艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第二十八話

 軍から指定された合流地点へ向かう途中、海は不気味なくらい静かだった。

 

 風は弱く、波も穏やかだった。空を見ても特に変わったところはない。

 

 これから大規模な深海棲艦の群れと戦うと言われても、何も知らなければ信じなかったかもしれない。

 

「静かだな」

 

 前を進んでいた天龍が言った。

 

「うん。嫌なくらい」

 

「敵はもう近いのでしょうか?」

 

 五月雨が周囲を見ながら聞いてくる。

 

「軍からの最後の連絡だと、この先。合流地点より向こうには来てるはず」

 

「二十以上、なのです?」

 

「確認出来た範囲でね」

 

 後ろから電の声。

 

 私は頷いてから、もう一度皆を見る。

 

 電。

 

 五月雨。

 

 天龍。

 

 龍田。

 

 鳳翔さん。

 

 六人。

 

 全員いる。

 

 以前なら。

 

 こういう時ほど、自分が全員を見なければと思っていた。

 

 一人でも危なくなったら自分が助ける。

 

 何か判断が必要なら自分が決める。

 

 失敗しないように、自分が出来るだけ全部やる。

 

 でも。

 

 それでは駄目だと。

 

 もう知っている。

 

「多摩ちゃん?」

 

 龍田に呼ばれる。

 

「何?」

 

「難しい顔してるわよ~」

 

「そう?」

 

「また一人で何か考えてんじゃねえだろうな」

 

 天龍まで。

 

「考えるくらいはいいでしょ」

 

「内容による」

 

「今日はちゃんと皆に任せるよ」

 

「ならいい」

 

「何で天龍に許可もらってるんだろ」

 

「知らねえよ」

 

 いつもの調子。

 

 それだけで少し肩の力が抜けた。

 

「司令官さん」

 

 電が前を指差す。

 

「見えたのです」

 

 水平線の先。

 

 いくつかの艦影。

 

「あれかな」

 

「軍ですね」

 

 鳳翔さんが答える。

 

 近付いていくにつれ、その数が分かってくる。

 

 前回の共同任務より多い。

 

 その先頭には。

 

「多摩さん!」

 

「神通さん!」

 

 見覚えのある顔がいた。

 

 神通さんの後ろには、前回一緒だった駆逐艦二人。

 

 さらに別の艦娘たちもいる。

 

「お待ちしていました」

 

「いえ、こっちも今着いたところです。それより状況は?」

 

 挨拶もそこそこに聞く。

 

 神通さんの表情が少し険しくなった。

 

「先ほど新しい報告が入りました。現在確認出来ている敵は二十四」

 

「二十四……」

 

「さらに後方にも反応があります」

 

「まだいるんですか?」

 

「正確な数までは分かりません。ただ、最初に確認された群れだけではない可能性があります」

 

 やっぱり。

 

 昨日までとは規模が違う。

 

「町の方は?」

 

「船は全部止めてもらってます」

 

「それなら」

 

 神通さんが小さく頷く。

 

「少なくとも、後方の民間船を気にする必要はありませんね」

 

「はい」

 

 それは大きい。

 

 町への連絡が間に合ったから。

 

 誰も海に出ていない。

 

 戦うことだけに集中出来る。

 

 今まで。

 

 軍。

 

 町。

 

 私たち。

 

 全部ばらばらだった。

 

 それが今は。

 

 ちゃんと繋がっている。

 

「多摩さん?」

 

「何でもないです」

 

 今考えることじゃない。

 

「配置は?」

 

「こちらが中央を担当します。多摩さんたちは右翼寄りをお願いします」

 

「分かりました」

 

「前回と同様、それぞれの部隊への指示はそれぞれで。ただし、必要があればすぐ共有を」

 

「はい」

 

 全部軍に従うわけでもない。

 

 全部こっちで決めるわけでもない。

 

 必要なところだけ合わせる。

 

 前回やったことと同じだ。

 

「では」

 

 神通さんが私を見る。

 

「よろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

 そして。

 

「多摩さん」

 

「はい?」

 

「無理はしないでください」

 

