艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第三十一話

 戦いから数日が経った。

 

 鎮守府は、驚くほどいつも通りだった。

 

 工廠では妖精さんたちが忙しそうに動き回り、五月雨は朝から記録をまとめている。電は食料の確認をしていて、天龍と龍田は資材置き場で何か言い合っていた。

 

 鳳翔さんは台所。

 

 私は。

 

「……書類」

 

 机の上を見る。

 

 増えた。

 

 正式な鎮守府になった以上、多少は増えるだろうと思っていたけれど、思っていたより増えた。

 

「これ全部?」

 

「全部です」

 

 鳳翔さんが笑顔で答える。

 

「軍に認めてもらう前の方が楽だったかもしれない」

 

「多摩さん?」

 

「やります」

 

 逃げられない。

 

 内容自体はそこまで難しくない。

 

 資材の使用量。

 

 補給の記録。

 

 先日の戦闘報告。

 

 今後必要になりそうな物資。

 

 以前なら全部一人で確認していただろうけど、今は五月雨がまとめたものを確認して、必要なところだけ私が書けばいい。

 

 それでも面倒なものは面倒だった。

 

「提督って、こういう仕事なんだなぁ」

 

「今更かよ」

 

 いつの間にか天龍が入口に立っていた。

 

「何?」

 

「軍から人来たぞ」

 

「え」

 

「また?」

 

「またって言うなよ」

 

「だって最近よく来るし」

 

 少し前まで軍の人間が来るだけで身構えていたのに、今ではそんな感想が出るくらいには慣れてしまったらしい。

 

「誰?」

 

「この前の人たちと神通」

 

「神通さんも?」

 

「ああ」

 

 書類を見る。

 

 鳳翔さんを見る。

 

「後でいいですよ」

 

「助かります」

 

「ただし戻ったら続きです」

 

「はい」

 

 やっぱり逃げられなかった。

 

 玄関へ向かうと、見慣れた軍服の二人と神通さんが待っていた。

 

「お久しぶりです」

 

「数日前に会ったばかりですよ」

 

「確かに」

 

 神通さんが少し笑う。

 

 軍の二人にも挨拶をして、食堂へ案内した。

 

 電たちも何となく集まってくる。

 

「全員いなくても大丈夫ですよ?」

 

「聞いておきたいのです」

 

 電。

 

「俺も」

 

 天龍。

 

「私もです!」

 

 五月雨。

 

 龍田は当然のように天龍の隣に座っている。

 

 鳳翔さんまで来た。

 

「結局全員ですね」

 

「いつものことです」

 

 神通さんが笑った。

 

 軍の人が持ってきた書類を机の上に置く。

 

「本日は、今後のこの鎮守府の運用について確認に来ました」

 

「運用?」

 

「はい。先日の戦闘も含め、こちらとしても今の体制が機能していることは確認出来ました」

 

 少し身構える。

 

 でも、以前とは違う。

 

 何かを取り上げられる気がしているわけじゃない。

 

 ただ、これから何が変わるのかが気になった。

 

「まず、多摩さん」

 

「はい」

 

「今後もこちらの鎮守府の指揮官として登録を継続します」

 

「……今後も?」

 

「はい」

 

「私のままで?」

 

「そうです」

 

 思わず聞き返してしまった。

 

「何か問題が?」

 

「いや、ないですけど」

 

 ない。

 

 ないけど。

 

「もっと普通の提督を置くとかは?」

 

「現時点では考えていません」

 

「現時点では」

 

「多摩さん」

 

 鳳翔さんに小さく呼ばれる。

 

「分かってます。そこ引っ掛からなくていいやつですよね」

 

「はい」

 

 軍の人も少し困った顔をしている。

 

「もちろん、今後重大な問題が発生した場合には別途検討します。ただ、この鎮守府については現行の体制を維持する方針です」

 

「分かりました」

 

「良かったですね、多摩さん!」

 

 五月雨が笑う。

 

「うん」

 

「嫌そうだな」

 

「嫌じゃないよ」

 

 天龍を見る。

 

「責任が重いなって思っただけ」

 

「今更だろ」

 

「今日それ二回目」

 

「事実だからな」

 

「次に、所属艦についてです」

 

 電たちを見る。

 

「現在登録されている皆さんについても、そのままこちらへの所属を継続します。本人から異動希望が出ない限り、軍側から一方的に移す予定はありません」

 

「……本当なのです?」

 

 電が確認する。

 

「はい」

 

「命令で別の鎮守府へ戻せと言われたりは?」

 

「通常の異動が絶対にないとは言えません。ただ、少なくとも皆さんの過去の事情を理由に、強制的に戻すことはありません」

 

 電が少し安心した顔をした。

 

 五月雨も同じ。

 

「天龍さんと龍田さんについても同様です」

 

「俺らも?」

 

「はい」

 

「勝手に出てきたのに?」

 

「その件については既に整理されています」

 

「便利だな」

 

「天龍ちゃん、蒸し返さない方がいいと思うわよ~」

 

「分かってるよ」

 

 龍田が楽しそうに笑う。

 

「鳳翔については、当初お伝えした通りです」

 

「はい」

 

「支援、教育、生活面の補助、それから軍との連絡役を継続してください」

 

「承知しました」

 

「監視も?」

 

 私が聞く。

 

「多摩さん」

 

「一応」

 

 軍の人が苦笑する。

 

「以前もお答えしましたが、状況確認の役割が全くないとは言いません」

 

「ですよね」

 

「ただし、それだけを目的に配置しているわけではありません」

 

「分かってます」

 

 今なら。

 

 本当にそう思える。

 

 鳳翔さんが来てから、生活は明らかに楽になった。

 

