【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
ある日、俺は久々に2時間ドラマの仕事で一人現場に来ていた。
苺プロの規模と立場上、マネージャーも『星野アイト』が兼任という形をとっているのでこういうことが結構ある。
特に今はアクアマリンとルビーの面倒を見るために俺かミヤコさんの手が空かないことが多いので仕方ない。
出かける際にルビーが大泣きしてしまったが、そこはミヤコさんに任せた。
「苺プロの星野アイトです。本日はよろしくおねがいします」
現場に入り、スタッフや監督たちに挨拶をしてから控室に行き、椅子に腰かけた。
まだ、他の演者は来ていないようで俺だけだ。
俺は台本を取り出し開き軽く頭に入れなおした。
今回のドラマは大雑把に言うと両親を失った子供を独身の男性が引き取り育て、絆を深めていくが最後に子供の祖父母に引き取られることになる、というものだ。
そして、俺の役がその独身の男性だ。
しばらくぼーっと台本を流し読みしていると控室に1歳ぐらいのベレー帽をかぶったショートボブの女の子が入ってきた。
俺は立ち上がり頭を軽く下げた。
「おはようございます。有馬さん」
「お、おはようございます!星野アイトさん」
俺の挨拶に彼女、有馬かなは少し緊張気味に挨拶をかえしてくれた。
今日の共演者でこのドラマの主役だ。
すでに台本の読み合わせで面識ができているので互いの名前は知っている。
彼女は最近見かけるようになった子役で確か業界内での謳い文句は『ちゃんと泣くことができる子役』だったか。
母親が付いてきていると思ったが、どうやら監督と話をしているようで離れた場所にその姿が見えた。
遠くだが監督が少し困ったような表情をしているような気がする。
挨拶を済ませた有馬かなは俺が座っている場所から少し離れた椅子へと腰を下ろした。
緊張のせいだろうが妙にそわそわしているように見える。
「有馬さん、セリフは覚えられましたか?」
「え、は、はい」
話しかけるとびくっとした後うなずいた。
「じゃあ、ちょっと俺自信がないので軽く読み合わせしてくませんか?」
「え?いいけど・・・」
「ありがとうございます。それじゃあ、俺が演じる『ユウヤ』と有馬さんが演じる『マナ』さんが最初に出会うシーンで」
そこからしばらく俺は有馬さんとセリフの読み合わせをした。
スタッフの方に呼ばれる頃には彼女の緊張はほぐれたみたいで少し自信のある表情になっていた。
Side Arima
「用意、スタート」
監督の声と共に撮影が始まり、共演者である星野アイトさんを見た瞬間まるで世界が塗り替わるような感覚に包まれた。
「マナちゃん、その、言いにくいけど」
『ユウヤ』が口ごもりながら『私』に話しかける。
「キミのパパとママは」
「ちが、ちがう!パパとママは生きてる!死んでないもん!」
パパとママが眠ってるだけの箱にしがみつく。
決してユウヤにその先を言わせないかのように私は声を上げる。
「約束したもん!また、遊園地いこって!私がいい子にしてたら行くって!」
パパとママと行った遊園地やいろんなところに遊びに行ったことを思い出すたびに目元が潤んでくる。
その瞬間ユウヤが私を抱きしめてくれた。
「うううぅぅ・・・・パパぁぁ!ママぁぁ!」
涙はもう止まらなかった。
ひたすら泣く私をユウヤは優しく抱きしめて撫でてくれた。
「カット!」
監督の声がかかり星野アイトさんはかなから離れた。
今の感覚に内心驚いていた。
今間違いなくかなは『マナ』だった。
会ったことのないはずの知らない『パパ』と『ママ』との記憶がすっと出てきて自然と涙が出てきてしまった。
本当に『パパ』と『ママ』が死んでしまったと思ってしまった。
驚いているとママが笑顔でこちらにかけてきた。
「かなちゃんすごいわね!いつの間にあんな風に溜めてから一瞬で泣けるようになったの?」
ママがハンカチでかなの涙をぬぐいながら聞いてきた。
その横に監督さんもいて満足げに笑っている。
「ただ泣くんじゃなくて感情のこもった泣き方でいい画が撮れた。この後もその調子で頼むよ!」
監督にもママにもすごいほめられた。
そっか、かなはすごいのか。
その後撮影は順調に進み十日ほどで終盤のシーンの撮影になった。
別れのシーンで『ユウヤ』の最後のシーンだ。
「それでは始めます。用意スタート」
合図が入り世界が切り替わる。
