【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
「雨宮さん、またカレンダー見てますよ?明日のライブ楽しみにしすぎでしょう」
業務をこなしながらカレンダーの今日の日付を確認していたところを同僚の看護師に呆れつつ突っ込まれた。
そんなに何度も確認していたつもりはないがかなりの回数を確認していたらしい。
「まあね!そのために2日間も有給とって余韻も楽しめるようにしてるんだから!」
明日、5月23日はここ宮崎でB小町のライブが行われる。
楽しみにしていたのは間違いではないが、心のどこかにさびしさがあるのを私は感じていた。
その理由は明白だった。
これは私だけ楽しむライブの予定じゃなかったからだ。
クリスマスのあの日に3人で一緒に行こうと約束したB小町のライブ。
(藍斗君元気かな)
思い出すのは平気なふりをしてはかない笑みを浮かべていた彼の姿。
あの後、乗り越えてくれているということを信じたい。
さりなちゃんが息を引きとって数日後、宮崎から東京に引っ越すという旨を聞かされそこで軽く会話をしたのが彼との最後の会話で、私自身もさりなちゃんのことを乗り越えようと仕事や推し活に打ち込み連絡をしていなかった。
一患者の家族という枠なのだからわざわざ連絡するというのもおかしいといえばおかしいのだけれど。
「さてと、今日はこれでおしまい!私は今日はさっさと帰るね」
今日の業務を終えて私は着替えて早々に病院を後にした。
その様子に同僚から送られた苦笑いは見なかったことにする。
みんなもB小町を推すようになればわかるはずだ。
病院から出た私はここ数か月使わなかった連絡先に『時間があったら連絡頂戴』とメッセージを送った。
するとすぐにその相手から着信が来たのですぐにでた。
「もしもし、藍斗君久しぶり」
『お久しぶりです雨宮先生』
懐かしい声が聞こえてついついうれしくなる。
声に張りもあり元気そうだ。
「藍斗君ってさ、明日ライブ来るよね?」
『チケットをとったのに行かないと怒られますからね』
その言葉にお説教しているさりなちゃんとそれをどこか微笑ましく受けている藍斗君が目に思い浮かんだ。
「間違いないね。あれ?もしかしてライブ映像でも見て復習でもしてるの」
電話越しにB小町の『サインはB』の音楽が聞こえた。
そして、それは私が病院のテレビで過去の映像を見ているときとは音質のレベルが違うのが電話越しでもよくわかった。
藍斗君はお金を持っているから音響設備もよいのだろう。
『まぁ、似たようなものです』
どこか困ったように彼は濁した気がした。
思えば彼はニノ推しみたいだったけど推し活を公言しようとしていなかったから照れくさいのかもしれない。
まぁ、確かにサイリウムを振り回す彼の姿は全然思い浮かばない。
「推しの応援は堂々とやらないとニノだって喜ばないよ?」
『どうしてそこでニノの名前が出るんですか?』
「そんな誤魔化さなくていいよ。ニノの一番いいチケットをわざわざとってるんだからバレバレ」
彼が用意してくれたチケットはランダムで選ばれる物じゃなくて、取ろうと思わないと取れないチケットだ。
そのうえでニノのチケットをとっているということは、つまりそういうことだ。
さりなちゃんのこともあり、彼はどこか庇護欲をかきたてる相手が好みなのかもしれない。
『別にそういうわけでニノのチケットを』
『呼びました?』
唐突に彼の電話口から女性の声が聞こえてきた。
どこか聞き覚えがあるような声だ。
そこで彼は電話口を抑えたらしくそこからしばらく電話からは何も聞こえなかった。
『すみません。同僚が失礼しました』
「いいよいいよ」
少しして戻ってきた彼は少し疲れた感じで謝ってきた。
先ほどまで聞こえた音楽もきこえなくなっている。
「それにしても、藍斗君にもそういう子ができたんだね」
ちらっと聞こえた女性の声は同性だからわかる程度に少し弾んでいた。
彼女と一緒にライブにきて、それでたった今まで過去のライブを見ていたのかもしれない。
そう考えると心の奥底に何かしら鈍い熱が生じた気がした。
『勝手に間違った結論にたどり着かないでください。ただの同僚です』
ただの異性の同僚と同じ場所でライブ映像を見ていてよく思っていないわけがない。
彼の口調的に微塵も焦りや照れは感じないけど、彼ならそれぐらい平気で隠せるだろう。
「まぁ、そういうことにしてあげるよ」
『釈然としませんがこれ以上言っても無駄そうなのでいいでしょう』
言葉に明確にとげを感じるが図星をつかれているだと思っておこう。
『それで、話というのはライブ来るかの確認ですか?』
「あ、そうそう。明日ライブ終わったら一緒に夕飯食べない?って誘おうかなって思ってたんだけど」
すっかり本題を忘れるところだった。
周りへのB小町の布教がまだ十分じゃないせいで語れる相手が他にいないのと、気が知れた相手かつこのライブに行く人ってことになると藍斗君以外思い浮かばなかった。
「彼女さんがいるならやめといたほうがいいね」
『いい加減怒りますよ?ただ、まぁ明日は無理ですが今日これからなら2時間ほど空いてますよ』
「いいの?ならお言葉に甘えて今から飲みに行こうよ」
『俺はまだ未成年だから飲めません』
すっかり忘れていた。
落ち着いた雰囲気がもう20代後半だから当然のように飲みに誘ってしまった。
『先生は今病院ですか?』
「うん」
『ならその近くでよさそうな場所を探すので少し待ってください』
そういって彼は電話を切った。
そしてすぐに携帯に近くにある少し高級な個室居酒屋の住所が送られてきたので私はそこにむかった。
その足は自分でも驚くほど軽かった気がする。
長くなったので分割します