艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第十七話

 軍の人たちが来てから、数日。

 

 特に何も起きなかった。

 

「……遅くない?」

 

「何がだ?」

 

「返事」

 

 食堂で朝食を食べながら、私は天龍を見る。

 

「後日連絡するって言ってたでしょ」

 

「数日くらい待てよ」

 

「でも鎮守府設置届まで持っていったんだよ?」

 

「軍ってそういうの時間かかるんじゃねえの?」

 

「知らない」

 

「俺も知らねえよ」

 

 軍に所属していたとはいえ、天龍も書類を処理する側ではなかったらしい。

 

「気になるのです?」

 

 電が聞く。

 

「そりゃ気になるよ」

 

 受理されるとは思っていない。

 

 そもそも。

 

 妖精さんが勝手に作った鎮守府に、いつの間にか提督になっていた艦娘。

 

 そこへ軍を離れた艦娘が四人集まっている。

 

 私が軍の人間なら。

 

「……怪しいなぁ」

 

「今更かよ」

 

「改めて考えるとね」

 

「考えない方がいいんじゃないですか?」

 

 五月雨にまで言われた。

 

「それもそうか」

 

 とりあえず。

 

 今は待つしかない。

 

 その返事が来たのは。

 

 昼過ぎだった。

 

「司令官さん!」

 

「今度は何?」

 

「軍の人なのです!」

 

「来た?」

 

「来たのです!」

 

 電の後ろから天龍が顔を出す。

 

「今回は一人だぞ」

 

「この前の人?」

 

「ああ。年上の方」

 

 あの人か。

 

「じゃあ行こう」

 

「俺も行く」

 

「私も~」

 

「全員来るの?」

 

「前も全員だっただろ」

 

「まあいいけど」

 

 結局。

 

 また五人で迎えることになった。

 

 玄関前には、この前来た軍人が一人で立っていた。

 

「先日はどうも」

 

「こちらこそ」

 

 軽く頭を下げる。

 

「今日は返事ですか?」

 

「早いな」

 

「気になってたので」

 

「そうか」

 

 男性は持っていた鞄から一枚の紙を取り出した。

 

「まずこれを」

 

「はい」

 

 受け取る。

 

「……」

 

 見る。

 

 読む。

 

「……長い」

 

「読め」

 

「はい」

 

 横から天龍が覗き込む。

 

「何て書いてある?」

 

「今読んでる」

 

「分かるか?」

 

「たぶん」

 

「たぶんかよ」

 

 軍の書類らしい。

 

 難しい言い回しが多い。

 

 けれど。

 

 要するに。

 

「……鎮守府としては、まだ認められない?」

 

「そうなる」

 

「やっぱり」

 

 まあ。

 

 そう簡単にはいかないと思っていた。

 

「理由は?」

 

「まず、あなたに正式な提督任命の記録がない」

 

「はい」

 

「施設の設置経緯も不明」

 

「はい」

 

「所属艦も全員、現在の軍籍上ではここに配置されていない」

 

「はい」

 

「返事が軽いな」

 

「全部その通りなので」

 

「そうか」

 

 仕方ない。

 

「じゃあ、この鎮守府はどうなるんです?」

 

 五月雨が少し不安そうに聞く。

 

 男性は五月雨を見る。

 

「今すぐ閉鎖する予定はない」

 

「……え?」

 

「いいんですか?」

 

 私も聞き返した。

 

「現状、この施設は周辺海域の警戒と防衛に機能している。民間との関係も確認した」

 

「はい」

 

「補給と修理も独自に行えている」

 

「まあ、一応」

 

「そして、現時点で軍の作戦行動を妨害した事実もない」

 

「ないですね」

 

「なら、急いで排除する理由もない」

 

「……」

 

 思っていたより。

 

 ずっと普通だ。

 

「もっと、勝手なことするなって言われると思ってました」

 

「勝手なことをしている自覚はあるのか」

 

「あります」

 

「あるのか……」

 

「でも、なんでこうなったんでしょうね」

 

「あなたが言うのか」

 

 この前と同じような顔をされた。

 

