艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第二十四話

 軍から補給を受けるようになって。

 

 通信機まで置かれて。

 

 それでも。

 

 私たちの生活そのものは、あまり変わらなかった。

 

「五月雨、それ取って」

 

「はい!」

 

「電、そっちお願い」

 

「分かったのです!」

 

 朝食の後片付け。

 

 いつも通り。

 

「天龍ちゃん、お皿残ってるわよ~」

 

「今持ってく!」

 

「昨日も忘れてたよね」

 

「忘れてねえ! 後で持ってこうと思ってたんだよ!」

 

「それを忘れてたって言うんじゃない?」

 

「多摩は黙ってろ!」

 

「何で!?」

 

 いつも通り。

 

 軍との通信機は。

 

 今のところ、一度も鳴っていない。

 

 いや。

 

 一回だけ鳴った。

 

 慌てて出たら。

 

『通信確認だ』

 

 それだけだった。

 

 しかも。

 

「聞こえますか?」

 

『聞こえている』

 

「こっちも聞こえてます」

 

『では問題ない』

 

「……終わり?」

 

『終わりだ』

 

 切れた。

 

 軍って。

 

 そういうものなのかもしれない。

 

 そんなことがあってから。

 

 二日後。

 

 また鎮守府の前に軍の車が止まった。

 

「今度は何?」

 

 窓から見る。

 

「補給には早くねえか?」

 

 天龍も覗く。

 

「通信機あるのに直接来るんだ」

 

「何かあるんじゃない?」

 

 龍田が言う。

 

「嫌な言い方しないでよ」

 

「悪い意味とは言ってないわよ~」

 

「それもそうだけど」

 

 外へ出る。

 

 車から降りてきたのは。

 

 いつもの軍人。

 

 それと。

 

 もう一人。

 

 女性。

 

 和服に。

 

 袴。

 

 見覚えがある。

 

 ものすごくある。

 

「……」

 

 黙る。

 

 言わない。

 

 今回は。

 

 絶対に言わない。

 

「どうした?」

 

 軍人に聞かれる。

 

「なんでもないです」

 

「そうか」

 

「はい」

 

 後ろから五月雨が小声で。

 

「多摩さん」

 

「言わないよ」

 

「まだ何も言ってません」

 

「顔に書いてある」

 

「書いてません!」

 

 電が笑っている。

 

 最近。

 

 完全に遊ばれている気がする。

 

 女性が一歩前へ出る。

 

「初めまして」

 

 柔らかい声。

 

「航空母艦、鳳翔です」

 

 やっぱり。

 

「本日より、こちらでお世話になります」

 

「……はい?」

 

 待って。

 

「こちらで?」

 

「はい」

 

「お世話に?」

 

「はい」

 

 にこりと笑う。

 

「よろしくお願いいたします」

 

「……」

 

 軍人を見る。

 

「聞いてない」

 

「今伝えた」

 

「そういう意味じゃなくて!」

 

「だから今日来た」

 

「順番おかしくない!?」

 

「何がだ」

 

「普通、先に話しません!?」

 

「断るのか?」

 

「いや、そうじゃないけど!」

 

 鳳翔さんが少し困ったように笑っている。

 

「すみません。私から説明した方がよろしいでしょうか?」

 

「お願いします」

 

「いや。その前に私から話す」

 

「じゃあ最初からそうしてくださいよ」

 

「話そうとしていた」

 

「私が驚いたから?」

 

「ああ」

 

「……すみません」

 

 それは私が悪かった。

 

 場所を食堂へ移す。

 

 六人。

 

 いや。

 

 軍人を入れて七人。

 

 いつもより席が多い。

 

 それだけで。

 

 少し変な感じがする。

 

「まず」

 

 軍人が一枚の紙を机へ置いた。

 

「以前預かった鎮守府設置届についてだ」

 

「あ」

 

 最初の頃。

 

 妖精さんに渡された。

 

 何処へ出せばいいのかも分からなかった紙。

 

「どうなったんです?」

 

「受理された」

 

「……え?」

 

「受理された」

 

 二回言った。

 

「それって」

 

「ここを鎮守府として認めるということだ」

 

「……」

 

 全員。

 

