株式会社DSPとして防衛設備への参入をする事になった
ガウス砲台と高周波レーザータワー、この二つを実用レベルまで仕上げるのに、それほど時間は掛からなかった。何しろ設計図はとっくに完成している。
俺がやったのは、中間素材を製造して、製造ラインをひたすら回しただけだ。問題は、これをどこに売るかだった。
民間向けに「見た事もない威力の砲台です」なんて売り出したら、一発で警察が飛んでくる。かといって埋もれさせておくのも勿体無い。だったら最初から、武器としての性能をそのまま評価してくれる相手に持ち込むしかないだろう。
俺は防衛装備庁の窓口に、思い切って連絡を入れる事にした。窓口に出す前に、手元の資料として簡単な仕様書をまとめておく。
・ガウス砲台
磁場を利用して高速で射撃する防衛設備。
口径:48mm
射撃速度:6発/秒
必要材料:鉄インゴット・歯車・回路基板・電磁石
マグナム弾は銅インゴットを加工すれば作れる。
・高周波レーザータワー
必要材料:鋼材・プラズマ励振機・回路基板・光子結合機
レーザー出力:3.0MW
鋼材は鉄インゴットをアーク溶鉱炉で処理すれば作れる。
プラズマ励振機はプリズムと電磁石から作れる。
光子結合機はプリズムと回路基板から作れる。
プリズムはガラスを合成機で作れる。
ガラスは石をアーク溶鉱炉で処理すれば作れる。
必要な素材は鉄インゴット・銅インゴット・電磁石・石等で、株式会社DSPなら安く手に入れる事が出来る。スクラップを適切に処理すれば材料が手に入るからだ。
資料の中身はこんなところだ。数字だけ見れば、既存の防衛装備と比べても遜色ない――というより、明らかに上回っている。
「試作の指向性エネルギー兵器と、実弾式の自動防衛砲台があります。発電設備込みで、一度評価していただけませんか」
胡散臭い町工場の社長からの、いきなりの申し出だ。普通なら門前払いされて終わりだろう。だが、こちらには動くデモ機と、数値化されたベンチマークデータがある。ガウス砲台の初速と連射性能、高周波レーザータワーの出力と冷却効率、それを支える発電設備の小型・高出力ぶり。書類の数字だけで、担当者の目の色が変わっていくのが分かった。
「……この出力密度は、既存のどの技術で実現しているんですか」
「企業秘密です」
苦し紛れの一言だったが、意外とこれで通ってしまう事が多い。技術の中身より、性能そのものを見てくれる現場の人間は、思ったより理屈にこだわらないらしい。
評価試験は淡々と進んだ。射撃精度、連続稼働時間、悪天候下での動作、電源トラブル時のフェイルセーフ。イカロスの装備がそもそもダークフォグとの実戦を想定して作られているせいか、想定される軍用の基準をことごとく上回っていく。
「株式会社DSP製、ガウス式防衛砲台、及び高周波指向性エネルギー照射装置。採用を前向きに検討する」
正式な採用通知が届いた時、俺は思わず一人でガッツポーズをした。誰もいない事務所で叫んでも虚しいだけだが、それでも叫ばずにはいられなかった。
そこからは、あっという間だった。
自衛隊の艦船と基地に、ガウス砲台と高周波レーザータワーが、発電設備一式とセットで正式配備されていく。既存の防衛システムを置き換えるほどの規模ではないが、限定運用でも実戦データが集まれば、次の予算枠に本採用されるのは時間の問題だと担当者は言っていた。
株式会社DSPの売上は、リサイクル事業とマイコンボード事業だけの頃とは桁が変わった。地方紙の片隅に載っていた頃が、嘘のようだ。
問い合わせは防衛関係だけに留まらなかった。電力会社、重工業メーカー、大学の研究機関。「あの防衛装備を作った会社」という肩書きだけで、これまで相手にもされなかった話が、向こうから転がり込んでくるようになった。
もちろん、良い事ばかりではない。
会社の規模が大きくなればなるほど、技術の出所を突っ込まれる場面も増えていく。取材依頼、視察の申し出、共同研究の打診。今までは「社員一人の町工場」で誤魔化せていた部分が、通用しなくなりつつある。
そろそろ本当に、口の堅い技術者を何人か雇わなければならない。表向きの開発体制を用意して、製造ラインの一部を「見せられる形」に整える必要がある。イカロスとダイソンスフィアの存在だけは、絶対に知られるわけにはいかない。
急成長する会社の看板の裏で、俺は一人、次の一手を考え始めていた。
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