【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
アイト兄さんが金田一代表のとこに行くのを見送ってからアイさんに向き直る。
「それで、アイト兄さんの妹ってどういうこと?」
先ほどの聞き捨てならない内容。
それを兄さんが否定もせず聞き流していたのも気になる。
「あ~、えっとね」
アイさんは観念したかのように口を開いた。
なんでも離婚した僕の父親がアイさんの母親と再婚していたとのこと。
尤も、再婚前に兄さんは捨てられ施設に入っていたため互いに面識もなく存在も知らなかったらしい。
そして、アイさんのお母さんが窃盗で捕まり(この時点で父親は失踪しているとのこと)同じように施設に入れられた。
その段階で兄さんは引き取られていたが数年後にその施設に寄付に来ていた兄さんと出会い、互いの境遇を把握したことで義理の兄妹であることがわかったらしい。
「すれ違いが多いのに面白い出会い方したんだね?」
「運命だね!」
「は?」
「じょ、冗談だよ!」
何故か僕が微笑むとアイさんが震えながら慌てて否定してきた。
まるで恐ろしいものににらまれてるみたいだ。
「その理屈で言うと僕たちも姉弟みたいなものなのかな?」
「ん~、そこまで行くとどうなんだろ?」
「まぁ親戚ぐらいにしとこうか」
「そうだね」
この人が姉だなんてなんか嫌だし。
微妙に嫌悪感と親近感を感じるせいで判断がつかない。
アイさんも同様に思っているのか微妙な表情をしている。
「ところで、アイトと仲良さそうだったけどそんなに付き合い長いの?私、弟がいるなんて初めてきいたけど」
「教えてもらってないんだ?まぁ僕も兄さんからアイさんのこと直接聞いたわけじゃないけど」
最初はちょっと怖くて兄さんの後ろに隠れてしまったけど血のつながった弟だってわざわざ紹介してくれて後押ししてくれたからもう怖くない。
兄さんが出てる物はなんだってチェックしているからB小町の『アイのお兄様』であることは知っている。
てっきり、兄的なマネージャーという意味で『アイのお兄様』だと思っていたけどそんな関係だとは思わなかった。
兄さんの周りをウロチョロする人間はちゃんと見定めないといけない。
最初は張り付けた表情をする人だと思ったけど、兄さんの話をしたら結構表情豊かだ。
「僕が兄さんに出会ったのは3年ぐらい前でそこで運命の出会いをしたんだ」
「なんだ、たったそれだけか~。私なんて6・・・あれ?5年ぐらい前だよ?」
僕の話を遮るようにアイさんは表情が明るくり自慢げな表情を浮かべていた。
ちょっとイラっとした。
「大切なのは時間じゃなくて密度だと思うけどね?」
「そうだよね。私がアイドルになってからはアイトはほとんど一緒にいて濃い時間を過ごしてくれたよ?」
「そ、それはB小町のマネージャーだからでしょ?」
「どうかな~。アイトは『私の為』ならあれこれ尽くしてくれる人だしなぁ」
私の為というのやたらと強調してきた。
確かに兄さんは頼まれたら断らない人だからかなり尽くしてくれるだろう。
「ふ~ん、僕は兄さんの部屋の合鍵持ってるけど?」
「へぇなんだ合鍵かぁ・・・合鍵!?」
聞き流そうとしていたようで反応が一瞬遅れていた。
僕はここがチャンスとたたみかけることにした。
「そう。僕はいつ来たっていいと合鍵を渡されるほど信頼されてる」
「う、嘘・・・私なんてアイトの部屋に入ったことすらないのに」
アイさんがぽつりとつぶやいた。
内心はアイドルなんだから入れてもらえなくて当たり前だろう、と思っていたがそれは口に出さない。
なんとなく慰めたくなかった。
「それに生活習慣だってわかってる。平日は午前3時に起きてコーヒーを飲む。朝食は軽い栄養食系の物食べて出勤時間までパソコンで作業や調べ物をしてる。ちゃんと朝食はしっかり取ってほしいけど聞き入れてもらえてないんだよね。出勤後は僕はよく知らないけど仕事終わりから22時ころまではトレーニングやら食事シャワー、家のことを済ませて24時までまたパソコンで作業をして睡眠薬を飲んで就寝。もっとちゃんと寝てほしいんだけど、眠れないみたい。非番の日は起きてからの作業が昼まで続いて、用事があるときはどこかに行っている。これに関しては基本的に教えてもらえないから僕もどこに行っているか知らないよ?用事がない時は僕と一緒に過ごしてくれてる。のんびりしたり舞台の練習に付き合ってくれたりね?やさしいよね。それで夜のルーティンも平日とあんまり変わらないってとこかな」
聞いたり実際に過ごした経験を軽く教えてあげる。
なんか、アイさんの表情が若干ひいているように見えたけど気のせいだろう。
「す、すごいね。兄弟ってそこまで把握してるんだ?」
「僕が聞いたら教えてくれたよ?まぁ、僕は部屋に入れてもらってるから横でそれを見てたっていうのもあるけどね?」
「く・・・」
アイさんに負けたくないからついマウントをとってしまう。
アイさんはどこか愛の向け方がわからない僕に似てる。
兄さんが助けてくれる前のあの女に自分の人生を握られてるような感覚、あの女が僕に向けてくるねばついた感情、それらが愛情なのだと自分自身を誤魔化すことで自分を保っていた。
その時の世界がモノクロになり暗くなっていく感覚は今でも思い出してしまう。
助けられたときに兄さんから向けられた感情、それに気が付いた瞬間に僕の世界が星の光で照らされて優しく色に包まれた。
