艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第二十二話

 共同任務の翌日。

 

 特に何かが変わったわけではなかった。

 

 朝になれば起きて。

 

 朝食を食べて。

 

 哨戒の予定を決める。

 

 いつも通り。

 

「昨日の記録、出来ました!」

 

 五月雨が紙を差し出してくる。

 

「早いね」

 

「昨日のうちに書きました!」

 

「寝る前に?」

 

「はい!」

 

「何時?」

 

「十一時くらいです!」

 

「……普通だ」

 

「何ですか、その反応」

 

「いや」

 

 最近。

 

 時間の感覚に少し敏感になった気がする。

 

「多摩さんこそ何時に寝たのです?」

 

 電が聞いてくる。

 

「十一時半」

 

「本当に?」

 

 天龍まで。

 

「本当だよ!」

 

「確認したのか?」

 

「天龍ちゃん、そこまでしたら監視よ~」

 

「分かってるよ!」

 

「信用ないなぁ」

 

「誰のせいだ」

 

「……私です」

 

「素直でよろしい」

 

「腹立つ」

 

 そんな話をしていた時。

 

 外から妖精さんが走ってきた。

 

「また?」

 

 最近。

 

 この子たちが走ってくると、大体何かある。

 

 妖精さんは玄関の方を指差した。

 

「お客さん?」

 

 頷く。

 

「軍?」

 

 もう一度頷く。

 

「……ほんと増えたね」

 

「何が?」

 

「軍の来訪」

 

「前まで一人も来なかったのにな」

 

 天龍が立ち上がる。

 

「行く?」

 

「行く」

 

 私も席を立った。

 

 外にいたのは。

 

 いつもの軍人だった。

 

「おはようございます」

 

「ああ」

 

「昨日の結果?」

 

「それもある」

 

「それも?」

 

「今日は一つ、頼みがある」

 

「また依頼ですか?」

 

「戦闘ではない」

 

「じゃあ何です?」

 

 男性は少しだけ町の方を見る。

 

「町の人間と話がしたい」

 

「……町の?」

 

「ああ」

 

 少し意外だった。

 

「何の話を?」

 

「この地域の防衛についてだ」

 

「軍が?」

 

「軍が」

 

「今まで来なかったのに?」

 

「……」

 

 少し。

 

 空気が止まった。

 

「責めてるわけじゃないです」

 

「分かっている」

 

「ただ、町の人たちは結構その辺気にしてると思いますよ」

 

「それも聞いている」

 

「誰から?」

 

「あなたからだ」

 

「ああ」

 

 そうだった。

 

「じゃあ」

 

 私は少し考える。

 

「桂梧さんに話してみます」

 

「誰だ?」

 

「町の人たちの中では、一番話を通しやすい人です」

 

「任せる」

 

「私が?」

 

「こちらには誰が代表なのか分からない」

 

「それはそうですね」

 

 こういうところ。

 

 本当に軍は軍だ。

 

 海のことは知っていても。

 

 町の中のことまでは知らない。

 

「じゃあ行ってきます」

 

「私も行くのです!」

 

 電が言う。

 

「電も?」

 

「はいなのです」

 

「なら私も!」

 

 五月雨まで。

 

「全員で行くの?」

 

「俺らも行くか?」

 

 天龍が聞く。

 

「いや」

 

 さすがに多い。

 

「私と電でいいと思う」

 

「五月雨は?」

 

「留守番お願い」

 

「はい……」

 

 少し残念そう。

 

「あとで話すから」

 

「約束ですよ!」

 

「うん」

 

 龍田が笑う。

 

「じゃあ私たちはお留守番ね~」

 

「頼んだ」

 

 今度は。

 

 ちゃんと任せて。

 

 私と電。

 

 それから軍人の三人で町へ向かった。

 

「軍の人?」

 

 桂梧さんは。

 

 私たちを見るなり、少しだけ表情を硬くした。

 

「はい」

 

「何の用だ」

 

 軍人が前へ出る。

 

「この地域の防衛について、話をしたい」

 

「今更か?」

 

 いきなり。

 

 来た。

 

「桂梧さん」

 

「分かってる」

 

 でも。

 

 声は少し低い。

 

「電が一人で戦ってた時は何もしてくれなかった。それを今になって話だって?」

 

「……その件については」

 

 軍人が答える。

 

「軍側にも問題があった」

 

「問題?」

 

「電が軍を離れた後、こちらは本人が戦闘を続けていることを把握していなかった」

 

「知らなかった?」

 

「ああ」

 

「じゃあ何をしてた」

 

「……」

 

「桂梧さん」

 

 止める。

 

「その話、私たちも最近聞いた」

 

「嬢ちゃんたちも?」

 

「うん」

 

 電を見る。

 

「軍は、電を捨てたつもりじゃなかったみたい」

 

「……」

 

 桂梧さんが電を見る。

 

「本当なのか?」

 

「はいなのです」

 

「でもお前は」

 

「電も、捨てられたと思っていたのです」

 

「……」

 

「軍は、もう戦わなくていいと言ったのです。でも、電はそれを、もう必要ないという意味だと思っていたのです」

 

 桂梧さんの顔から。

 

 少しだけ怒りが抜けた。

 

「じゃあ」

 

「伝わってなかった」

 

 私が言う。

 

「軍が考えてたことと、電が受け取ったことが」

 

「それだけか?」

 