「そうかよ。は!これでガキのおもりから解放されて清々する」
「私を捨てる・・・の?」
「ああそうだよ!正直ガキなんざ面倒くさくてたまらない!」
『祖父母』が私を引き取るという提案をしてきたことをユウヤに告げるとユウヤは私に背を向けながら吐き捨てる。
その声は強い口調なのに、端々が震えていた。
「ガキがいつまでも傍にいたら俺の人生終わりだ!だからさっさとどっか行きやがれ!」
私の心の中にユウヤの言葉は入ってこないのに、ユウヤの気持ちだけが入ってくる。
この人は優しい人で、誰かのために自分を悪者にできる人なんだ。
私は気が付けばユウヤの足にしがみついていた。
「嘘吐き・・・」
ユウヤの足元には水滴がしたたりおちた跡があった。
それが何か、だなんて言うまでもない。
「私、ユウヤと一緒に入れて幸せだった」
パパとママが死んじゃって、世界に私だけだと思ったのに私にはユウヤがいてくれた。
「ユウヤが思い出をたくさんくれた。下手だった料理を一生懸命練習して私においしいものを食べさせてくれた。片付けもちゃんとしてなかった部屋を私のためにいつもきれいに掃除してくれた。怖くて泣きそうな夜は一緒に寝てくれた」
大切な思い出を一つずつ伝える。
特別な日ではない、ありふれた日常の思い出を。
「遊園地に連れて行ってもらうより、大切な思い出をたくさん作ってくれた」
ユウヤから離れ正面に回り込む。
「ありがとう、ユウヤパパ!」
「俺も幸せだった・・・ありがとうマナ、一緒にいてくれて!」
涙を流したままユウヤはしゃがんで私を抱きしめてくれた。
自然と私も涙があふれていた。
「カット!」
合図がかかるとかなが戻ってくる。
そして、星野アイトさんはかなから少しだけ離れてハンカチを出すとかなの目元を軽くふき、その場を離れていった。
それと入れ替わるようにママが来た。
「かなちゃん絶好調ね!これなら今後も仕事たくさんきちゃうわよ」
「うん、がんばる!」
しばらくして、映像の確認が終わりこのシーンのOKが出た。
「星野アイトさんオールアップです!お疲れさまでした」
関係者全員から花束が星野アイトさんに渡される。
いろんな人に挨拶をしてかなのところに来た。
「ありがとうございました。また機会があればよろしくお願いします有馬さん」
「え、えっとかなってよんでいいわよ」
これまでずっと有馬さんと他人行儀で呼ばれていたからつい言ってしまった。
かながそう言うとびっくりしたような表情のあと穏やかに微笑んだ。
「そっか、なら口調も崩した方がいいな。じゃあ、またねかな」
「うん。またよろしくねアイトパパ」
「・・・ん?」
「あ、いや、えっと、いいの!」
思わずさっきまでの感覚に引っ張られてしまいパパとつけてしまった。
ただ、自分の中では嫌な気はしなかったのでそのままごりおす。
パパはいるけどこっちはアイトパパだからセーフ。
アイトパパは困ったように笑った後、頭を軽くなでてくれた。
「それでは失礼します」
最後に全体に挨拶をしてアイトパパはいなくなってしまった。
何故か、心のどこかに穴があいたような気がした。
その後の撮影も順調に終わり次の日には撮影はすべて終わり、しばらく後に放映されたドラマは大好評で私は『ちゃんと泣ける子役』から『10秒で泣ける天才子役』と呼ばれるようになった。
「また、アイトパパと仕事したいなぁ」
そのためにも次の仕事を頑張ることを決意した。
Side Aito
撮影されたドラマを見ると最初はウキウキ顔で見ていたアクアマリンとルビーはだんだん不機嫌になっていき、最後のシーンで娘役の子に『パパ』と呼ばれた瞬間ルビーは大泣きしアクアマリンはぽかぽかとたたいてから無言でギューッと抱き着いてきた。
「浮気だ!パパが浮気してる!」
アイがふざけて煽るものだから双子をあやすのにかなり時間がかかった。
なお、それ以上に実は不機嫌だったアイをあやすのにはさらなる時間がかかったのは言うまでもない。
人生ままならないもので、原作か双子回をやろうと思ったら脳内の私が『時期的に1年後に有名になってるんだから有馬かなデビュー直後くらいじゃね?』とささやいてきて、それなら!とできあがったのがこれです。
お納めください。
かなの演技タイプが違うけど、これぐらいの時はまだ、ということとアイト君のせいということでここは・・・
アイト君が主演な理由?スポンサーがらみじゃないですかね?