そして株式会社DSPはというと、もう「町工場」という肩書きでは到底言い表せない規模になっていた。
「会長!電磁軌道射出機とソーラーセイルが準備出来ました」
社長室――と言っても、自宅の隣に建てた小さなプレハブの一角に過ぎないが――に飛び込んできたのは、半年前に採用した開発主任だった。あの頃「口が堅くて信用出来る人間を雇わないと」と悩んでいたのが嘘のように、今では表向きの経営を任せられる社長と、現場を回す技術陣が育っている。俺自身は「会長」という肩書きに収まり、表に出る回数を極力減らす事にした。目立たず、着実に――その方針は今も変わっていない。
ソーラーセイルに必要なグラフェンも、いよいよ量産体制に入った。合成機のラインを何十基も並べ、石炭から取り出した炭素を、ひたすらグラフェンへと変換し続ける。軽く、丈夫で、光をよく反射する。この薄膜こそが、太陽からのエネルギーを受け止める帆になる。
打ち上げには、電磁軌道射出機――要するに巨大なレールガンだ――を使う。燃料を燃やして加速するロケットとは違い、電力さえ潤沢にあれば、コストを抑えて何度でも撃ち出せる。初めて第三宇宙速度、秒速十六キロ超えでソーラーセイルを撃ち出した日、社員たちは発射管制室代わりのプレハブで、モニター越しに小さく拍手をしていた。
もっとも、最初から順風満帆だったわけではない。
「日本の民間企業が、無許可で太陽系外へ向かう軌道に構造物を撃ち出している。安全保障上、看過出来ない」
そんな趣旨の抗議が、NASA経由で外務省に届いたと聞いた時は、さすがに肝が冷えた。だがそこは、JAXAに技術提携を持ちかける事であっさり収まった。ソーラーセイルの軌道計算と姿勢制御のデータを一部共有し、共同研究という体裁を整えただけで、向こうの態度は急に軟化した。結局のところ、独占されるより、一枚噛んでおきたいという事なのだろう。
ソーラーセイルから送られてくるエネルギーを地上で受け取るため、放射線レシーバーを各地に次々と設置していった。表向きは「次世代ワイヤレス送電の実証実験」という事にしてある。実際には、宇宙から届く出力の桁が、実証実験と呼べる規模をとうに超えているのだが、そこを突っ込んでくる人間は今のところいない。
ソーラーセイル自体は使い捨てだ。だが、その先で組み上げていくダイソンスフィアフレームは違う。あれは一度軌道に乗せてしまえば、半永久的に使い続けられる恒久構造物になる。いずれは、あのフレームを太陽の周りへ何十基、何百基と送り込む事になるだろう。ゲームの中でやっていた事を、そのまま現実の恒星系でなぞる日が来るとは、正直今でも実感が湧かない。
そのための布石として、新たに取得した土地に、小型輸送ロケット用の垂直発射サイロを並べ始めた。北海道の一角に、まるで小さな民間宇宙基地のような区画が出来上がりつつある。地元の人間からは「あそこ、また変な施設が増えたな」くらいにしか思われていないが、衛星画像で見れば、どこかの国の情報機関くらいは、もう気づいているかもしれない。
会長室の窓から、建設中のサイロを眺めながら、俺は一人つぶやいた。
「……本当に、太陽の周りにダイソン球作るとか、笑い話にもならねえよな」
だが、止まるつもりはなかった。
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