果心居士:自身をカラクリに改造した妖術師。現在の少女の姿は「とある戦国武将に嫁ぐも
早々に死に別れた少女」の人格をトレースしたもの。男の姿だった時もある。
今年のハロウィンイベント大活躍。
一人称は「ワタシ」ということに書き終えてから気が付いた。
改めてまシて、宮本伊織サま。この度は、手足を造って頂きありがとうございまシた。
御陰様で、接続良好。かつての手足と遜色ナく稼働することが出来まス。
カヤサまも、素敵なお召し物を用意シて頂き、ありがとうございまシた。
童心に帰ったようで楽しかった、でスか。そう言って頂き幸いでス。
それでは、此度の経緯についてご説明したいと思いマす。
アラ、セイバーサま、いかがなさいましタか。
この話し方が気になりまスか。では───。
改めて、私の名前は果心居士。外法を得意とする流れの幻術師でしたが、今となっては自分でもそれは定かではありません。
驚きましたか?一時的に霊力の流れを言語機能に集中させ、流暢な会話を可能とさせています。これを可能とさせているのは、この左目──はい、この左目は魔眼です。
かつて、私が私であった証の一つです。
ところで、この躰についてですが、突如三河屋に現れたという話でしたね。
これは、あながち間違いではありません。
ですが、用意したのは大旦那さまではなく、娘さまの方です。
もう、ご存知かとは思いますが、彼女たちは駆落ちを企てていたのです。
彼女の身代わりとして私を置き、部屋にいると見せかけたその間に、逃げてしまおうという計画でした。
結果として、入れ替わりは成功したのでしょう。私は部屋に残され、私を見つけた大旦那さまが新たな所有者となりました。
娘さまが連れ戻されるまでの間──短い間ではありましたが、大旦那さまは喪失感を埋めるかのように、私を可愛がり、よく話しかけてくださいました。
本当に短い間でしたが、娘さまが戻られる頃には、大旦那さまは新たに手に入れた娘──私を本当の娘として扱うくらい、私に魅入られてしまったのです。
私のこの躰は、持ち主にその在り方を委ねます。
私に亡くした娘の面影を視るのであれば、私はその娘に、亡くした母の面影を視るのであれば母に、と在り方を変えるのです。
ですから、大旦那さまは、私に居なくなった娘を重ねていたのでしょうね。
終いには、また逃げては困ると、私の手足を切り落としてしまったのです。
主人のご乱心っぷりを見かねた奉公人達が、何とか駆落ちした娘さまを見つけ出し、家に戻したのですが……大旦那さまの関心は、戻ってきた娘さまに向かなかったのです。
娘さまが戻って来たにも関わらず、人形に熱心な大旦那さま。あんなに執着していたというのに、と囁く者も少なくはありませんでした。
*
「自身の思い通りにならぬ者は不要、か。随分と身勝手な話だな」
「力持たぬ民であれば、容易くきみに魅入られてしまうのだろうな」
「いやぁ、魅惑的な躰で申し訳ありまセん」
「……」
「……コホン。失礼しマした」
*
ですが、娘と共に駆落ち男も黙ってはいませんでした。
再び娘さまを取り戻そうと男は、押し入り強盗を企てていた
まぁ、こちらも失敗に終わるのですが。
ですので、娘さまは、この事件をきっかけに、ここには置いてはおけないと、療養所へと出されてしまったのです。
*
「ところでその押し入り強盗、男は捕まったのか?」
「いえ、同心達が来る前に逃げた、ということになっています」
「ことになっている、か・・・」
*
さて、娘さまはどのようにして私を手に入れたのかをお話しします。
娘さまは願ったのです。
ここから出られるよう、身代わりが欲しい、と。
こうして出現したのが私の躰だったのです。
何に願ったのか?──それは、猿の手です。
その猿の手、用いた者の願いを三つ叶えることが出来るのです。
何故、猿なのかって?それをお答えするには……まだ、この時代には答えがないようですね。
何故存在するのか、何故娘様の手に渡ったのかは、はっきりとはしませんが……。 まぁ、盈月の儀の影響ではないでしょうか。
では、何が起こっているのか知っていただきましょうか。
*
暗闇の中、長屋を訪れる怪しげな影がひとつ──。
その人影は、周りを警戒しながら幽霊長屋の裏手へと回る。
この長屋に件の人形が運び込まれ、未だ供養に出されていない。
供養を待つ暇はもう無い。ならば、一刻も疾く──人形を焼き払わねば──。