「とにかく」

 

 男性は話を戻す。

 

「正式な扱いが決まるまでは、現状維持だ」

 

「現状維持」

 

「これまで通り周辺の警戒を続けても構わない。ただし、大規模な敵を発見した場合は単独で対処しようとせず、軍へ連絡してほしい」

 

「連絡?」

 

「ああ」

 

 もう一枚。

 

 今度は小さな紙を渡される。

 

 連絡先らしい。

 

「ここへ?」

 

「最寄りの軍施設へ繋がる」

 

「……電話あるんだ」

 

「あるだろう」

 

「いや、私たち軍との連絡手段なかったので」

 

「そうだったな」

 

「今まで何かあったらどうするつもりだったんだよ」

 

 天龍が言う。

 

「だから自分たちでどうにかしてたんでしょ」

 

「それがおかしいって話だろ」

 

「今更じゃない?」

 

「お前が言うな」

 

 怒られた。

 

「それから」

 

 男性の声が少し変わる。

 

「今後、最低限の活動記録をこちらにも共有してもらいたい」

 

「活動記録?」

 

「細かい書類を毎日出せという話ではない」

 

「よかった」

 

「そこまで嫌そうな顔をするな」

 

「軍所属じゃないのに書類増えるの嫌だなって」

 

「正式に認めろと言っているのはそちらだろう」

 

「……確かに」

 

 言われてみればそうだった。

 

「定期的に、周辺で深海棲艦を何体確認したか。戦闘があったか。大きな異常がなかったか。それだけでいい」

 

「それなら」

 

 今でも記録している。

 

「五月雨」

 

「はい!」

 

「今の記録使えそう?」

 

「使えると思います!」

 

「じゃあお願いしていい?」

 

「はい!」

 

 即答。

 

 少し前なら。

 

 自分でやると言っていたかもしれない。

 

 でも。

 

 五月雨はもう記録を任せている。

 

 なら。

 

 そのまま任せればいい。

 

 天龍がこっちを見た。

 

「何?」

 

「いや」

 

 少し笑っている。

 

「気持ち悪い」

 

「何でだよ!」

 

「話はそれだけですか?」

 

 龍田が聞く。

 

 男性は少し黙った。

 

「いや」

 

 やっぱり。

 

 何かある。

 

「もう一つ確認したいことがある」

 

「何です?」

 

 男性の視線が。

 

 私ではなく。

 

 電へ向いた。

 

「電」

 

「はいなのです」

 

 電の背筋が少し伸びる。

 

「あなたが軍を離れた時のことについて、話を聞きたい」

 

「……」

 

 空気が変わった。

 

「何で今更」

 

 天龍が低い声で言う。

 

「責めるためではない」

 

「じゃあ何だよ」

 

「確認だ」

 

「何を?」

 

 男性は天龍を見る。

 

「軍側の記録と、本人の認識が一致しているかを」

 

「……どういう意味?」

 

 今度は私が聞いた。

 

「そのままの意味だ」

 

「電は軍に捨てられたって」

 

「司令官さん」

 

 電が小さく私を止める。

 

「……」

 

 男性の表情が。

 

 少しだけ変わった。

 

「捨てられた?」

 

「違うのです?」

 

 電が聞いた。

 

 声は小さい。

 

「電は……もう必要ないから、軍から外されたのだと思っていたのです」

 

「……」

 

「戦いたくないと言って、敵も助けたいと言って……だから、電は使えないって」

 

 男性は黙って聞いていた。

 

「それで、一人でここに?」

 

「はいなのです」

 

「連絡は?」

 

「していないのです」

 

「何故」

 

 電が困ったように俯く。

 

「……する理由が、ないと思っていたのです」

 

 男性が目を閉じた。

 

 一瞬だけ。

 

「そうか」

 

 それだけ。

 

 でも。

 

 前に来た時とは違う。

 

 明らかに。

 

 何かがおかしい。

 

「……軍では、どういうことになってたんですか?」

 

 私が聞く。

 

 男性はすぐには答えなかった。

 

「それを話す前に」

 

「はい」

 

