艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第二十九話

『しょうがないにゃぁ……』

 

 声がした。

 

「……多摩?」

 

 返事はない。

 

 でも、聞き間違えるはずがなかった。

 

 何度も聞いた声だった。画面の向こうで何度も出撃させて、何度も聞いていた、多摩の声。

 

 今の声は確かに多摩だった。

 

「司令官さん!」

 

 電の声が聞こえる。

 

 目を開くと、私のところへ向かおうとしている姿が見えた。その後ろでは、まだ深海棲艦が砲をこちらへ向けている。

 

「来るんじゃないにゃ! 五月雨のところに戻るにゃ!」

 

「……え?」

 

 電が止まった。

 

「司令官さん……?」

 

「早く!」

 

 敵の砲口が光る。

 

 撃たれる。

 

 そう思った時には、もう身体が動いていた。

 

 無理に立ち上がろうとはしない。海面を滑るように身体を起こし、そのまま少しだけ前へ出る。

 

 砲弾が横を抜けた。

 

「……?」

 

 避けた。

 

 いや。

 

 自分で避けた。

 

 どうして今の動きが出来たのかは分からない。

 

 さっきまで、指一本動かすだけでもあれだけ痛かったのに、傷が消えたわけでもない。今だって身体中が痛い。

 

 それなのに。

 

 どう動けばいいのかだけは分かる。

 

「多摩!」

 

 天龍の声が飛んでくる。

 

「生きてんのか!?」

 

「勝手に沈めるにゃ!」

 

「……は?」

 

 天龍が一瞬、本当に動きを止めた。

 

「天龍ちゃん、今そこ気にしてる場合じゃないわよ~」

 

「分かってる!」

 

「天龍、右は任せるにゃ! 龍田と一緒に前の二体を止めるにゃ!」

 

「お、おう!」

 

「龍田!」

 

「分かってるわ~。天龍ちゃん、行くわよ」

 

 二人が動く。

 

 それを確認して、私は正面へ向き直った。

 

 敵が二体。

 

 一体はこちらを向いている。もう一体は軍側へ砲を向けていた。

 

 砲を構える。

 

 狙う。

 

 撃つ。

 

 敵が回避する。

 

 その動きに合わせるように、もう一度砲を向けた。

 

 二発目。

 

 命中。

 

「……」

 

 自分で撃ったのに、一瞬だけ呆然とする。

 

 何で当てられた?

 

 分からない。

 

 ただ。

 

 当てられると思った。

 

「多摩さん!」

 

 鳳翔さんの声で意識を戻す。

 

「敵後方、追加の十体が接近しています!」

 

「艦載機で進路を乱せる?」

 

「可能です!」

 

「全部止めなくていいにゃ。一気に合流させないようにしてほしいにゃ!」

 

「承知しました!」

 

 鳳翔さんの艦載機が空へ上がっていく。

 

「神通さん!」

 

『聞こえています!』

 

「今いる敵の前列が伸びてるにゃ! 追加が来る前に中央を崩すにゃ!」

 

 一瞬だけ間があった。

 

『……了解しました!』

 

 何だろう。

 

 今の間。

 

 考えるのは後。

 

「電!」

 

「は、はいなのです!」

 

「五月雨と左! 抜けてくる敵だけ止めるにゃ!」

 

「了解なのです!」

 

「五月雨!」

 

「はい!」

 

「無理に仕留めなくていいにゃ! 電と二人で足を止めれば十分にゃ!」

 

「分かりました!」

 

 全員が動き始める。

 

 私が全部を見る必要はある。

 

 でも、全部やる必要はない。

 

 それはもう分かっている。

 

「多摩!」

 

「何にゃ!」

 

「こっちは行ける!」

 

 右を見る。

 

 天龍と龍田。

 

 敵二体。

 

 まだ余裕はある。

 

「任せるにゃ!」

 

「おう!」

 

 それだけでいい。

 

 私は正面を見る。

 

 砲撃が来る。

 

 一発目を避ける。

 

