ダイソンスフィアプログラムが現実に来たら   作:ワタハン

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ダイソンスフィアを本格的に建造し始めた
あとオフ会で意気投合した女性と結婚した


ダイソンスフィア出来上がるまで千年くらいは待っててね

太陽の周囲では、少しずつだがダイソンスウォームとダイソンシェルが形を成しつつあった。撃ち出し続けたソーラーセイルと、輸送ロケットで運び込んだフレーム部材が、地道に軌道上で組み上がっていく。とはいえ、太陽をすっぽり覆い尽くすダイソンスフィアの完成までは、どう見積もっても数百年、下手をすれば千年単位の話になるだろう。

ゲームの中では、生産倍率を弄ればものの数十時間で完成する代物だ。だが現実の距離とスケールは、桁がいくつも違う。俺が生きている間に、ダイソンスフィアが完成する事は絶対にない。それは最初から分かっていた事だ。

それでも――DSP社には、何百年も続く企業になってほしい。これだけは、誰に聞かれても嘘偽りのない本心だった。自分一人の寿命では到底終わらない計画を、会社という器に託す。ある意味、ダイソンスフィアという目標そのものが、会社を存続させるための一番強い理由になっている気がする。

一方で、量子チップの影響は、こちらの想定よりずっと早く世界を作り替えていった。

既存の暗号方式が次々と解読可能になった事を受けて、インターネットのセキュリティは急速に量子暗号への切り替えを迫られた。各国の標準化団体が慌ただしく規格を改定し、金融機関や通信事業者が一斉にシステムを更新していく様子は、ニュースで連日報じられていた。

そして皮肉な話だが、その移行を支える基盤として選ばれたのが、他ならぬDSP社の量子チップだった。パソコンのPCIeボードにDSP製チップを載せる事が、事実上インターネットを利用するための標準仕様になっていったのだ。こうなると、需要は青天井になる。

 

「会長、うちの生産能力だけじゃ、もう全然追いつきません」

 

社長からそう報告を受けたのは、注文が桁違いに膨らみ始めた頃だった。合成機と製造ラインをどれだけ増やしても、世界規模の需要には敵わない。結局、生産ラインごとライセンスとして売る事になった。社員総出で残業しまくり、それでも足りない分は台湾・中国・韓国のOEM請負企業に技術供与し、向こうの工場で量産してもらう形に落ち着いた。

 

「作れば作るだけ売れる」というのは、経営者としては夢のような状況だ。ロイヤリティ収入だけでも、以前とは比較にならない額が毎月転がり込んでくるようになった。

 

需要はパソコン向けだけに留まらなかった。IoT製品にも量子暗号対応チップが必須になった事で、家電から自動車、工場設備に至るまで、あらゆるデバイスにDSP由来のチップが組み込まれるようになっていく。年間の出荷数はとうに億単位を超えていた。マイコンボードの方も高性能化を続け、産業機器の組み込み系分野で、今や定番の一つとして数えられている。

それだけ会社が大きくなっても、金属スクラップの製錬事業は変わらずDSP社の三本柱の一つであり続けている。地味で目立たないが、あらゆる事業の材料調達の土台を支えているのは、結局この最初の事業なのだ。

もっとも、会長になってからの俺自身は、会社の日々の運営にはほとんど関わっていない。半期に一度の大まかな事業計画の方向性を決めるくらいで、あとは社長以下、育った経営陣と技術陣に任せきりだ。「目立たず、着実に」という方針も、今では俺一人の口癖ではなく、社内全体に浸透した企業文化になっている。

そんな中、俺自身の私生活にも変化があった。

そろそろ四十歳になろうという頃、趣味のPCゲームで知り合った女性と、あるオフ会で意気投合した。互いに独身で、ゲームの話をしているとあっという間に時間が過ぎる。忙しさにかまけて縁遠かった恋愛から、これほど自然に距離が縮まるとは思っていなかった。半年ほどの交際期間を経て、俺たちは結婚する事になった。

もちろん、彼女には会社の本当の技術基盤の事は話していない。「たまたま金属リサイクルから始めて、運良く量子チップの開発に成功した会社」という、世間向けの説明で通してある。いずれ話す日が来るのかどうかは、正直まだ分からない。

ただ、家庭というもう一つの「続いてほしいもの」が出来た事で、会社の未来と自分の未来が、少しだけ重なって見えるようになった気がする。




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