 黙った。

 

「え?」

 

 もう一度。

 

 今度は私が言った。

 

「正式に?」

 

「ああ」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「やっぱり無しとか」

 

「ならない」

 

「後からやっぱり変だから駄目とか」

 

「しつこい」

 

「だって!」

 

 思っていたより。

 

 急だった。

 

 いや。

 

 急じゃない。

 

 最初に紙を渡してから。

 

 ずっと時間は経っている。

 

 軍の人が来て。

 

 話をして。

 

 共同任務をして。

 

 町とも話して。

 

 補給まで来た。

 

 ちゃんと。

 

 順番に進んでいた。

 

 でも。

 

「……そっか」

 

 実際に言われると。

 

 変な感じだ。

 

「ただし」

 

「やっぱり何かある」

 

「最後まで聞け」

 

「はい」

 

「通常の鎮守府とは多少扱いが異なる」

 

「多少?」

 

「施設が軍によって建設されたものではない。所属する艦娘も、現在は軍籍を外れている者が多い。そして」

 

 軍人が私を見る。

 

「司令官本人が艦娘だ」

 

「そこですよね」

 

「前例がない」

 

「でしょうね」

 

 私だって。

 

 ゲームやってた頃にこんなの見たことない。

 

「そのため、当面は周辺防衛を担当する鎮守府として運用し、軍とは協力関係を取る」

 

「軍から全部命令されるわけじゃない?」

 

「通常の鎮守府より裁量は大きい」

 

「今までの生活は?」

 

「基本的には変える必要はない」

 

「町との関係も?」

 

「ああ」

 

 少し。

 

 安心した。

 

「それと」

 

 軍人が新しい書類を出す。

 

「あなたについても、ここの司令官として正式に登録される」

 

「私?」

 

「他に誰がいる」

 

「いや、そうだけど」

 

 紙を見る。

 

 名前。

 

 多摩。

 

 その横。

 

 司令官。

 

「……本当に兼任になっちゃった」

 

「今までもそうだっただろ」

 

 天龍が言う。

 

「気分の問題!」

 

「諦めろ」

 

「嫌なところだけ現実的だなぁ」

 

「提督がそんなのでいいのです?」

 

 電まで。

 

「電?」

 

「冗談なのです」

 

「電まで冗談言うようになった……」

 

「誰の影響でしょうね~」

 

 龍田がこっちを見る。

 

「何で私を見るの」

 

「さあ~?」

 

 絶対私だと思ってる。

 

「電、五月雨、天龍、龍田については」

 

 軍人が続ける。

 

 少し。

 

 空気が変わった。

 

「軍へ戻ることを強制するつもりはない」

 

 四人が軍人を見る。

 

「ただ、本人が希望するのであれば、この鎮守府の所属艦として改めて登録することが出来る」

 

「……」

 

「それは」

 

 電が聞く。

 

「また、軍に戻るということなのです?」

 

「形式上は軍所属になる」

 

「……」

 

「ただし、現在の配置はここだ。別の基地へ戻れという意味ではない」

 

「ここにいていいのです?」

 

「ああ」

 

「司令官さんと?」

 

「ああ」

 

 電が私を見る。

 

「だったら」

 

 ほとんど迷わなかった。

 

「電は、ここがいいのです」

 

「電」

 

「ここで、司令官さんと一緒にいたいのです」

 

 軍人が頷く。

 

「分かった」

 

「私もです!」

 

 五月雨もすぐ続いた。

 

「私もここにいたいです!」

 

「五月雨」

 

「もう迷惑かけないように頑張ります!」

 

「いや、そこは普通にしてていいよ」

 

「はい!」

 

「返事だけはいいな」

 

「天龍さん!」

 

 いつものやり取り。

 

 軍人が少し笑っている。

 

「お前たちは?」

 

 天龍と龍田を見る。

 

「俺?」

 

「ああ」

 

「……まあ」

 

 天龍が少しだけ頭を掻く。

 

「今更、他行けって言われても困るしな」

 

「希望を聞いている」

 

「だったらここだ」

 

「そうか」

 

「俺は多摩の下でやる」

 

 さらっと言われた。

 

「……何?」

 

「何だよ」

 

「いや」

 

 ちょっと。

 

 照れる。

 

「私も天龍ちゃんと一緒なら、ここがいいわ~」

 

「龍田」

 

「それに」

 

 龍田が私を見る。

 

「多摩ちゃん見てないと、また夜中まで仕事しそうだもの」

 

「しないよ!」

 

「どうかしら~」

 

「しない!」

 

「三時」

 

 天龍。

 

「二時の日もあったのです」

 

 電。

 

「四時もありました!」

 

 五月雨。

 

「鳳翔さんがいる前でやめて!」

 

 初対面!

