【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
お店に着く直前に藍斗君からすでに席をとっているので先に入るよう連絡が来たので、店に着いた私は受付でその旨を伝えると席に案内してもらえた。
案内された席は軽い敷居があるわけではなく完全に個室だった。
(来たことなかったけどこんな店だったんだ)
落ち着いた雰囲気で私がよくいくような居酒屋の雰囲気は微塵もなかった。
(というかここって会員制だったような)
それを当然のように席をとれるということはそんなに頻繁に利用していたんだろうか?
そう考えて少し気分が落ち込んだ気がした。
と、考えていると部屋の戸が開いた。
「お待たせしてすみません」
声を聴いてすぐに彼だとはわかった。
しかし、声でしか判断できなかった。
「あ、藍斗君?」
「ええ」
彼は中に入り私の対面座ると深くかぶったキャップとサングラスをはずした。
隠れていた長い髪が現れ、見覚えのある彼が姿を現した。
「すみません、同僚を撒くのに手間がかかりまして」
ああ、同僚の眼を誤魔化すための変装だったのか。
撒かれた藍斗君の言う『同僚さん』には少し同情してしまうが、今日ぐらいは許してほしい。
「ううん、全然待ってないよ。それにしても一瞬芸能人が変装して入ってきたのかと思ったよ」
「大げさですね。さてあまりじっくりとできないのでさっさと注文してしまいましょう」
その後はいろいろと頼んで食事を楽しんだ。
途中彼の携帯が頻繁に鳴っており、最初はちょくちょく確認していたが最後は電源を落としていた。
店の雰囲気もあるのかもしれないけどテンションを上げて楽しむというよりはB小町の話をしながらさりなちゃんが生きていたころを懐かしむような、ゆっくりと落ち着いた時間だった。
話をしながら彼はちゃんと乗り越えたのだとわかってホッとした。
顔色もあのころとは比べ物にならないほどよくなり隈も(メイクで隠しているのかもしれないが)見えないからちゃんと眠れているようだ。
あの時の彼は放っておいたらそのまま生きるのをやめてしまうのでは、と思ってしまうほど危うく感じたから。
同僚さんが支えてくれだろう。
それが自分じゃなかったのが、少し、心に引っかかった気がした。
(あれ?これじゃ私)
まるで彼のことを思っているみたいだ。
確かに彼は落ち着いているのにどこか危なっかしくて放っておけないタイプだ。
私は自分のタイプはこちらを立ててくれるけどぐいぐい引っ張ってくれる年上だと考えていた。
(これでもそれなりに男性との付き合いはあったはずなのに、そのどれとも違うタイプの男性。そういえば以前抱きしめた時に大きく見えた彼がちゃんと年相応に小さく見えてかわいか・・・)
そこまで考えて私は頭を振った。
これ以上考えるとドツボにはまる。
考えを切り替えよう。
「そういえば受付の名前だけどなんで天童寺じゃなくて星野だったの?」
彼に伝えられた予約名が『星野』だった。
彼の苗字はさりなちゃんと同じ天童寺のはずだ。
「先生には言ったことなかった思いますが、俺天童寺家の養子なんです」
何でもないかのように軽い口調で彼は言った。
「それで旧姓が星野なんです」
いきなりとんでもない情報をたたきつけられて頭が混乱する。
「じゃ、じゃあさりなちゃんも?」
「いえさりなはちゃんとあの両親の子です。それは間違いないです」
さりなちゃんが彼に嫌われるために言った『血がつながってないくせに』という言葉を思い出した。
あれはそういうことなのだとやっと理解した。
「そ、そっか」
「だからこそ」
彼は手元の水を軽く飲んだ。
まるで自身の熱を少しでも冷ますかのように。
「さりなへの仕打ちが許せない」
冷静だけど、そこには確かな怒りがあった。
彼は自分自身のことは蔑ろにするが、さりなちゃんは大切していた。
だから両親にはさりなちゃんを見える形で愛してもらいたかったのだろ。
しかし、それはかなうことはなかった。
「育ててもらった恩があるので仇で返す気はないですが、そんな場所にいるつもりはないので家を出て実父の苗字を名乗っています。それが俺なりの最大限の温情です。二度とかかわるつもりはありません」
彼の行動力ならそれ相応の罰は与えられるだろう。
狂気的な献身の熱がそれに注がれるとしたらそれがどれだけ恐ろしいことになるか想像もつかない。
だからこその温情。
「そっか、ごめんね変なこと聞いちゃって」
「いえ俺が勝手にしゃべっただけです」
「よし!今日はとことんのもう!」
「俺は酒は飲めませんが、まぁ付き合いますよ。あと30分ほどですけど」
その後、私たちは彼の時間いっぱいまで食事と会話を楽しんだ。
ここ半年で最も心が満たされた時間だったきがした。
原作時間の話を書きたいけれど、このあたりの描写もしたいジレンマ