 続けて二発目。

 

 今度は身体を少し傾けるだけで、すぐ横を抜けていった。

 

 どうしてこんなに動けるのか。

 

 分からない。

 

 今まで出来なかったことが、急に出来るようになった。

 

 それでも。

 

 身体が勝手に動いているわけではない。

 

 動かしているのは私だ。

 

 ただ、今までなら迷っていた一瞬に、身体が迷わない。

 

 そこへ行けば避けられる。

 

 ここで撃てば当たる。

 

 そんな感覚が、最初から知っていたことみたいに出てくる。

 

「前!」

 

 神通さんの声。

 

「見えてるにゃ!」

 

 こちらへ向かってくる敵へ砲を向ける。

 

 一発。

 

 敵が避ける。

 

 でも、次に動く先が分かる気がした。

 

 そこへ二発目。

 

 命中。

 

「神通さん、その一体お願いするにゃ!」

 

「了解!」

 

 軍側から砲撃が飛ぶ。

 

 敵が沈んだ。

 

 私一人で仕留める必要はない。

 

「天龍!」

 

「右終わった!」

 

「龍田!」

 

「こっちも大丈夫よ~」

 

「じゃあ中央に寄って!」

 

「おう!」

 

 二人がこちらへ向かう。

 

「電!」

 

「左も一体止めたのです!」

 

「五月雨!」

 

「まだ行けます!」

 

「そのままお願いするにゃ!」

 

 全員。

 

 まだ動ける。

 

 なら。

 

「神通さん!」

 

「はい!」

 

「敵の中央と後ろ、かなり間が開いてるにゃ」

 

「こちらでも確認しています」

 

「軍側は左から入れる?」

 

「可能です」

 

「こっちは右から行くにゃ。追加が来る前に今いる敵を分断するにゃ!」

 

「分かりました!」

 

 軍側が動き始める。

 

「天龍、龍田!」

 

「聞こえてる!」

 

「右から中央!」

 

「おう!」

 

「電と五月雨は前に出すぎない! 抜けてきた敵をお願いするにゃ!」

 

「はいなのです!」

 

「はい!」

 

「鳳翔さん!」

 

「追加艦隊、艦載機と接触しました!」

 

「そのままお願いするにゃ!」

 

「はい!」

 

 揃った。

 

「行くにゃ!」

 

 軍側が左から。

 

 私たちは右から。

 

 伸びきった敵の中央へ入る。

 

 砲撃がこちらへ飛んでくる。

 

 一発。

 

 避ける。

 

 次。

 

 身体を沈める。

 

 海面が背後で爆ぜた。

 

「多摩、前出すぎだ!」

 

「これくらいなら大丈夫にゃ!」

 

「身体見てから言え!」

 

 痛い。

 

 それは天龍の言う通りだった。

 

 動ける。

 

 でも。

 

 傷が治ったわけではない。

 

 身体を動かすたびに、さっき受けた場所が痛む。

 

 もしまた直撃を受けたら。

 

 今度こそ。

 

 多分。

 

 まずい。

 

 だから。

 

 一人で全部やるなんて出来ない。

 

「天龍!」

 

「何だ!」

 

「前の一体任せるにゃ!」

 

「おう!」

 

「龍田はその横!」

 

「はいはい~」

 

 私は奥の敵へ狙いを変える。

 

 撃つ。

 

 命中。

 

 敵の動きが止まった。

 

「神通さん!」

 

「こちらで!」

 

 軍側の一撃が続く。

 

 沈む。

 

 これでいい。

 

「今にゃ!」

 

 砲声が重なった。

 

 軍側。

 

 天龍。

 

 龍田。

 

 私。

 

 敵の中央へ火力が集中する。

 

 一体が沈み、続けてもう一体。

 

 隊列が崩れる。

 

「押せるぞ!」

 

 天龍が叫ぶ。

 

「追いすぎるにゃ! 前だけ見るんじゃないにゃ!」

 

「分かってる!」

 

