ダイソンスフィアプログラムが現実に来たら   作:ワタハン

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人口恒星で消費する対消滅燃料棒に関するあれこれ


対消滅燃料棒に関する補足

反物質燃料棒の製造工程を、あらためて自分でノートにまとめ直してみると、我ながら物騒な話だと思う。

 

反水素と水素、対消滅束縛球、そしてチタン合金。チタン合金はチタンインゴットと鋼鉄、硫酸から作る。粒子コンテナは電磁タービン・銅インゴット・グラフェンから、対消滅束縛球はその粒子コンテナとプロセッサーから組み上げる。どの工程も、単体で見れば地味な化学プラントと変わらない。だが、それらを最後に一つに束ねた瞬間、反水素と水素の対消滅を安定的に制御しながら燃やし続けるという、常識外れの発電システムが出来上がる。

 

放射線受信機で臨界光子を受け取り、そこから水素と反水素を生成する。この臨界光子こそが、すべての起点だった。ダイソンスフィア――正確には、まだ建造途中のダイソンシェルとソーラーセイル群から、24時間絶え間なく地球へと降り注いでいるエネルギーの一部を、そのまま受け取っているに過ぎない。

 

問題は、その受信機をどこに設置するかだった。

 

太陽からのエネルギーを効率良く、かつ人目に付かずに受け取れる場所として、俺たちが選んだのは南極と北極だった。人口密度がほぼゼロに近く、既存の国際研究基地が点在しているおかげで、多少の観測機材を追加設置しても、そこまで不自然に映らない。実際には、日本の研究機関を通じた「新型の宇宙線観測プロジェクト」という名目で、こっそりと放射線受信機を運び込んだ。極地特有の過酷な環境も、イカロス由来の設備にとっては、月面の環境に比べればまだ生易しいものだった。

 

こうして完成した反物質燃料棒は、驚くほど安定していた。発電出力は一本あたり7.20GJ。数字だけ見ても実感が湧かないが、既存の火力・原子力発電と比較しても、桁違いの出力密度である事は間違いない。

 

これを心臓部に据えた発電機――社内で「人工恒星」と呼んでいるあの装置による売電事業は、想像以上の利益をもたらしてくれた。もっとも、今更ながら風力発電やソーラーパネルも売っている身としては、少々皮肉な話でもある。旧世代の再エネ設備を売りながら、その隣で、桁違いの発電システムをこっそり展開しているのだから。

 

人工恒星の導入によって、北海道の電力自給率は、ついに百パーセントに達した。それに引きずられる形で、隣町の原子力発電所は、発電を停止したままの状態が続いている。「もう原発は要らないのではないか」という意見が、世間でもちらほら出始めているらしい。

 

正直、複雑な気持ちだった。原発を止めたいと思って始めた事業ではない。ただ、安く安定した電力を供給しようとしたら、結果的に既存のエネルギー体系そのものを揺さぶる事になってしまった。原発に関わってきた人たちの雇用や、地域経済への影響を考えると、素直に喜んでばかりもいられない。それでも、選択の余地が世の中に増える事自体は、悪い話ではないはずだ――そう自分に言い聞かせるしかなかった。

 

一方で、この技術の軍事転用という、避けて通れない課題にも向き合わざるを得なかった。

 

反物質カプセルの開発は、正直に言えば、成功させたくて成功させたわけではなかった。プラズマカプセルと粒子コンテナ、反水素と水素から作られるこの兵器は、既存のどの兵器とも比較にならない破壊力を持つ。プラズマカプセルの製造にはグラフェンと磁石、重水素が必要で、粒子コンテナの方もやはりグラフェンを大量に消費する。開発チームからの報告書には、毎回のように「グラフェンの生産量を増やす必要があります」という一文が添えられていて、そのたびに俺は、ため息をつきながら製造ラインの増設を承認していた。

 

問題は、威力ではなく、使いどころだった。

 

反物質カプセルは、対消滅反応そのものの性質上、使用すれば必ず放射線を周囲にまき散らす。磁化プラズマ砲台でこのカプセルを撃ち込めば、標的は確実に破壊出来る。

 

「これ、本当に使う場面あるのか」

 

開発責任者との会議で、俺は何度もそう聞き返した。返ってくる答えはいつも同じだった。「ダークフォグの巣のような、人が近づかない場所限定であれば」。結局、その用途以外には、実戦投入の目処は立っていない。

 

技術としては誇らしい。だが、こうして一つずつ形にしていくたびに、便利さと危うさが、常に表裏一体で付いてくる事を、あらためて思い知らされる。




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