 

 鳳翔さんを見る。

 

「……」

 

 笑ってる。

 

 口元を押さえて。

 

「すみません」

 

「いえ」

 

 鳳翔さんが優しく答える。

 

「賑やかな鎮守府なのですね」

 

「いつもこんな感じです」

 

「良いことだと思います」

 

「そうですか?」

 

「はい」

 

 なら。

 

 いいのかな。

 

「それで」

 

 私は軍人を見る。

 

「鳳翔さんは?」

 

「ここからが本題だ」

 

「今まで本題じゃなかったんです?」

 

「重要な話ではあった」

 

「ですよね」

 

「鳳翔は軍から正式に、この鎮守府へ転属する」

 

「転属」

 

「ああ」

 

 今までとは違う。

 

 電も。

 

 五月雨も。

 

 天龍も。

 

 龍田も。

 

 それぞれの理由で軍を離れて。

 

 ここへ来た。

 

 でも。

 

 鳳翔さんは。

 

 軍から。

 

 ここへ送られてきた。

 

「何のために?」

 

「複数ある」

 

 軍人が指を折る。

 

「まず、生活面と補給面の支援」

 

「生活面」

 

「あなたたちだけで問題なく運営していることは確認している。ただ、今後人数が増えれば負担も増える」

 

「それはそうですね」

 

「次に、新しい艦娘が来た場合の教育や訓練」

 

「ああ」

 

 それも。

 

 今まで考えていなかった。

 

「そして軍との連絡役」

 

「連絡役」

 

「何かあった場合、鳳翔を通じて軍と調整することも出来る」

 

「なるほど」

 

「最後に」

 

「まだあるんです?」

 

「状況の確認だ」

 

 そこで。

 

 少しだけ引っかかった。

 

「……監視?」

 

 鳳翔さんを見る。

 

「私たちが変なことしてないか見るため?」

 

「その意味が全くないとは言わない」

 

 軍人が答える。

 

「正直だなぁ」

 

「正式に認める以上、軍として状況を把握する必要はある」

 

「まあ」

 

 分かる。

 

 分かるけど。

 

「鳳翔さんは」

 

「はい」

 

「監視役なんです?」

 

 本人に聞く。

 

 鳳翔さんは。

 

 少し考えて。

 

「そう思っていただいても構いません」

 

「構わないんだ」

 

「ですが」

 

 穏やかに続ける。

 

「それだけのために来たつもりはありません」

 

「……」

 

「私も、ここで皆さんと一緒に生活をすることになります」

 

「はい」

 

「でしたら」

 

 笑う。

 

「出来ることは、出来るだけお手伝いしたいと思っています」

 

「……そっか」

 

「よろしくお願いいたします。多摩さん」

 

「こちらこそ」

 

 少しだけ。

 

 警戒していたものが。

 

 抜けた。

 

「部屋は?」

 

 鳳翔さんが聞く。

 

「あ」

 

 そこ。

 

「あります!」

 

 五月雨が勢いよく立ち上がる。

 

「いっぱいあります!」

 

「五月雨」

 

「はい?」

 

「言い方」

 

「え?」

 

「いっぱい空いてるって言うと寂しい」

 

「す、すみません!」

 

「事実だろ」

 

 天龍。

 

「事実だけど!」

 

 鳳翔さんがまた笑った。

 

「では、一部屋お借りしますね」

 

「好きなところ選んでください」

 

「よろしいのですか?」

 

「ほとんど空いてるので」

 

「あ」

 

 自分で言った。

 

「多摩さんも言ってます!」

 

「今のは忘れて」

 