「本当に?」

 

「何でそこだけいつも通りなんだよ!」

 

「天龍ちゃん、元気ね~」

 

「龍田も今言うな!」

 

 こんな時なのに、少し笑いそうになった。

 

「多摩さん!」

 

 鳳翔さん。

 

「追加艦隊、進路が分かれました! こちらへ向かっているのは四体です!」

 

「残りは?」

 

「艦載機を追っています!」

 

「十分にゃ!」

 

 十体全部を同時に相手にする必要はない。

 

 四体なら。

 

 今の敵を減らしてから対応出来る。

 

「神通さん!」

 

「聞こえています!」

 

「押すにゃ!」

 

「はい!」

 

 戦況が少しずつ変わっていく。

 

 さっきまで数に押され続けていた敵が、中央を崩されたことでばらばらになり始めた。

 

 軍側へ向かうもの。

 

 私たちへ来るもの。

 

 後ろへ下がろうとするもの。

 

「電、左!」

 

「はいなのです!」

 

 電が敵の進路を塞ぐ。

 

「五月雨、そのまま!」

 

「はい!」

 

 五月雨の砲撃。

 

 命中。

 

「やりました!」

 

「次を見るにゃ!」

 

「はい!」

 

 もう。

 

 一度外したことなんて気にしていない。

 

 天龍と龍田も、こちらが何も言わなくても互いの位置を見ながら動いている。

 

 鳳翔さんは後方の敵を遅らせながら、こちらの状況まで見ている。

 

 軍側も、こちらが作った隙へすぐ砲撃を入れる。

 

 だから。

 

 戦える。

 

 追加の四体がこちらへ着いた頃には、先にいた敵は半分以下になっていた。

 

「新手来るよ!」

 

「了解なのです!」

 

「おう!」

 

 先頭の一体へ撃つ。

 

 避けられる。

 

 でも。

 

 次に行く場所が見える。

 

 もう一発。

 

 命中。

 

「天龍!」

 

「任せろ!」

 

 追撃が入る。

 

 沈む。

 

「龍田!」

 

「こっちも終わったわよ~」

 

「電!」

 

「問題ないのです!」

 

「五月雨!」

 

「まだ行けます!」

 

「鳳翔さん!」

 

「後方、新たな敵影はありません!」

 

「神通さん!」

 

「こちらも押しています!」

 

 なら。

 

「今いる敵を全部減らすにゃ!」

 

 誰も迷わなかった。

 

 そこからは早かった。

 

 敵が一体。

 

 また一体。

 

 沈んでいく。

 

 誰かが外せば、別の誰かが続く。

 

 誰かが押されれば、横から助ける。

 

 私もその中に入る。

 

 撃つ。

 

 避ける。

 

 声を出す。

 

「五月雨、今にゃ!」

 

「はい!」

 

「天龍、右!」

 

「見えてる!」

 

「電はそのまま!」

 

「了解なのです!」

 

「龍田、後ろ!」

 

「分かってるわ~」

 

「鳳翔さん!」

 

「問題ありません!」

 

 自分でも撃つ。

 

 一発。

 

 外れる。

 

 次。

 

 当たる。

 

 敵がよろめいたところへ軍側の砲撃が続く。

 

 沈む。

 

 誰の一撃だったかなんて。

 

 もう。

 

 どうでもよかった。

 

 最後まで残っていた敵へ、神通さんの砲撃が当たった。

 

「天龍!」

 

「おう!」

 

 天龍の砲撃が続く。

 

 直撃。

 

 敵が大きく傾き、そのまま海へ沈んでいった。

 

 しばらく誰も前へ出なかった。

 

 残っている敵がいないか、全員が周囲を確認する。

 

「敵影ありません!」

 

 鳳翔さんの声。

 

「こちらでも確認出来ません!」

 

 神通さんからも返事が来る。

 

 それを聞いて、ようやく肩の力を抜いた。

 

「……終わった?」

 

 何となく口にしたけれど、返事がない。

 