影は懐から懐紙を取り出し、手にした火付け石打ち付けた──。
火の付いた懐紙を、置かれていた木材に落とす。火は木材へと移り、影を明るく照らした。
これで……これで漸く、呪いから解放される──。
「何をしている」
*
女が振り返ると、二人組──伊織とセイバーが立っていた。
セイバーは手にした剣を振るう。
「ひっ」
女は、その動きに小さく悲鳴を上げる。すると瞬く間に、燃え盛っていた炎が消えた。
「あっ・・・あぁ」
燃え滓に縋るように崩れ落ちる女。伊織はすかさず女を取り押さえた。
「もう一度問う。何をしている」
「あっあの人形がっ・・・人形がっ・・・」
始めは要領の得ない譫言のように、人形と呪いの単語しか発しない女であったが、暫くして落ち着きを取り戻し、語り始めた。
聞けばこの女、三河屋に勤める古参の女中であるという。娘と人形の世話をしていた。
女が言うには、大旦那が亡くなる前に、三河屋では不可解な出来事が起きていた。
それは、夜中に屋敷を徘徊する足音。
気づいた家の者が、廊下を見やると、大旦那が切り落とした人形の足のようなものを見たという。
「故に、人形の呪いか」
伊織は得心がいった。動き回る足を見れば、人形の呪いだと考えるだろう。
「気づいていたのなら、祓えばよかったではないか」
セイバーは首を傾げるが、女は顔を顰めた。
「大旦那様に注進したけど、激怒されて一蹴されて駄目だった。……でも当の大旦那様は結局殺されちまった。次は、あたしたちかもしれない。近頃じゃ、お嬢様の療養所でも物音がするようになったって。それも人形のせいじゃないかって。ならば一刻も早くどうにかしないと、と思って・・・」
まさか三河屋だけでなく、療養所の方にまで呪いの影響が出ているとは。想像以上に呪いの力は強いようだ。
女は苦々しそうに顔を伏せた。呪いに怯え、火付けという重罪に手を出す程、相当人形に辟易しているのが窺える。
「最初はあの男の霊だって話だったのに……あっ」
女はしまった、という顔をした。女の言葉に伊織は確信した。
「駆け落ちした男のことか?……もう死んでいるんだな。死んだのは、押し入った日だろう。もみ合った際に殺したか。逃げたことになっているそうだが、皆、口裏を合わせたか」
伊織の畳み掛けるような問いに、女は言葉に詰まり、苦々しく首肯した。
「人形はもうすぐ供養する。呪いについても此方で調べる。それと、火付けの罪でお前を突き出す真似もしない──。それでいいな」
伊織の提案に、涙ぐむ女。女は深々とお辞儀をし去って行った。
*
「つまり、此度の下手人は男の霊による呪いという事でいいのか?」
「はイ」
果心居士の見立てでは盈月の儀の影響で、殺された男の怨念に霊力が集まり、呪いと化しているのではないかと言う。
「それに加えて私の手足が男の霊に力ヲ貸してしまっていマす。私の躰から離れたことで、男の魂と負の感情に力を与えてしマいました」
「であれば、些か厄介な事になりそうだな」
果心居士の本来の手足ともなれば、腕の一本ですら、相当な魔力量と考えられる。
となれば、かなり強力な呪いだろう。そんな呪いが、大旦那に対して復讐を果たしただけで済むのだろうか、というのが伊織の懸念であった。
「それだけ、男は娘の事を想っていたのだな」
「死してなお呪いになるほどにな。おかげで娘を救うことが出来た訳だか……なんだかな」
「仕方あるまい…。疾く祓い終わりにするぞ、イオリ」
「イえ、祓っただけでハ解決しないのデす」
*
問題は、呪いとなったものではなく、呪いを生む原因となったものです。
殺し殺され、という出来事は江戸中で日々起きていること。
儀の影響で呪いが生まれるなら、もっと多くの呪いが生まれるでしょう。
ならば、何故彼だったのか。
話を戻しましょう。猿の手についてです。
一つ目の願いは身代わり人形でした。
次に願ったのは、男と共に父から逃げたい、というものでした。
しかし、願った時には既に男は死んでいましたので、霊体という不完全な形で蘇ってしまいました。
運良く、霊体を強化する物…私の手足があったので、それを取り込み、呪いは父親をガツンと。
結果として、娘は父親から逃げることが出来たのでした。
……さテ、娘さまは三つ目に、何ヲ願うのでしョうネ。
*
大筋を話終えた果心居士は、口調を元に戻した。
「三つ願いを叶えると、どうなるのだ?」