「無理です!」

 

 電まで笑っている。

 

 その後。

 

 軍人は必要な書類だけ置いて帰っていった。

 

 いや。

 

 必要な書類だけ。

 

 ではない。

 

 一人。

 

 置いていった。

 

「……本当に増えた」

 

 玄関で。

 

 鳳翔さんの荷物を見る。

 

「何か?」

 

「いえ」

 

 最初。

 

 電と二人だった。

 

 それから。

 

 五月雨。

 

 天龍。

 

 龍田。

 

 そして。

 

「六人か」

 

「私を含めて、ですね」

 

「はい」

 

「お邪魔ではありませんか?」

 

「まさか」

 

 即答した。

 

「むしろ」

 

 後ろを見る。

 

 五月雨と電が。

 

 どの部屋を案内するか相談している。

 

 天龍が荷物を持とうとして。

 

 龍田に「天龍ちゃん、それ女の子の荷物よ~」と言われて止まっている。

 

「賑やかになると思います」

 

「それは楽しみです」

 

「ただ」

 

「はい?」

 

「うち、結構変ですよ」

 

「そうなのですか?」

 

「妖精さんいるし」

 

「妖精さん?」

 

 鳳翔さんが少し周囲を見る。

 

 ちょうど。

 

 工廠の方から妖精さんが一人歩いてきた。

 

「あ」

 

 こっちに気付いた。

 

 止まる。

 

 鳳翔さんを見る。

 

「……」

 

 鳳翔さんも。

 

 妖精さんを見る。

 

「あら」

 

「見えるんです?」

 

「はい」

 

 普通に答えられた。

 

「……そっか」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや」

 

 そうだ。

 

 艦娘なんだから。

 

 見えてもおかしくない。

 

 妖精さんが鳳翔さんの前まで来る。

 

 じっと見上げる。

 

「初めまして」

 

 鳳翔さんが少し屈んだ。

 

「鳳翔です。本日からこちらでお世話になります」

 

 妖精さんが。

 

 ぺこり。

 

 頭を下げる。

 

 鳳翔さんも。

 

 同じように頭を下げた。

 

「よろしくお願いいたします」

 

 妖精さんが嬉しそうに跳ねる。

 

「気に入られたみたいですね」

 

「それならよかったです」

 

 最初から。

 

 普通に馴染んでいた。

 

 夕食。

 

 食卓に。

 

 皿が六つ並ぶ。

 

「……」

 

「多摩さん?」

 

 五月雨が気付く。

 

「何?」

 

「また数えてました?」

 

「数えてないよ」

 

「絶対数えてたのです」

 

「電まで!」

 

「最初は二つだったもんな」

 

 天龍が言う。

 

「三つになって」

 

「五つになって~」

 

 龍田。

 

「今日は六つですね」

 

 鳳翔さんが続けた。

 

「……そうですね」

 

 六つ。

 

 随分増えた。

 

「では」

 

 鳳翔さんが皆を見る。

 

「改めまして。本日からよろしくお願いいたします」

 

「よろしくなのです!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「よろしくな」

 

「よろしくね~」

 

 最後。

 

 私。

 

「よろしくお願いします」

 

「はい」

 

 鳳翔さんが笑う。

 

 正式な鎮守府になった。

 

 私も。

 

 正式に提督になった。

 

 でも。

 

 食事をして。

 

 話をして。

 

 笑って。

 

 明日の予定を決める。

 

 やっていることは。

 

 昨日までと。

 

 そんなに変わらない。

 

「多摩さん」

 

「はい?」

 

「明日の朝食ですが」

 

「はい」

 

「私が作ってもよろしいでしょうか?」

 

「……」

 

 全員。

 

 止まった。

 

「いいんですか?」

 

「もちろんです」

 

「本当に?」

 

「はい」

 

 天龍が。

 

 私を見る。

 

「多摩」

 

「何」

 

「明日から楽になるな」

 

「……」

 

 否定出来ない。

 

「鳳翔さん」

 

「はい」

 

「末永くよろしくお願いします」

 

「急に重くないですか?」

 

 鳳翔さんが。

 

 初めて少し困った顔をした。

 

 皆が笑った。

 

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