 見ると、何故か皆が私を見ていた。

 

「何?」

 

「多摩?」

 

 天龍が妙な顔をしている。

 

「何?」

 

「……戻ったな」

 

「何が?」

 

「喋り方」

 

「喋り方?」

 

 何のことだろうと思っていると、電も少し戸惑った顔で近付いてきた。

 

「司令官さん、さっき途中からずっと『にゃ』って言ってたのです」

 

「……え?」

 

「『任せるにゃ』とか、『押すにゃ』とか」

 

 天龍も頷く。

 

「ずっとそんな感じだったぞ」

 

「私が?」

 

「はいなのです」

 

「……本当に?」

 

「何で俺らがそんな嘘つくんだよ」

 

 言われて、戦っていた時のことを思い返す。

 

 電に五月雨のところへ戻れと言った。

 

 天龍と龍田へ右を任せた。

 

 鳳翔さんへ艦載機を頼んだ。

 

 神通さんとも連携した。

 

 何を言ったのかは覚えている。

 

 でも。

 

 どういう口調で話していたかなんて、全く意識していなかった。

 

「多摩さん、すごく多摩さんみたいでした!」

 

 五月雨が言う。

 

「五月雨、それどういう意味?」

 

「えっ」

 

「私も多摩だけど」

 

「あ……」

 

 一瞬困った顔をしてから、五月雨がさらに困る。

 

 でも、言いたいことは分かった。

 

 私だって知っている。

 

 語尾に「にゃ」を付ける多摩なんて、知らないわけがない。

 

「……本当にあの喋り方だったんだ」

 

「そうなのです」

 

 急に恥ずかしくなってきた。

 

「龍田まで笑わないでよ」

 

「あら~? 可愛かったわよ、多摩ちゃん」

 

「やめて」

 

 戦っている最中は全く気にならなかったのに、今になって思い出すとかなり恥ずかしい。

 

 ただ。

 

 それ以上に気になることがある。

 

『しょうがないにゃぁ……』

 

 あの声。

 

 あれは多摩だった。

 

 少なくとも、私にはそう聞こえた。

 

 そして、その声を聞いた後から自分の口調まで変わっていた。

 

「多摩?」

 

 天龍に呼ばれて顔を上げる。

 

「何?」

 

「今度は何考えてんだ?」

 

「……声がしたんだよね」

 

「声?」

 

「電を庇ったあと」

 

 皆の表情が変わった。

 

「誰のだ?」

 

「多摩」

 

 天龍が眉を寄せる。

 

「お前だろ」

 

「私じゃなくて」

 

「ややこしいな」

 

「私もそう思う」

 

 でも、他に言いようがない。

 

「『しょうがないにゃぁ』って。それだけ聞こえた」

 

「電は聞いていないのです」

 

「私もです」

 

 五月雨も首を振る。

 

 天龍と龍田。

 

 鳳翔さんも同じだった。

 

「じゃあ私だけか」

 

「心当たりは?」

 

「声にはある」

 

「声?」

 

「聞き覚えがあるんだよ。間違えるような声じゃない」

 

 説明しても余計にややこしくなるから、そこまでは言わない。

 

 でも、あの声だけは間違えない。

 

 私が知っている、多摩の声だった。

 

 ただ、どうしてその声が聞こえたのかは分からない。

 

「何で今聞こえたのかも分からないし、その後何であんなに身体が動いたのかも分からない」

 

「自分でも分からねえのか?」

 

「うん」

 

 傷はそのまま。

 

 今だって身体中が痛い。

 

 急に強くなった理由なんて分からない。

 

 ただ、戦っている間だけ、今までよりずっと身体の扱い方が分かった。

 

 それだけ。

 

「怖かったのです?」

 

 電が聞く。

 

「怖い?」

 

 少し考える。

 

「いや」

 

 不思議ではある。

 

 分からないことも多い。

 

 でも。

 

「嫌な感じはしなかった」

 

「そうなのです?」

 

「うん。むしろ……」

 

