【鉱脈が枯渇しました】
会長室に置いたゲーミングPCで、久しぶりにイカロスを遠隔操縦していると、そんなシステムメッセージが表示された。
創業の地、勇払平野のあの土地――かつて産業廃棄物が不法投棄されていた、誰も欲しがらなかった土地が、長年の採掘によって、ようやく完全に浄化された事を意味していた。
感慨が無いと言えば嘘になる。あの荒れ果てた土地を二束三文で買い叩いた日から、もう何年も経つ。採鉱機で掘り起こしていたのは、鉄鉱石や銅鉱石である以前に、誰かが不法に埋めた産業廃棄物そのものだった。考えてみれば妙な話だが、あの土地にとっては、俺たちの事業こそが、長年放置されてきた環境問題を解決する手段でもあったわけだ。
もちろん、そんな事もあろうかと、並行してスクラップの受け入れ事業も進めてはいた。だが、通常の一般廃棄物として受け入れられる量には、どうしても限界がある。一日に処理出来る量からすれば、長年にわたって不法投棄が積み重なった土地を直接操業地にする方が、はるかに効率が良かった。もとより工場は、最大限自動化する前提で設計している。効率こそが正義だ。
「会長!産業廃棄物が投棄されている土地を押さえましたよ!」
秘書の松山が、分厚い書類の束を抱えて会長室に飛び込んできた。全国の不動産仲介網と、環境コンサルティング会社を通じて、長年問題になっていた未処理の不法投棄地を、密かに買い取る交渉を進めさせていたのだ。
「取り合えず、採鉱機と風力発電機とソーラーパネルと蓄電器を輸送だな」
俺は書類にざっと目を通しながら、そう即答した。
正直な話、ここまで会社が大きくなると、非上場企業であっても、社会からの見られ方を完全に無視するわけにはいかなくなってくる。株式を公開していない以上、投資家向けの説明責任こそ無いが、だからこそ逆に、こういう形で社会に還元する姿勢を見せておく必要がある。そう考えた俺は、「日本一周スクラップの旅」と銘打った、全国の不法投棄地を巡回しながら浄化していく企画を、社内で立ち上げる事にした。
最初に手を付けたのは、青森県内の山間部だった。かつて大規模な不法投棄が社会問題化した地域の近隣に、今も手つかずのまま残っていた小規模な投棄地だ。採鉱機とアーク溶鉱炉を現地に運び込み、わずか数週間で、鉄くずの山が更地に変わった。地元のテレビ局が取材に訪れ、「長年の懸案が、民間企業の手で解決した」というニュースが、ちょっとした話題になった。
次に向かったのは、新潟県の山あいにある、やはり長年放置されていた投棄地だった。ここでは風力発電機の設置がうまくいき、浄化作業と並行して、地元の電力網への供給も開始した。
群馬県では、山間部の不法投棄地に加え、近隣の廃工場跡地もまとめて引き受けた。ソーラーパネルを敷き詰め、浄化後の土地を、地元自治体に太陽光発電用地として提供する事にした。
千葉県の臨海部では、産業廃棄物に加えて大量の金属スクラップが混在する土地に遭遇した。ここは規模が大きく、現地に蓄電器を据え付けた仮設プラントを数ヶ月稼働させる事になった。
広島県、福岡県と、瀬戸内から九州にかけても、同様の投棄地をいくつか押さえた。特に福岡県北九州市周辺では、古くからの工業地帯特有の、金属資源が豊富な産業廃棄物が多く、処理と同時に良質な鉄・銅インゴットの回収量も跳ね上がった。
最後に立ち寄った鹿児島県のある島では、島内の不法投棄地を一掃したついでに、人工恒星発電機を一基、試験的に設置させてもらった。島の電力事情が劇的に改善した事もあって、地元の歓迎ぶりは、これまでの土地の中でも一際大きかった。
全国を一巡する頃には、松山から上がってくる報告書の表紙にも、いつしか「日本一周スクラップの旅・第七弾」などという、どこか呑気な通し番号が付くようになっていた。
「会長、これ、来年度も続けますか」
松山にそう聞かれて、俺は少し考えてから答えた。
「ああ。どうせやるなら、全都道府県制覇くらいは目指そう」
社会貢献のつもりで始めた企画だったが、気づけば、俺自身が一番この「旅」を楽しんでいるのかもしれなかった。
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