「神通さんまで?」

 

「何故その反応をするんです?」

 

「最近よく言われるので」

 

 後ろから鼻で笑う音がした。

 

「言われる理由があんだろ」

 

「天龍」

 

「何だよ」

 

「今はしてないでしょ」

 

「今はな」

 

「信用ないなぁ」

 

「実績があるのです」

 

「電まで!?」

 

 神通さんが少しだけ笑った。

 

 緊張していた空気が。

 

 ほんの少し。

 

 軽くなる。

 

 それも。

 

 悪くなかった。

 

 鳳翔さんの艦載機が空へ上がった。

 

 しばらくして。

 

「敵艦隊、確認しました」

 

 その声で。

 

 全員の空気が変わる。

 

「数は?」

 

「二十四。先ほどの報告通りです。ただし、後方はまだ確認出来ません」

 

「分かりました」

 

 私は皆を見る。

 

「電と五月雨は左側。天龍と龍田は右。鳳翔さんは後ろから全体をお願いします」

 

「了解なのです!」

 

「はい!」

 

「おう!」

 

「分かったわ~」

 

「承知しました」

 

「無理に敵の中へ入らないで。押されたら下がる。誰か一人だけで追わない」

 

「多摩」

 

「何?」

 

「それ、自分にも言ってんだよな?」

 

「……言ってる」

 

「一瞬間があったぞ」

 

「言ってます!」

 

 もう。

 

 本当に信用がない。

 

 やがて。

 

 水平線の向こうに。

 

 黒い影が見え始めた。

 

 一つ。

 

 二つ。

 

 それが増えていく。

 

 最初は小さかった影が。

 

 こちらへ近付くにつれ、はっきりと形を持つ。

 

 深海棲艦。

 

 二十四。

 

 数字で聞いた時より。

 

 実際に並んでいるところを見る方が。

 

 ずっと多く感じる。

 

「……多いですね」

 

 五月雨が小さく言う。

 

「うん」

 

「大丈夫でしょうか」

 

「大丈夫」

 

 答える。

 

 根拠があるわけじゃない。

 

 でも。

 

「五月雨一人で戦うわけじゃないでしょ?」

 

「……はい」

 

「私もいる。電も。天龍も龍田も鳳翔さんも。軍の人たちもいる」

 

「はい!」

 

「だから、いつも通り」

 

「分かりました!」

 

 五月雨の顔から。

 

 少しだけ力が抜けた。

 

「来ます!」

 

 鳳翔さんの声。

 

 直後。

 

 遠くから砲撃が飛んできた。

 

「回避!」

 

 海面が一斉に爆ぜる。

 

 一発目。

 

 そのすぐ後ろに二発目。

 

 水柱が上がり、視界が一瞬遮られる。

 

 前回の六体とは。

 

 砲撃の密度が全く違う。

 

「五月雨、右!」

 

「はい!」

 

「電、そのまま五月雨の横!」

 

「了解なのです!」

 

 左。

 

 二人が砲撃を避けながら距離を取る。

 

 右では。

 

「天龍ちゃん、そっち来てるわよ~」

 

「見えてる!」

 

 天龍が一体へ砲撃。

 

 敵が避けた先へ。

 

 龍田が撃つ。

 

「当たった!」

 

「まだ沈んでねえ!」

 

「分かってるわよ~」

 

 息が合っている。

 

 なら。

 

 右は任せる。

 

「神通さん!」

 

「正面はこちらで!」

 

「お願いします!」

 

 中央。

 

 軍側の砲撃が始まる。

 

 こちらよりずっと綺麗に揃った一斉射。

 

 一体が大きく揺れ。

 

 後ろの駆逐艦が追撃する。

 

 沈む。

 

「一体!」

 

 でも。

 

 敵の動きは止まらない。

 

 むしろ。

 

 数で押し潰すように。

 

 前へ出てくる。

 

「電!」

 

「はいなのです!」

 

「正面一体お願い!」

 

「了解なのです!」

 

「五月雨はその横! 電が撃った後を!」

 

「はい!」

 

 電が撃つ。

 

