ダイソンスフィアプログラムが現実に来たら   作:ワタハン

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DSPの量子チップを解析しようとしてダメだった


解析してコピーしようとして落胆する会社

国内大手半導体メーカーの解析ラボに、DSP社製マイコンボードとプロセッサーのサンプルが持ち込まれたのは、ライセンス契約締結からわずか数日後の事だった。表向きの目的は「品質検証」。だが現場のエンジニアたちの本音は、ただ一つしかなかった。

 

――この化け物じみた性能の秘密を、何としてでも解き明かしたい。

 

最初に回路基板を分解した瞬間、担当した若手エンジニアは、モニター越しに拡大された断面画像を見て、しばらく言葉を失っていたという。積層構造の層数が、既存のどの製品とも桁が違う。しかも、その一枚一枚のパターンが、まるで意味も無く美しい。配線密度を極限まで詰め込んでいるはずなのに、無駄な迂回が一切無く、まるで熟練の職人が、機能美だけを追求して描いた芸術作品のようだった。

 

「なんだこの配置は……美しすぎるだろ……」

 

ベテランの回路設計者が、思わずそう呟いたと、後の報告書には書かれている。既存の設計手法で、これほどの密度と美しさを両立させる事は、理論上ほぼ不可能に近い。誰かが、途方もない時間を掛けて手作業で最適化したとしか思えない配置だった。だが、それを量産レベルで実現しているという事実が、現場の常識を根底から揺さぶった。

 

問題は、プロセッサー――量子チップの方だった。

 

電子顕微鏡で覗けば、トランジスタとおぼしき構造の配置そのものは、確かに視認出来る。だが、そこから先が進まなかった。DSP社の量子チップは、常温超電導を利用した量子回路を多用しており、従来の静的な解析手法がまったく通用しなかったのだ。通常の半導体であれば、電気的特性を一つ一つ追う事で論理回路の構造をある程度復元出来る。だが、量子的な重ね合わせ状態を利用した回路は、そもそも「一つの状態」として観測する事自体が、回路の本質的な振る舞いを破壊してしまう。

 

「配置は見える。なのに、何をやっているのか分からない」

 

解析チームのリーダーは、何度もそう漏らしていたという。プローブを当てても、望む情報は取れない。X線トモグラフィーで内部構造を三次元的に復元しても、そこにあるのは美しい幾何学模様だけで、論理としての意味を読み解く事が出来ない。ベテランのエンジニアが、地団太を踏みながら机を叩く場面もあったと、現場の目撃談には残っている。

 

数週間に及ぶ解析の末、チームがまとめた報告書は、結論としては極めてシンプルだった。

 

「現行の解析手法では、当該プロセッサーの論理回路構造を特定する事は不可能と判断する」

 

その報告書を読んだ最高技術責任者は、しばらく額に手を当てたまま、動けなかったという。ライセンス供与を受けている以上、契約範囲内でDSP社製の製品をそのまま製造する事は出来る。だが、それはあくまで「決められた設計図通りに作る」だけの話だ。その構造を理解し、独自に改良したり、類似製品を自社開発したりする事は、今の技術力ではまるで見当がつかない。

 

「これでは、いつまで経ってもDSP社の下請けから抜け出せない」

 

そう判断した最高技術責任者は、最後の手段として、DSP社へ正式な技術開示要求のメールを送る決断をした。丁寧な文面で、共同研究という名目を掲げ、量子回路のアーキテクチャに関する技術情報の一部開示を求める内容だった。

 

返信は、驚くほど早く届いた。

 

「弊社の技術情報は、ライセンス契約の範囲外での開示は一切行っておりません。契約書第○条をご確認ください」

 

たったそれだけの、事務的な一文だった。追伸のように付け加えられていた一文が、担当者の神経を余計に逆撫でした。

 

「なお、ご興味があれば、当社の採用情報もご覧いただければ幸いです」

 

社内の会議室で、その返信メールが共有された瞬間、しばらく誰も口を開かなかった。真面目に頭を下げて開示要求を出した自分たちが、まるきり子ども扱いされたような気分だった。

 

「……完全に、鼻で笑われたな」

 

最高技術責任者は、そう呟いて、報告書をそっと閉じた。




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