女体化を免れてしまった新規実装キャラの苦悩 作:POTROT
雷霆の王ゼーラスとマウルの関係は、まぁ、厳密に言えば、親子という事になる。
父親がゼーラスで、その息子がマウルである。
幼少の時をゼーラスの宮殿で、ゼーラスの正室、へレスの乳を飲みながら育った。
だが、その仲は決して良いものではなかった。
「堕ちたな、マウルよ」
「貴様がそれを言うか、淫蕩の愚王」
マウルは戦の神だ。
ゼーラスがそうあれと定め、マウル自身もそうあるよう育った。
しかしそれが、二人の溝を生む結果となった。
浮気を嫌い、淫蕩を嫌い、生贄を嫌い、戦の狂乱を好むマウル。
浮気を楽しみ、淫蕩を是とし、生贄を好み、戦の狂乱を厭うゼーラス。
親子だが、しかしほぼ正反対と言っていい価値感を持つ二人が反発し、いがみ合う事は、半ば必然ですらあった。
そして、ゼーラスは天空の島々における神々の王だ。
王に嫌われた、王の子の一人でしかない神が孤立するのに、長い時間は必要としなかった。
マウルの島はいつも寒かった。
太陽を司る軽薄なアーロスが、マウルから距離を取ったからだ。
マウルの島で作物は育たなかった。
豊穣を司る心優しきディールが、マウルに顔を背けたからだ。
マウルの島では魚が取れなかった。
海の主たる厳格なネプターが、マウルを睨みつけたからだ。
自らの島で食物が取れなくなったマウルは、いっそう戦をするようになった。
難癖をつけては近隣の島々に戦を挑み、神を殺し、全てを根こそぎ奪い去った。
他所の神話体系に首を突っ込むことさえあった。
ゼーラスがその重い腰を上げることになるのは、もはや時間の問題でしかなかった。
「貴様は調子に乗りすぎたのだ」
全知全能たるゼーラスの智謀に、強いだけのマウルに対抗できるはずもない。
領地を失った。食糧を失った。兵を失った。
そうして独りになったマウルの前に、ゼーラスは姿を現した。
「ほざくな。誰のせいだと思っている」
「全て貴様の行いの結果だ。反省し、慎ましやかに暮らしていれば、赦してやろうと思っていたものを───」
天が鳴く。ゼーラスの右の手が輝き、雷霆の剣がその姿を現す。
それはゼーラスの威光の象徴であり、暴虐と暴力の権化であり、殺意と敵意の証明であった。
対するマウルがその手に呼ぶは、今までに奪った全ての武具を潰して拵えた、大浴槽一つを埋められるほどの青銅と、大木を丸一本使って作られた、あまりに巨大な槍。
文字通り、天さえも突き破る、無双の大槍だ。
それはやはり、マウルの殺意の証明であった。
マウルにとって、もはやゼーラスは敵でしかなかった。
戦の神であれ、勇猛の神であれと定めながら戦を否定し、民を飢えさせ、自らをこの窮地に追い込んだ、諸悪の根源にして滅ぼさねばならない怨敵だ。
「死ぬがよい、マウル」
「貴様が死ぬのだ、ゼーラス」
他の神々さえも巻き込んで、闘争は三日三晩続いた。
天を裂き、地を揺るがし、海を割り……そして、マウルが負けた。
神々を相手に三日三晩を耐えきり、しかし限界を迎え、雷に焼かれて息絶えたのだ。
そんな、マウルにとって父親にして最大の怨敵たる存在が、ゼーラスなのである。
…………はずなのだが。
そんな怨敵が、久々に会ったと思ったら女になってるし子供だし筋肉なんてどこにも見当たらない、やわらかボディになっているわけである。
これには冥府での生活で多少丸くなったと自覚していたマウルも、声を荒げずにはいられないというものだった。
「ふざけているのか、貴様ァ!?」
「うるさいのう。別にふざけてるわけでは無いわい」
「では何だその姿はァ!?」
「自信作じゃが」
「そう言う事を聞いているのではないわァーーーーーーーーーッ!!!」
魂からの叫びであった。
「ええと……その……マウル様」
「む……ゴホン。すまんな。少々取り乱した」
「ちょっとどころじゃないと思うがのォ」
これから立場的には自身の上官となる者の声を受け、マウルは我に返る。
常に軍の最高指導者として生き続けてきたマウルであるが、他所の軍門に下ると自ら決めた以上は、たとえ人間だろうと上官には敬意を払う。
その程度の常識は、軍人として……まぁ、遥か太古の軍人ではあるが……持っていた。
「して、どうした将よ」
「その……ゼーラス様だけじゃないです」
「…………何人だ」
チラリとマウルがゼーラスを見れば、やはり屈託のない笑顔を浮かべていた。
それだけで色々なことを察したマウルは項垂れ、ただ人数のみを彼女に聞く。
「ええと……私が知ってる天空島の神々は、全員……むしろ天空島の男神様を見たのがマウル様が初めてで……」
「冗談だと思いたい言葉だが……事実なのだろうなぁ」
「儂がそうしたからのう」
そろそろマウルの心中に殺意が湧き出してきた頃だが、この場でそれを表に出すほど非常識ではない。
「俺の…………息子達は」
「フォス様と、ディース様が……」
「そうかぁ…………」
もはや消え入りそうな声でそう言うしかなかった。
愛着を持って接していた息子たちをマウルは思い起こす。
彼らは常にマウルの傍に付き従い、マウルのために戦った。
最終決戦の前に遠くへ逃がし、その後に冥府に来ていない事から、死んではいない事は分かっていたが……
女体化かぁ……と、内心で深く深く溜息を吐かずにはいられなかった。
ちなみにゼーラスは爆笑していた。
「…………えぇと、その、強く心を持ってください……?」
「感謝する……」
これでも心は強い方ではある……と、マウルは自覚している。
そうでも無ければ、あそこまで戦い続けることは出来まい。
「何なら貴様も女の体になれば良かろう。やり方を教えてやろうかの?」
「不要だ。…………そんなことよりも」
マウルが顔を上げ、ゼーラスを見た。
その顔につい先程まであった憔悴は見られず、力強い男神の顔が戻っている。
対するゼーラスも、笑みを消してマウルを見つめ返す。
「雷霆の王、ゼーラスよ。貴様と俺とは一度、完全に袂を分かち、殺し合った」
「そうじゃのう。あまりに永い、永い戦いじゃったわ」
「俺と貴様は敵だった。それは間違いない」
マウルが一度、目を瞑る。
「しかし、此度は味方だ」
そして、目を見開き、再びゼーラスを見据えた。
「彼方より飛来する尖兵共との戦争。そのために俺は暗き冥府の淵から引き戻され、貴様と轡を並べることになった。流石の貴様も、此度ばかりは俺に争いを禁ずるなどとふざけた事を抜かすつもりはあるまい?」
「無論じゃ。斯様な時にまで争いを禁ずるほど耄碌したつもりは無いわい」
「ならば此度はかつての諍いを忘れ、共に手を取り合い、ジオの大地を守るとしよう」
「敵としては恐ろしかった貴様も、味方となれば頼もしいものよのう。宜しく頼むぞ」
ゼーラスとマウルは共に手を差し出し合い。互いに握る。
数千年来の因縁は今ここに一旦の終わりを迎えることとなったわけである。
……………………が。
「……何ともまぁ、締まらん絵面じゃのォ」
「言うんじゃない」
「えぇ……」
筋骨隆々の大男と、その半分程度の身長しかない幼女が抱きかかえられながら握手する様は、とてもではないがそんな壮大な場面には見えそうになかった。