 何と言えばいいんだろう。

 

「懐かしかった、かな」

 

 自分でも変な答えだと思う。

 

 それでも、一番近いのはそれだった。

 

「そうか」

 

 天龍はそれ以上聞かなかった。

 

「多摩さん」

 

 今度は神通さんが近付いてくる。

 

「はい」

 

「お話は終わりましたか?」

 

「一応」

 

「では、すぐに帰投してください」

 

「え」

 

「その損傷でまだ話を続けるつもりだったのですか?」

 

 言われて改めて自分を見る。

 

 艤装も服もかなり酷い。

 

 さっきまで普通に動けていたせいで忘れかけていたけど、受けた傷そのものがなくなったわけではない。

 

「……結構やられてる」

 

「結構ではありません!」

 

 神通さんに本気で怒られた。

 

「すみません」

 

「多摩さんは戻ったらすぐ入渠です」

 

 鳳翔さんにも言われる。

 

「分かってます」

 

「本当に?」

 

「何で鳳翔さんまで疑うんです?」

 

「これまでのお話を聞いていますので」

 

「誰が話したんだろうなぁ」

 

「全員だろ」

 

 天龍が即答した。

 

 多分そうだ。

 

「司令官さん」

 

 今度は電が私の前に来る。

 

 さっきまでとは違って、少し怒っているような、泣きそうなような顔だった。

 

「どうしたの?」

 

「どうして電を庇ったのです?」

 

「どうしてって……」

 

 理由なんて考えるまでもなかった。

 

「電が危なかったから」

 

「でも、司令官さんが沈んでいたらどうするのです!」

 

「沈んでないよ」

 

「そういうことではないのです!」

 

 怒られた。

 

 これは完全に私が悪い返しをした。

 

「……ごめん」

 

「電は、司令官さんにいなくなってほしくないのです」

 

「うん」

 

「電だけではないのです」

 

 そう言われて周りを見る。

 

 五月雨も。

 

 天龍も。

 

 龍田も。

 

 鳳翔さんも。

 

 何も言わずにこっちを見ている。

 

「分かってる」

 

 前なら。

 

 こう言いながら、本当には分かっていなかったのかもしれない。

 

 守る側だから。

 

 提督だから。

 

 自分がやらなきゃ。

 

 ずっと、そう思っていた。

 

 でも今日は違った。

 

 天龍に任せた。

 

 龍田に任せた。

 

 電と五月雨に任せた。

 

 鳳翔さんに任せた。

 

 軍にも頼った。

 

 それで勝てた。

 

 私一人では絶対に勝てなかった。

 

「本当に分かってるよ」

 

 もう一度言う。

 

「私も、皆にいなくなってほしくない。でも皆だって、私にいなくなってほしくないんだよね」

 

「当たり前なのです」

 

「うん」

 

 それなら。

 

 次からは。

 

 そこまで含めて考えないといけない。

 

「だから、とりあえず帰ろう」

 

「はいなのです」

 

 今度は電も素直に頷いた。

 

「多摩」

 

「何?」

 

「帰ったら即入渠だからな」

 

「分かってるよ」

 

「その前に何か仕事しようとすんなよ」

 

「しないって」

 

「飯は?」

 

「食べたい」

 

「ほらな」

 

「ご飯くらいいいでしょ!」

 

「入渠が先です」

 

 鳳翔さん。

 

「……はい」

 

 逃げ道がない。

 

 神通さんたち軍の艦娘とも帰投の確認を済ませ、私たちは鎮守府へ向かうことになった。

 

 身体は痛い。

 

 さっきまでどうしてあれだけ動けていたのか、自分でも分からない。

 

 多摩の声が聞こえた理由も。

 

 口調まで変わっていた理由も。

 

 何も分からないままだ。

 

 それでも。

 

 海へ出た時も。

 

 戦っている時も。

 

 帰る時も。

 

 今日はずっと皆がいた。

 

 それだけは。

 

 ちゃんと分かっていた。

 

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