俺はまず百万円を稼ぐ事にした
ただ色々な壁が道の先にあり道のりは困難だ
それでも決して諦めない
クリア済の俺にはインベントリに様々な資源と基本的な設備を有している
はじめは大変だろうがゲーム序盤は何度も繰り返してきた事の復習みたいなもんだ
ダイソンスフィアを建築し終えた俺のインベントリには、各種設備と資源や素材が入っている。それに、イカロスのスペックもフルに増強済みだ。ゲームをクリアしたデータそのまま、ってわけだ。普通なら、ここでアドバイザーが「次はこれを建てましょう」みたいに指導してくれる。でも、この現実世界ではそうはいかない。誰も教えてくれない。俺自身が主体的に動かないと、何も進まないのだ。そこが、ゲームと一番違うところだと思った。
まずは、なけなしの貯金で土地を買うことにした。この歳まで、PCゲームくらいしか趣味がなかったから、貯金だけはそれなりにある。飲みにも行かないし、車も古いままだし、服も買わない。そういう地味な生活が、ここにきて役に立った。まあ、役に立ったといっても、土地を買って工場を建てるには、やっぱり足りるかどうか怪しい金額だ。でも、やらないよりはましだ。
まず、会社を辞めた。
「長い間お世話になりました」
上司の小林が、いろいろ圧を掛けてきた。引き止めというか、説教というか、辞める理由を根掘り葉掘り聞いてくる感じだ。俺は、そういうのを全部スルーした。ここでぐだぐだしていると、決心が鈍る。辞める、と決めたら、さっさと辞めたほうがいい。退職の手続きを済ませて、ハローワークに行った。職業訓練を受けることにした。なぜかというと、職業訓練期間中は、失業保険金を受け取れるからだ。無職で土地を買って、工場を建てようっていうんだから、金の計算はシビアにやらないと、すぐ詰む。
ご都合主義的だが、イカロスには熱光学迷彩機能があった。見えなくなる、ってやつだ。これがなかったら、数メートルのロボットをどうやって運ぶんだって話になる。さらに、燃料を入れなくても、コアエネルギーにより低速だが移動が可能だ。とりあえずガソリンを入れようかと思ったが、騒ぎになると困る。ガソリンスタンドで、ロボットに給油するわけにもいかない。だから、灯油をポリタンクで入れた。無職の身には、金銭的に削られる思いだったが、必要だから仕方がないと諦めた。灯油代も、バカにならないんだよな。
北海道に、産業廃棄物を不法投棄されて、買い手が付かない土地があった。それを二束三文で買えた俺は、思わずガッツポーズをした。いや、本当に、誰も欲しがらない土地だ。土壌が汚染されている。不動産業者の営業マンは、土壌が汚染されて誰も欲しがらない土地を、無職が買うことについて、心配していた。そりゃそうだ。普通に考えたら、変な買い物だ。でも、退職金と貯金からひねり出した資金で、そこそこの値段のその土地を買うことができた。営業マンも、最後は「まあ、ご本人がよければ」と、半ばあきらめた顔をしていた。
とりあえず、スターリンクを契約して、パソコンを使えるようにした。北海道の、こんな辺鄙な土地じゃ、普通の回線を引くのも大変だ。スターリンクなら、アンテナを置けば、なんとかなる。そして、SteamクライアントからDSPを起動すると、いつも通り、イカロス視点と各種数値のGUIが表示された。ああ、やっぱりゲーム画面なんだな、と変な安心感があった。画面の中の数字が、現実のイカロスとつながっている。そこが、まだ信じられないところでもある。
イカロスのコアエネルギーは、ちょっとした発電所レベルだ。さらに、イカロスに内蔵された合成機を使えば、資源から材料が製造できる。つまり、イカロス自体が、小さな工場みたいなものだ。でも、イカロス一体だけじゃ、ずっと手作業みたいなものだ。採鉱機をインベントリから出した。こいつ一つで、鉄鉱石、銅鉱石、石炭、石材、チタン等が手に入る。イカロスでも、腕からレーザーを出して採集はできるが、ずっと操作し続けるのは楽ではない。俺が寝ている間も、動いてくれないと困る。自動化できるなら、したほうがいいだろう。工場ゲーの基本は、自動化だ。
