艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第二話

 あれから私は、なんてことはないと言えてしまうほど平和な日々を過ごしていた。

 

 その間に、この世界についていくつか分かったことがある。

 

 まず、最も大きなもの。

 

 深海棲艦は、現実に存在している。

 

 テレビや新聞で連日のように報じられているのだから、嫌でも知ることになった。

 

 そして、それに伴って鎮守府の存在も確認できた。

 

 艦娘もまた、存在しているらしい。

 

 とはいえ、「艦娘」という名前そのものを見つけたわけではない。

 

 彼女たちに関する情報は、かなり厳しく隠されているようだった。

 

 それでも、オカルト写真のような不鮮明な画像の中に、水上を走る少女たちの姿が写っていることがある。

 

 私には、それだけで十分だった。

 

 次に分かったのは、交通事情が私の知っているものとは大きく異なっていること。

 

 飛行機や船といった海を越える交通手段は、激減しているらしい。

 

 漁業ですら基本的には鎮守府周辺でしか行われておらず、船で人を運ぶことに至っては、ほとんど行われていない。

 

 深海棲艦が海を支配しているのだから、ある意味では当然なのだろう。

 

 ただ。

 

 それを知ってから、一つだけ疑問が残っていた。

 

 今、私は楓の家で暮らさせてもらっている。

 

 そして食卓には、ときどき魚料理が並ぶ。

 

 楓に街を案内してもらううちに、魚屋があることも確認した。

 

 けれど、鎮守府の数は決して多くない。

 

 調べられた範囲では、私が知っている『艦これ』のサーバー所在地と、そう大きく変わらない程度しか存在しないようだった。

 

 ならば。

 

 ここ、苫小牧では、いったいどうやって魚を獲っているのだろう。

 

 楓に尋ねても、

 

「考えたことなかったなあ」

 

 と返されてしまっては、それ以上どうしようもなかった。

 

 

 

 

 そんなことを考えながら米を研いでいると、玄関の方から慌ただしい音が聞こえた。

 

「たまちゃーん!」

 

 続いて、私を呼ぶ大きな声。

 

 楓のお婆さん――節子さんを見ると、笑いながら頷いてくれた。

 

「ありがとうございます」

 

 そう言って台所を任せ、玄関へ向かう。

 

 そこには当然のように楓がいた。

 

「たまちゃん、今日はスイーツ食べに行こ! スイーツ!」

 

「うんうん。ほら、慌てないで」

 

 節子さんに「行ってきます」と声をかけ、家を出た。

 

「今日学校でねー」

 

 楽しそうに話す楓の隣を歩く。

 

 当然ながら、私はまだこの街の地理に詳しくない。

 

 きっと、こうして出掛けること自体に、私への案内という意味も含まれているのだろう。

 

 それに気付かないほど、私も鈍くはない。

 

 ありがたさと申し訳なさに挟まれながらも、今はその好意を素直に受け取ることにしていた。

 

 そして、一つだけ言っておくなら。

 

 その日食べたケーキは、とても美味しかった。

 

 

 

 

「多摩ちゃん、今日もお使いかい?」

 

 また別の日。

 

 買い物に出掛けた私は、道すがらそんなふうに声をかけられる程度には、この街に馴染んでいた。

 

 その途中。

 

 ふと、耳に入った会話がある。

 

「最近、警報がなくて助かるわねぇ」

 

「ほんとにねぇ」

 

「そういえば、あの子。まだ引き取り手がいないんでしょう?」

 

「あんなところに一人取り残されて、可哀想にねぇ」

 

「軍がもっとしっかりしていれば、あんなことにはならなかったでしょうに。早くあの子も幸せになってほしいわねぇ」

 

 気にはなった。

 

 けれど、わざわざ足を止めて聞き耳を立てるのもどうかと思い、そのまま通り過ぎた。

 

 聞けたのは、それだけ。

 

 それでも、妙に心に残った。

 

 ところが、その話が楓の家で話題になることはなかった。

 

 一度だけ、楓の父――桂梧さんに尋ねたことがある。

 

 その時、彼は強く拳を握りしめた。

 

 そして、絞り出すような声で。

 

「まだ早い」

 

 そう言っただけだった。

 

 

 

 

 そして、再び時は流れる。

 

 ある日の夕食時。

 

 その日。

 

 私の運命を決める歯車が、回り始めた。

 

 もし、あの時こうしていれば。

 

 もし、あそこへ行かなければ。

 

 そんな言葉はいくらでも浮かべられるのだろう。

 

 けれどきっと、それに意味なんてない。

 

 あの日を越えた私は、たった一つを除いて、後悔なんてしていなかったはずだから。

 

 もっとも。

 

 それは未来から振り返った私の話であって。

 

 その時の私は、目前まで迫っていたものにさえ、まだ気付いていなかった。

 

 街中に。

 

 大きな警報音が鳴り響く、その瞬間まで。

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