「電だけではなく、五月雨、天龍、龍田にも同じ確認をしたい」

 

「俺たちも?」

 

「ああ」

 

「何で」

 

「それぞれ、軍を離れた時に何を説明されたか。それを知りたい」

 

「……」

 

 天龍も黙った。

 

「今日全部話すんですか?」

 

「いや」

 

 男性は首を振る。

 

「一度にする必要はない」

 

「じゃあ」

 

「今日は電だけでいい」

 

 電を見る。

 

「話せるか?」

 

「……はいなのです」

 

「電」

 

 私が声をかける。

 

 電は私を見る。

 

 少し不安そうだった。

 

「私も一緒にいていい?」

 

 男性を見る。

 

「本人が構わないなら」

 

「電は?」

 

「……いてほしいのです」

 

「分かった」

 

 私は電の隣へ立つ。

 

 天龍たちも残ろうとする。

 

「お前らは」

 

「残る」

 

 天龍が即答した。

 

「俺らにも関係あるんだろ?」

 

「……そうだな」

 

 男性も断らなかった。

 

 場所を食堂へ移す。

 

 五人と。

 

 軍人一人。

 

 妙な組み合わせだ。

 

「では」

 

 男性が電を見る。

 

「まず、軍を離れた時のことを覚えている範囲で話してほしい」

 

「はいなのです」

 

 電がゆっくり話し始める。

 

 自分が。

 

 戦うことを嫌がったこと。

 

 敵も助けたいと言ったこと。

 

 命令に従えないことが増えたこと。

 

 そして。

 

 ある日。

 

 もう軍の任務には就かなくていいと言われたこと。

 

「その時」

 

 男性が聞く。

 

「『もう戻ってくるな』と言われたか?」

 

「……いいえ」

 

「『あなたは不要だ』とは?」

 

「言われてないのです」

 

「『軍との連絡を絶て』」

 

「それも……」

 

「では、何と言われた?」

 

 電は思い出すように目を伏せる。

 

「もう……戦わなくていい、と」

 

「……」

 

「これからは自由にしていい、と言われたのです」

 

 誰も何も言わない。

 

「それを」

 

 男性が静かに聞く。

 

「あなたは、捨てられたという意味だと思った?」

 

「……はいなのです」

 

 男性は。

 

 しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「そうか」

 

 また。

 

 同じ言葉を言った。

 

 ただ。

 

 今度は。

 

 少し苦そうに聞こえた。

 

「今日はここまでにしよう」

 

「え?」

 

 私が思わず聞き返す。

 

「軍側の記録も確認した上で、改めて話す」

 

「今ここで分からないんですか?」

 

「私が不用意に話すべきことではない」

 

「……」

 

「ただ」

 

 男性が電を見る。

 

「一つだけ言える」

 

「何なのです?」

 

「少なくとも」

 

 少しだけ。

 

 言葉を選ぶように間を置く。

 

「あなたを死なせるために、軍から外したわけではない」

 

「……え?」

 

「それだけだ」

 

 それ以上は。

 

 何も言わなかった。

 

 軍人が帰ったあと。

 

 食堂は静かだった。

 

「……どういう意味だと思う?」

 

 五月雨が言う。

 

「分からねえ」

 

 天龍が答える。

 

 龍田も珍しく何も言わない。

 

 私は電を見る。

 

「大丈夫?」

 

「……分からないのです」

 

「そっか」

 

「でも」

 

 電が胸元を握る。

 

「少しだけ……怖いのです」

 

「何が?」

 

「もし」

 

 電は言う。

 

「電がずっと、勘違いしていたのだとしたら」

 

「……」

 

「じゃあ今までのことは、何だったのかなって」

 

 答えられなかった。

 

 まだ。

 

 何も分かっていない。

 

 軍が何を考えていたのかも。

 

 どうして。

 

 こんなにも話が噛み合っていないのかも。

 

 ただ。

 

 一つだけ。

 

 今まで私たちが思っていた軍と。

 

 実際の軍は。

 

 少しだけ。

 

 違うのかもしれなかった。

 

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