【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
「えー!?アイが体調不良で活動休止!?」
昼休みの最中、患者の部屋で見に行けなかった武道館ライブのDVDを見ていたところ、同僚の看護師からこの世の終わりを思わせる情報が伝えられた。
「そ、それじゃあ私は何を楽しみに生きていけば・・・」
「大げさです雨宮先生。患者さんの健康を楽しみに生きていけばいいじゃないですか」
看護師さんは気軽にそのように言ってきたが、私としてはそれはそれ、これはこれだ。
「そりゃあ私も患者さんが元気にしてくれるのはうれしいけど、それは医者としての私で雨宮五月個人の喜びとは別なんだよね」
「せめてそれは患者さんの部屋で言わないほうがいいですね」
この部屋の患者さんが苦笑いを浮かべている。
さっきまで一緒にライブを楽しんでいたのに(主観)。
「そんなことより、昼休みはもう終わりですからさっさと働いてください。別にあなたに耳より情報を持ってきたわけじゃなくて呼び出しに来ただけなんですから」
「ん~、辛辣だな」
看護師さんはそれだけ言ってどこかへ行ってしまった。
仕方ないので私も仕事に戻ろう。
そう思い、私は診察室へと向かって歩き始めた。
「体調不良・・・か」
アイが私の生きがいなのはうそではない。
それでも、それ以外に心に引っかかることがあった。
ここ数カ月、アイと同じように体調不良で活動休止を発表していた私の知り合いのことだった。
「復帰してくれるといいんだけどな」
しばらく歩くと私が受け持っている診察室へと到着した。
中に入るとすでに帽子を深くかぶった妊婦さんとその付き添いと思われる金髪でサングラスをかけた男性が待っていた。
「はい、おまたせしました」
私は机のそばの椅子に座り受付で書いてもらった問診票に目を通す。
「えっと、星野さんは初めてですね?」
「はい」
星野、私にとっては少しだけなじみのある名前だと思った。
尤もそんな珍しい名前ではないから偶然だろう。
隣にいる男性も私の知っている人物ではない。
そこまで考えて星野さんの様子を見てみる。
年齢は16歳かつお腹の大きさ的に20週ぐらいで初診ということはおそらく誰にも相談できずここまで来てしまったパターンだろうとあたりをつける。
「あなたは親御さんですか?」
「まぁ、戸籍上は」
男性の方が言うには星野さんは施設育ちで彼は身元引受人ということらしい。
そこまで聞いて私のよく知るアイドルに似ているなぁと思っていると星野さんが帽子をとった。
その瞬間、私の頭が真っ白になった。
「と、と、とりあえず検査してみましょう」
なんとか声をひねり出した私をほめてあげたい。
そういってから私はいったん部屋から出た。
(ほ、本物のアイだ!見間違えるわけがない!というかあのオーラ間違いない!)
直接見たのは宮崎ライブの時しかないけど、それでもあの時と同じだ。
相変わらずめちゃくちゃかわいい。
(てか、推しのアイドルが妊娠しててショックすぎてゲボ吐きそう)
心に絶大なダメージをうけつつ私はなんとか検査の準備を始めた。
その後の検査で20週の双子ということが判明し、星野さんは出産までこの病院に入院することが決定した。
「はぁ」
その日の作業をある程度終えて、暗くなったころ私は屋上で大きくため息を吐いた。
夜の風がとても冷たい。
推しのアイドルがすぐそばにいてテンションがおかしくなりそうだけど、ここにいる理由を考えると頭がおかしくなりそうだ。
と、考えていると屋上の扉が開き厚着をしているアイが来た。
「あっ、センセ」
「星野さん、こんな寒いところに来てどうしたんですか?」
「ちょ~っとセンセに聞きたいことがあってね?」
聞きたいこと?
「ここならおじさんの医者ばかりでバレないと思ったけど、センセは私が誰か知ってるよね?」
それはほとんど断定している口調だった。
診察の時に変に反応したからばれたのだろうか、と少し焦ってかんがえているとアイは微笑んだ。
どうやら今の反応で確信したらしい。
「うん。やっぱりそうだ。前に宮崎でライブしたときに少しおしゃべりしたよね?」
覚えててくれたんだ、という感動で胸がいっぱいになった。
4年ほど前に行われた宮崎でのライブの際のプレミアチケットの特典で私はアイと少しおしゃべりできた。
尤も緊張でまともに話せていなかったけど。
またもや私の反応で伝わったらしくアイは得意げに笑っている。
「よかった、ちょっと自信なかったけどあの頃って私の女の人のファンってあんまりいなかったから印象に残ってたんだよね」
確かにアイのファンに限らずB小町のファンは基本的に男性だ。
それでも、ここ1年2年は女性ファンが増えているというのも聞いている。
「ところで、キミはアイドルをやめるの?」
「ん?センセも他の人と同じこと聞くんだね。やめないよ」
さも、当然のことを言うように彼女は言い切った。
「それで双子も産んで楽しく賑やかな家族になる」
「つ、つまり公表しないって、こと?」
「そ!というか公表したらちょっと首をくくらなきゃいけない人がいるしね」
タハハと笑う彼女はものすごくかわいかった。
「アイドルは嘘でこそ輝く偶像だからファンが知りたくないその子供は隠しきる。ファンへの嘘は私なりのとびきりの愛なんだよ」
ただ、騙したい嘘ではない。
夢を届けるアイドルとして矜持をつらぬくことこそファンへの愛。
「でも、私も女の子だから母としての幸せも欲しいんだ。私って欲張りだからアイドル、母、どっちかだけじゃ満足できないんだよね」
そう微笑む彼女は一番星のようにまぶしかった。
「和解した」
「え?」
今、私の中の医者とファンの意見が一致した。
「安全に元気な子供を私が産ませてみせる」
私はどうしようもないほどこの一番星のために尽くしたい
「よろしくねセンセ」
パチンとウィンクという特大ファンサをされて私の頭はオーバーヒート寸前だった。
と、その時屋上のドアが開き帽子をかぶり眼鏡をかけた男性が入ってきた。
長くなったのできります。
次の話は17時に投稿されます