 敵が進路を変える。

 

 そこへ五月雨。

 

 撃つ。

 

 外れる。

 

「あっ!」

 

「大丈夫! 次!」

 

「はい!」

 

 五月雨がすぐに次弾を装填する。

 

 以前なら。

 

 外したことそのものに気を取られていたかもしれない。

 

 でも。

 

 もう。

 

 立て直せる。

 

 電がもう一度撃つ。

 

 今度は当たった。

 

「五月雨!」

 

「はい!」

 

 二発目。

 

 命中。

 

「やりました!」

 

「周り見て!」

 

「はい!」

 

 そのまま次の敵へ。

 

 任せられる。

 

「多摩!」

 

 天龍。

 

「右、二体追加!」

 

 見る。

 

「いける?」

 

「誰に聞いてんだ!」

 

「じゃあ任せる!」

 

「おう!」

 

 それだけ言って。

 

 私は中央へ戻る。

 

 前なら。

 

 一緒に右へ行っていたかもしれない。

 

 でも。

 

 天龍と龍田なら。

 

 大丈夫。

 

 戦闘は。

 

 思った以上に長く続いた。

 

 一体沈めれば。

 

 その後ろから別の一体が前へ出てくる。

 

 敵の前列を削っても。

 

 すぐに穴が埋まる。

 

 軍側も。

 

 私たちも。

 

 少しずつ敵を減らしている。

 

 でも。

 

 こちらも無傷ではない。

 

「天龍!」

 

「かすっただけだ!」

 

 右腕。

 

 確かに動いている。

 

「龍田!」

 

「私も大丈夫よ~」

 

「電!」

 

「問題ないのです!」

 

「五月雨!」

 

「まだ行けます!」

 

「鳳翔さん!」

 

「こちらも問題ありません!」

 

 全員。

 

 動ける。

 

「多摩さん!」

 

 神通さんの声。

 

「左翼へ敵が寄っています!」

 

 見る。

 

 軍側の左側。

 

 敵が集中している。

 

「こっちから二人回します?」

 

「いえ、まだ大丈夫です! そちらの右翼を維持してください!」

 

「分かりました!」

 

 なら。

 

 余計なことはしない。

 

 神通さんが大丈夫と言った。

 

 軍側は。

 

 神通さんに任せる。

 

 直後。

 

「多摩さん!」

 

 鳳翔さんの声が変わった。

 

「何?」

 

「敵後方、新しい反応です!」

 

「数は!?」

 

「八……いえ、十!」

 

「十!?」

 

 さらに。

 

 十。

 

 二十四だけじゃない。

 

「神通さん!」

 

「こちらでも確認しました!」

 

「どうします!?」

 

「一度全体を下げます!」

 

「了解!」

 

 すぐに皆へ向く。

 

「天龍、龍田! 少し後退! 電と五月雨も!」

 

「おう!」

 

「はいなのです!」

 

「鳳翔さんも位置下げて!」

 

「はい!」

 

 誰も反対しない。

 

 誰も。

 

 一人だけ前へ残ろうとしない。

 

 もちろん。

 

 私も。

 

 少しずつ後退しながら。

 

 敵との距離を取る。

 

 ただ逃げるわけじゃない。

 

 敵の前列だけを引き伸ばす。

 

 後ろとの距離が開く。

 

「神通さん!」

 

「はい!」

 

「前に出てきたところから削りません?」

 

「私も同じことを考えていました!」

 

「じゃあ!」

 

 軍側が止まる。

 

 私たちも。

 

「電、五月雨! 前の二体だけ!」

 

「了解なのです!」

 

「はい!」

 

「天龍と龍田は右の一体!」

 

「任せろ!」

 

「鳳翔さん、後ろお願いします!」

 

「はい!」

 

 一斉に。

 

 反撃。

 

 前へ出すぎた敵へ。

 

 軍と私たちの砲撃が集中する。

 

 一体。

 

 沈む。

 

 次。

 

 天龍の砲撃。

 

 龍田が続く。

 

 二体目。

 

「押し返せる!」

 

 五月雨の声。

 

「まだ前出ない!」

 

