【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
私、星野アイには誰にも言っていない秘密がある。
それは自分の未来をいくつか知っているということだ。
そのことだけを見たら羨ましがられるだろうけど、実際にはそんないいことばかりではない。
「う・・・おぇ」
目を覚ました瞬間に胸の奥からこみあげてくる不快感にえずいてしまう。
「はぁはぁ・・・またかぁ」
私は似たような夢を時々見るけど、そのどれもが自分が死ぬシーンだった。
今回見たのは大人になった私が自分でナイフをお腹にさして死ぬというもの。
自分の死ぬところを横から見ていたかのように映し出されていた。
そして、そのまますでにそこに倒れていた『色素の薄い髪の長い』男性の上に倒れ込んだ。
二人分の血が混ざり床に大きな赤い円を広げていく。
それだけならテレビドラマでも見てただけのようなただの夢で済んだだろうけど、そこの私の命が尽きた瞬間に私の中に彼女の感情が流れ込んでくる。
そこで私は毎回目を覚ます。
あまりにリアルな情景と感情がそれをただの夢ではなくあれが未来の出来事だと教えてくる。
「本当に少しは夢のあるシーンぐらい残してくれないかな」
夢というかその未来はすべて状況は多少違っても私が自殺するシーンで終わってしまう。
いや、たまにだけど後悔だけでなく満足げな感情が流れ込んでくる未来もあった。
「でも、心中はさすがになぁ」
未来の自分のことながら苦笑いがでてしまう。
それなのに心のどこかでその選択肢が消えることはなかった。
「アイト・・・」
その人物を名を、ぽつりとつぶやく。
未来では『必ず』私を守って死んでしまっている男性。
そんな光景を何回も見たせいか初めて会ったとき欠けた何かがハマって満たされるような気持になったのを今でも覚えている。
自分の感情を出さず周りに合わせるだけの嘘吐きな私が初めて心の中からこぼれる感情に暖かいものがあるというものを知った。
でも、そのときはまだ未来の私の影響でそのように感じているんだと思っていた。
だから彼と私の関係性がわかったあと『妹としての星野アイ』の仮面をかぶって彼を観察していた。
本当は彼のことを『兄』だなんて、思っていない。
それは当然で母が再婚したころには彼はすでにその相手から捨てられていたのだから面識もなかった。
それでもそのような距離感をふるまえばウケはいいだろうし、すぐに本性を見せてくれるだろうと思った。
それはあっさりと裏切られた。
まだ私が施設におり、窃盗で捕まったお母さんが釈放され迎えに来てくれると信じていた時のことだ。
釈放されたはずなのに母は私を迎えに来なかった。
子供ながらに捨てられたのだと理解してしまった。
その瞬間、私は大雨のなか施設を飛び出した。
自分でもどこをどう走ったのかわからないけど、気が付けば私はどこかの公園のブランコに座り私はただただ雨に打たれていた。
そうすればこのどうしようもない気持ちが消えてくれるかもしれないと思っていないのかもしれない。
そして、この気持ちが消える前に突如雨が止まった。
「こんなところにいたのか」
気が付けば息を切らしたアイトが横に立っており傘を差しだして私が濡れないようにしてくれていた。
「とりあえず戻るが、そのままだと無理だな」
彼の視線は私の足元へと向けられた。
感情のまま飛び出してしまったため私は靴も、靴下も履いていない裸足だった。
そんな状態で走り回ったせいか傷と泥だらけだった。
ほとんど感覚はなかったけど彼の目線を受けて自覚したせいでジンジンとした痛みがいまさらきた。
「少し触れるぞ」
彼は傘を私に持たせるとしゃがみ込んで自分の服の裾で私の足の泥を軽く落として始めた。
「汚れちゃうよ!?」
「構わない」
思わず止めてしまったけど彼は気にした様子もなく当然のように泥を落とし続けた。
ちょっとだけ痛みを感じたけど、別な痛み以外の熱を感じた気がした。
そして、ある程度泥が取れると彼はしゃがんだまま私に背を向け長い黒髪を前のほうへとやった。
「え?」
「こんなんじゃ歩けないだろ?負ぶっていくから乗れ」
「う、うん」
さも、当然のように彼に言われて私は無意識にうなずいて気が付けば彼に背負われていた。
私を背負うとアイトは立ち上がりゆっくり歩き始める。
びしょ濡れの私を背負ったことでアイトの服も濡れてしまっている。
(暖かい)
濡れた服越しに温もりが伝わってくる。
アイトの体がすごく暖かい。
ふと首筋を見るとじんわりと汗が浮かんでいた。
「私のこと、探してくれたんだ」
背中から伝わってくる鼓動も早く息も上がっていたし、チラッと見えた彼の靴も泥だらけだった。
それだけ必死に走って探して迎えに来てくれたのだろう。
「当然だ」
アイトにしたらそれは当然だったらしくその言葉に嘘は感じなかった。
迷いなく言ってくれた言葉、行動のすべてがぽっかりと空いた胸の奥を感じたことのない何かが満たしていくのを感じる。
(ああ、そっか)
この感覚が『愛されてる』ってことなのだと理解した。
(私、お母さんに愛されてなかったんだ)
初めて満たされた感覚のおかげで知ってしまった。
母からその感覚を感じたことはなかったのだから。
そう自覚した瞬間に涙があふれだしてきた。
それなのに、施設を飛び出した時の絶望感はなくその事実が胸の中できれいに受け入れられた。
あの時は世界に独りぼっちだと思ったのに。
「アイトはさ、どうして私のこと探してくれたの?」
探すことを当然だと答えてくれたけど、それでも理由を聞きたくて私はあえて聞いた。
「・・・答える必要がないな」
普段の冷静な返しではなく少し困ったような声だった。
視線を逸らすかのように私が肩に顔を乗せているほうとは逆のほうに顔をそらしている。
「答えて。お願い」
真剣にお願いすると、彼は大きくため息を吐いた。
「形だけとはいえ妹だからな」
嘘ではないと思ったけど、何かを隠している言い方だった。
それに対して私がしばらく何も言わないでいると観念したのかさらに大きくため息を吐いた。
「大切だからだ」
言い終わったアイトの耳は少し赤くなっていた。
気のせいかアイトの背中から伝わってくる体温が上がっている。
そして、それと同じだけ私の胸の奥が暖かくなっていくのを感じた。
「そっか」
私は独りぼっちじゃない。
無意識にしがみつく腕に力が入る。
未来の私から送られてきた感情の一部がやっと受け入れられた。
(未来の私も愛されてたんだね)
私には人が好きという感情や愛するといったことはわからない。
それでも、今私を満たしてくれている感情は嘘じゃない、それだけは間違いなかった。
「ありがと。形だけの兄さん」
今はそれでいい。
本当はアイトを『兄』だなんて思っていない。
この温もりの理由がそれだけじゃなくてもっとたくさんの理由が欲しいから。
だから、それまではそばにいて『兄さん』