艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第二十話

 軍の人と話をしてから。

 

 少しだけ。

 

 本当に少しだけだけど。

 

 軍というものが、前ほど遠く感じなくなった。

 

 だからといって、急に仲良くなったわけじゃない。

 

 私たちは相変わらず正式な鎮守府ではないし、軍から命令を受ける立場でもない。

 

 ただ。

 

 何かあった時に、話せる相手がいる。

 

 それだけでも、前とはかなり違った。

 

「今日はどうする?」

 

 朝食のあと。

 

 天龍に聞かれ、私は昨日までの記録を見る。

 

「近場は静か。資材も問題なし。食料も――」

 

「大丈夫なのです」

 

 電が答える。

 

「装備も問題ないわよ~」

 

 龍田も続く。

 

「じゃあ今日は普通に哨戒かな」

 

「私、記録持ってきます!」

 

「今から?」

 

「忘れないうちに!」

 

「まだ何も起きてないよ」

 

「そうでした!」

 

 五月雨が慌てて止まる。

 

「先に書く気だったのかよ」

 

「違います!」

 

「何が違うんだ」

 

「天龍さん!」

 

 朝から元気だ。

 

「じゃあ今日は――」

 

 そこまで言った時だった。

 

 外から妖精さんが走ってくる。

 

「ん?」

 

 一人。

 

 何かを持っている。

 

「それ何?」

 

 机の上に置かれたのは。

 

 小さな紙。

 

「……手紙?」

 

 妖精さんが頷く。

 

「誰から?」

 

 今度は外を指差した。

 

 見る。

 

 玄関の方に。

 

 見覚えのある軍服が立っていた。

 

「また来たんですか」

 

「嫌そうだな」

 

「そういうわけじゃないです」

 

「顔に出ている」

 

「そんなに?」

 

「少し」

 

「気を付けます」

 

 いつもの軍人だった。

 

「今日は話じゃない」

 

「じゃあ何です?」

 

「依頼だ」

 

「……依頼?」

 

 その言葉に。

 

 全員が少しだけ反応した。

 

 食堂へ移る。

 

「軍が私たちに依頼?」

 

 天龍が聞く。

 

「ああ」

 

「命令じゃなくて?」

 

「お前たちは軍所属ではない」

 

「それはそうだけど」

 

「だから依頼だ」

 

 私は少し不思議な気分になる。

 

「何をすればいいんです?」

 

 男性が地図を広げた。

 

「ここから少し離れた海域で、深海棲艦の活動が増えている」

 

「数は?」

 

「まだ分からない」

 

「まだ?」

 

「偵察中だ」

 

 地図を見る。

 

 私たちが普段哨戒している範囲より、少し外側。

 

「軍だけじゃ足りないんですか?」

 

「足りないわけではない」

 

「じゃあ何で私たちに?」

 

「この海域に近いからだ」

 

「……ああ」

 

 それなら分かる。

 

「それと」

 

「まだあるんです?」

 

「今後、ここを正式にどう扱うか判断する材料にもしたい」

 

「……つまり」

 

 天龍が言う。

 

「俺たちが軍と一緒に動けるか見たいってことか?」

 

「そういうことだ」

 

「試されてる?」

 

「言い方を変えればな」

 

「変えてない気がする」

 

 龍田が笑う。

 

「でも、悪くないんじゃない?」

 

「龍田?」

 

「だって、正式に認めてもらうなら、何も見せないわけにはいかないでしょう?」

 

「それはそうだけど」

 

 私は地図を見る。

 

 軍から。

 

 初めて。

 

 私たちに協力を求めてきた。

 

 命令じゃない。

 

 依頼。

 

「断っても?」

 

「構わない」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「断ったら承認に響くとか」

 

「判断材料にはなる」

 

「やっぱり」

 

「だが、断ったという事実だけで不利益を与えるつもりはない」

 

「……難しい言い方するなぁ」

 

「軍だからな」

 

「便利ですね、それ」

 

「お互い様だろう」

 

 言われた。

 

「で」

 

 天龍が私を見る。

 

「どうする?」

 

「うーん」

 

 全員を見る。

 

 電。

 

 五月雨。

 

 天龍。

 

 龍田。

 

 誰も嫌そうではない。

 

 むしろ。

 

 少し興味があるように見える。

 

「私は受けてもいいと思う」

 

「電もなのです」

 

「私も!」

 

「俺も構わねえ」

 

「私もいいわよ~」

 

「全員一致だね」

 

 男性を見る。

 

「受けます」

 

「分かった」

 

「ただし」

 

「何だ」

 

「危険すぎるなら引きます」

 

「当然だ」

 

「軍の命令だからって無茶はしません」

 

「命令ではない」

 

「そうでした」

 

 まだ慣れない。

 

「具体的には?」

 

「明日、軍の哨戒部隊がこの海域へ入る」

 

「艦娘?」

 

「ああ」

 

「誰です?」

 

「それは現地で確認してくれ」

 

「秘密?」

 

「そういうわけではない」

 

「じゃあ教えてくれても」

 