「はい!」

 

 焦らない。

 

 今は。

 

 削ればいい。

 

 敵も。

 

 こちらの狙いに気付いたらしい。

 

 前進が少し止まり。

 

 今度は砲撃が増えた。

 

「来る!」

 

 避ける。

 

 海面が爆ぜる。

 

 すぐ近く。

 

「っ!」

 

 水飛沫が顔にかかる。

 

 次。

 

 右。

 

 左。

 

「電、下がって!」

 

「はいなのです!」

 

 砲撃。

 

 その直後。

 

 また一発。

 

 多い。

 

「五月雨!」

 

「大丈夫です!」

 

 よし。

 

 見る。

 

 全員。

 

 まだいる。

 

 次。

 

 敵。

 

「多摩!」

 

 天龍の声。

 

「前!」

 

「見えてる!」

 

 一体。

 

 こちらへ抜ける。

 

 砲を向ける。

 

 撃つ。

 

 命中。

 

 でも。

 

 止まらない。

 

「もう一発!」

 

 撃つ。

 

 今度は。

 

 敵が崩れた。

 

「よし!」

 

 その瞬間。

 

「司令官さん!」

 

 電の声。

 

 振り向く。

 

 視界の端。

 

 水柱の向こう。

 

 電がいた。

 

 そのすぐ前。

 

 一体。

 

 さっきまで軍側を狙っていた敵が。

 

 進路を変えている。

 

「電!」

 

 電も気付く。

 

 砲撃を避ける。

 

 一発。

 

 避けた。

 

 でも。

 

 その直後。

 

 電の身体が大きく傾く。

 

 さっきの回避で。

 

 体勢が戻っていない。

 

 そして。

 

 その奥。

 

 別の深海棲艦。

 

 大きい。

 

 砲口が。

 

 電へ向いている。

 

「電、避けて!」

 

 電がこちらを見る。

 

 間に合わない。

 

 そう思った。

 

 次の瞬間。

 

 私は。

 

 もう動いていた。

 

「司令官さん!?」

 

 電の前へ。

 

 考える時間なんてなかった。

 

 砲撃。

 

 光。

 

 衝撃。

 

 身体が。

 

 吹き飛ばされる。

 

「多摩!」

 

「多摩さん!」

 

 誰かが呼んでいる。

 

 海面へ叩きつけられた。

 

「っ……!」

 

 息が出来ない。

 

 胸が痛い。

 

 右腕。

 

 動く。

 

 多分。

 

 左も。

 

 でも。

 

 力が入らない。

 

「司令官さん!」

 

 電。

 

 声が聞こえる。

 

 無事。

 

 よかった。

 

 それだけは。

 

 分かった。

 

「来……ないで……」

 

 声が出たのか。

 

 自分でも分からない。

 

 まだ敵がいる。

 

 電が。

 

 私のところへ来たら。

 

 また狙われる。

 

 皆。

 

 まだ。

 

 戦ってる。

 

 起きないと。

 

 動かないと。

 

 でも。

 

 身体が。

 

 動かない。

 

 前にも。

 

 守れなかった。

 

 あの時は。

 

 画面の向こうで。

 

 多摩を。

 

 沈めた。

 

 今度は。

 

 電を守れた。

 

 だったら。

 

 これでいい?

 

 違う。

 

 よくない。

 

 まだ。

 

 電もいる。

 

 五月雨も。

 

 天龍も。

 

 龍田も。

 

 鳳翔さんも。

 

 軍の皆も。

 

 町だって。

 

 まだ後ろにある。

 

 終わってない。

 

 私だけで全部やる必要はない。

 

 そんなこと。

 

 もう分かってる。

 

 だから。

 

 せめて。

 

 もう一度。

 

 立たないと。

 

 指先に力を入れる。

 

 動かない。

 

 もう一度。

 

 駄目。

 

「……っ」

 

 視界が。

 

 少しずつ暗くなる。

 

 声も。

 

 砲撃の音も。

 

 遠くなっていく。

 

 まだ。

 

 終われない。

 

 そう思った。

 

 その時だった。

 

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