【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
俺が苺プロダクションに行くのは2か月ぶりだ。
B小町の武道館ライブ、苺プロダクションの一大プロジェクトであったが俺はそれに参加することができなかった。
いや、正確に言うと社長とミヤコさんから出勤ならびにメンバーに会うのを禁止されたのだ。
ライブ1週間前に俺が過労や諸々の事情で倒れてしまいドクターストップを受けてしまったのが理由である。
医者からは絶対安静を、社長夫妻からもお説教をくらい2か月の仕事禁止を言い渡された。
苺プロダクションとして星野アイトは体調不良のためしばらく療養に入る旨を公表したので俺も休まざるを得なかった。
ちなみにメンバーに会うの禁止は俺というよりメンバーに対しての意味合いが強かった(特にアイに対して)。
2か月まるまる入院したため、その間お見舞いに行かせないようにしていたらしい。
ちなみにそのことは電話でアイだけでなくニノや高峰、渡辺等の他のメンバーから延々と愚痴られた。
余談だが入院中は社長夫妻は時々見舞いに来て近況を教えてくれて、ヒカルは頻繁にお見舞いにだけでなく、俺が暮らしている部屋の掃除もしてくれていたとのこと。
よい上司と弟に恵まれて俺もうれしく思う。
そして、やっと本日から復帰ということだ。
「おはようございます。ご迷惑をおかけしましたが本日より復帰させていただきます」
「お、おう、顔色だいぶ良くなったな」
「そう、ね。アイトさんが元気になってよかったわ」
「アイトー!久しぶり!うわぁ、髪の毛プリンがすんごいねぇ」
社長室に入ると社長夫妻だけでなくアイもいた。
両者の表情は対称的で社長夫妻はとんでもなく顔色が悪く、アイはにこやかだ。
何かあったのだろうと聞く前にアイを見たことでいろいろと察した。
だぼついたパーカーの上からでもわかる程度に膨らんだお腹。
俺が気が付いたのがわかったのか社長夫妻は大きくため息を吐いた。
「その、なんだ、見てわかる通りアイが妊娠した」
「みたいですね」
俺も思わずため息を吐いて頭を抱える。
これでアイがアイドルじゃないやら成人済みとかならばめでたいというだけでこのような空気にはならない。
これ、世間にばれたらいろいろと終わりの案件である。
「アイさんから違うとは言われたけど、アイトさんにも一応聞くわね?」
ミヤコさんが俺に詰め寄ってきた。
そして両肩をつかまれる。
「アイトさんが父親じゃないわよね!?」
「は?」
「違うと言ってちょうだい!アイトさんは女の子じゃなくておと、ゴホン!とにかく違うわよね!?」
すごい剣幕で両肩を揺さぶられる。
正直、途中でミヤコさんが口走りかけた内容を問い詰めたかったがそれどころではなさそうだ。
そんな様子をアイはこちらを見ずにケラケラと笑っていた。
「少なくとも俺じゃないです」
ミヤコさんの手を肩から外しながら答える。
「アイさんの交友関係なんて終わってるんだから、周囲にいる男なんて壱護かアイトさんぐらいなのよ!その二人じゃないなら処女受胎したってわけ!?」
「なんで俺を候補にいれやがる!失礼だな!」
「あ、あれー?なんか私酷いこと言われてない?」
パニクるミヤコさん、怒る社長、ケラケラ笑うアイ。
若干カオスだ。
「それで、アイ」
「ん?」
俺が呼ぶとアイは反応したがこちらを向かない。
「父親が誰かはわかってるうえで言う気はないってことでいいんだな?」
「さっすが~私のことわかってるね!」
平然と言ってのけたところで社長とミヤコさんは再びため息を吐いて頭を抱えた。
「その相手はアイのことを知っているのか?」
「うん、ちゃんと知ってる」
つまりアイがアイドルかつ、妊娠しているということを知っているということ。
それがどれだけ致命的なことかもわかっているということか。
お腹の大きさ的に時期を考えると接触していたであろう人物に心当たりはあるが確証はない。
「産むのか?ひどい提案だがだ」
「産む!」
俺の発言を遮るようにアイは強く言い切った。
「この子は私が望んで出来た子だから」
慈しむように優しくおなかを撫でる。
「じゃあ、アイドルをやめるのか?」
「ううん。続けるよ」