愛情という物がなんなのかおぼろげながらわかった気がした。
それと同時にどうやればそれを兄さんに向けられるのか、という問題にぶち当たった。
なんとなくだけど、アイさんはそんな僕と同じような状態なのだろう。
そこまで考えて僕がアイさんに向けている感情が何かわかった。
同族嫌悪だ。
理解した瞬間、逆に僕はアイさんを受け入れることができた。
「まぁ、いろいろ言ったけど仲良くはしよう。兄さんが困るからね」
「ん~納得いかないけど、わかった」
「素直でいいと思うよ。さて、それじゃ演技のことをと思ったけどちょうど稽古が始まるからそれを見てからにしようか?」
視線を促した先では劇団のメンバーと何故か兄さんが主役の名前が入ったビブスをつけて立っている。
そういえば主役の人は夜からの参加だったから他の人がやるって言ってたけど兄さんに任せたらしい。
「今回のは時代劇物をベースにした物語で主役が領主にその強さを見初められるシーンだね」
稽古が始まると同時に世界が塗り替わるような感覚に包まれた。
そして、視界の先にいた兄さんは主役の『名もなき浪人』になった。
「命が惜しくば道を開けよ」
そのボロボロの衣服をまとった浪人が手に持つ刀を目の前の同じくボロボロの衣服をまとった野盗に向ける。
少しでも心が弱ければ抗えないような、強制力を感じさせる声だった。
「へ!お前、俺様が誰だかわかってねぇようだな!」
「興味がない」
「聞くがいい!我が名は」
野盗の頭目と思われる人物が名乗りを上げようとした瞬間、浪人が距離を詰めその刀を振るっていた。
周囲に血しぶきが飛び散る。
「興味がないと・・・いったはずだ」
抑揚のない冷徹な声がその場に響く。
それを見た周りの野盗が慌てて散り散りに逃げ出した。
「かーっかっかっか!すごい奴がおるのぉ!」
岩陰からその地を治める領主が姿を現した。
浪人はそれを一瞥すると刀を鞘に戻し領主に背を向けて歩き始める。
「どうじゃ!わしの配下になって天下を取らんか?」
「ワタシはもう誰の下にもつかん」
領主の提案を拒否して浪人は歩き続ける。
「ワシのもとに来るならばおぬしのその心の渇きをいやしてやろう」
そこまで言われてやっと浪人は足を止めた。
そいて、刀を抜いて領主のほうを向いた。
「戯言をそれ以上言うのならば命はいらぬ、ととってよいな?」
「かっかっか!お主がそう思うなら勝手にせい!」
「そうか」
その瞬間、浪人は領主へと斬りかかった。
その様子を領主は焦った様子もなく笑う。
「ここで散るならばその程度!天下など夢見ぬわ!」
浪人が振るった刃は領主にあたる寸前で止まった。
「ワシならばお主を見放さぬ!必ずわしより先に死なせてやろう!」
「っ!」
領主の心を見透かした言葉が浪人を動揺させた。
その言葉を聞いた浪人からは後悔、怒り、悲しみが伝わってくる。
「ついてこい!ワシが天下を満たすのを見届けよ!」
「その言葉が戯言に成り下がった瞬間、貴様の首をはねる」
「かまわぬ!それができてこそワシの配下よ!」
「・・・いいだろう」
そこで浪人は片膝をつき、刀を領主に差し出した。
「ワタシの名はすでに亡き主にささげた。ゆえに捧ぐはこの死にぞこないの刃のみ。しかし、いかなるものも切り伏せましょう」
誓いが終わる。
その瞬間、カットの声が聞こえた。
そして、それと同時にその場にいた浪人たちは消え普段通りの格好をしている劇団員と兄さんしかいなかった。
ここは外でもなんでもなくただの屋内スタジオなのだと今更思い出させた。
「え、え?刀と血が・・・え?」
横で見ていたアイさんが混乱している。
それは当然だと思った。
僕も初めて兄さんと共演したときに驚かされたのだから。
まるで世界が切り替わったような不思議な感覚。
最初から刀なんてなくて丸めた台本だった。
血しぶきだってそんなもの最初からなかった。
岩だってなくてちょっと大きい段ボールだった。
ボロボロの衣服なんてなくて普段と同じ服で、兄さんに関してはビブスまでしている。
「劇団の人ってこんなに演技すごいの?」
「ん~ちょっと違うかな」
残念ながらアイさんの言葉は否定しなくてはいけない。
このレベルを当然のようにこなしていたら怖すぎる。
「兄さんと一緒に演技すると何故かこうなるんだよね」
「え、なにそれ」
「なんというか、兄さんと演技してるときって自分がその役本人になっちゃうんだよね」
ある意味没入型の演技なのだけど、正確には違う。
「演技してるときって役になりきるんじゃないの?」
「なんというか役本人だって思ってしまう。なりきっているわけじゃない。本人そのものだって認識に変わる」
実際に受けてみないと説明しにくい。
他者を強制的に没入型にさせてしまう演技だ。
それが周囲に影響するせいで周りも風景もそれに見えてしまう。
おそろしい影響力だと思う。
「とりあえず、とんでもないってことだけわかった」
「うん・・・それでいいよ」
一緒にやらない限りこの感覚は理解できないだろう。
そのすごさは僕がわかっていればいい。
世界に色が付いたあの日に見た夜空に輝く一番星を見た日から僕の命はそのためにあるのだと理解した。
隣で兄さんの輝きを実感してこそ僕は命を、愛を実感できる。
そのためなら、きっと僕はなんだってやってみせる。
なんでか長くなっちった。
ただまぁ、必要だし仕方ないネ!
もうちょっとで原作時間に突入だじぇ()