【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
アイがうちの病院に入院して3カ月ほどが経過した。
その間に出産の方針が決まり自然分娩という形になった。
アイ本人と事務所の社長さんの意見が一致した形だ。
「あれ?斎藤さんどこ行ったかわかりますか?」
アイの病室に行ったところいなかったので近くにいた看護師に聞いてみた。
ちなみに斎藤さんとはアイの偽名だ。
本名は公表していないが安全をとってここでは星野ではなく斎藤という名前で入院してもらっている。
「斎藤さんでしたら電話してくるって言って屋上行きましたよ」
「そっか、ありがとう」
教えてくれた看護師にお礼を言って私も屋上へ向かう。
体を適度に動かすのはいいことだが正直彼女はアグレッシブに動きすぎるので心配になってしまう。
「あ、いた」
屋上に着くと他には誰もおらず、アイが一人でベンチに座り電話をしていた。
「アイトの妹さんが入院してた・・・そうそう、その病院。ヒカル君も知って、あ、センセだ。それじゃあね」
アイは私が来たのに気が付いて電話を切った。
なんか邪魔してしまったみたいで申し訳ない。
ただ『ヒカル君』と言っていたので相手は男なのだろう。
聞き覚えはないが、もしかしてそいつはアイの相手なのだろうか?
アイ周りの男性がすべて容疑者に見えてしまってよくないと思いつつも考えてしまう。
「センセ、やっほ~」
アイが軽く手を振っている。
やっぱかわいい。
動作の一つ一つがかわいくて私の心臓がもたないからやめてほしい、いや、かわいいからやめなくてもいい。
「おつかれさま。電話はもういいの?」
「うん。あれ以上話してたら喧嘩になっちゃうしね」
和やかに話していたように見えたのだが、そんなギリギリの状態とは思わなかった。
というか、アイが喧嘩するっていうのも驚いた。
「そんなに仲悪い相手なの?」
「ん~、なんというか、悪友みたいな感じかな~。気が合うところはとんでもなく合うんだけど合わないところは本当に合わない、てきな?」
それはある意味貴重な友達だ。
それでも離れないのだから相性はいいのだろう。
おそらく喧嘩するほど仲がいいタイプの友達だ。
友人自体が少ない私からしたらそんな友達はうらやましい。
「そういえばセンセ聞いて!アイトに暇だからお見舞いに来てよって電話で言ったら仕事あるから無理って言うんだよ!?私と仕事どっちが大切なの!?」
「あ~、あはは」
それに関しては私は愛想笑いを浮かべるしかできなかった。
この短い期間でわかったけど彼女は結構口が軽い。
おそらく情報漏れを防ぐために来ないのをアイに伝えていないことは容易に予測できる。
それがわかってるから細かいことを伝えていないのだろう。
あと、仕事もアイもどっちも大切だからこっちに来ないし仕事も頑張っているのだから少しばかりかわいそうだ。
「センセからアイトに言ってくれない?担当のアイドルが寂しくて泣いてるぞ、って」
アイの入院初日に藍斗君が帰った後、私は彼との関係をアイに根掘り葉掘りと聞かれてすべてしゃべっているので連絡を取れること、それなりに親しいことがばれている。
ちなみに、宮崎ライブの前日の日に食事をしたのも話してしまったのでその後アイはアイト君に2時間近くに及ぶ電話をしていた。
「う・・・だ、ダメ」
一瞬うなずきそうになったのをなんとか止めて断る。
よく頑張ったと自分をほめたい。
少し前にアイに頼まれて電話してあげてと藍斗君に何回かお願いしたことがあり、最終的にはアイに連絡してくれたけど、その後に私に『友人という立場を利用してファンとしての気持ちを満たすのはどうなのか?医者なのだから個人的な部分に踏み込まず毅然と断るように』という割とマジのお説教をされてしまった。
「だよね~。アイトからもセンセを利用するなって注意されたし」
つまんなそうにアイは足をぶらぶらと揺らしている。
ちゃんとアイにも釘を刺していたらしい。
おそらく私がちゃんと言わないのをわかっているから言ってくれているのだろう。
「センセ、私ってアイトに大切にされてるのかな?」
そこには先ほどまで明るかったアイドルはおらず、そこには不安に押しつぶされそうな少女がいた。
普段の自信満々な彼女からは考えられないような相談だ。
どうしても今ぐらいの時期になってくると妊婦の方は気分が落ち込んできたり不安になりやすくなる。
「間違いなく大切されてるよ」
私はアイの隣に座りながら答えた。
「私や病院から連絡が行くと一瞬で返事が返ってくるんだよ?大切にされてないわけがないよ」
そう、それこそまるで常に携帯をいじっているかのような速度で既読や返事が返ってくる。
私の勤務の都合で決まった時間どころか深夜の連絡でも彼は対応していた。
「それこそ、本当に会いたいって言えば彼は飛んでくるよ。わかってるでしょ?」
「・・・そうだね」
納得してくれたようで彼女は笑みを浮かべた。
過ごした時間で言えば私よりアイの方が長い。
だから、さっきの相談はちょっと気分が落ち込んだことによる気の迷いからだ。
「うん!元気出てきた。ありがとセンセ!」
「はは、どういたしまして」
スーパーアイドル、アイがここに復活した。
こんだけ思ってるのに本当の父親は彼じゃないのが少しばかり不思議だった。
まぁ、これは私が踏み込む問題じゃない。
「さてとそろそろ病室戻ろうか」
「は~い」
このような日々が続き、あっという間に出産予定日を迎えた。