ダイソンスフィアプログラムが現実に来たら   作:ワタハン

28 / 31
突撃系ユーチューバーに突撃されたDSP社だったが
上手く追及を躱すよ


突撃系ユーチューバーをスルーするよ

会長室に、松山がタブレットを持って入ってきた。

 

「会長、例のユーチューバーです。SNSで予告を出しています」

 

画面には、短い投稿があった。

 

「次は空から調べます。ドローン買いました」

 

俺は、ため息をついた。前回はフェンスの外で止まってくれた。警備会社が冷静に対応してくれたから、大きな騒ぎにはならなかった。だが、本人は「もっと調べます」と言ったままだった。その言葉が、こういう形で返ってくるとは思っていた。

「警備会社には、連絡済みですか」

「はい。フェンス沿いの巡回は増やしてもらっています。ただ、ドローンとなると、地上の警備だけでは……」

松山の言いたいことは分かる。敷地に入らなければ、不法侵入にはならない。空から撮るだけなら、止め方も難しい。

俺は、しばらく考えた。

前回のニュースで、専門家が言っていた。「秘密主義を印象づける企業ほど、陰謀論的な憶測が加速する」。その指摘は、半分は正しいと思っている。隠さなければいけないのは、イカロスと、ゲームの仕組みだけだ。見せられるものまで隠す必要はない。

 

「松山。見学デーを、やろう」

「見学、ですか」

「ああ。ただし、見せるのは表の顔だけだ。スクラップの浄化ラインと、風力とソーラー。それなら、前に地方のテレビにも取材させている。新しいものは何もない」

 

松山は、すぐに理解したようだった。

 

「会長は、出ませんよね」

「もちろん。社長に任せる。俺は、会長室でモニターを見ているだけでいい」

 

夜、家に帰ると、妻がニュースを見ていた。子どもは、もう寝ている。

 

「また、変なニュースになってたね」

「ああ。でも、今回はこっちから見せる側に回る」

 

妻は、深くは聞かなかった。いつものように、「話せる範囲で話してくれればいい」という顔をしていた。それが、ありがたい。

数日後、夕方。警備会社から連絡が入った。フェンスの上空に、ドローンが一機、入ってきたという。

警備員が拡声器で警告し、警察にも通報した。操縦者は、やはり例のユーチューバーだった。ドローンは回収され、映像は確認された。写っていたのは、施設の外観と、風力発電機と、ソーラーパネルだけだった。内部は、写っていない。

 

警察官は、彼に注意をした。彼は、その場では素直に従った。だが、帰り際に、またSNSに投稿した。

 

「中は見せてもらえなかった。だから、見学デーに行きます」

 

翌朝、松山が見学の申し込み一覧を持ってきた。

 

「会長、申し込み、けっこう来ていますよ。……それと」

 

松山は、一枚の用紙を指さした。

 

「この中に、例のユーチューバー名義のものが混じっています。どうしますか」

 

俺は、少しだけ笑った。

 

「断る理由はない。表の顔を見せるための見学だ。来たいなら、来ればいい」

 

ただし、と俺は付け加えた。

 

「会長室のモニターだけは、絶対に見せないように」

 

見学デーの朝、俺は会長室にいた。

社長が、正面玄関で参加者を出迎えている様子が、モニターに映っている。地元の人、学生らしき人、そして、例のユーチューバー。カメラを持っているが、今日は撮影できる場所が決まっている。説明は、最初に社長からきちんとするはずだ。

 

「会長、ゲーム用のPCは、もう落としてあります」

 

松山が、小声で言った。

 

「ああ。今日は、こっちのモニターだけだ」

 

見せるのは、表の顔だけ。それは、前回決めた通りだ。スクラップの浄化ライン、風力発電機、ソーラーパネル。会長室と、研究開発棟は、コースから外してある。

モニターの中で、社長が説明を始めた。

 

「ここは、もともと産業廃棄物が不法に投棄されていた土地でした。弊社が買い取り、金属を回収しながら、土地を浄化してきました」

 

これは、嘘ではない。創業の地の話だ。全国の投棄地を巡る旅でも、同じことを地元のテレビに取材させている。参加者は、黙って聞いていた。

 

ユーチューバーが、手を挙げた。

 

「深夜の、謎の光って何ですか。地元では『人工太陽』って呼ばれてますよね」

 

社長は、落ち着いて答えた。

 

「夜間の作業用の照明と、発電設備の明かりです。遠くから見ると、そう見えるのかもしれません。詳しい設備の配置については、保安上の理由でお答えできません」

 

次に、ユーチューバーは、求人のタイミングや、関係者が姿を消すという噂についても聞いてきた。社長は、どれも同じ調子で返した。

「採用については、守秘義務の関係で、配属先を事前に詳しくお伝えできない部署があります。噂については、事実と異なるものも多く、個別にはお答えできません」

見学が進み、一行は研究開発棟の前を通った。扉には、「非公開」と書かれている。

ユーチューバーが、ふとその方向へ足を踏み出した。すぐに、警備員が声をかけた。

「こちらは立ち入り禁止区域です。コースはこちらになります」

ユーチューバーは、カメラを下ろして、素直に戻った。前回と同じだ。無理な突入は、しない。ただ、諦めてもいない。

見学が終わる頃、地元の参加者の一人が、社長に言った。

 

「思ったより、普通の工場だったな。もっと怪しいところかと思ってた」

 

俺は、会長室で少しだけ息を吐いた。表の顔を見せる。それだけで、ここまでは十分だった。

その夜、ユーチューバーは動画を投稿した。

 

「表は普通の会社だった。だからこそ、裏が気になる」

 

コメント欄は、前回とは少し違っていた。「見学させただけマシだろ」「普通にリサイクル会社じゃん」という声も、増えていた。全部を納得させることはできない。だが、全部を疑われるよりは、ましだ。

翌朝、松山が新しい書類を持ってきた。

 

「会長、見学のあと、もう一件、申し込みが来ています」

「ユーチューバー、じゃないのか」

「いいえ。今度は、テレビ局からです。ドキュメンタリーの取材をしたい、と」

 

俺は、書類に目を通した。ユーチューバー一人なら、まだ対応できた。テレビ局となると、話は別だ。

 

「……社長と、広報とで、まず話を聞いてくれ。受けるかどうかは、そのあとで決める」




いかがでしたでしょうか?ぜひとも”お気に入り登録”や”評価”、感想などをいただけると執筆の励みになります。よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。