艦これー兼任提督は楽じゃないーReBuild   作:ラリカ

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第八話

 五月雨が加わってから、鎮守府での生活は少しだけ変わった。

 

 いや。

 

 少しだけ、というのは違うかもしれない。

 

「司令官さん! これ、どこに置けばいいですか?」

 

「それは食堂の方で――」

 

「あっ」

 

 ガシャン。

 

「……」

 

「……」

 

「……ご、ごめんなさい!」

 

 増えた。

 

 色々と。

 

「大丈夫。割れたの、皿だけ?」

 

「はい……」

 

「怪我は?」

 

「してないです」

 

「ならいいよ」

 

「でも、お皿が……」

 

「お皿は怒らないから」

 

「そういう問題でしょうか……」

 

「多分」

 

 床に散らばった破片を片付けようとする五月雨を止め、ほうきを取りに行く。

 

 その途中、向こうから電がやってきた。

 

「どうしたのです?」

 

「五月雨がお皿割った」

 

「うぅ……」

 

「怪我はないのです?」

 

「ないです……」

 

「なら良かったのです!」

 

 電も私と同じことを言った。

 

 五月雨は少し困ったような顔をして、それから申し訳なさそうに笑った。

 

「二人とも、同じこと言うんですね」

 

「そう?」

 

「そうなのです?」

 

「……はい」

 

 そんな風に、三人での生活は始まった。

 

 五月雨はよく働いた。

 

 というより、働きすぎた。

 

「それ、私がやります!」

 

「こっちもやります!」

 

「あ、それも!」

 

「五月雨」

 

「はい!」

 

「一回止まろうか」

 

「でも」

 

「止まろう」

 

「……はい」

 

 なんというか、見ていて分かりやすかった。

 

 自分が役に立つことを証明しようとしている。

 

 それも、必死に。

 

「五月雨」

 

「はい」

 

「ここにいるために、そこまで頑張らなくていいからね」

 

「え?」

 

「いや、頑張るなって意味じゃなくて。仕事はしてもらうよ?」

 

「はい!」

 

「でも、それが出来なかったら追い出すとか、そういうのはないから」

 

「……」

 

「この前も言ったでしょ。失敗してもいいって」

 

「でも……何もしないでいたら、迷惑になる気がして」

 

「じゃあ、五月雨が一人で全部やろうとして倒れたら?」

 

「え?」

 

「その方が困る」

 

「……」

 

「だから、適度に頑張って」

 

「適度に……」

 

「そう。適度に」

 

 五月雨はしばらく考えてから、小さく頷いた。

 

「分かりました」

 

「よし」

 

 分かってくれたなら、それでいい。

 

 その日の午後。

 

 三人で海へ出た。

 

 目的は哨戒。

 

 深海棲艦がいないかを確認しながら、ついでに資材になりそうな漂流物を探す。

 

 三人になったおかげで、これまでより広い範囲を見られるようになった。

 

「五月雨、あんまり離れすぎないでね」

 

「はい!」

 

「電も」

 

「了解なのです!」

 

「何かあったらすぐ合流。敵を見つけても、一人では仕掛けないこと」

 

 二人が頷く。

 

 こうして指示を出していると、改めて自分が提督になったのだと実感する。

 

 ゲームなら画面の中で全部済んでいたけれど、今は二人が目の前にいて、その場で動いている。

 

 やっぱり、同じようにはいかない。

 

「司令官さん?」

 

「ん?」

 

「難しい顔をしてるのです」

 

「……そう?」

 

「はいなのです」

 

「気を付けるよ」

 

 そう答えて、視線を海へ戻した。

 

 それからしばらくは、何事もなかった。

 

 海は穏やかで、偵察機からも異常なし。

 

 今日はこのまま帰れる。

 

 そう思った頃だった。

 

「多摩さん!」

 

 五月雨の声。

 

「どうした!?」

 

「あっちに何か!」

 

 指差した方向を見る。

 

 海面に黒い影。

 

 一つ。

 

 二つ。

 

 いや。

 

「深海棲艦!」

 

「電!」

 

「はいなのです!」

 

 すぐに二人を呼び戻す。

 

 数は少ない。

 

 この程度なら。

 

「私が前に出る。二人は後ろから――」

 

「司令官さん」

 

「ん?」

 

「電も戦えるのです」

 

「……それは知ってるけど」

 

「五月雨ちゃんもいるのです」

 

 横を見る。

 

 五月雨も、しっかりこちらを見ていた。

 

「私も戦えます!」

 

「五月雨」

 

「大丈夫です!」

 

 言って。

 

 すぐに少しだけ目を逸らした。

 

「……多分!」

 

