━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
業務体験報告書(社内共有用)
提出日:社内記録につき年月日非公開
所属:宇宙冶金事業部 月面資源開発チーム
氏名:藤崎 麻衣
件名:月面チタン採掘・精製プラント運用業務について
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1. 概要
入社当初、私は正直「月面採掘」という言葉を、どこか比喩か、社内の隠語のようなものだと思っていた。実際に月面資源開発チームへ配属され、初めて管制モニター越しに現地の映像を見た時の衝撃は、今でも忘れられない。画面の向こうには、本物の月面が広がっていた。
2. 業務内容
私の主な業務は、月面に展開している無人製錬プラントの遠隔監視と、生産データの解析だ。採鉱機とアーク溶鉱炉、仕分け機、ベルトコンベアが、レゴリスと呼ばれる細かい月面の砂塵にまみれながらも、驚くほど安定して稼働し続けている。
大学時代、宇宙工学を専攻していた身として言わせてもらうと、月面のような真空・低重力・極端な温度差の環境で、可動部を持つ機械を長期間安定稼働させるのは、本来ものすごく難しい。摺動部の摩耗、熱膨張によるシール不良、帯電した砂塵による絶縁不良――挙げればきりがないほどの課題がある。
それなのに、現場のプラントは、そうした課題がまるで存在しないかのように、淡々と稼働記録を更新し続けている。初めて月次の稼働率レポートを作成した時、数値のあまりの安定ぶりに、入力ミスを疑って三回見直した。ミスではなかった。
3. 印象に残った出来事
配属二ヶ月目、担当していた第一プラントの精製ラインで、想定外の稼働率低下が発生した事があった。原因を調べようとログを遡っている最中、こちらが何も手を打たないうちに、数時間で稼働率が自動的に元へ戻っていた。後で分かった事だが、遠隔地から現地設備が自己修復的に構成を組み替えていたらしい。地球側の技術者が誰も手を出していないのに、だ。
その時、初めて実感した。この事業を支えている技術基盤は、自分がこれまで学んできた宇宙工学の延長線上には無い。まったく別の体系の上に成り立っている、と。
4. 所感
出来上がった「ルナチタニウム合金」の純度データを見た時、社内の品質保証チームが一瞬静まり返ったのを覚えている。既存の地球産チタン合金の常識では、まず出てこない数値だった。
正直に書く。この会社に入るまで、私は「会長」という肩書きの人物を、ただの経営者だと思っていた。だが実際に月面事業の中身に触れれば触れるほど、これを最初に構想し、実現させた人間の頭の中が、どうなっているのか見当もつかなくなる。宇宙工学を学んだ人間として、これほど圧倒される仕事に出会えるとは思っていなかった。
以上、業務体験の共有として報告する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
業務体験報告書(社内共有用)
提出日:社内記録につき年月日非公開
所属:宇宙輸送事業部 打ち上げ運用管理チーム
氏名:香月 彩
件名:ミニ輸送ロケット・惑星間物流ステーション運用業務について
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1. 概要
前職では、国内大手のロケット関連メーカーで、打ち上げスケジュール管理の仕事をしていた。転職の面接で「発射サイロの運用管理」と聞いた時は、既存のロケット射場の縮小版のようなものを想像していた。実際に配属されて、その想像がいかに甘かったかを思い知らされた。
2. 業務内容
私の担当は、垂直発射サイロ群からの輸送機発射スケジュールの調整と、地球側・月側の惑星間物流ステーションとの連携業務だ。前職では、一回の打ち上げに数ヶ月単位の準備期間と、莫大な燃料コストが掛かるのが当たり前だった。ここでは、輸送機の発着が、ほとんど路線バスのような感覚で行われている。
3. 印象に残った出来事
配属初日、管制室で最初の発射を見学した時の事は、一生忘れないと思う。電磁軌道射出機が輸送機を撃ち出した瞬間、モニター上の速度表示が一瞬で見た事もない数値に跳ね上がった。隣にいた先輩社員に「これ、本当に燃料を燃やしてないんですか」と聞いたら、「うちは電気だけで飛ぶので」とあっさり返された。
もっと驚いたのは、木星・土星方面への往復スケジュールを初めて任された時だ。前職の感覚では、外惑星探査機の往復など、片道だけで年単位の計画になる。ところが実際の運用マニュアルには、地球―月間とほとんど変わらない感覚のスケジュール表が組まれていた。空間歪曲機とやらのおかげらしいが、正直、いまだに原理を完全には理解出来ていない。
先日は、太平洋の島国向けに、人工恒星発電機を輸送する初便の運用も担当した。現地の担当者から「本当にこの規模の発電設備を、こんな短期間で届けられるのか」と半信半疑で聞かれた時、実際に届いた輸送機を見て絶句していた顔が忘れられない。
4. 所感
前職で「これが宇宙開発の限界」と教えられてきた常識が、この会社では次々と塗り替えられていく。燃料の制約も、距離の制約も、時間の制約も、まるで別の物差しで測られているような感覚だ。
こんな仕組みを、最初にどうやって思いついて、どうやって実現までこぎつけたのか。現場にいればいるほど、会長という存在のスケールの大きさに、ただただ圧倒されるばかりだ。
以上、業務体験の共有として報告する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いかがでしたでしょうか?