セイバーは首を傾げた。その問いに伊織は口を開く。
「今までの二つの願い、果心居士、男の霊体と強力な魔力を発生させている。代償も無しと来た。最後は使った者の命を取る形で願いを叶えるんじゃないのか」
「まァ、そんな所でしょうネ」
「男の霊だけでなく、猿の手もどうにかしないといけないのだな。どちらを優先させる?」
セイバーの問いに、伊織は考え込む。そこに果心居士が助け舟を出す。
「私ヲ離れたとはイえ、元は私の手足。その手足を通して、少しは霊の暴走を抑えることガ出来ましょウ」
「ならば、猿の手からだな」
「ふむ……全ての原因は療養所にある、ということだな!よし、早速向かうぞ!イオリ!」
息巻くセイバーを、待て待て、と伊織は諫めた。
「この夜半に行っても盗人と間違えられるだけだ。それに、もう少し三河屋について探りたい」
「それもそうか・・・」
表口の戸が開く音がして、中で待っていたカヤが出てきた。
「話は終わった?じゃあ、ごはんだね!」
*
明け方、娘の居場所も含めて手がかりを得るべく、助之進の元へと向かった。
人づてに聞いた助之進の居場所は、三河屋だという。
大旦那が殺された今、周囲の警護を兼ねて下手人を上げようと奔走しているようだ。
「きみは来なくても良かったのだぞ」
「そのような訳には参りまセん。私の手足に近づけば、すぐに気配を察知すルことが出来マすから」
まだ信用していないぞと、態度に表すセイバー。
それに、と続ける果心居士。
「せっかく、素敵な手足とお召し物を用意して頂きマしたから。試運転を行わない訳には参りマせん」
先に用意された着物の他に、黒い頭巾を頭にしている。これもまた、カヤが用意したものである。
果心居士は自慢げに披露し、セイバーを煽る。
「ぐぬぬ・・・・・・。イオリ!あれだ、あれを買え!」
あ、後で良いから、と小さく付け足すセイバー。
「そう張り合うんじゃない・・・」
やや膨れ顔のセイバーを見た伊織は、後でな、と約束をした。
*
「おっと、伊織さん。人形の手足は造り終えたのかい?わざわざ出向いてもらって申し訳ないねぇ」
「あぁ、動き回れる程の物が出来上がった」
「おっと、そいつは重畳でぃ。これで呪いともおさらばだな。くわばらくわばら」
と、笑う助之進。伊織の言を真に受けていないようであった。
隣に居るのだがな。と思う伊織であったが、幻術でも用いているのか、助之進は同行者の一人が当の人形であることには気づかない。
否、果心居士の存在に気づいてもいない。
隣に佇む果心居士は、物静かなものであった。
「ところで、此度の下手人捜し、俺も協力がしたい」
「本当かい?そいつぁ、助かるぜ、伊織さん!」
「それで、下手人の目星は付いているのか?」
「ま、娘さんと駆け落ちした奉公人の男だろうなァ」
「何故、うまくいかなかったのだ?」
セイバーが首を傾げる。
「娘さん、脚が悪かったんだよ」
「脚、か」
娘は幼いころに脚に怪我を負い、歩く事に難があるという。
故に、すぐに江戸を離れることが出来ず、早々に駆落ちは終わりを告げた。
「その男、一度破落戸と押し込み強盗に入ったと聞いたが」
「お、聞いていたか」
男は手ひどく三河屋を追い出されることとなった。
命があるだけ、ましだろう、と言う者もいるが、男のその後は儘ならぬものであった。
駆落ちの話は巷で噂となり、まともな働き口を見つけるのが困難であったという。
その内、賭場に出入りするようになり、その挙げ句、破落戸と連むようになった。それが押し込み強盗を行うような連中であった。
屋敷の内情を知る男が居れば、強盗は容易く行えると踏んだ破落戸の首領は、男を仲間に引き入れた。
だが、事はうまく進まず、一部はお縄となった。しかし、男は未だ行方を眩ましているという。
奉行所は、男が既に死んでいることを把握していないようである。
「まだ、こっちで捜すがよ、怪しいもんがいたら、伸しちまってくれ」
頼んだぜ、そう言って助之進は手配書を伊織に手渡した。
「ところで、ここで幽霊騒ぎがあると聞いたんだが」
「あー、真夜中の物音の話だろう?あるにはあるらしいんだが…。ま、屋根裏の鼠かなんかだろうなァ。殺しがあったばかりだ。そんなこともありゃ、柳も幽霊に見えるだろ」
「ほう、スケノシンは呪いは信じるが、幽霊は信じていないようだな」
「いやいや、呪いも幽霊もビビっちゃいねぇよ!?セイバーさん!」