採鉱機の電力消費量は、420kWだ。電気代を考えたら、とてもじゃないが、商用電力では動かせない。だから、風力発電機かソーラーパネルを設置することにする。発電能力は、風力発電が300kW、ソーラーパネルが360kW。消費電力は、採鉱機が420kW、仕分け機が18kW、アーク溶鉱炉が360kWだ。数字だけ見ると、採鉱機一つでも、風力一基じゃ足りない。ソーラーを組み合わせても、ぎりぎりだ。だから、複数立てることになる。
採鉱機に給電するのに、テスラタワーを立てる。テスラタワーで給電できる範囲は10m、接続距離は22mなので、このテスラタワーだけでもオーバーテクノロジーだ。無線で電気を送る塔なんて、現実の電力会社が見たら、まず説明できない。バレたらまずいだろう、と思いながらも、立てないと話が始まらない。だから、土地の奥のほうに、目立たないように立てることにした。
採鉱機を複数台設置し、仕分け機を通じてベルトコンベアに送り込むようにする。採鉱機からベルトコンベア、ベルトコンベアから仕分け機を通じてアーク溶鉱炉、アーク溶鉱炉からベルトコンベア、ベルトコンベアから貯蔵庫へ、という流れを作った。そして、風力発電とソーラーパネルを適当に立て、テスラタワーも追加で立てていく。ゲームで何度もやった配置だ。手が覚えている。ベルトが回り始めて、鉱石が流れていくのを見ていると、やっと工場らしくなってきた、と思った。
大体、5MWの発電量に対して、消費電力は4.5MWだ。これがもし北海道電力と契約していたら、凄いことになっていただろう。高圧、6000V以上の電気料金単価は、大体18〜25円/kWhだ。それで4.5MWだとすると、月に5000万円近くになる計算になる。退職金と貯金から捻出することは、到底不可能だったろう。月5000万円なんて、宝くじでも当たらなきゃ無理だ。だからこそ、イカロスの発電機と、風力、ソーラーで自給するしかない。商用電力に頼ったら、即死だ。
風力発電とソーラーパネルを立てまくれば、売電で寝ていても金が入ってくるかもしれない、と思った。いや、正直、一瞬、本気で考えた。でも、既存の電力網に無線給電を接続できるのかどうか、分からない。それに、電力会社が調査に来たら、説明できない。テスラタワーを見られたら、終わりだ。残念だが、いったん諦めた。売電は、後で考えることにした。
ちょうど、石油が湧く勇払平野なので、原油を採掘するのもいいかもしれない、と思った。職業訓練を受けながら、半年間、土日はスクラップが山になっているその土地で、金属を製錬し続けた。平日は訓練、土日は工場、という生活だ。体はきつかったけど、ベルトが回って、インゴットが貯まっていくのを見るのは、楽しかった。ゲームの序盤を、何度も繰り返してきたことの復習みたいなもんだ、と自分に言い聞かせていた。
「職業訓練で電気工事士の資格取れたけど、CAD覚えてもCADオペの仕事がねえじゃんか……」
訓練が終わる頃、俺はそんなことをぼやいていた。電気工事士の資格は取れた。CADも、ある程度は覚えた。でも、CADオペの仕事が、簡単に見つかるわけじゃない。だったら、もう自分で会社を作るしかない。B2B狙いで、株式会社DSPを設立し、社長になった。もちろん、社員は俺一人だけなので、株式公開はしない。一人会社だ。
スクラップから、鉄インゴットと銅インゴットを製錬することはできたが、チタンは、さすがに出てこなかった。その他、再利用できない本当のゴミだけが残った。スクラップの山を全部溶かしても、チタンは出ない。まあ、そんなものだ。鉄インゴットと銅インゴットは、商社を通して販売することにした。会社のHPを作り、スクラップから鉄、銅、チタンなど金属資源をリサイクルするという、会社の体裁を整えた。HPにチタンって書いてあるけど、実際は鉄と銅だけだ。そこは、まあ、体裁ってやつだ。
そして、石油を探してボーリングしていたら、なんと石油が湧いてきた。慌てて、原油汲取機を設置する。原油精製所も、ついでに出した。これで、水素と精製油が出てくるようになった。とはいえ、日本の油田なので、それほど多くは汲み取れないだろう。水素と精製油は、タンクを設置し、しばらく貯蔵することにする。すぐに売るんじゃない。まずは、貯めておく。使い道は、後で考える。とりあえず、工場が回り始めた。それだけで、十分だった。
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