ダイソンスフィアプログラムが現実に来たら   作:ワタハン

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地球と月の工場だけではなく隣の惑星系も工場を建築した俺であったが
ダークフォグという敵が現れた
ゲーム知識で知っていた俺は慌てて対処する


ダークフォグ襲来

隣の恒星系にイカロスが橋頭堡となる工場を築き上げてからというもの、資源事情はまるで別世界のように様変わりした。

 

太陽系内では、どれだけ採取効率を上げても、有限の鉱床とにらめっこしながら計画を立てる必要があった。だが規制も権利者も存在しない未開の恒星系となれば、話はまったく違う。惑星ごと採り放題、発電所も気が済むまで立て放題だ。今まで「コストが掛かりすぎるから」と保留にしていた技術や設備を、初めて制限無く使える環境が整った。

 

隣の恒星系の新工場からは、惑星間物流ステーション経由で、絶え間なく資源が地球へと運び込まれてくるようになった。輸送機の発着頻度も、もはや国内の宅配便と大差ない感覚だ。

 

ただ、その受け皿となる地球側のインフラには、早々に限界が見え始めていた。日本国内だけに物流基地を集中させるのは、土地の確保という一点だけでも無理がある。これからは、惑星内物流ステーションを世界各地に分散配置し、地域ごとに独立したサプライチェーンを組み上げていくべきだろう。社長との定例会議でも、次の五年計画の柱として、その方針が固まりつつあった。

 

そこまでは、正直、順風満帆すぎるくらいだった。

 

異変に最初に気付いたのは、月面基地の監視システムだった。太陽系の外縁付近に、それまで観測されていなかった微弱な反応が、いくつも現れ始めたのだ。

 

小さなアラームだった。最初は誰も、それが何を意味するのか分かっていなかった。

 

だが、その正体はすぐに明らかになる。ダークフォグだ。

 

ゲームの中で、幾度となく対峙してきた、あの侵略者の艦隊。まさか本当に、この現実の太陽系にまで押し寄せてくるとは、正直これっぽっちも想定していなかった。侵略の先兵として送り込まれた小規模編隊は、まず各国の監視衛星をいくつか撃墜する事から始めた。NASA、JAXA、ヨーロッパ宇宙機関、中国国家航天局、ロシア宇宙軍――世界中の宇宙関連機関が、ほぼ同時にその存在に気付く事になった。

 

数日のうちに、事態は一気に緊迫した。

 

DSP社製の防衛設備だけでなく、地球側の既存のミサイル防衛網や高射砲も総動員し、大気圏へ降下してくるダークフォグの艦隊を迎え撃つ体制が敷かれた。管制室のモニターには、夜空を切り裂く迎撃ミサイルの光跡と、それに応戦する敵艦の閃光が、リアルタイムで映し出されていた。

 

激しい戦闘が続き、損耗が無視出来ない規模になった段階で、ようやくマスコミがこの件を報じ始めた。当初は「謎の飛来物体に対する演習」という曖昧な発表でごまかされていたが、市街地上空での交戦シーンがネットに流出してからは、もう隠しようがなかった。

 

「異星の脅威と呼べる何かが、太陽系に接近している」

 

そんな見出しが、世界中のニュースサイトを埋め尽くした夜、俺は工場のラインを止める余裕すら惜しんで、ガウス砲台、高周波レーザータワー、爆縮キャノン砲、磁化プラズマ砲台――手持ちの防衛設備を片っ端から増産させた。弾薬とセットで前線に送り込む。社員も、下請けも、ここまで来ると理由を詮索する余裕すら無かったのだろう、誰もが黙々と生産ラインを回し続けてくれた。

 

健闘はした。だが、それでも倒せたのは、あくまでダークフォグの偵察部隊に過ぎなかった。艦隊の本体は、まだ太陽系の外側で虎視眈々と様子を窺っている。ゲーム内の知識が確かなら、次に来るのは、比較にならない規模の本隊だ。

 

猶予は少なかった。俺は保有していた設計データの中から、惑星防衛シールドの製造を最優先に切り替えた。膨大な電力と素材を食う代物だが、これが無ければ、本隊の到来を待たずして地球全体が消耗戦で疲弊してしまう。突貫工事に近い形で、なんとか惑星防衛シールドの初期展開に成功した時には、社長も俺も、しばらく声も出なかった。

 

続けて、月、木星、土星、そして隣の恒星系の新工場にも、ダークフォグ対策の防衛設備を急いで設置していった。どこか一箇所でも手薄にすれば、そこを突かれる。生産、輸送、配備――すべてを同時並行で回し続ける日々が続いた。

 

なんとか、工場と地球圏を守り切る事には成功した。

 

だが、それと引き換えに、DSP社がこれまで隠し続けてきた「地球の技術水準を大きく飛び越えた何か」を持っている事実は、もはや誤魔化しようがなくなっていた。

 

案の定、俺は国会に参考人招致される事になった。

 

「株式会社DSPは、なぜここまで高度な防衛技術を、独自に保有していたのですか」

 

質問委員会の議員から、そう詰め寄られながらも、俺はのらりくらりと言葉を選び続けた。

 

「長年の研究開発の蓄積です。詳細な技術的経緯については、企業秘密に関わる部分もあり、お答えを控えさせていただきます」

 

決定的な言質だけは、何としても取らせるわけにはいかなかった。何時間にも及ぶ質疑を、そうやって一つ一つかわしていく。

 

JAXAとは、宇宙冶金事業の頃から比較的良好な協力関係を築けていた。だが、NASAとの関係は、そこまで深いものではなかった。その差が、今回は裏目に出た。アメリカ議会からも、参考人として呼び出しが掛かったのだ。

 

「DSP社のテクノロジーは、我が国の安全保障にとって、看過できない懸念材料だ。技術移転の意思はあるのか」

 

通訳を介して飛んでくる質問に対しても、俺は同じように言葉を濁し続けた。

 

「弊社の技術は、あくまで防衛目的の民生技術として開発したものです。各国との協力については、今後の協議次第と考えております」

 

はっきりとした回答は、最後まで一つも与えなかった。それでも良かった、と自分に言い聞かせるしかなかった。今この場で下手な言質を与えれば、DSP社という器そのものが、どこかの国に接収されかねない。そうなれば、俺が守りたかったものは、何一つ守れなくなる。

 

聴聞会を終え、日本へ戻る飛行機の中で、俺はようやく肩の力を抜いた。窓の外に見える夜空のどこかに、まだダークフォグの本隊が潜んでいるはずだった。

 

――さて、次はどう出るか。




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