そう言う助之進の目は泳いでいる。信じるか否かの話のはずが、恐怖の有無の話にすり替わっている。
信じていないという話、要は強がりである。
「あまり、
「い、伊織さんまで~」
バツが悪そうにする助之進は、そういや、と話を変える。
「療養中のお嬢さんも物音を怖がっていてね」
「あぁ、人形の呪いが療養所まで現れているという話だろう」
「おう、耳にしてたかい。でもそれまで呪いだなんだって、ねェ。そりゃあ、療養所には、必要とありゃ朝な夕なと動き回る人間がいるから足音くれぇするけどよぉ・・・そうじゃねぇ、尋常じゃあない音だそうだ。まるで、怒り狂って、地団駄を踏んでるような、何かを叩き続けるような、よ。最初、物音は夜中に鳴り響いてた見てぇなんだが、次第に昼間にも鳴るようになったんだと。見張りの者はそういったもんは聞いてもいねぇし、怪しい奴も見ていねぇ。だから幽霊の仕業だって言うんだが・・・幽霊に足なんかがあるかいって。ましてや、こんな白昼堂々、幽霊だなんて・・・」
「後ろだ!助之進!」
「え」
助之進の背後の気配に斬りかかる、伊織とセイバー。
二人の一撃を掠めた気配は、けたたましい悲鳴を上げる。
後ろを振り返った助之進が視たものは、骸骨姿の死霊であった。
この骸骨を皮切りに次々と死霊が湧き出てくる。
「無事か!?助之進」
伊織が棒立ちの助之進に声をかけるも、返事が無い。
「こ、これは・・・」
「立ったまま気絶するとは、随分と器用だな」
苦笑いを浮かべる伊織と感心するセイバー。
「この方ハ私が守りマす。お二人はどウぞ死霊の相手ヲ」
「あぁ、頼んだ」
改めて辺りを見渡す伊織とセイバー。始めに襲いかかってきた死霊を見やった。
「おい、イオリ。あの死霊」
「脚が生えているな」
「幽霊に脚は無いんじゃなかったのか?」
透けた躰にはっきりとした脚が生えた死霊は、伊織達を威嚇するかのように地団駄を踏み始めた。
その音は全身を揺さぶり、不快さが身体を駆け巡り、伊織は思わず耳を塞いだ。
「あレは、私の脚でスね」
「あれが親玉ということか!」
そう言ってセイバーは、一歩踏み出し、脚の死霊へ跳躍し斬りかかった。
死霊は、セイバーの剣を脚で受け止めた。セイバーは追撃の手を止めること無く、死霊に斬りかかる。
死霊もまた果心居士の脚で応戦していく。
地団駄が止んだことで、自由になった伊織は、周りの死霊を片付けていく。
伊織は最後の一体を倒し、未だ親玉と戦うセイバーを見やる。
あと一手を必要とするセイバーに、伊織は魔力を回した。
「セイバー!」
「おう!任せろ!」
伊織より受け取った魔力を漲らせる。
「見せてやる!」
そう叫んだセイバーが剣を掲げると一瞬、叢雨のような雫が降り注ぐ。
死霊に向けて一閃を放つ──数多の斬撃が死霊に放たれた──。
*
死霊が消え、人形の脚だけが残った。
果心居士は脚を回収する。
「こノ死霊が男の魂でしょうネ。お疲れさマでしタ…」
「手足が呪いの核と言っていたが、脚しか持っていなかったな。腕はまた別の何かが持っているのか?」
伊織は果心居士に尋ねる。
「そうですネ。そちらはマだ、他者に危害を加えるにハ至っていないよウですが、何かのきっかけがあれバ、質の悪い怪異に変貌するでしょウ」
「きっかけ…猿の手…か」
「はイ。腕の気配を辿ルと、近くに猿の手の魔力を感じます。まダ、願望器としての力を残しているようです」
「娘がまだ持っているか。急いだほうがよさそうだな」
「ところできみ・・・きみ自身は戦わぬのか」
胡乱な目つきで果心居士を見やるセイバー。
「いくら助之進を守るためとはいえ、援護の一つや二つくれても良かったのではないか?」
まぁ、援護なぞ必要なかったがな、とセイバーは付け足した。
「おヤ、見たイのですか?とっておきがありマす」
その声には、自らの力に対する自信が感じ取れる。たダし・・・と彼女は続ける。
「私ガ戦うと、江戸が火の海と変わりマす」
セイバーが張り合おうと口を開いたが、伊織が割って入る。
「それは困るな・・・」
「では、自重しマす」
口ぶりからして彼女は火を扱うのだろう、と推測を立てる伊織。
火を扱う果心居士と水を扱うセイバー。
挑みかねないセイバーを前に、身を引いた果心居士に伊織は胸を撫で下ろした。
稀代の妖術師を焚き付けるものではない、そう思う伊織であった。
『猿の手』って比較的最近の作品だったんだ…しかも海外作品
サムレムコラボ滑り込みクリア