【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
私がそこに参加できたのは本当に奇跡だと思うし、私はここでの出会いを忘れないだろう。
ママが応募してくれたB小町のミニライブの抽選に当選してチケットが手に入った。
ずっとアイ推しで応援していたからそれを生で見れると思ってその時はテンションがとんでもなくあがっていた。
それなのに、いざライブが始まる直前になったらママはとんでもないことを言ってきたのだ。
「それじゃ、ママたちは近くで買い物してるから終わったら連絡頂戴ね?」
「え?」
当たり前のように言われたことに私は頭が真っ白になった。
一緒にライブを楽しむつもりだったのに、私一人だけでいくことになったのだから当然かもしれない。
状況をわかっていない私にママが説明してくれた。
「チケットで入れるのは一人だけって書いてあるでしょ?だからママ達はいいから楽しんでらっしゃい」
そう、当選したのはチケット1枚だけ。
だからママも、弟二人も一緒に行けない。
確かにB小町を推しているのは家族で私だけだけど、だからと言って一人で楽しむのが気が引けた。
何より、すでにまわりに集まっているライブに参加する人たちが目に入りそれどころではなかった。
当然のように私より大きい大人の男の人。
ライブ映像で時々映るファンの人がそこには集まっていた。
熱心なファンだというのはわかるけれど、どこか異様な雰囲気をまとっておりそれが私には怖かった。
「で、でもぉ!」
「いかがなされましたか?」
ママになんとかついてきてもらおうと口を開こうとしたときに横から人の声が聞こえた。
そっちを向くと帽子をかぶり黒縁の眼鏡をかけた身長の高い男の人が立っていた。
その胸元にはスタッフであることを示すカードがつるされている。
「ああ、えっとその、せっかくチケット当たったのですが一人で入るのが怖くなっちゃったようで」
「なるほど、申し訳ありませんがチケットを拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
ママはその人にチケットを渡した。
その人はチケットを確認するとありがとうございます、と言ってママにチケット返した。
そして、少しだけ考え込むようにあごに指をあてている。
「えっと、先に結論から申し上げますが年齢問わずチケット1枚で入場できるのは1名様となり特例でご家族も、ということは致しかねます。大変申し訳ありません」
その人は帽子を取り頭を下げた。
帽子で隠れていた長い髪がさらりと流れる。
その姿は私にとってあまりにも見覚えがあった。
「自己紹介が遅れました、わたくしこういう者です」
「え、ええ!?」
その人がママに名刺を渡した。
そして、ママは声を上げた後名刺とその人の間をなんども目線が行き来している。
「あ、アイのお兄、もごもご」
思わず、大声で言おうとした瞬間にその人、アイのお兄様-アイトさんに口を手で押さえられた。
アイトさんはすぐに帽子をかぶりなおして周囲を見回している。
今のは誰にも聞こえていなかったようで誰も気にしていない。
それを確認してからアイトさんは口から手を放してくれた。
「すみません。一応、騒ぎになる可能性がありますのでそれは言わないでください」
私とママはすごい勢いでうなずいた。
「提案が2つございます。1つはチケットをキャンセルする。その場合でしたらあちらの受付のほうで申し付けていただければ返金対応もさせていただきます」
「で、ですが」
ママは申し訳なさそうな感じで私のほうを見ている。
このライブは私が行きたいからとお願いしたものだから困ってるのがわかった。
「もう一つの提案はライブ終了までワタクシが傍にいてお嬢様の安全を保障する」
「え?」
一瞬、言っていることが理解できなかった。
今、この人はなんと言った?
ライブ終了まで傍にいてくれる?
