鳳翔さんと一緒に町へ行った翌日。
朝食を食べて。
今日の予定を決めて。
電と五月雨が近場の哨戒。
天龍と龍田が資材の確認。
鳳翔さんは妖精さんと一緒に食料と備品を見ることになった。
私は。
「じゃあ報告待ち」
「おう」
天龍が満足そうに頷く。
「何その顔」
「いや?」
「また成長したとか思ってる?」
「言ってねえだろ」
「顔に出てる」
「お前、最近それ好きだな」
言われた。
確かに。
「多摩さん」
鳳翔さんが声をかける。
「はい?」
「でしたら、こちらをお願いしてもよろしいですか?」
紙を渡される。
「何これ?」
「昨日購入したものの確認です」
「ああ」
「鎮守府の予算から出したものと、個人で購入したものを分けておいた方がよろしいかと」
「……」
「多摩さん?」
「正式な鎮守府っぽい」
「正式な鎮守府ですよ?」
「あ」
そうだった。
「まだ慣れてないんだよね」
「そのうち慣れますよ」
「かなぁ」
「きっと」
鳳翔さんが笑う。
その時だった。
部屋の向こうから。
音が鳴った。
「……」
全員。
止まる。
もう一度。
鳴る。
「通信機!」
立ち上がる。
「多摩、走んな!」
「分かってる!」
走っているけど。
通信機の置かれた部屋へ入る。
「はい!」
『多摩か』
聞き覚えのある声。
「はい。どうしました?」
『周辺海域で、深海棲艦の大きな移動を確認した』
「……大きな?」
後ろから。
皆も入ってくる。
『現時点で正確な数は分かっていない。ただ、これまでこの周辺で確認されていた規模より明らかに多い』
「こっちに来てるんですか?」
『可能性がある』
「可能性?」
『進路がまだ確定していない』
「分かりました」
少し考える。
「町には?」
『それを頼みたい』
「私たちから?」
『ああ。漁船を出さないよう伝えてほしい』
前だったら。
軍が何かを確認していても。
町には届かなかった。
今は。
違う。
「分かりました」
『こちらからも部隊を出す。詳細が分かり次第、改めて連絡する』
「はい」
『それと』
「何です?」
『今の段階で、お前たちだけで確認に出る必要はない』
「……」
後ろ。
天龍を見る。
目が合う。
『聞いているか?』
「聞いてます」
『確認のために単独で出るな』
「分かってますって」
『本当に?』
「何で軍にまで信用されてないの?」
『以前の話を聞いた』
「誰から!?」
通信が切れた。
「ちょっと!」
誰だ。
神通さんか。
いや。
他にも候補が多い。
「司令官さん」
電が少し真面目な顔になる。
「大きな群れなのです?」
「みたい」
「数は?」
「まだ分からない」
「じゃあ俺たちは?」
天龍。
「待つ」
答える。
「まず町に知らせる」
「おう」
天龍が。
少しだけ笑った。
「何」
「何でもねえ」
「絶対何か思ったでしょ」
「思ってねえよ」
「嘘」
「今それやってる場合か?」
「それはそう」
町へ。
先に知らせないと。
「多摩さん」
鳳翔さんが言う。
「私も参ります」
「鳳翔さんも?」
「軍からの情報について、私から説明出来ることもあると思います」
「ああ」
確かに。
「じゃあお願いします」
「はい」
「電たちは?」
「鎮守府に残るのです」
「連絡来るかもしれないもんね」
「はいなのです」
「五月雨、通信機お願い出来る?」
「はい!」
「内容を記録して、何かあったらすぐ呼んで」
「分かりました!」
「天龍と龍田は」
「装備見とく」
先に言われた。
「もし出ることになっても、すぐ動けるようにな」
「お願い」
「任せろ」
それぞれ。
動き始める。
私が。
一つずつ全部やる必要はない。
私と鳳翔さんは。
町へ向かった。
「今日はどうした?」
港へ着くと。
桂梧さんがいた。
「今日は船、出さないでください」
「何?」
すぐ。
表情が変わる。
「深海棲艦?」
「軍から連絡が来ました。この辺りに大きめの群れが来る可能性があるって」
「数は?」
「まだ分かってません」
「そうか」
桂梧さんが海を見る。
「分かった」
「早い」
「何がだ」
「もっと聞かれるかと思った」
「危ないって言ってるんだろ?」
「はい」
「なら出さん」
