幼馴染ご主人様に飼われているケモミミ少女 作:“同同同”ンブラコ
「ねえ、エリ」
「…なに、ユイ」
「私達、このままずっとこんな生活続けなきゃいけないのかな?」
「…」
「働いて、働いて、それでもお金が足りなくって…ご飯も、お腹いっぱいに食べれない」
「そうだね。今日だって、まだ何も食べてない。昨日も」
「お金はぜんぶ、大人たちが持っていっちゃう。『孤児院の維持費だー』って言って…」
「…逆らうと、また殴られる」
「うん。知ってる。分かってる。…エリ、私はここから逃げ出したい」
「もっと優しい大人の人に出会って、もっと楽しくて幸せな暮らしを送りたいの」
「この世界に来てよかった、生まれてよかったって思えるような…」
「勝手にすれば。ユイだったら良い貰い手は来る」
「駄目」
「なんで」
「エリもそこにいなきゃ駄目」
「…」
「いつ、どんなときでも、私の隣はエリがいい」
「…ダメだよ、それは。」
「わたしは獣人。あなたは、人間。傍にいてもユイは幸せになれない」
「なれるよ」
「ならない」
「なれる!」
「………そもそも、わたしを引き取ってくれるような人、いない。獣の尻尾と耳が生えた、汚いわたしなんて」
「それは……探す! 調べる! 頑張る!」
「…あと、エリは汚くない! エリの色、私は好き」
「…もう、好きにすれば」
「じゃあ、好きにさせてもらうね」
「なにその指」
「約束」
「約束?」
「そ。この施設を出る時は、二人一緒に。片方だけ出る時はもう片方も連れてくこと」
「…そして、必ず幸せになること」
「ふ~ん…」
「それと、エリを引き取って貰えなかったら、私は出ない。里親には断って戻るから。逆は……エリの意思に任せる」
「はあ?……ユイは、本当にバカだね」
「馬鹿だもん」
「…」
「…」
「…わかった。約束ね」
「うん! 約束!」
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公爵家の朝は早い。
私はベッドから起き上がる。起きたらカーテンを開けて朝の日差しを部屋に取り込ませる。
洗面台まで向かい、顔を洗う。そのあと、櫛を手に取り髪と耳を解かしていく。また別の櫛を使って尻尾を整える。
それらの作業を終えると、私は寝間着を脱いで正装に着替えた。そして、姿見を見ながら自分の服装を整える。
焦げ茶色の髪と耳。青色の瞳。腰からしなやかに垂れている尻尾。いつもの私が再構築される。
準備を終えたので部屋を出た。『お嬢様』を起こすためだ。
廊下で掃除を行っている、恐らくは私よりも早起きなメイド達に挨拶を済ませていく。
今日は比較的に仕事が多い。
・民衆の議会を開いた後に内容をまとめ、今後の施策の方針を建てる。
・隣の領主の邸宅で交流も兼ねた茶会。
・国に奉納する税をまとめた書類を書く。そして、国からの給付金の手続きを行う。
その後は…と考えていると、目的地に到着した。
お嬢様の部屋の扉を優しくノックする。反応がない。
今度は強めに。…反応がない。
反応がないので扉を開けた。まっすぐ歩き、ベッドの傍まで来た。
ベッドの主はいまだにすやすやと寝息を立てていた。彼女に掛けられた純白の布は彼女の呼吸に合わせて上下する。
私は彼女の肩を掴み、揺らした。
「お嬢様、起きてください。朝ですよ」
「ん~…あと五分~…」
「お嬢様…」
私は彼女から離れて窓際まで向かった。部屋のカーテンを開ける。朝の光が彼女に当たった。
「うわあぁぁぁ…きちくぅぅ……まぶしいぃ………」
「はい、鬼畜です。さ、起きてください」
彼女は渋々と起き上がり、洗面台へとゆらゆらと向かった。
私は彼女が顔を洗っている間にベッドシーツを取り替えておいた。
戻ってきた彼女を化粧台に座らせる。私は化粧品を手に取り、彼女を引き立てていく。
化粧と併せて彼女の腰まで伸びた長い髪を解いていった。彼女の汚れのない金髪は私が手を添えていいのかと思うほど、艶やかで美しかった。
そんな中、彼女が口を開いた。
「ねえ、エリ」
「どうしましたか?」
「昔の夢、見た」
お嬢様は鏡越しにこちらを見つめた。
お嬢様はことあるごとに昔の話をする。昔は、昔は…と。
まるで昔の方が良かったとでも言うように。
「昔の、約束した時の夢。…ねえ、エリ」
彼女が振り向く。髪を解いている途中ではあったが、終わりそうな頃だったので向き直らせるようなことはしない。
「昔の口調に、戻して?私のこと、ユイって呼んで?」
「できません」
私の口からははっきりとした拒否の言葉が発せられた。その言葉を受けてお嬢様は、ユイは、目に見えて落ち込んでいる。
「なんで」と疑問が投げかけられる。
「お義父様は、死んだよ。メイドさん達も優しい人だし、シャルもロイもルノアも獣人差別なんかしない」
確かに、私に礼儀作法を叩き込んだ元公爵様は死んだ。二年前に。原因は不明だったが。彼にされてきたことは思い出したくない。だが、彼の教えはしっかりと私の血肉となっているのは確かだ。
メイド達も優しい人達ばかりだ。何度もお世話になっている。
シャル、ロイ、ルノア─ユイの義弟妹だ─は、まだ十分な年齢ではないものの、傲慢な気配がしない良い子達だ。
──けれども、
「この家の中では世間体とか、気にしなくても良いんだよ?」
「……」
──それでも、
「家にいる時だけでも…幼馴染同士に戻ろうよ……」
「できません」
ユイの願いを、私は叶えなかった。
「お嬢様はお嬢様で、私は側仕え」
万人受けするように仕上げられた笑みを彼女に返す。
「この関係は、変えられませんから」