「こちらに関しては、まぁ、わたくしのことを信じてください、としか言えないのがつらいところですがいかがなさいますか?」
「えっと、どっちがいい?」
ママが私に聞いてきた。
そんなの答えは一つだった。
「アイトさんに傍にいてほしい!」
私がそう言うとアイトさんは微笑んだ。
確かに私はB小町のファンだけど、ドラマを見たりしてアイトさんのファンでもある。
というか、B小町のファンかつアイの『正当』なファンならアイトさんが嫌いな人はいない。
「では、すみませんがお願いします」
「はい。お任せください」
「いい!ぜっっっっったいに!迷惑かけちゃだめよ!」
ママがアイトさんに頭を下げた後私の両肩をつかんですごい剣幕で言ってきた。
そういえば、ママはアイトさんの大ファンだったなぁ。
「では、行きましょうか。連絡がある場合はその名刺の番号にかけていただければこちらに直接つながりますので」
「じゃあ、ママ行ってくるね」
そのあとの時間は本当に夢のような時間だった。
後ろのほうだったからステージがほとんど見えなくて(私がちっちゃいのもあるけど)困っているとアイトさんが肩車してくれてよく見えるようになった。
サイリウムなんて持ってなくて手作りのうちわのグッズだったけど、ステージ上にいたアイとニノ(二人だけらしい)は肩車で目立っていたのもあるかもしれないけどこちらにファンサをしてきてくれた。
気のせいかもしれないけど普段のライブより熱烈なファンサだったかもしれない。
途中でアイトさんはため息を吐いた後帽子をとって軽く二人に手を振ると、二人の笑顔が普段とすこし違う力の抜けた優しい笑顔になった。
ふと下にいるアイトさんのほうに視線を向けると本当に優しい表情で微笑んでいた。
(アイトさんって髪の毛根本のほうだけ色の薄い金髪だ。逆プリンなんだ。知らなかった。私も将来プリンにしちゃおっかなぁ)
などと、違うことを少し思いながらも微笑んでいる様子を見て『本当にお兄様なんだぁ』とどこか自然と受け入れられた。
なんとなくだけど、私が弟たちが楽しそうにしているのを見ているときの表情にそっくりだったから。
それがわかるとなんとなくだけど私の中でこれまでよりアイトさんがより推しになった気がした。
「今日はみんなに大事なおしらせがあるの!」
予定されていた曲が終わるとアイが声を上げた。
「なんと!半年後に武道館でのライブが決定しました!」
「みんなー拍手ー!」
ニノが合図すると会場中に拍手が鳴り響いた。
「これは今回ライブに来てくれた人に先に教えちゃうと、トップサークレット?まぁ、1時間後には公式のほうでもお知らせするんだけどね」
「トップシークレットね?まぁ、すぐ発表されるからトップシークレットかは微妙だけど」
「と、とにかく!おめでたいね!」
よくテレビで見かけるコントのようなやりとりに会場から笑いが起きる。
「詳しくは公式SNSで調べてね~」
「結局、先に知ってもそうなるのよね」
ちょっとぐだぐだになりつつ二人ははけていき、チェキの時間となり一緒に撮影させてもらった。
私が撮影する際にアイもニノもアイトさんにすごい笑顔で詰め寄っていたけど、やっぱり仲がいいんだね。
そのころにはアイトさんは帽子をかぶりなおしていたから他のファンの人にはばれていなかった。
意外とばれないんだなぁ、とすこし感動。
ライブがすべて終わり外に出るとママ達が外で待っていた。
「すみません!本当にありがとうございました!」
「いえいえ、とてもいい子でしたよ」
「むふぅ」
アイトさんに褒められつい自慢げな笑顔になってしまう。
「それでは、撤収作業がありますので、これで」
「ま、まって!」
頭を下げて戻ろうとするアイトさんを私は呼び止めた。
「私、アイみたいなアイドル目指してます!」
最初はあきらめようと思ったけどママに後押しされた夢。
「だから、今から頑張ったほうがいいものってなんですか!?」
本人ではなくその横で支えた人、その人にこそ聞きたい。
まぁ、余裕があれば本人にも聞きたいけど。
突然、聞いたのにアイトさんは驚いた様子もなく少し考えてから少ししゃがんで私と目線を合わせてくれた。
「人前に立つのに慣れる、これを頑張るのが一番かもしれない」
「人前に立つのに慣れる・・・」
「歌もダンスも本番までにある程度のレベルにはできる。だが、人前に立つのは慣れが必要だ。その慣れも本番でしか身につかない」
そういってからアイトさんは私の頭に手を置いて軽くなでてくれた。
その手が妙に暖かく感じた。
「だが、キミならできるかもな」
アイトさんの瞳には小さな星々が煌めいて見えた。
「楽しみにしてる」
アイトさんはそれだけ言って行ってしまった。
それを見送りながらも胸の奥には暖かい感情が残っていた。
初めてしてもらった肩車、撫でてくれた暖かい手、夢の後押し。
(お父さんやお兄さんってこんな感じなのかな?)
お父さん、お兄さん、という言葉が胸の奥にストンと収まってくれた。
「ふふ、がんばらないとね」
「うん!がんばるぞー!」
ママに言われて私は夢を再確認し気合を入れた。
私はここでの出会いの奇跡を忘れないだろう。どれだけ遠回りになっても。
もう少し短くする予定だったのになぜか長めに
おまけ
アイ・ニノ(あ!浮気してる!)→気が付いてるぞと笑顔のファンサでアピール
アイト(怒ってるな・・・)→帽子を取り手を振って誤魔化す
アイ・ニノ(手を振ってる!初めてだ!仕方ないぁ。チェキの時に問い詰めよう。あとで覚えてなさい)