ダイソンスフィアプログラムが現実に来たら   作:ワタハン

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月のチタン採掘の為の試験プラントでダイヤモンドが採掘された
DSP社はどういう対応をするのか


月でダイヤモンドを発見!!!

朝刊を手にした瞬間、正直、頭を抱えた。

 

「DSP社 月の裏側でダイヤモンド鉱脈を発見!!!」

 

でかでかとした見出しの下に、月面プラントの外観写真まで添えられている。広報部に確認を入れると、月面事業部が上げた「新規鉱物資源の確認」という、ごく事務的な社内リリースを、どこかの記者が独自に嗅ぎつけて記事化したものらしい。情報統制も、ここまで大々的に報じられてしまうと、もはや手の打ちようが無い。

すぐに社長から電話が入った。

 

「会長、これ、どう対応しましょう」

 

「まず、慌てて売り出すのだけはやめよう」

 

キンバーライト鉱床から採れる天然ダイヤモンドは、地球上でも既に、宝飾品市場全体を握る巨大な国際シンジケートによって、供給量と価格が厳密にコントロールされている。仮に月面産のダイヤモンドを大量に市場へ流せば、既存の価格体系そのものを破壊しかねない。それは、世界中の宝飾業界を敵に回す事を意味する。技術の秘密を守る事に散々気を遣ってきた身としては、絶対に避けたいシナリオだった。

とはいえ、幸い、こちらには大きな後ろ盾があった。DSP社という会社そのものだ。既に量子チップや防衛装備、宇宙関連事業で、各国政府や大手企業と一定の信頼関係を築いている。「素性の知れない小さな採掘業者が、突然ダイヤモンドを掘り当てた」という話であれば、シンジケート側も強引な圧力を掛けやすかっただろう。だが相手はDSP社だ。無闇に敵対すれば、どちらが痛い目を見るかは分からない。少なくとも、そう思わせるだけの実績は、これまでの事業展開で積み上げてきたつもりだった。

社内で急遽開いた対応会議では、大きく二つの方向性が挙がった。

一つは、シンジケート側と正式に交渉のテーブルを持つ案だ。月面産ダイヤモンドの供給量と流通ルートについて、あちら側の管理体制の枠内に、こちらから歩み寄る形で組み込んでもらう。市場を壊さない代わりに、一定の取り分を確保するという、穏当な落としどころだ。

もう一つは、宝飾市場そのものへの参入を避け、産業用途にシフトする案だった。ダイヤモンドは美しい宝石であると同時に、天然素材の中でも屈指の硬度と熱伝導性を持つ、極めて優秀な工業材料でもある。精密切削工具、放熱基板、量子デバイスの一部部材――こちらの技術体系と組み合わせれば、宝飾市場とはまったく別の、しかも参入障壁の高い市場を切り開ける可能性があった。

 

「両方、やればいいんじゃないですかね」

 

会議の終盤、技術開発部門の若手が、あっさりとそう提案した。

「宝飾用の高品質原石は、シンジケートとの交渉窓口を通して、向こうの流通網の中で慎重に扱ってもらう。その一方で、傷や色合いの都合で宝飾に向かない原石は、こちらの技術で工業用途に加工して独自に展開すればいい。競合しない棲み分けが出来るはずです」

理にかなった提案だった。会議室に、少しだけ前向きな空気が流れた。

もちろん、話はそう簡単には進まないだろう。シンジケート側との交渉は、決してこちらに有利な条件だけで済むはずがない。既に、複数の国際宝飾団体から、問い合わせと言う名の探りが入り始めているとの報告も上がっている。中には、あからさまに「月面採掘権の共同管理」を持ちかけてくる勢力もあるらしい。

それでも、少なくとも今回は、真っ向から潰しに来られるような立場ではない。これまで積み重ねてきた事業と信用が、初めて「盾」として機能している実感があった。

会長室の窓から、まだ膨らみきらないダイソンシェルの淡い光が見える方角を眺めながら、俺は一人つぶやいた。

「まさか、宝石業界とまで渡り合う事になるとはな」

事業の裾野は、思ってもみなかった方向へと、また一つ広がろうとしていた。




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