艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第十八話

 軍の人が帰ったあと。

 

 電は、ずっと考え込んでいた。

 

 前みたいに、自分は軍に捨てられたのだと、それだけを思っているわけではない。

 

 むしろ。

 

 今はその逆だった。

 

「司令官さん」

 

「ん?」

 

「もし……軍が、本当に電を捨てるつもりではなかったのなら」

 

「うん」

 

「どうして、こんなことになったのでしょう」

 

「……それなんだよね」

 

 私も同じことを考えていた。

 

 昨日までなら。

 

 軍は電を使えないと判断して、見捨てた。

 

 そう考えれば一応は話が通った。

 

 でも。

 

 今日来たあの人は、電を見て最初に「無事だったか」と言った。

 

 帰る前にも。

 

 元気そうでよかった、と。

 

 そして最後には。

 

 電を死なせるために軍から外したわけではない。

 

 そうはっきり言った。

 

 そこまで聞けば。

 

 軍が電を捨てるつもりだったとは、もう考えにくい。

 

「たぶん」

 

 私は言う。

 

「軍が思ってたことと、電が受け取ったことが違うんだと思う」

 

「……はいなのです」

 

「でも、何でそこまで違ったのかは分からない」

 

 電は俯く。

 

「電が、勘違いしたのでしょうか」

 

「それだけじゃないと思うよ」

 

「でも」

 

「電は『もう戦わなくていい』『自由にしていい』って言われたんだよね?」

 

「はいなのです」

 

「それだけ言われて軍から外されたら、そう思ってもおかしくないよ」

 

「……」

 

「だから、次に来たら聞こう」

 

「何をなのです?」

 

「軍は何を考えてたのか。それと、何でそれを電にちゃんと伝えなかったのか」

 

 電が少しだけ顔を上げる。

 

「聞いてもいいのでしょうか」

 

「聞かないと分からないでしょ」

 

「……はいなのです」

 

 少しだけ。

 

 電の表情が和らいだ。

 

 その答えは。

 

 思っていたより早く来た。

 

 翌日。

 

「司令官さん!」

 

「今日は何?」

 

「軍の人なのです!」

 

「また?」

 

 昨日帰ったばかりだ。

 

 電の後ろから天龍が顔を出す。

 

「昨日の奴だぞ」

 

「年上の方?」

 

「ああ」

 

「早かったね」

 

「向こうも気になってたんじゃねえの?」

 

「かもね」

 

 昨日。

 

 軍側の記録を確認してから話すと言っていた。

 

 なら。

 

 たぶん今日はその続きだ。

 

 今回も食堂へ案内した。

 

 私たち五人。

 

 軍人一人。

 

 昨日と同じような並びだ。

 

「昨日の件について、確認が取れた」

 

 男性はそう言って、鞄から何枚かの紙を取り出した。

 

「まずは電について話したい」

 

「はいなのです」

 

 電が少し緊張した様子で答える。

 

「昨日、あなたが話した内容と軍側の記録を照らし合わせた」

 

「……はい」

 

「結論から言えば、あなたが軍を離れた理由については大きな食い違いはない」

 

 電の肩が少し下がる。

 

「命令への不服従。戦闘継続への強い抵抗。敵艦への救助を主張したことも記録されている」

 

「はいなのです」

 

「その状態で実戦任務を続けさせることは、本人にも周囲にも危険だと判断された」

 

 そこまでは。

 

 私たちが知っていた通りだ。

 

「そのため、電は実戦部隊から外された」

 

「……でも」

 

 電が小さく言う。

 

「それは、電がいらなくなったからではなかったのです?」

 

「違う」

 

 男性ははっきり答えた。

 

「少なくとも、軍側にその意図はなかった」

 

 分かっていた。

 

 昨日の言葉から。

 

 たぶんそうなのだろうとは思っていた。

 

 それでも。

 

 本人の口から否定されると。

 

 やっぱり少し違う。

 

「では」

 

 電が聞く。

 

「どういう意味だったのです?」

 

 男性は紙へ目を落とす。

 

「記録上では、戦闘任務から外し、以後の強制的な出撃を行わない。本人の意思を尊重し、非戦闘環境での生活を認める、とある」

 

「……」

 

「簡単に言えば」

 

 男性は電を見る。

 

「もう戦わせない、という判断だ」

 

「戦わせない……」

 

「ああ」

 

「それは」

 

 私が口を挟む。

 

「電のために?」

 

「そうだ」

 

 即答だった。

 

「このまま戦場に置き続けるべきではないと判断された。だから、もう戦わなくていいと伝えた」

 

 電が黙る。

 

「じゃあ」

 

 私は続ける。

 

「やっぱり、昨日言ってた通りなんですね」

 

「何がだ」

 

「電を死なせるために外したわけじゃない」

 

「当然だ」

 

 男性は少し眉を寄せる。

 

「むしろ逆だ」

 

「逆?」

 

「これ以上戦わせないためだ」

 

