自衛隊からガウス砲台と高周波レーザータワー以外の防衛設備の納入があったし
量子チップを開発して暗号解読チートもした
一年後――株式会社DSPは、北海道でも有名な優良企業へと変貌していた。
まずマイコンボードは、マイナーアップデートを重ねて量子チップへと進化していた。コンシューマー向け製品として一般にも販売される量子チップとしては破格の計算能力を持っていたせいで、メジャーな暗号化方式が次々と解読され、世界中が震撼する事態になっていた。
あるエンジニアはこう投稿していた。
「株式会社DSP製の量子チップをリバースエンジニアリングした!この微細で美しい構造で頭がどうにかなってしまいそうだ!神の御業に違いない!!!」
「量子重ね合わせにより、楕円暗号もこのチップでは数時間で解読されてしまう!インターネット上の暗号なんて、もうカスみたいなもんや!」
アメリカ政府は、この量子チップが安全保障に影響を及ぼすとして、買い占めに走っていた。そのうち何かしらの圧力を掛けてくるかもしれないが、そこは日本政府に盾になってもらうしかない。
ガウス砲台と高周波レーザータワーに加え、ミサイル防衛タワー・磁化プラズマ砲・爆縮キャノン砲を新たに製造し、これも自衛隊に正式採用された。とはいえ、ミサイル防衛タワーと爆縮キャノン砲は、既存のミサイルや高射砲と性能が被るため、少数納入したに留まっている。磁化プラズマ砲も射程が短く、使い勝手が良くないらしい。
そしてセットで販売していたミニ核融合発電機とテスラタワーは、災害派遣の現場で使われた様子がテレビに映った事もあり、問い合わせが急増していた。ミニ核融合発電機で使う重陽子燃料棒のためにチタンが必要になったので、商社経由でチタンの備蓄を始めた。いわゆるレアメタルだ。
チタンの採掘先を日本中探し回ったが、結局はロシアと中国から買わざるを得なかった。そのため、いくつかのダミー企業を経由させて、バレないように取引量を少しずつ増やしていった。
だが、事はそう単純には進まなかった。
量子チップの一件は、アメリカ政府だけでなく、各国の情報機関の目も引き寄せる事になった。ある日、経済産業省の担当者から連絡が入った。
「株式会社DSPさんの技術は、経済安全保障推進法上の特定重要技術に該当する可能性があります。一度、詳しい聞き取りをさせていただけますか」
丁寧な言葉遣いだが、要は「国が把握しておきたい」という意味だ。断るという選択肢はない。むしろ、国のお墨付きをもらえるなら、変な圧力から会社を守ってもらえるかもしれない――そう自分に言い聞かせて、俺は聞き取りに応じる事にした。
技術の出所については「独自開発です」の一点張りで押し通した。無理筋なのは分かっていたが、証拠が何もない以上、相手も強くは踏み込めない。それでも、担当者が帰り際に見せた「本当は分かっていますよ」とでも言いたげな微妙な笑みが、しばらく頭から離れなかった。
チタンの調達も、綱渡りが続いていた。取引量が増えるにつれ、ダミー企業を経由していても、資金の流れの不自然さに気づかれるリスクが上がっていく。ある時、取引先の商社の担当者から、それとなく探りを入れられた。
「御社、チタンの発注量がここ数ヶ月で急に増えていますよね。用途、差し支えなければ伺っても?」
「新型の発電機に使うんですよ。企業秘密なので、詳しくは……」
いつもの言い訳で乗り切ったものの、いつまでもこのやり方が通用するとは思えなかった。国内でチタンを賄う方法を、そろそろ真剣に考えなければならない。廃チタン材のスクラップを回収して製錬するルートを増やすか、あるいは海水からの回収技術に手を出すか。どちらにしても、今のリサイクル事業の延長線上で、目立たない形にできないか検討が必要だ。
会社の規模はもう、社長一人でどうにかできる範囲をとっくに超えていた。信頼できる技術者や事務方の採用も、いよいよ待ったなしだ。元自衛隊の技官や、口の堅そうな中小企業の技術者に声を掛け始めた。
事業は伸びている。だが伸びれば伸びるほど、隠し事の数も比例して増えていく。
俺はノートを開いて、新しいページに書き足した。
「課題:国内チタン調達ルートの確立/信頼できる人材の確保/経産省対応」
そして、その下にもう一行付け加えた。
「――イカロスとダイソンスフィアの事だけは、絶対に守り切る」
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