「そこは言い切ってほしかったな」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 思わず笑ってしまった。

 

 こんな時なのに。

 

「分かった」

 

 息を吐く。

 

「じゃあ三人でやろう」

 

「はい!」

 

「はいなのです!」

 

 戦闘は、思っていたより早く終わった。

 

 数が少なかったのもある。

 

 けれど、三人で戦うというだけで、今までより随分と楽だった。

 

「右、一隻!」

 

「電が行くのです!」

 

「五月雨、そのまま!」

 

「はい!」

 

 指示を出す。

 

 私も撃つ。

 

 走る。

 

 避ける。

 

 提督でありながら、自分も戦う。

 

 やっぱり忙しい。

 

 けれど、一人で戦っていた時とは違う。

 

「あと一隻!」

 

「私が!」

 

 五月雨が飛び出した。

 

「五月雨、待って!」

 

「え?」

 

 気付くのが遅れた。

 

 敵の砲口が、五月雨へ向いている。

 

「っ!」

 

 砲撃。

 

 水柱。

 

「五月雨!」

 

「だ、大丈夫です!」

 

 声は聞こえた。

 

 けれど、明らかに体勢を崩している。

 

 私はすぐに五月雨と敵の間へ入った。

 

「多摩さん!?」

 

「下がって!」

 

 砲を向ける。

 

 撃つ。

 

 一発。

 

 命中。

 

 続けて電の砲撃が入り、最後の一隻が沈んだ。

 

 静かになる海。

 

「五月雨!」

 

 振り返る。

 

 五月雨は立っていた。

 

 少し傷はある。

 

 でも、大きな怪我ではない。

 

「大丈夫?」

 

「はい……」

 

「よかった」

 

 そう思ったのも束の間。

 

 五月雨は青い顔をしていた。

 

「ごめんなさい」

 

「え?」

 

「また、失敗しました」

 

「……」

 

「指示を聞かないで、勝手に前に出て」

 

「五月雨」

 

「せっかく置いてもらえたのに……」

 

「五月雨」

 

「私、やっぱり――」

 

「五月雨!」

 

 少し強く呼ぶ。

 

 五月雨がびくりとする。

 

「怪我は?」

 

「……これくらいなら」

 

「なら帰ろう」

 

「でも」

 

「帰ってから反省会」

 

「……怒らないんですか?」

 

「怒るよ」

 

「え」

 

「勝手に前に出たことは怒る」

 

「……はい」

 

「でも、それと五月雨がここにいていいかどうかは別」

 

「……」

 

 五月雨は、しばらく何も言わなかった。

 

「失敗してもいいって言ったでしょ」

 

「……はい」

 

「同じ失敗をしないようにしよう。それでいいよ」

 

「はい……」

 

 小さな返事。

 

 その横から、電が口を開く。

 

「それに、五月雨ちゃんが無事でよかったのです」

 

「電ちゃん……」

 

「次は三人でもっと上手に戦えばいいのです!」

 

 五月雨が少しだけ笑った。

 

「……うん」

 

「じゃあ帰ろっか」

 

「はい」

 

「帰るのです!」

 

 鎮守府へ戻り、入渠を済ませて。

 

 約束通り、反省会をした。

 

「飛び出さない」

 

「はい」

 

「周りを見る」

 

「はい」

 

「指示を聞く」

 

「はい」

 

「以上」

 

「……え?」

 

「何?」

 

「もっと、こう……」

 

「長々怒られたい?」

 

「い、いえ!」

 

「じゃあ終わり」

 

 五月雨はしばらく呆けていた。

 

 そして。

 

「多摩さん」

 

「ん?」

 

「ありがとうございます」

 

「何が?」

 

「……色々です」

 

「そっか」

 

 よく分からないけれど。

 

 まあ、いいか。

 

 その日の夕食。

 

 三人で食卓を囲む。

 

 五月雨はまだ少し落ち込んでいたけれど、それでも昨日より自然にここへ座っているように見えた。

 

「そういえば」

 

「はい?」

 

「明日から五月雨にも仕事増やすから」

 

「はい!」

 

 すごい勢いで返事が返ってきた。

 

「嬉しそうだね」

 

「頑張ります!」

 

「適度にね」

 

「はい!」

 

「ほんとかな」

 

「大丈夫なのです!」

 

「電が保証するの?」

 

「するのです!」

 

「じゃあ信じようかな」

 

「任せてください!」

 

 三人分の声。

 

 三人分の食器。

 

 三人分の生活。

 

 広かった食堂は、まだまだ広い。

 

 けれど少しずつ、この場所が鎮守府になっていく。

 

 そんな気がしていた。

 

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