 電がゆっくり顔を上げる。

 

「生きていてほしいから、なのです?」

 

「ああ」

 

 今度も。

 

 迷わず答えた。

 

「……そうだったのです」

 

 電はそれだけ言った。

 

 嬉しいのか。

 

 困っているのか。

 

 まだ自分でも分からないような顔だった。

 

「それで」

 

 私は言う。

 

「一番聞きたかったんですけど」

 

「何だ」

 

「何でそれ、電にちゃんと説明しなかったんです?」

 

 男性の動きが止まった。

 

「……」

 

「電は『もう戦わなくていい』『自由にしていい』としか聞いてない」

 

「ああ」

 

「それで軍から外されたら、捨てられたと思ってもおかしくないですよね」

 

「……その点については」

 

「しかも」

 

 私は電を見る。

 

「この子、ここでずっと一人で戦ってたんですよ」

 

 男性の表情が硬くなる。

 

「それは昨日聞いた」

 

「軍は知らなかった?」

 

「ああ」

 

「何かあったら連絡しろって言ったんですか?」

 

「……」

 

「言ってないんですね」

 

「明確には」

 

「それ、分からないですよ」

 

 少し。

 

 声が強くなる。

 

「軍の方では『戦わなくていいから自由に暮らしてくれ』だったのかもしれない。でも電の方は『もうお前はいらない』って受け取ってた」

 

「……」

 

「それで、何かあったら自分から連絡してくるだろうって?」

 

「その想定だった」

 

「無理がありますよ」

 

「否定はしない」

 

 あっさり認められて。

 

 逆に言葉に詰まった。

 

「……認めるんですね」

 

「事実だからな」

 

 男性は紙を置く。

 

「当時の判断そのものが間違っていたとは思っていない。電をそのまま実戦部隊に置き続けることは出来なかった」

 

「はい」

 

「だが、その後の説明と支援は不十分だった」

 

 電が男性を見る。

 

「軍側は、戦わせないことが本人のためだと考えた。だが、その意図を本人に伝えきれなかった」

 

「……」

 

「そして、本人が困った時には連絡してくるものだと考えていた」

 

「電は」

 

 電が小さく言う。

 

「連絡してもいいと思っていなかったのです」

 

「……そうだろうな」

 

「軍から外されたのだから、もう軍とは関係ないのだと思っていたのです」

 

「その認識にさせたのはこちらの責任だ」

 

「……」

 

 電が少し驚いたように目を見開く。

 

「善意だったから問題なしってことじゃねえんだな」

 

 天龍が言った。

 

「違う」

 

 男性は天龍を見る。

 

「意図がどうであれ、結果として電を一人にした。それは事実だ」

 

「ならいい」

 

「よくはないだろう」

 

「そういう意味じゃねえよ」

 

 天龍が少しだけ目を逸らした。

 

「電」

 

 男性がもう一度呼ぶ。

 

「はいなのです」

 

「あなたを不要だと判断したわけではない」

 

「はい」

 

「あなたが戦うことを拒んだから、死んでも構わないと考えたわけでもない」

 

「……はいなのです」

 

「そこだけは、はっきり伝えておきたい」

 

 電は。

 

 少しの間、何も言わなかった。

 

 それから。

 

「……ありがとうございますなのです」

 

 静かに頭を下げた。

 

「次に」

 

 男性が別の紙を取る。

 

「五月雨」

 

「は、はい!」

 

 急に名前を呼ばれて、五月雨が背筋を伸ばす。

 

「あなたについても記録を確認した」

 

「……はい」

 

「あなたは、自分が何故ここへ来たと思っている?」

 

「それは……」

 

 五月雨が少し俯く。

 

「失敗が多かったからです」

 

「具体的には?」

 

「訓練でも、任務でも。何度もミスして……」

 

「それで?」

 

「だから、もう軍では使えないから、ここへ送られたんだと思ってました」

 

「そう説明されたのか?」

 

「……いいえ」

 

「では、何と?」

 

「ここへ行って、電ちゃんと合流するように。その後は現地に残るようにって」

 

 男性が頷く。

 

「命令としてはそれで合っている」

 

「じゃあ……」

 

「ただし」

 

 五月雨が止まる。

 

「あなたは軍から放逐されたわけではない」

 

「……え?」

 

「ここへ送ったのは、電への支援だ」

 

「……」

 

「はい?」

 

 私まで聞き返してしまった。

 

「支援?」

 

「ああ」

 

 電と五月雨が顔を見合わせる。

 

「軍は、電ちゃんがここにいることを知ってたんですか?」

 

 私が聞く。

 

「所在は把握していた」

 

「でも一人で戦い続けてたことは?」

 

「知らなかった」

 

「……そこはやっぱり知らなかったんだ」

 

「ああ」

 

「じゃあ五月雨を送ったのは」

 

「電がこの地域にいること。そして周辺で深海棲艦の活動が確認されていたためだ」

 