「顔を見れば分かる」

 

「……知ってる艦娘?」

 

「おそらく」

 

 嫌な予感がする。

 

「私、名前先に言わないように気を付けよう」

 

「何の話だ?」

 

「こっちの話です」

 

 五月雨が少し笑っていた。

 

「多摩さん、前にやりましたもんね」

 

「忘れて」

 

「何だ?」

 

「忘れてください」

 

 軍人が首を傾げる。

 

 説明はしない。

 

「役割は?」

 

「周辺の偵察と、敵を発見した場合の報告。戦闘になれば、軍側部隊と協力して対処する」

 

「指揮は?」

 

「そこが今回の確認事項でもある」

 

「……?」

 

「軍側の指揮官と、お前が連携する」

 

「私?」

 

「ああ」

 

「艦娘としてじゃなくて?」

 

「両方だ」

 

「……」

 

 嫌な言葉を聞いた。

 

「兼任」

 

「何だ?」

 

「なんでもないです」

 

 天龍が笑っている。

 

「便利だな、兼任」

 

「うるさい」

 

 自分でもそう思ってる。

 

 軍人が帰ったあと。

 

 食堂には少し変な空気が残った。

 

「明日か」

 

 天龍が言う。

 

「うん」

 

「軍と一緒に戦うの、久しぶりなのです」

 

 電が少し緊張した声で言う。

 

「嫌?」

 

「嫌ではないのです」

 

「五月雨は?」

 

「私も大丈夫です!」

 

「本当?」

 

「はい!」

 

「天龍と龍田は」

 

「問題ねえ」

 

「私も~」

 

 なら。

 

 あとは。

 

「私か」

 

「何が?」

 

「軍の指揮官と連携」

 

「お前提督なんだろ?」

 

「一応」

 

「まだ一応って言うのかよ」

 

「正式じゃないし」

 

「でも俺らの提督だ」

 

「……」

 

 天龍がさらっと言う。

 

「だから普通にやれ」

 

「簡単に言うね」

 

「難しく考えすぎなんだよ」

 

「そうかな」

 

「そうだ」

 

 龍田も頷く。

 

「多摩ちゃん、私たちのことは任せてくれるんでしょう?」

 

「うん」

 

「なら、多摩ちゃんは自分の仕事をすればいいのよ」

 

「自分の仕事」

 

「指揮」

 

「……」

 

 前だったら。

 

 全部自分でやろうとしていた。

 

 艦娘として前に出て。

 

 提督として全部見て。

 

 全部決めて。

 

 全部確認する。

 

 でも。

 

 今は。

 

「分かった」

 

「おう」

 

「皆、お願いね」

 

「任せるのです!」

 

「はい!」

 

「おう」

 

「任せて~」

 

 全員。

 

 返事が早い。

 

「……頼もしいね」

 

「今更かよ」

 

「今更だね」

 

 翌朝。

 

 いつもより少し早く準備を終えた。

 

 装備。

 

 燃料。

 

 弾薬。

 

 全部確認済み。

 

 私だけで。

 

 ではない。

 

「問題なしなのです」

 

 電。

 

「記録用意しました!」

 

 五月雨。

 

「装備も大丈夫だ」

 

 天龍。

 

「妖精さんも準備出来てるわよ~」

 

 龍田。

 

「……よし」

 

 海へ出る。

 

 五人で。

 

 軍との合流地点へ向かう。

 

 少し進んだところで。

 

 遠くに人影が見えた。

 

「来たぞ」

 

 天龍が言う。

 

「うん」

 

 数人。

 

 こちらへ近付いてくる。

 

 軍所属の艦娘。

 

 先頭の一人が手を上げた。

 

「あなたたちが例の鎮守府の?」

 

「例のって」

 

「他に呼び方がないのよ」

 

「それもそうか」

 

 近付いてきた艦娘を見る。

 

 知っている。

 

 もちろん。

 

 知っている。

 

 でも。

 

 今度は。

 

 名前を言わない。

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

「いえ」

 

「変な子ね」

 

「よく言われます」

 

 後ろで五月雨が笑いを堪えている。

 

 後で覚えておこう。

 

「私はこの部隊の指揮を任されている」

 

 艦娘が名乗る。

 

 私はその名前を聞いて。

 

 今度こそ。

 

「よろしくお願いします」

 

 ちゃんと初対面の顔をした。

 

「あなたが多摩?」

 

「はい」

 

「提督でもあるって聞いたけど」

 

「……一応」

 

「本当なの?」

 

「私もまだよく分かってないです」

 

「大丈夫なのかしら」

 

「たぶん」

 

「不安になる返事ね」

 

 知ってる。

 

「でも」

 

 私は後ろを見る。

 

「皆がいるので」

 

 四人。

 

 全員がこちらを見ている。

 

「何とかします」

 

「そう」

 

 軍所属の艦娘が少し笑った。

 

「じゃあ」

 

 海の向こうを見る。

 

「一緒にやりましょう」

 

「はい」

 

 こうして。

 

 私たちにとって初めての、軍との共同任務が始まった。

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