 軍から何か連絡が来た時も、分からないことを聞ける。

 

 それに。

 

 もう。

 

 ただの軍から来た人ではない。

 

「鳳翔さんはもううちの人なので」

 

 口に出す。

 

 鳳翔さんが一瞬こちらを見た。

 

「……はい」

 

 それだけ言って、少し笑った。

 

「それから、今後の任務についてですが」

 

「はい」

 

「この鎮守府単独で対応可能な範囲については、これまで通り周辺海域の哨戒と防衛をお願いします。ただし、大規模な敵影が確認された場合は軍から連絡します」

 

「今回みたいに?」

 

「はい。逆に、こちらで異常を確認した場合も早めに知らせてください」

 

「分かりました」

 

「命令というより、連携ですね」

 

 神通さんが言う。

 

「お互いに情報を出し合って、その時必要な側が協力を求める形になります」

 

「それが一番助かります」

 

 無理に全部こちらへ押し付けられるでもなく。

 

 全部軍に任せるでもない。

 

 出来る方が出来ることをする。

 

 今までの私たちにはなかった形だった。

 

「町への連絡についても、可能であれば今後はこちらを通してお願いしたいと考えています」

 

「私たちを?」

 

「はい」

 

 軍の人が頷く。

 

「今回の件で分かりました。軍から直接知らせるより、皆さんを通した方が町側も状況を受け入れやすい」

 

「それって」

 

 少し考える。

 

「私たちが間に入る前提?」

 

「負担が大きいようであれば別の方法を考えます」

 

「いや」

 

 それは。

 

 嫌じゃない。

 

「やります」

 

 すぐに答えた。

 

「出来る範囲で」

 

「ありがとうございます」

 

 横を見ると、電たちも特に反対する様子はない。

 

 むしろ。

 

「今まで通りなのです」

 

 電が言った。

 

「町に何かあれば伝えるし、困ってたら手伝うのです」

 

「そうですね」

 

 五月雨も頷く。

 

「軍からの連絡が増えるだけですよね」

 

「増えるだけって言うと嫌だな」

 

「多摩さん、書類も増えますよ」

 

「鳳翔さん」

 

「事実です」

 

「そこは黙っててほしかった」

 

 天龍が笑う。

 

 話は思っていたより早く終わった。

 

 もっと細かい規則を山ほど言われるのかと思っていたけど、実際には今やっていることを少し整理したくらいだった。

 

 軍の人たちが帰る前。

 

 神通さんが少しだけ残った。

 

「多摩さん」

 

「はい」

 

「先日はありがとうございました」

 

「急ですね」

 

「きちんと言っていなかったので」

 

「こっちこそですよ。軍側がいなかったら無理でした」

 

「私たちだけでも難しかったと思います」

 

「じゃあ、お互い様?」

 

「そうですね」

 

 神通さんが笑う。

 

 最初に共同任務へ出た時は、まだ探り探りだった。

 

 相手がどう動くのか。

 

 信用していいのか。

 

 どこまで任せていいのか。

 

 それが今では。

 

「次もよろしくお願いします」

 

 自然にそう言えた。

 

「はい。こちらこそ」

 

 神通さんもそれだけ答えて帰っていった。

 

「で」

 

 全員を見送って。

 

 食堂へ戻る。

 

 机の上を見る。

 

「……」

 

 書類。

 

 残ってる。

 

「戻りましたね」

 

 鳳翔さん。

 

「戻りました」

 

「続きを」

 

「今?」

 

「今です」

 

「ちょっと休憩」

 

「先ほど十分休まれました」

 

「話してたんですけど」

 

「座っていましたよね」

 

「厳しい」

 

 仕方なく席につく。

 

 五月雨が横から記録を持ってきた。

 

「ここまでまとめてあります!」

 

「ありがとう」

 

「燃料は私と龍田で確認したぞ」

 

 天龍。

 

「助かる」

 

「食料の記録はこっちなのです」

 

 電。

 

「ありがとう」

 

 鳳翔さんが必要な書類を順番に並べる。

 

「では、多摩さんはこちらを確認してください」

 

「……」

 

 見る。

 

 皆。

 

「何?」

 

「別に?」

 

 天龍が言う。

 

「早く終わらせろよ」

 

「手伝ってくれる?」

 

「もう手伝ってるだろ」

 

「あ」

 

 そうだった。

 

 私がやるのは。

 

 最後の確認だけ。

 

 前なら、全部自分でやっていた。

 

 記録も。

 

 資材も。

 

 食料も。

 

 何もかも。

 

 でも今は。

 

 それぞれが自分の仕事をして。

 

 最後に私のところへ持ってくる。

 

「……楽になったなぁ」

 

「今頃気付いたのです?」

 

 電に言われた。

 

「いや、分かってはいたけど」

 

 改めて。

 

 思っただけ。

 

 軍との関係も。

 

 同じなのかもしれない。

 

 全部向こうに任せる必要はない。

 

 全部こっちで抱える必要もない。

 

 町とのことも。

 

 私一人で何とかする必要はない。

 

 出来ることを。

 

 出来る人がやる。

 

 必要なら頼る。

 

 頼られたら、出来る範囲で返す。

 

 それでいい。

 

「多摩さん?」

 

「あ、ごめん」

 

「また考え事です?」

 

「ちょっとだけ」

 

「手は止めないでくださいね」

 

「はいはい」

 

 書類へ戻る。

 

 面倒なのは。

 

 変わらない。

 

「兼任提督って、やっぱり楽じゃないなぁ」

 

「でも前より楽だろ?」

 

 天龍が言う。

 

「……まあね」

 

 それは。

 

 間違いなかった。

 

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