あっけらかんと言い放たれた、その言葉の意味を全員が理解した、
「公表しない辞めもしないで隠しきる、ということでいいんだな?」
「そ!そうすれば私はこの子を産めて、社長たちも首をくくらないですんでハッピーエンドじゃん?」
「そんな簡単な話じゃねえんだぞ!」
「簡単に決めたわけじゃない!」
怒鳴りつけた社長に対してアイは毅然と言い放った。
その表情からは先ほどケラケラと笑っていたお気楽な様子はなく強い意志を感じる。
「佐藤社長の夢、絶対に叶えさせたげる!だから、協力して!私ひとりじゃこの子を守り切れないから!」
強い『母親』がそこにはいた。
その様子にアイが折れないとあきらめたのか社長夫妻は肩の力を抜き椅子に体を預けた。
「斎藤だ、クソアイドル・・・わかったよ、どうせばれたらおしまいだ。手伝ってやる。ミヤコもいいな?」
「ええ・・・仕方ないわね」
協力をお願いしているのに、その実これは脅迫だ。
守り切れない、というのは世間にその子がばれて全員が首をくくるときなのだから。
「アイ、一応マネージャーとして聞いておく」
「なに?」
アイはこちらを向かずに答える。
「産んだ後、その相手は一緒に育ててくれるのか?」
「その予定はないかなぁ。父親がばれたらその人に迷惑かけちゃうしさ。それだけは絶対に嫌なんだよね」
現時点で社長夫妻にとんでもなく迷惑をかけているのはこのさい目をつぶる。
二人ももはやつっこむ気力がなく聞き流している。
なら、一番マシな状況はこれだな。
「アイ、キミが了承してくれるならその子は俺の子として公表する」
「「「は?」」」
俺の提案に全員が声をあげた。
「変に隠そうとしてもバレるリスクが高い。社長とミヤコさんの子だと誤魔化すにするにしても二人とも業界内で表にでているから妊娠時期の関係でばれる。その点、俺なら相手は一般の女性ということにしてすでに別れ、親権は俺がとったと言えばそれ以上突っ込まれることもない。仮に子供がアイと一緒にいるのを見られても俺の子ということならば世間も納得してくれるだろう」
それがおそらく一番マシだろう。
アイのすぐ近くにいることになる子供が注目を浴びないはずがない。
親戚の子だというにしてもずっと面倒を見ているのを不審がられるかもしれない。
本当に社長夫妻の親戚が出てきて変に暴露してくる可能性もある。
そして、事務所内で事情がわかり子供がいても問題ない年齢なのは俺しかいない。
「俺たちの子として誤魔化すつもりだったが・・・いいのかアイト?」
「私たちは直接影響しないけれど、アイトさんにそんなことがあったとなれば多少なりとも仕事に影響するわよ?」
「別に構いませんよ。アイが母親であることを隠せるならこれが最善でしょう」
何よりも優先されるのがアイと苺プロダクションの安全。
ならば一番影響もなく公表できるのがこの方法だ。
「あ、アイト・・・」
アイがふらふらと立ち上がり俺の肩をつかんだ。
今日、初めて目があった気がする。
その眼はよわよわしく光が弱かった。
「本当に、この子のお父さんをやってくれるの?」
「対外的にはな。だが、ちゃんと父親だとは言ってやるし、それ相応に面倒も見る。アイはそれでいいか?」
「うん!ありがと!うれしい」
一瞬前の弱弱しかった目は消え去り、いつも以上の光り輝く星が瞳の中に輝いた。
さっきは強がっていたがやはり不安だったのだろう。
「アイ一応もう一回だけ確認するけどよアイトは本当の父親じゃねーんだよな?」
社長に聞かれてアイは俺から目線をはなし社長のほうを向いた。
「うん、この子の本当の父親はアイトじゃないよ」
「そうか・・・なら、とりあえずその方向で話を進める」
「なら、俺はこのまましばらく表に出ないほうがいいですね。ちょうど体調不良からの復帰は公表してないのでそのまま事務方に専念させてもらいます」
「そうね。長期で休んでからなら子供がいてもおかしくないからそのほうがいいわね。じゃあ、現場についていくマネージャー業務は引き続き私と壱護で持ち回りね」
「ふふ、これから楽しくなるなぁ」
明らかに面倒かつ、大変になるのに嬉しそうなアイを見て、俺はそれをどこか『仕方ない』と微笑んで受け入れていた。
原作時間にやっと届いたけど、まだ0話ってところ
早くルビーちゃんを登場させたい・・・