちらを見る。

 

 少しだけ迷ったように見えた。

 

「以前の記録を知っているだけだ」

 

「以前の?」

 

「その話は今日の目的ではない」

 

「……」

 

 はぐらかされた。

 

 でも。

 

 気になる。

 

 電を見る。

 

 本人も分からないようで、首を傾げていた。

 

 最後に執務室へ案内する。

 

 男性が机を見る。

 

「ここを使っているのか」

 

「一応」

 

「提督として?」

 

「一応」

 

「何故毎回答えに一応が付くんだ」

 

「私も自信ないからです」

 

「そうか……」

 

 今度は明らかに困った顔をされた。

 

「あ」

 

 そこで思い出す。

 

「そういえば」

 

 机の引き出しを開ける。

 

 ずっと入れていた紙。

 

 妖精さんから渡された。

 

 使い道の分からなかったもの。

 

「これ」

 

 男性へ渡す。

 

「……何だ?」

 

「鎮守府設置届」

 

「……」

 

 二人とも黙った。

 

「妖精さんに渡されました」

 

「妖精に?」

 

「はい」

 

「どこへ出すつもりだった」

 

「それが分からなくて困ってました」

 

「……」

 

 若い方が顔を逸らした。

 

 肩が少し震えている。

 

「笑ってません?」

 

「いや」

 

「笑ってるよね?」

 

「笑っていない」

 

「絶対笑ってる」

 

 年上の男性は紙をじっと見ていた。

 

「形式は……軍のものだな」

 

「え?」

 

「古いが、実際に使われていた形式に近い」

 

「妖精さん、どこから持ってきたの……」

 

 答えはない。

 

 部屋の隅にいた妖精さんは。

 

 何故か誇らしげだった。

 

「これを預かっても?」

 

 男性が聞く。

 

「いいんですか?」

 

「提出する場所を探していたんだろう?」

 

「まあ」

 

「なら、こちらで上に回す」

 

「……受理されるんです?」

 

「それを決めるのは私ではない」

 

「ですよね」

 

 そんな簡単に。

 

 はい鎮守府です。

 

 とはならないだろう。

 

「ただ」

 

 男性は紙を丁寧にしまう。

 

「存在しないものとして扱い続けることも、もう出来ない」

 

「……」

 

 それが。

 

 いい意味なのか。

 

 悪い意味なのか。

 

 まだ分からない。

 

「確認は以上だ」

 

 一通り話を終え、二人は玄関へ向かう。

 

「次は?」

 

 私が聞く。

 

「後日、改めて連絡する」

 

「軍から?」

 

「ああ」

 

「私たちをどうするか決めて?」

 

 少し。

 

 間があった。

 

「その可能性もある」

 

 天龍の表情が険しくなる。

 

 でも。

 

 男性は続けた。

 

「同時に、ここをどう扱うかも決めなければならない」

 

「ここを?」

 

「艦娘が五人。周辺海域の警戒を行い、民間人と協力関係にあり、補給と修理を行える施設まで存在する」

 

 鎮守府を振り返る。

 

「軍としても、無視出来る規模ではなくなっている」

 

「……」

 

「今日はそれを確認しに来た」

 

 男性が帽子を被り直す。

 

 そして。

 

 一度だけ電を見る。

 

「元気そうでよかった」

 

「……なのです?」

 

 電が困ったように答える。

 

「では」

 

 二人はそのまま帰っていった。

 

 姿が見えなくなってから。

 

「……何だったんだ?」

 

 天龍が最初に言った。

 

「分からない」

 

「怒られませんでしたね」

 

 五月雨が言う。

 

「怒られると思ってたの?」

 

「少し……」

 

「電もなのです」

 

「私も」

 

「多摩ちゃんも?」

 

 龍田に聞かれる。

 

「だって軍の許可なしで鎮守府作って、軍を離れた艦娘四人集めて、勝手に海守ってるんだよ?」

 

「改めて言うとすげえな」

 

「でしょ?」

 

「よく今まで何も来なかったな」

 

「ほんとだね」

 

 少し笑う。

 

 でも。

 

 気になることは残った。

 

 電への言葉。

 

 無事だったか。

 

 元気そうでよかった。

 

 軍は。

 

 電を捨てたんじゃなかったのか。

 

「……電」

 

「はい?」

 

「軍にいた時、あの人知ってた?」

 

「知らないのです」

 

「そっか」

 

 なら。

 

 余計に分からない。

 

「考えても仕方ないんじゃねえか?」

 

 天龍が言う。

 

「後で連絡するって言ってたんだろ」

 

「そうだけど」

 

「だったらその時聞けばいい」

 

「……そうだね」

 

 前なら。

 

 今日中に何か調べようとしていたかもしれない。

 

 軍について。

 

 電について。

 

 皆の記録について。

 

 でも。

 

 今は。

 

 分からないものは、分からない。

 

「じゃあ今日は?」

 

 五月雨が聞く。

 

「予定通り」

 

「哨戒なのです?」

 

「うん」

 

 私が答えると。

 

 天龍が少し笑った。

 

「今度は一人で別方向とか言わねえよな?」

 

「言わないよ」

 

「本当か?」

 

「しつこい」

 

「信用ねえからな」

 

「この前任せろって言ったの天龍じゃん」

 

「それとこれは別だ」

 

「ひどい」

 

 いつものやり取りに戻る。

 

 ただ。

 

 机の上から。

 

 一枚の紙がなくなった。

 

 ずっと行き先の分からなかった。

 

 鎮守府設置届。

 

 それが初めて。

 

 軍の手へ渡った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。