簡単だった。
「他の人にも伝える」
「お願いします」
「いつまでだ?」
「軍から次の連絡が来るまで」
「分かった」
そこで。
桂梧さんが鳳翔さんを見る。
「軍の情報なのか?」
「はい」
鳳翔さんが答える。
「現在、軍側でも確認を続けています」
「間違いじゃないんだな」
「可能性の段階です」
「可能性?」
「はい。敵の進路がまだ定まっていません」
「なら、来ないかもしれない?」
「その可能性もあります」
「それでも船を止めろと」
「何もなければ、それが一番ですから」
「……そうだな」
桂梧さんが頷く。
「分かった」
前だったら。
こういう情報自体。
町には来なかった。
「軍にも」
桂梧さんが言う。
「早めに知らせてくれて助かったって伝えといてくれ」
「承知しました」
鳳翔さんが頭を下げる。
それから。
港にいた人たちへ話が回っていった。
「今日は出ない方がいいらしい」
「軍から?」
「ああ」
「鎮守府にも連絡が来たって」
「なら待つか」
思っていたより。
ずっと早い。
誰かが。
無理に海へ出ようとすることもなかった。
「前なら」
私が言う。
「何か起きてからだったのかな」
「かもしれませんね」
鳳翔さんが答える。
「軍は軍で海を見ていて」
「町は町で生活して」
「私たちは私たちで戦って」
「はい」
「全部別だった」
「今は違います」
軍が見つけて。
私たちへ伝えて。
私たちから町へ伝える。
「……ちゃんと繋がってる」
「そうですね」
それだけなのに。
少し。
嬉しかった。
鎮守府へ戻る。
「多摩さん!」
五月雨が走ってきた。
「連絡?」
「はい!」
紙を渡される。
「敵艦隊、進路変更。こちらの海域へ接近中」
「数は?」
「確認出来た範囲で、二十以上です」
「二十……」
これまで。
六体くらいなら。
普通に相手をしていた。
でも。
二十以上。
しかも。
「以上、か」
「まだ増える可能性があるのです?」
電が聞く。
「あると思う」
通信機が鳴る。
今度は。
落ち着いて取った。
「はい」
『情報は届いたか』
「二十以上」
『ああ』
「軍は?」
『神通の部隊を含め、複数部隊を向かわせる』
「私たちは?」
『協力してほしい』
今度は。
依頼という言葉を聞いても。
驚かなかった。
「分かりました」
『ただし、そちらだけで先行するな。合流地点を伝える』
「はい」
『町の方は?』
「船は全部止めてもらいました」
一瞬。
向こうが黙った。
『……そうか』
「桂梧さんが、早めに知らせてくれて助かったって」
『分かった』
「伝えといてください」
『伝えておく』
通信が終わる。
「出る?」
天龍が聞く。
「うん」
「全員?」
少し考える。
六人。
そして。
鎮守府。
「鳳翔さん」
「はい」
「出撃出来ます?」
「もちろんです」
「じゃあ六人で行く」
全員を見る。
「でも」
続ける。
「軍と合流してから」
「了解なのです」
「はい!」
「おう」
「分かったわ~」
「承知しました」
誰も。
先に飛び出さない。
私も。
「装備は?」
「確認済みだ」
天龍。
「資材も問題ないわよ~」
龍田。
「記録はここまで終わってます!」
五月雨。
「食料も大丈夫なのです」
電。
「出撃後の補給についても、妖精さんたちにお願いしてあります」
鳳翔さん。
「……」
私が。
やること。
ほとんど残ってない。
「多摩?」
「いや」
少し笑う。
「頼もしいなと思って」
「今更なのです」
電に言われた。
「電までそんなこと言うようになったね」
「本当のことなのです」
「はいはい」
机の上。
海図を見る。
合流地点。
敵の進路。
町。
鎮守府。
確認する。
「じゃあ」
顔を上げる。
「行こうか」
「おう!」
「はいなのです!」
「はい!」
「行きましょう~」
「はい」
玄関を出る。
六人。
最初に海へ出た時は。
一人だった。
次は電と二人。
今は。
六人いる。
それに。
向こうには。
軍もいる。
「多摩」
天龍が呼ぶ。
「何?」
「置いてくぞ」
「あ、待って!」
「旗艦が遅れてどうすんだよ!」
「今行く!」
走る。
今度は。
一人で行く海じゃなかった。