「それだけじゃない」

 

 軍人が答えた。

 

「その後の支援も不十分だった。連絡手段も明確に伝えなかった」

 

「……」

 

「結果として、この地域の人々にも負担をかけた」

 

 軍人が頭を下げた。

 

「申し訳なかった」

 

「……」

 

 私まで少し驚いた。

 

 軍人って。

 

 ちゃんと頭下げるんだ。

 

 いや。

 

 偏見か。

 

「顔を上げてくれ」

 

 桂梧さんが言う。

 

「別に謝らせたいわけじゃない」

 

 少し間を置く。

 

「ただ」

 

「はい」

 

「こいつらを、また勝手に放り出すようなことはするな」

 

 電。

 

 私。

 

 そして。

 

 鎮守府にいる皆。

 

 その全員を指しているのだと思う。

 

「承知している」

 

「本当に?」

 

「少なくとも、同じことを繰り返すつもりはない」

 

「……そうか」

 

 話は。

 

 そこから少しずつ進んだ。

 

 軍が今後。

 

 周辺で大きな深海棲艦の動きを確認した場合。

 

 鎮守府へ連絡する。

 

 必要なら。

 

 こちらからも軍へ連絡する。

 

 町の漁船についても。

 

 危険が高い時は早めに情報を回す。

 

「つまり」

 

 桂梧さんが言う。

 

「今までよりは、軍とも話が出来るってことか」

 

「そう考えてほしい」

 

「こいつらの鎮守府は?」

 

「まだ正式ではない」

 

「まだ?」

 

「検討中だ」

 

「どれくらいかかる」

 

「分からない」

 

「軍ってやつは」

 

「そこは私に言われても困る」

 

「あなたも大変だな」

 

「……否定はしない」

 

 少し。

 

 空気が柔らかくなった。

 

「でも」

 

 桂梧さんが私を見る。

 

「この子たちは、今まで通りここにいるんだろ?」

 

「そのつもりです」

 

「軍に連れていかれたりは?」

 

「現時点ではない」

 

 軍人が答える。

 

「正式にどう扱うにしても、本人たちの意向は確認する」

 

「本人たちの?」

 

「ああ」

 

「前はそんな話聞かなかったぞ」

 

「それも問題だった」

 

「……」

 

 桂梧さんが少し笑った。

 

「随分素直に認めるんだな」

 

「認めるべきことまで否定するつもりはない」

 

「そうか」

 

「はい」

 

「なら」

 

 一度。

 

 外を見る。

 

 海の方。

 

「今度はちゃんと話してくれ」

 

「承知した」

 

 帰り道。

 

「意外と普通に終わったね」

 

「何を期待していた」

 

「もっと揉めるかなって」

 

「私もそう思っていた」

 

「思ってたんだ」

 

「当然だ」

 

「軍の人でも緊張するんですね」

 

「する」

 

「へえ」

 

「何だその反応は」

 

「いや」

 

 人間なんだなと思った。

 

 言わないけど。

 

「司令官さん」

 

 電が私の袖を引く。

 

「ん?」

 

「電は」

 

 少し考えて。

 

「町の人たちにも、軍のことをちゃんと話せてよかったのです」

 

「そうだね」

 

「ずっと」

 

 電は前を見る。

 

「みんな、電のために怒ってくれていたのです」

 

「うん」

 

「でも、本当は少し違ったのだと分かったから」

 

「うん」

 

「それも、知ってほしかったのです」

 

「……そっか」

 

 町の人たちが軍を嫌っていた理由の一つ。

 

 それは。

 

 電を見捨てたと思っていたから。

 

 なら。

 

 そこが違ったと分かれば。

 

 少しずつ。

 

 変わるのかもしれない。

 

 鎮守府へ戻ると。

 

「遅え!」

 

 天龍に言われた。

 

「そんなに?」

 

「五月雨が十回くらい外見に行ってたぞ」

 

「十回も行ってません!」

 

「八回?」

 

「……六回くらいです」

 

「結構行ってるじゃん」

 

「だって気になったんです!」

 

「ごめんごめん」

 

 龍田が近付いてくる。

 

「どうだったの?」

 

「ちゃんと話せたよ」

 

「喧嘩しなかった?」

 

「しなかった」

 

「残念ねぇ」

 

「何を期待してたの?」

 

「冗談よ~」

 

 本当かな。

 

 食堂へ移って。

 

 町で話したことを皆へ伝える。

 

「じゃあ」

 

 五月雨が言う。

 

「町の人たちも、軍が電ちゃんを捨てたわけじゃないって知ったんですね」

 

「少なくとも桂梧さんは」

 

「そのうち他の人にも伝わるだろ」

 

 天龍が言う。

 

「そうだね」

 

「それでいいのです」

 

 電が笑う。

 

「うん」

 

 軍。

 

 町。

 

 私たち。

 

 今までは。

 

 それぞれが別々に考えて。

 

 別々に動いていた。

 

 でも。

 

 今日は。

 

 初めて。

 

 同じ場所で話をした。

 

 それだけ。

 

 本当に。

 

 それだけのことだった。

 

 でも。

 

「……こういうのでいいのかもね」

 

「何がだ?」

 

「んー」

 

 少し考えて。

 

「話すこと」

 

「今更だな」

 

「ほんとにね」

 

 天龍が笑う。

 

 私も笑った。

 

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