艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第六話

 鎮守府。

 

 そう呼んでいいのかは、未だによく分からない。

 

 けれど、工廠があって、食堂があって、寮があって、入渠施設があって、執務室まである。

 

 そして。

 

 提督と艦娘がいる。

 

 なら、まあ。

 

「鎮守府、でいいのかな」

 

「いいと思うのです」

 

 隣に立つ電が、こくりと頷いた。

 

「……非公認だけど」

 

「そこは、これからなのです」

 

「これから、かぁ」

 

 これから。

 

 その言葉だけ聞けば、なんとなく希望に満ちているように思える。

 

 実際、昨日まで何もなかった場所に、こうして拠点が出来た。

 

 ずっと一人で戦っていた電には、帰る場所が出来た。

 

 私にも、多分。

 

 居場所が出来た。

 

 なら、きっと。

 

 いいことなのだろう。

 

「それで司令官さん」

 

「うん?」

 

「これから何をするのです?」

 

「……」

 

 現実が。

 

 やってきた。

 

「まず、食料」

 

「はいなのです」

 

「次に、資材」

 

「はい」

 

「それから、この場所について町の人たちに説明」

 

「はい」

 

「軍にも連絡……」

 

 そこで言葉が止まる。

 

「……出来るかな」

 

「難しいと思うのです」

 

「だよね」

 

 軍の連絡先なんて知らない。

 

 仮に調べられたとして、何と言えばいいのか。

 

 所属不明の艦娘です。

 

 軍を離れた艦娘と一緒にいます。

 

 昨日までなかった鎮守府が出来ました。

 

 ついでに私が提督になりました。

 

「……怪しい」

 

「とても怪しいのです」

 

「そこは否定してよ」

 

「で、でも事実なのです」

 

「そうなんだよねぇ」

 

 頭を抱える。

 

 提督。

 

 提督か。

 

 ゲームなら、資材は数字で、艦娘は一覧で。

 

 出撃も遠征も入渠も、全部画面の中だった。

 

 今は。

 

「……全部自分でやるんだよね」

 

「電もいるのです」

 

「うん」

 

 そうだった。

 

 一人ではない。

 

 隣を見れば、電がいる。

 

「じゃあ、二人で頑張ろうか」

 

「はいなのです!」

 

 元気よく返事をする電を見ていると、なんとなく私も頑張れそうな気がした。

 

 まず、食料問題については想像していたよりずっと早く解決した。

 

「持ってけ持ってけ!」

 

「いや、こんなに貰えないって!」

 

「昨日助けてもらった礼だ!」

 

「電ちゃんにもちゃんと食わせてやってくれ!」

 

「電は今までもいっぱい貰ってたのです!」

 

「だったら今日から二人分だな!」

 

「そういう問題!?」

 

 漁港の人たちから、魚、米、野菜、その他諸々。

 

 大量に渡された。

 

 というか。

 

 押し付けられた。

 

「こっちは海を守ってもらってんだ。これくらいさせろ」

 

「でも……」

 

「なら今後も頼むわ!」

 

「……はい」

 

 負けた。

 

 完全に。

 

 隣では電が何度も頭を下げている。

 

「ありがとうなのです!」

 

 町の人たちも笑っていた。

 

 それを見ていると、少しだけ安心した。

 

「……電」

 

「はい?」

 

「ずっとこんな感じだったの?」

 

「こんな感じ、とは?」

 

「食べ物とか」

 

「ああ」

 

 電は少し考えてから答えた。

 

「皆さん、よく持ってきてくれていたのです」

 

 やっぱり。

 

 そうだった。

 

 電は一人で戦っていたけれど、本当の意味で一人だった訳じゃない。

 

「そっか」

 

「はいなのです」

 

 電は笑った。

 

 私も、少しだけ笑った。

 

 問題は資材だった。

 

「……少ない」

 

「少ないのです」

 

「燃料」

 

「少ないです」

 

「弾薬」

 

「少ないのです」

 

「鋼材」

 

「もっと少ない」

 

「ボーキサイト」

 

「今は使わないからいいかな」

 

「そうなのです?」

 

「空母いないし」

 

 工廠に置かれていた紙を見ながら、二人で唸る。

 

 妖精さんが最低限だけ用意してくれていたらしい。

 

 けれど、本当に最低限。

 

 この前のような戦闘がもう一度あれば、すぐになくなるだろう。

 

「……ゲームなら遠征に出すんだけどなぁ」

 

「遠征ですか?」

 

「資材を取りに行く感じ」

 

「なら取りに行けばいいのです」

 

「……」

 

 電を見る。

 

「うん?」

 

「行けばいいのです」

 

「私たちが?」

 

「はい」

 

「提督も?」

 

「多摩さんは艦娘でもあるのです」

 

「……」

 

 便利だ。

 

 兼任。

 

 とても便利だ。

 

「なんか納得いかない」

 

「どうしてなのです?」

 

「いや、なんでもない」

 

 そうして私たちは、初めての遠征。

 

 のようなものへ向かった。

 