「つまり」

 

 天龍が言う。

 

「二人でここの海を見ろってことか?」

 

「簡単に言えばそうだ」

 

「それを本人にちゃんと言えよ!」

 

 天龍の声が響く。

 

「五月雨、完全に捨てられたと思ってたぞ!」

 

「……その点についても」

 

「説明不足?」

 

 私が聞く。

 

「そうなる」

 

「またですか」

 

「……ああ」

 

「軍、大丈夫?」

 

「返す言葉がない」

 

 本当に返ってこなかった。

 

「でも」

 

 五月雨がおずおずと手を上げる。

 

「私、失敗ばっかりだったのは本当です」

 

「ああ」

 

「だからここに送られたのも、本当なんですよね?」

 

「理由の一つではある」

 

 五月雨の顔が少し曇る。

 

「ただし、罰としてではない」

 

「……」

 

「失敗が続けば、本人だけでなく周囲も危険になる。だから配置を変える必要があると判断された」

 

「じゃあ私は」

 

「不要だったのではない」

 

 五月雨が目を見開く。

 

「前線の主力として運用を続けるより、別の場所で活動させる方がいいと判断された」

 

「……」

 

「艦娘として何も出来ないと判断されたわけではない」

 

「そう……だったんですか」

 

「ああ」

 

 五月雨はしばらく黙っていた。

 

 それから。

 

「……もっとちゃんと言ってほしかったです」

 

 小さく。

 

 でも、はっきりと言った。

 

「私、ずっと失敗したから捨てられたんだと思ってました」

 

「……すまない」

 

「あなたが決めたわけじゃないですよね?」

 

「そうだ」

 

「じゃあ謝られても困ります」

 

「それもそうだな」

 

 少しだけ。

 

 五月雨が笑った。

 

「でも、聞けてよかったです」

 

「そうか」

 

「はい」

 

 その隣で。

 

 電も小さく頷いていた。

 

「で」

 

 天龍が腕を組む。

 

「次は俺と龍田か?」

 

「そうなる」

 

「天龍ちゃん」

 

 龍田が静かに呼ぶ。

 

「何だよ」

 

「今日はここまででもいいんじゃない?」

 

「気になるだろ」

 

「気になるけど~」

 

 龍田は笑っている。

 

 いつものように。

 

 でも。

 

 その笑顔は少しだけ固い気がした。

 

「急いで全部聞かなくても、軍はもう逃げないでしょう?」

 

「逃げない」

 

 男性が答える。

 

「次に改めて話す」

 

「……分かったよ」

 

 天龍が椅子にもたれる。

 

「ちゃんと来いよ」

 

「ああ」

 

 男性が帰ったあと。

 

 食堂には五人だけが残った。

 

「……なんか」

 

 五月雨が最初に口を開く。

 

「思ってたのと、全然違いました」

 

「うん」

 

 私もそう思う。

 

 軍が艦娘を大事にしていた。

 

 だから全部問題なかった。

 

 そんな単純な話ではない。

 

 電は実際に一人になった。

 

 五月雨は自分を責め続けていた。

 

 その事実は変わらない。

 

 でも。

 

「捨てるつもりではなかったんだね」

 

「はいなのです」

 

 電が答える。

 

 昨日よりも。

 

 少しだけ、すっきりした顔をしていた。

 

「電は」

 

 一度言葉を探してから。

 

「……嬉しいのです」

 

「うん」

 

「ずっと、いらないと思われていたと思っていたから」

 

「そっか」

 

「でも」

 

 電は少し困ったように笑う。

 

「もう少し、ちゃんと言ってほしかったのです」

 

「それは本当にそう」

 

「五月雨もです!」

 

「二人ともだな」

 

 天龍が呆れたように言う。

 

「善意でやってんのに、伝わらなくて全部逆に受け取られてんじゃねえか」

 

「すごいよね」

 

「褒めてねえぞ」

 

「分かってる」

 

 龍田がくすくす笑う。

 

「天龍ちゃんたちの時も同じだったりしてねぇ」

 

「笑えねえ」

 

「私はちょっと気になるわ~」

 

「俺もだよ」

 

 天龍はそう言って。

 

 少しだけ黙った。

 

 今まで。

 

 私たちは軍を敵みたいに考えていた。

 

 艦娘を使って。

 

 必要がなくなれば捨てる。

 

 そういう場所なのだと。

 

 でも。

 

 どうやら。

 

 そんなに単純な話ではなかったらしい。

 

 悪意があったわけではない。

 

 だからと言って。

 

 何も悪くなかったわけでもない。

 

「……食い違ってたんだね」

 

「何がなのです?」

 

「軍が考えてたことと、皆が受け取ったこと」

 

「……はいなのです」

 

 たぶん。

 

 そこから。

 

 全部が始まった。

 

 なら。

 

 少しずつでも。

 

 今から話せばいい。

 

 少なくとも。

 

 もう、話す相手はいるのだから。

 

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