 妖精さんが指し示した場所には、随分昔に使われなくなったらしい、小さな放棄施設があった。

 

「これ、持っていっていいのかな」

 

「妖精さんは大丈夫だと言っているのです」

 

「妖精さん喋ってないけどね」

 

 その妖精さんは、自信満々に頷いていた。

 

「……大丈夫なんだよね?」

 

 また頷く。

 

「後で怒られない?」

 

 首を横に振る。

 

「……信じるからね?」

 

 胸を張った。

 

「そこまで自信満々だと逆に不安になるんだけど」

 

 けれど、今は資材が必要なのも事実だ。

 

 使えそうな金属や燃料、残されていた物資を回収していく。

 

 そして、それを運んでいるのは妖精さんたちだった。

 

「……どこから出てきたんだろ」

 

 数人。

 

 いや。

 

 十人くらいいる。

 

「妖精さんなのです」

 

「説明になってないよ」

 

 小さな身体で、自分たちより大きな荷物を運んでいる。

 

 不思議だ。

 

 とても不思議だ。

 

「艦これでもこんなんだったっけ……」

 

「何か言いました?」

 

「何でもない」

 

 深く考えたら負けな気がした。

 

 そんな日々が続いた。

 

 朝起きて、食事をして、町の人たちと話して、海を見回って、資材を探す。

 

 戻ってきたら書類を見て、時々は電と一緒に出撃する。

 

 敵がいなければ帰ってくる。

 

 敵がいれば沈める。

 

 そして、また次の日。

 

 忙しい。

 

 とても忙しい。

 

「……提督ってこんなに忙しかったっけ」

 

「前にも司令官さんだったのですよね?」

 

「……そうなんだけど」

 

「なら知っているのでは?」

 

「画面の中と現実は違うんだよ」

 

「?」

 

「いや、なんでもない」

 

 書類を見る。

 

 次は補給。

 

 その次は町の人と話して。

 

 その後は海の見回り。

 

「司令官さん」

 

「ん?」

 

「休まなくていいのです?」

 

「大丈夫大丈夫」

 

「でも」

 

「まだ二人しかいないし」

 

 そう。

 

 二人しかいない。

 

 だから、私がやるしかない。

 

 電に全部任せる訳にもいかない。

 

 私は提督で。

 

 艦娘で。

 

 この場所を作ったのは、まあ、妖精さんだけど。

 

 でも。

 

 ここを守ると決めたのは私だ。

 

「だから大丈夫」

 

「……」

 

 電は少しだけ心配そうな顔をしていた。

 

 けれど、それ以上は何も言わなかった。

 

 その日の夜。

 

 食事を終え、二人で食堂に残っていた。

 

「……」

 

「……」

 

 広い。

 

「広いね」

 

「広いのです」

 

 何人座れるのだろう。

 

 机も椅子も、明らかに二人用ではない。

 

「妖精さん、なんでこんな広くしたんだろ」

 

「これから増えると思ったのではないでしょうか」

 

「艦娘が?」

 

「はい」

 

「……増えるかな」

 

 工廠があるのだから、ゲームと同じように建造すれば艦娘を増やせるのではないか。

 

 少し前に、そんなことも考えた。

 

 けれど。

 

 妖精さんに聞いてみれば、返ってきたのは大きく首を横に振る姿だった。

 

「装備は作れるみたいなんだけどね」

 

「艦娘は無理なのですよね」

 

「みたい」

 

 資材を入れて。

 

 時間を待てば。

 

 新しい艦娘が現れる。

 

 そんなゲームみたいなことは、ここでは出来ないらしい。

 

「まあ、そりゃそうだよね」

 

 人を作る。

 

 そう考えれば、出来ない方が自然なのかもしれない。

 

 なら。

 

 ここに誰かが増えるとすれば。

 

 その誰かが、自分の足でここまで来た時だけだ。

 

「……増えるかな」

 

「分からないのです」

 

 今いるのは。

 

 私。

 

 電。

 

 二人だけ。

 

 軍から外された電と、軍に所属していない私。

 

 そんなところへ好き好んで誰かが来るとは、正直あまり思えなかった。

 

「まあ」

 

 椅子の背にもたれる。

 

「二人でもいいんじゃない?」

 

「そうなのです?」

 

「うん」

 

 守れる範囲を守ればいい。

 

 無理に大きくする必要なんてない。

 

 そう思っていた。

 

「司令官さん」

 

「ん?」

 

「電は」

 

 少しだけ間を置いて。

 

「二人でも、嬉しいのです」

 

「……そっか」

 

「はい」

 

「私も」

 

 静かな食堂に、二人分の声だけが響く。

 

 広すぎる場所だったけれど、不思議と寂しいとは思わなかった。

 

 この時は。

 

 そんな平和で、忙しくて、それでも穏やかな日々はしばらく続いた。

 

 けれど。

 

 この鎮守府が。

 

 いつまでも二人だけの場所であるはずもなく。

 

 私たちが知らないところで。

 

 また一つ。

 

 小さな歯車が。

 

 こちらへ向かって動き始めていた。

 

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